「消えないあざ」に潜む悪性腫瘍―高齢者頭部の血管肉腫
第115回医師国家試験 F問題 第36問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。頭部の皮疹を主訴に来院した。7か月前に頭部に紫紅色斑が出現し,次第に拡大,隆起し,出血するようになった。頭部の写真(A)及び同部の病理組織H-E染色標本(B)を下に示す。 診断はどれか。

- a.血管肉腫
- b.基底細胞癌
- c.海綿状血管腫
- d.グロムス腫瘍
- e.巨細胞性動脈炎〈側頭動脈炎〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
高齢者の頭部・顔面に打撲後のあざのような紫紅色斑が生じ、数か月で拡大・隆起して出血する場合は、皮膚血管肉腫を疑います。病理では異型を示す内皮細胞が不規則に吻合する血管腔を形成し、腔内に赤血球を含み、CD31・CD34・ERGなどの血管内皮マーカーが陽性となります。基底細胞癌は顔面中央の黒色結節で柵状配列、海綿状血管腫は若年から存在し内皮に異型がなく、グロムス腫瘍は爪甲下の有痛性結節、巨細胞性動脈炎は頭痛や顎跛行を伴う血管炎と、臨床像と組織像で区別できます。血管肉腫はリンパ浮腫肢(Stewart-Treves症候群)や放射線照射部位にも生じ、肺転移による血気胸を来しうる予後不良の腫瘍です。「消えない・広がるあざ」を見逃さず生検につなげる姿勢が、早期診断のために重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・78歳男性:高齢者 ・部位は頭部 ・7か月前に紫紅色斑が出現し、その後拡大・隆起し、出血するようになった:数か月単位で進行する、易出血性の腫瘍性病変 ・写真(A):頭部に広がる紫紅色〜暗赤色の斑があり、その中に隆起した結節・腫瘤を伴っている。打撲後の皮下出血(あざ)のようにも見える色調である ・病理(B):真皮内に大小不規則な、互いに吻合する裂隙状〜海綿状の管腔が形成され、その内腔に赤血球がみられる。管腔を内張りする細胞は核が腫大した異型細胞である
診断へのプロセス
「高齢者の頭部(頭皮・顔面上部)」に「紫斑様の紫紅色斑」が生じ、「次第に拡大して隆起・結節化し、出血する」という経過は、皮膚血管肉腫の典型像である。紫紅色という色調は病変が血液成分に富む血管系の病変であることを示し、数か月で拡大・隆起していく点は悪性腫瘍を示唆する。病理では、異型を示す内皮細胞が不規則に吻合する血管腔を形成しながら増殖しており、悪性の血管内皮由来腫瘍として矛盾しない。以上より血管肉腫と診断する。
鑑別の考え方
高齢者の頭部〜顔面の腫瘍としては基底細胞癌や有棘細胞癌なども多いが、これらは上皮性腫瘍で、紫紅色斑が拡がるような臨床像はとらない。良性の血管腫(海綿状血管腫など)は内皮細胞に異型がなく、高齢になって急速に拡大することは通常ない。高齢者の頭部の紫斑様病変は「打撲によるあざ」と見過ごされやすく、なかなか消えない・拡大する紫斑をみたら血管肉腫を疑うことが重要である。
選択肢考察
- ○a. 血管肉腫
血管内皮細胞由来の悪性腫瘍で、皮膚では高齢者の頭部・顔面に好発する。初期は打撲後の皮下出血に似た紫斑・紫紅色斑として始まり、拡大するとともに結節や腫瘤を形成し、びらん・潰瘍化して出血しやすくなる。病理では異型内皮細胞が不規則に吻合する管腔を形成し、内腔に赤血球を含む。本症例の年齢、部位、臨床経過、写真と病理所見のいずれもこれに合致する。
- ×b. 基底細胞癌
