鼻がつまっても「あー」は続く―最長発声持続時間は「息の量」と「声門の節約力」で決まる
第115回医師国家試験 F問題 第27問
国試問題にチャレンジ
発声能力を定量的に表す最長発声持続時間に影響しないのはどれか。
- a.性別
- b.年齢
- c.呼吸機能
- d.鼻閉の程度
- e.声門閉鎖の程度
対話形式の解説
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ドクターまとめ
最長発声持続時間(MPT)は、ひと息で母音をどれだけ長く出し続けられるかを測る簡便な発声機能検査で、おおよそ「肺活量÷平均呼気流率」で表されます。性別・年齢・呼吸機能は使える呼気の量を、声門閉鎖の程度は呼気の漏れやすさを左右するため、いずれもMPTに影響します。一方、鼻閉は鼻腔共鳴を減らして閉鼻声を起こすものの、持続発声では鼻咽腔が閉じて呼気は口から出るため、MPTには影響しません。健常成人の平均は男性約30秒、女性約20秒で、反回神経麻痺などの声門閉鎖不全では短縮し、手術による改善で延長するため治療効果の指標にもなります。「呼気量」と「声門での呼気消費」という2つの軸で考えると、発声障害の評価全体が理解しやすくなります。
解答・解説
正解はdです
最長発声持続時間(maximum phonation time:MPT)は、深く息を吸い込んだあと、楽に出せる高さと大きさで母音(「あー」「えー」など)をひと息でどれだけ長く出し続けられるかを秒単位で測る検査である。特別な機器を必要とせず、ストップウォッチ一つで外来の診察椅子に座ったまま実施できるため、発声機能のスクリーニングや治療効果の判定に広く用いられる。 この検査の考え方は「使える息の量」と「その息をどれだけ節約して声に変えられるか」の二つに集約できる。概念的には、MPT はおおよそ「肺活量 ÷ 発声時の平均呼気流率」で表される。 ・分子(息の量)に関わるもの:肺活量などの呼吸機能。体格や年齢、性別によって変わる。 ・分母(息の漏れやすさ)に関わるもの:声門(左右の声帯の間のすき間)がしっかり閉じるかどうか。閉鎖が不十分だと発声中に呼気がむだに漏れ、流率が上がって持続時間は短くなる。 したがって、設問の「影響しないもの」を選ぶには、呼気の量や声門での呼気の消費に関わらない因子を探せばよい。母音の持続発声では、軟口蓋が挙上して鼻咽腔が閉鎖され、呼気は主に口から出る。鼻腔の通りやすさは声の響き(共鳴)を変えるが、呼気量や声門での呼気消費とは直接関係しない。
選択肢考察
- ×a. 性別
影響する。男性は一般に体格が大きく肺活量も大きいため、MPT は女性より長い。健常成人の平均はおおよそ男性 30 秒、女性 20 秒とされ、評価の際も男女別の基準で判断する(短縮の目安として男性 15 秒未満、女性 10 秒未満がよく用いられる)。
- ×b. 年齢
影響する。加齢に伴って肺の弾性や呼吸筋力が低下し肺活量が減るうえ、声帯の萎縮(声帯の筋や粘膜がやせること)で声門閉鎖が不完全になりやすい。このため高齢者では MPT が短くなる傾向がある。小児も肺活量が小さいため成人より短い。
- ×c. 呼吸機能
影響する。発声のエネルギー源は呼気であり、ひと息で使える空気の量(肺活量)が少なければ持続時間は短くなる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や拘束性換気障害、呼吸筋の筋力低下を来す神経筋疾患などでは MPT が短縮する。
- ○d. 鼻閉の程度
影響しないため、これが正解である。鼻閉(鼻づまり)があると鼻腔での共鳴が減って閉鼻声(鼻にかかったこもった声)になり、声の音色は変わる。しかし母音の持続発声では鼻咽腔が閉じて呼気は口から出るため、鼻腔の通気性は呼気量にも声門からの呼気の漏れにも関与しない。よって MPT の測定値は鼻閉によって変わらない。なお、鼻閉は鼻呼吸のしづらさをもたらすが、検査前の吸気は口からでも行えるので、この点でも結果に影響しない。
- ×e. 声門閉鎖の程度
影響する。発声時に声帯が正中でしっかり閉じないと、声門のすき間から呼気が音にならずに漏れ(気息性嗄声の原因になる)、平均呼気流率が増えて息がすぐに尽きる。反回神経麻痺による声帯固定、声帯萎縮、声帯ポリープや結節などで閉鎖不全が生じると MPT は短くなる。逆に、甲状軟骨形成術や声帯内注入術で閉鎖が改善すれば MPT は延長するため、治療効果の指標にもなる。
空気力学的検査と MPT
発声機能の客観的評価には、聴覚的評価(GRBAS 尺度など)、喉頭内視鏡・喉頭ストロボスコピーによる声帯振動の観察、音響分析、空気力学的検査がある。MPT は空気力学的検査の中で最も簡便なもので、より詳しくは発声時の平均呼気流率(mean flow rate:MFR、1 秒あたりに声門を通過する呼気量)を機器で測定する。MPT と MFR はおおむね反比例の関係にあり、声門閉鎖不全では MFR が増え MPT が短くなる。
MPT が短縮する主な病態
・呼気量の減少:COPD、拘束性肺疾患、神経筋疾患、加齢 ・声門閉鎖不全:反回神経麻痺(甲状腺・食道・肺の手術後、縦隔腫瘍、大動脈瘤など)、声帯萎縮、声帯溝症、声帯ポリープ・結節
鼻閉と声の関係
鼻閉で生じるのは閉鼻声(鼻腔共鳴の減少)であり、これは共鳴の異常である。反対に口蓋裂や鼻咽腔閉鎖不全では開鼻声(呼気が鼻へ漏れる)となる。いずれも声の音色(共鳴)の問題であり、喉頭(声門)での発声効率を示す MPT とは評価している対象が異なる。
POINT
・MPT は「ひと息で母音をどれだけ長く出せるか」を測る簡便な発声機能検査である。 ・MPT ≒ 肺活量 ÷ 平均呼気流率。呼気量(性別・年齢・呼吸機能)と声門閉鎖の程度が結果を左右する。 ・健常成人の平均は男性約 30 秒、女性約 20 秒。 ・反回神経麻痺などの声門閉鎖不全では呼気が漏れて MPT は短縮する。 ・鼻閉は閉鼻声(共鳴の変化)を起こすが MPT には影響しない。
