日齢3の黒色便―PIVKA-Ⅱが教える「足りないもの」と新生児メレナの治療
第115回医師国家試験 F問題 第43問
国試問題にチャレンジ
日齢3の男児。黒色便を認めたため小児科に入院した。母親は35歳の経産婦で,出生時に異常はなかった。在胎40週,出生体重3,200g。完全母乳栄養である。体温36.7℃。心拍数130/分,整。血圧68/40mmHg。呼吸数42/分。SpO2 99%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は軽度の膨隆を認める。肝臓を右肋骨弓下に1cm触知するが,脾臓は触知しない。血液所見:赤血球450万,Hb 13.4g/dL,Ht 36%,白血球8,800,血小板20万,PT-INR 2.0(基準0.9~1.1),APTT 40.7秒(基準対照32.2),PIVKA-Ⅱ 350 mAU/mL(基準40mAU/mL未満)。血液生化学所見:総蛋白4.1g/dL,総ビリルビン3.0mg/dL,直接ビリルビン0.1mg/dL,AST 30U/L,ALT 28U/L。CRP 0.1mg/dL。注腸造影では異常を認めない。 対応として正しいのはどれか。
- a.緊急開腹術
- b.母乳の中止
- c.赤血球濃厚液の輸血
- d.ビタミンK製剤静注
- e.5%アルブミン製剤点滴
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日齢2〜4の完全母乳栄養児に消化管出血がみられ、血小板が正常なのにPTが著明に延長し、PIVKA-Ⅱが上昇していれば、新生児ビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナ)と診断できます。ビタミンKはⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子の活性化に必要で、新生児は胎盤通過性の低さ、腸内細菌叢の未確立、母乳中の含有量の少なさから欠乏しやすい状態にあります。治療は吸収が確実で効果の早いビタミンK静注であり、母乳は中止せず継続し、循環動態が安定していれば輸血や手術は不要です。頭蓋内出血を起こしやすい乳児型の予防のためビタミンK2シロップの予防投与が行われており、母体血を飲み込んだ仮性メレナとはアプト試験で鑑別します。「足りないものを見抜いて補う」という考え方は、新生児の出血を評価するうえでの基本になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・患児: 日齢3の男児。在胎40週、出生体重3,200gの正期産・適正体重児で、出生時の異常はない。 ・主訴: 黒色便(タール便)。上部消化管またはその付近からの出血で、血液が腸内で変性したことを示す。 ・栄養: 完全母乳栄養。母乳はビタミンK含有量が人工乳より少ない。 ・バイタルサイン: 体温36.7℃、心拍数130/分、血圧68/40mmHg、呼吸数42/分、SpO2 99%。いずれも新生児の正常範囲にあり、頻脈・低血圧などのショック徴候はない。 ・血算: Hb 13.4g/dL、Ht 36%。新生児としては下限付近〜軽度低値だが、輸血を要するほどの貧血ではない。血小板20万/μLと正常で、血小板減少による出血は否定的である。 ・凝固: PT-INR 2.0と著明な延長、APTT 40.7秒(対照32.2秒)と延長。PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence-Ⅱ: ビタミンKが不足したときに肝臓から放出される、機能をもたない異常プロトロンビン)が350mAU/mLと著増している。 ・その他: 総ビリルビン3.0mg/dL(直接ビリルビン0.1mg/dL)は日齢3の生理的黄疸の範囲で、直接ビリルビン上昇がないため胆汁うっ滞は考えにくい。AST・ALTは正常で肝障害はない。CRP 0.1mg/dLで感染症を示唆する所見もない。注腸造影は正常で、腸回転異常・中腸軸捻転や下部消化管の器質的病変を疑う所見はない。
診断へのプロセス
ビタミンK依存性凝固因子は第Ⅱ(プロトロンビン)・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子である。外因系を反映するPT(第Ⅶ因子を含む)と内因系を反映するAPTT(第Ⅸ因子を含む)がともに延長し、さらにビタミンK欠乏に特異的なPIVKA-Ⅱが著増していることから、ビタミンK欠乏による凝固障害と判断できる。血小板数・肝機能が正常で、炎症所見もないことは、DIC(播種性血管内凝固)や肝不全による凝固障害、敗血症を否定する材料になる。 新生児はもともとビタミンKが欠乏しやすい(胎盤を通過しにくい、腸内細菌叢が未確立、母乳中の含有量が少ない)。日齢2〜4に消化管出血(吐血・下血)や皮膚出血で発症する病型が典型的で、これを新生児ビタミンK欠乏性出血症(いわゆる新生児メレナ)という。本例は発症時期、出血部位、完全母乳栄養、検査所見のすべてがこの診断に合致する。
設問の考え方
治療は不足しているビタミンKそのものを補うことである。消化管出血があり吸収が確実でないこと、速やかな効果を得たいことから静注で投与する。ビタミンK投与後は数時間で凝固因子の産生が回復し、PTは改善に向かう。本例はバイタルサインが安定しており、外科的処置・輸血・容量補充を要する状況ではない。
