もの忘れの陰にビタミンあり―「治療可能な認知症」を見逃さないためのB群の知識
第115回医師国家試験 F問題 第34問
国試問題にチャレンジ
欠乏すると認知障害をきたす可能性が高いのはどれか。3つ選べ。
- a.ビタミンA〈レチノール〉
- b.ビタミンB1〈チアミン〉
- c.ビタミンB3〈ナイアシン〉
- d.ビタミンB12〈コバラミン〉
- e.ビタミンC〈アスコルビン酸〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
欠乏によって認知障害をきたしやすいのは、神経機能の維持に深く関わるビタミンB群のB1、ナイアシン(B3)、B12です。B1欠乏はWernicke脳症からKorsakoff症候群へ移行して記銘力障害や作話を残し、ナイアシン欠乏のペラグラは皮膚炎・下痢・認知症を三主徴とし、B12欠乏は巨赤芽球性貧血がなくても認知機能障害や亜急性連合性脊髄変性症を起こしえます。ビタミンA欠乏は夜盲症や眼球乾燥症、ビタミンC欠乏は壊血病が中心で、認知障害の原因としては重視されません。これらのビタミン欠乏は「治療可能な認知症」の代表であり、認知症診療ではB1・B12の測定などで必ず除外し、Wernicke脳症が疑われればブドウ糖より先にB1を投与することが重要です。
解答・解説
正解はb, c, dです
認知機能障害の原因には、Alzheimer型認知症などの変性疾患だけでなく、治療によって改善しうるもの(いわゆる「治療可能な認知症」)が含まれる。その代表が、甲状腺機能低下症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などと並ぶビタミン欠乏症である。 神経系の機能維持に深く関わるのは主に水溶性のビタミンB群である。 ・ビタミンB1(チアミン):糖代謝の補酵素で、ブドウ糖を主なエネルギー源とする脳の代謝に必須。欠乏でWernicke脳症、Korsakoff症候群を起こす。 ・ビタミンB3(ナイアシン):NAD/NADPの構成成分として酸化還元反応に関与。欠乏でペラグラを起こし、認知症(精神症状)が三主徴の一つに含まれる。 ・ビタミンB12(コバラミン):DNA合成と髄鞘の維持に関与。欠乏で巨赤芽球性貧血に加え、認知機能障害、亜急性連合性脊髄変性症、末梢神経障害を起こす。 これに対し、ビタミンAは視覚と上皮、ビタミンCはコラーゲン合成と抗酸化に主に関わり、欠乏症の中心は認知障害ではない。したがって、欠乏により認知障害をきたす可能性が高いのはビタミンB1、B3、B12である。 認知症の診療では、これらの欠乏を見逃さないよう、血中ビタミンB1・B12濃度の測定が初期のスクリーニング検査として推奨されている。
選択肢考察
- ×a. ビタミンA〈レチノール〉
ビタミンAは網膜の視物質ロドプシンの構成成分であり、上皮組織の分化・維持にも関わる脂溶性ビタミンである。欠乏すると夜盲症、眼球結膜・角膜の乾燥(眼球乾燥症、角膜軟化症)、Bitot斑、皮膚の角化異常、易感染性などをきたす。認知障害は主要な欠乏症状ではないため誤り。
- ○b. ビタミンB1〈チアミン〉
ビタミンB1はチアミン二リン酸として、ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼの補酵素となり、糖からのエネルギー産生に不可欠である。欠乏すると、急性期には意識障害、眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)、小脳性運動失調を三徴とするWernicke脳症を起こし、適切に治療されないと高度の記銘力障害・作話・見当識障害を特徴とするKorsakoff症候群に移行して認知障害が残る。アルコール多飲、低栄養、妊娠悪阻、ビタミンB1を含まない高カロリー輸液などが原因となる。末梢では脚気(多発神経炎、高拍出性心不全)も起こす。正しい。
- ○c. ビタミンB3〈ナイアシン〉