高齢者の顔面(とくに鼻周囲、眼瞼など顔面中央部)に好発する最も頻度の高い皮膚悪性腫瘍で、日本人では黒色〜黒褐色の光沢のある結節を形成し、中心に潰瘍を伴うことが多い。病理では基底細胞に類似した細胞が胞巣を形成し、胞巣辺縁で核が柵状に配列する(柵状配列)のが特徴である。紫紅色斑が拡がる臨床像や、赤血球を含む管腔構造からなる組織像とは合わない。
- ×c. 海綿状血管腫
拡張した大きな血管腔が集簇する良性の血管性病変で、主に乳幼児期〜若年期から存在する柔らかい青紫色〜紅色の皮下結節や腫瘤としてみられる(現在の分類では多くが静脈奇形に相当する)。管腔を内張りする内皮細胞に異型はなく、高齢になってから数か月で急速に拡大し出血する経過はとらない。病理でも異型内皮細胞の増殖がみられる本症例とは異なる。
- ×d. グロムス腫瘍
動静脈吻合部(グロムス小体)の平滑筋細胞に由来する良性腫瘍で、手指、とくに爪甲下に好発する。数mm程度の小さな青紫色〜紅色の結節で、激しい自発痛、圧痛、寒冷刺激による疼痛が特徴である。病理では小血管の周囲を均一な円形核をもつグロムス細胞が取り囲む。高齢者の頭部に拡がる紫紅色斑とは合わない。
- ×e. 巨細胞性動脈炎〈側頭動脈炎〉
高齢者に多い大血管炎で、側頭動脈が侵されると側頭部の拍動性頭痛、側頭動脈の索状の肥厚・圧痛、顎跛行(咀嚼時の顎の痛み)、視力障害、リウマチ性多発筋痛症の合併、赤沈・CRPの上昇などを呈する。病理では動脈壁に多核巨細胞を伴う肉芽腫性炎症と内弾性板の断裂がみられる。拡大・隆起して出血する紫紅色の皮膚腫瘍を形成する疾患ではない。
皮膚血管肉腫の概要
・血管内皮細胞由来の悪性軟部腫瘍で、皮膚原発例は高齢者の頭部・顔面に好発し、男性にやや多い ・発生母地として、高齢者の頭部・顔面のほか、乳癌術後などのリンパ浮腫肢に生じるもの(Stewart-Treves症候群)、放射線照射部位に生じるものが知られている ・頭部の外傷(打撲)を契機に気付かれることがある
臨床像
・初期:境界不明瞭な紫斑・紫紅色斑。打撲によるあざと誤認されやすい ・進行:病変が周囲に拡大し、結節・腫瘤を形成、びらん・潰瘍化して易出血性となる ・病変は肉眼的な範囲を越えて広がっていることが多く、多発することもある ・肺転移を来しやすく、肺転移巣が破綻して血気胸・気胸を起こすことがある
病理・免疫染色
・真皮内を、不規則に吻合する裂隙状〜海綿状の血管腔が浸潤性に拡がり、腔内に赤血球を含む ・管腔を内張りする内皮細胞は核の腫大・多形性・核分裂像などの異型を示し、進行例では充実性の増殖巣を形成する ・免疫染色でCD31、CD34、ERGなどの血管内皮マーカーが陽性となる
治療と予後
・限局していれば広範囲切除を行い、放射線療法を組み合わせることが多い ・化学療法としてはパクリタキセルやドセタキセルなどのタキサン系抗悪性腫瘍薬が中心で、二次治療としてエリブリンやパゾパニブなどが用いられる。日本ではインターロイキン-2も血管肉腫に対して用いられてきた ・局所再発や遠隔転移を来しやすく、予後は不良である
高齢者の頭部・顔面にみられる主な皮膚腫瘍
・基底細胞癌:顔面中央部の黒色結節、潰瘍 ・有棘細胞癌:日光角化症などを母地とする角化性の腫瘤 ・脂漏性角化症:褐色〜黒色の扁平隆起性の良性腫瘍 ・血管肉腫:紫斑様の紫紅色斑から結節・出血
POINT
・高齢者の頭部・顔面に生じ、拡大・隆起・出血する紫紅色斑(あざ様病変)は血管肉腫を疑う ・病理:異型内皮細胞が不規則に吻合する血管腔を形成し、腔内に赤血球を含む。CD31・CD34・ERG陽性 ・リンパ浮腫肢(Stewart-Treves症候群)や放射線照射部位にも生じる ・肺転移による血気胸に注意。予後不良 ・治療は切除、放射線療法、タキサン系抗悪性腫瘍薬など ・グロムス腫瘍は爪甲下の有痛性結節、基底細胞癌は顔面中央の黒色結節と区別する