選択肢考察
- ×a. 緊急開腹術
誤り。出血の原因は凝固障害であり、ビタミンKの補充で止血が期待できる。注腸造影で異常がなく、胆汁性嘔吐や著明な腹部膨満、腹膜刺激症状など外科的疾患(中腸軸捻転、腸閉鎖、壊死性腸炎の穿孔など)を示す所見もない。全身状態も安定しており、手術の適応はない。
- ×b. 母乳の中止
誤り。母乳はビタミンK含有量が少ないことが発症の背景にはなるが、母乳自体が病気の原因ではなく、中止しても欠乏は是正されない。母乳栄養は感染防御や母子関係の形成など多くの利点があり、ビタミンKを補充しながら継続するのが原則である。予防的なビタミンK投与も母乳を続けたまま行う。
- ×c. 赤血球濃厚液の輸血
誤り。Hb 13.4g/dLは新生児としては下限付近だが高度の貧血ではなく、心拍数・血圧も正常で循環動態は安定している。現時点で赤血球輸血の必要はない。大量出血でショックや高度貧血をきたした場合には輸血を考慮し、止血を急ぐ必要があれば新鮮凍結血漿(FFP)で凝固因子を直接補うこともある。
- ○d. ビタミンK製剤静注
正しい。PT・APTTの延長とPIVKA-Ⅱの著増はビタミンK欠乏による凝固因子(Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ)の活性低下を示しており、原因治療はビタミンKの補充である。消化管出血のある児では経口投与の吸収が不確実なため、静注で確実かつ速やかに投与する。投与後はPTの改善と出血の停止を確認する。
- ×e. 5%アルブミン製剤点滴
誤り。5%アルブミン製剤は出血性ショックなどで循環血液量を補う目的、あるいは低アルブミン血症による病態に用いられる。本例は血圧・心拍数が正常で循環血液量の補充は不要であり、アルブミンには凝固因子が含まれないため出血の是正にもつながらない。総蛋白4.1g/dLはやや低めだが、アルブミン投与の適応となる病態はない。
ビタミンKと凝固因子
ビタミンKは肝臓で凝固因子(Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ)と抗凝固因子(プロテインC・S)のグルタミン酸残基をγ-カルボキシ化する補酵素である。この修飾がないとカルシウムと結合できず、凝固因子は機能しない。ビタミンKが欠乏すると未修飾の異常蛋白が血中に出現し、プロトロンビン由来のものがPIVKA-Ⅱとして測定される。PIVKA-Ⅱは成人では肝細胞癌の腫瘍マーカーとしても用いられる。
新生児がビタミンK欠乏に陥りやすい理由
・ビタミンKは胎盤を通過しにくく、出生時の体内貯蔵が少ない。 ・腸内細菌叢が未確立で、細菌によるビタミンK2産生が乏しい。 ・母乳中のビタミンK含有量は人工乳に比べて少ない。 ・肝臓の凝固因子産生能が未熟である。
ビタミンK欠乏性出血症の病型
・早発型: 生後24時間以内。妊娠中の母体への抗てんかん薬(フェニトイン、フェノバルビタールなど)、ワルファリン、抗結核薬などの投与が関与する。 ・新生児型(古典型): 日齢2〜7、特に日齢2〜4に多い。消化管出血(吐血・下血=新生児メレナ)、皮膚出血、臍出血が主体で、本例が該当する。 ・乳児型(遅発型): 生後3週〜2か月頃に多い。主に母乳栄養児にみられるほか、胆道閉鎖症など胆汁うっ滞による脂溶性ビタミン吸収障害や、抗菌薬の長期投与が背景となる。頭蓋内出血の頻度が高く、死亡や神経学的後遺症をきたしうる重篤な病型である。
予防
日本では出生後早期、退院時(または生後1週頃)、1か月健診時にビタミンK2シロップを経口投与する方法が広く行われてきた。現在は、乳児型の予防をより確実にするため、生後3か月まで週1回の経口投与を続ける方法も推奨されている。
新生児の消化管出血の鑑別
・新生児ビタミンK欠乏性出血症(真性メレナ) ・仮性メレナ(母体血嚥下症候群): 分娩時や授乳時(乳頭亀裂)に飲み込んだ母体血が吐血・下血として出るもの。児は元気で凝固能も正常である。胎児ヘモグロビンはアルカリに抵抗性であることを利用したアプト試験(Apt test)で母体血か児の血液かを区別する。 ・中腸軸捻転(腸回転異常症)、壊死性腸炎、急性胃粘膜病変、感染性腸炎、ミルクアレルギーなど。
POINT
・日齢2〜4の消化管出血+PT延長+PIVKA-Ⅱ上昇+血小板正常 → 新生児ビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナ)。 ・ビタミンK依存性凝固因子はⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ(覚え方「にくなくっていっぱい」等)。PT・APTTともに延長しうるが、最初に延長しやすいのは半減期の短い第Ⅶ因子を反映するPTである。 ・治療はビタミンK静注。循環動態が不安定なら輸血やFFPを併用する。 ・母乳は中止しない。ビタミンK補充を行いながら継続する。 ・乳児型(生後3週〜2か月、母乳栄養児・胆汁うっ滞児)は頭蓋内出血が多く重篤であり、予防投与が重要。 ・仮性メレナ(母体血の嚥下)とはアプト試験で鑑別する。