ナイアシン(ニコチン酸、ニコチンアミド)はNAD・NADPの前駆体で、細胞内の多くの酸化還元反応に必要である。欠乏症のペラグラは、皮膚炎(Dermatitis:日光露光部の左右対称性の紅斑・色素沈着、頸部のCasal首飾り)、下痢(Diarrhea)、認知症(Dementia)を三主徴とし、未治療では死(Death)に至るため「4D」と呼ばれる。アルコール依存症、低栄養、トリプトファン(ナイアシンの材料)の代謝異常をきたすカルチノイド症候群やHartnup病、イソニアジド長期投与などが原因となる。正しい。
- ○d. ビタミンB12〈コバラミン〉
ビタミンB12はメチオニン合成酵素とメチルマロニルCoAムターゼの補酵素であり、DNA合成と神経の髄鞘の維持に必要である。欠乏すると巨赤芽球性貧血に加えて、思考緩慢・記憶障害・注意障害などの認知機能障害、抑うつや幻覚・妄想などの精神症状、亜急性連合性脊髄変性症(脊髄後索・側索の障害による深部感覚障害や痙性麻痺)、末梢神経障害などの多彩な神経症状をきたす。神経症状は貧血を伴わずに出現することもある。萎縮性胃炎(悪性貧血)、胃切除後、回腸末端切除、高齢者、長期のメトホルミンや胃酸分泌抑制薬の使用などが原因となる。正しい。
- ×e. ビタミンC〈アスコルビン酸〉
ビタミンCはコラーゲン合成(プロリン・リシンの水酸化)の補因子であり、強い抗酸化作用(還元作用)をもち、鉄の吸収促進や免疫機能の維持にも関わる。欠乏症の壊血病では、コラーゲン形成不全による毛細血管の脆弱化から、歯肉出血・歯肉腫脹、毛包周囲の点状出血、皮下出血、創傷治癒遅延、小児では骨形成障害(Möller-Barlow病)などをきたす。倦怠感や易刺激性はみられるが、認知障害の原因として重視される欠乏症ではないため誤り。
主なビタミン欠乏症の整理
脂溶性ビタミン ・ビタミンA:夜盲症、眼球乾燥症・角膜軟化症、皮膚角化 ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人) ・ビタミンE:溶血性貧血(未熟児)、脊髄小脳変性様の神経障害 ・ビタミンK:出血傾向(新生児メレナ、頭蓋内出血) 水溶性ビタミン ・ビタミンB1:脚気、Wernicke脳症、Korsakoff症候群 ・ビタミンB2:口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ビタミンB3(ナイアシン):ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症) ・ビタミンB6:末梢神経障害、口角炎、けいれん(乳児)、鉄芽球性貧血 ・葉酸:巨赤芽球性貧血、胎児の神経管閉鎖障害 ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症、認知機能障害、末梢神経障害 ・ビタミンC:壊血病
Wernicke脳症の治療の注意点
ビタミンB1欠乏が疑われる患者にブドウ糖を先に投与すると、糖代謝でビタミンB1が消費されて症状が増悪しうるため、ビタミンB1を先に(あるいは同時に)投与する。
治療可能な認知症
ビタミンB1・B12欠乏、ペラグラのほか、甲状腺機能低下症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、神経梅毒、脳腫瘍、うつ病による仮性認知症などがあり、認知症の診断時には血液検査(甲状腺機能、ビタミンB1・B12など)や画像検査で除外する。
POINT
・欠乏で認知障害をきたすビタミン:B1(Wernicke脳症→Korsakoff症候群)、B3〈ナイアシン〉(ペラグラ:皮膚炎・下痢・認知症)、B12(認知機能障害、亜急性連合性脊髄変性症)。 ・ビタミンA欠乏は夜盲症、ビタミンC欠乏は壊血病が主症状。 ・ビタミン欠乏による認知障害は治療可能な認知症として、認知症診療で必ず除外する。 ・Wernicke脳症ではブドウ糖より先にビタミンB1を投与する。
