「亡くなった人の平均年齢」は平均寿命ではない―生存曲線の面積が語る本当の意味
第115回医師国家試験 F問題 第24問
国試問題にチャレンジ
平均寿命を表す数値はどれか。
- a.その年の死亡者の年齢の平均値
- b.その年の最も死亡率の高かった年齢
- c.その年に最も多くの死亡者がいた年齢
- d.生命表から作成した生存率曲線下の面積
- e.生命表から算出した生存率が50%になった年齢
対話形式の解説
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ドクターまとめ
平均寿命とは0歳における平均余命であり、実際の死亡者の年齢から求めるのではなく、ある年の年齢別死亡率が続くと仮定した生命表から計算されます。生存率曲線の下の面積は架空の出生集団の延べ生存年数を出生時の人数で割ったものに相当し、これが平均寿命(e0=T0/l0)に一致します。死亡者の平均年齢や死亡数が最も多い年齢は人口構成の影響を受け、最も死亡率が高い年齢は最高齢層を示すにすぎず、生存率が50%になる年齢は中央値である寿命中位数なので、いずれも平均寿命ではありません。平均寿命は人口構成の影響を受けない保健水準の総合指標であり、乳児死亡率の低下で大きく延び、健康寿命との差は不健康な期間を示します。指標の定義と計算方法を正確に理解することは、統計データを正しく読み解き、地域の健康課題を評価する力の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
平均寿命とは「0歳における平均余命」である。平均余命とは、ある年齢x歳ちょうどの人が、その後平均して何年生きられるかを表す期待値である。 平均余命・平均寿命は、実際に亡くなった人の年齢を集計して求めるのではなく、生命表から計算する。生命表では、ある年(または期間)の年齢別死亡率が今後も変わらないと仮定し、出生した架空の集団(通常10万人)が、その死亡率に従って年齢とともに減っていく様子を計算する。こうして得られる「各年齢での生存数(lx)」、あるいはそれを出生時の人数で割った「生存率」を年齢に対してプロットしたものが生存率曲線(生存曲線)である。 生存曲線の下の面積は、集団の全員が生きた年数の合計(延べ生存年数)に相当する。0歳以上の延べ生存年数(T0)を出生時の人数(l0)で割れば、1人あたりが平均して生きる年数、すなわち平均寿命(e0=T0/l0)が得られる。縦軸を生存「率」(出生時を1とする割合)で表した曲線であれば、その曲線下面積がそのまま平均寿命となる。 このように、平均寿命はその年の死亡状況(年齢別死亡率)だけを反映した指標であり、人口の年齢構成の影響を受けない。この点を理解していれば、実際の死亡者の年齢分布に基づく選択肢は誤りと判断できる。
選択肢考察
- ×a. その年の死亡者の年齢の平均値
誤り。実際の死亡者の平均年齢は、年齢別死亡率だけでなく人口の年齢構成に大きく左右される。例えば高齢者の多い集団では、死亡率が同じでも死亡者の平均年齢は高くなり、若年人口の多い集団では低くなる。平均寿命は生命表上の架空集団について求める期待値であり、人口構成の影響を除いた指標である点で、死亡者の平均年齢とは本質的に異なる。両者は混同されやすいので注意が必要である。
- ×b. その年の最も死亡率の高かった年齢
誤り。年齢別死亡率は一般に乳児期を除けば年齢とともに上昇し、最高齢層で最も高くなる。したがって死亡率が最も高い年齢は、集団が平均して何年生きるかを示すものではなく、平均寿命とは関係がない。
- ×c. その年に最も多くの死亡者がいた年齢
誤り。実際の死亡数が最も多い年齢(死亡数の最頻値)は、その年齢の人口が多いかどうか(人口構成)の影響を強く受けるため、平均寿命を表さない。なお、生命表上の死亡数(dx)が最大となる年齢は「最頻値(最頻死亡年齢)」と呼ばれる別の指標であり、これも平均値である平均寿命とは一致しない。
- ○d. 生命表から作成した生存率曲線下の面積
正しい。生存曲線の下の面積は、架空の出生集団が生きた延べ年数(定常人口の総和T0)を表す。これを出生時の人数で割ったもの、つまり縦軸を割合(出生時=1)で表した生存率曲線の下の面積は、1人あたりの平均生存年数、すなわち0歳平均余命=平均寿命に一致する。同様に、x歳以降の曲線下面積をx歳時点の生存数で割ればx歳の平均余命が得られる。
- ×e. 生命表から算出した生存率が50%になった年齢
誤り。生命表上で出生者の半数が死亡し、生存率が50%となる年齢は「寿命中位数」と呼ばれる中央値の指標である。平均寿命は平均値(期待値)であり、乳幼児死亡など早い年齢での死亡に影響されやすいため、一般に寿命中位数とは一致しない。現在の日本では寿命中位数のほうが平均寿命より数年長い。
生命表の主な生命関数
・死亡率(qx): x歳ちょうどの者が1年以内に死亡する確率。 ・生存数(lx): 出生時10万人のうち、x歳ちょうどまで生存すると期待される人数。 ・死亡数(dx): x歳ちょうどの生存者lx人のうち、1年以内に死亡すると期待される人数。 ・定常人口(Lx): x歳以上x+1歳未満の区間に生存する延べ年数(その年齢階級に常に存在する人口とみなせる)。 ・Tx: x歳以上の定常人口の合計(=x歳以降の生存曲線下の面積)。 ・平均余命(ex): ex=Tx/lx。0歳の平均余命e0が平均寿命である。
生命表の種類
・完全生命表: 国勢調査人口と人口動態統計(確定数)を基に5年ごとに作成される。 ・簡易生命表: 推計人口と人口動態統計(概数)を基に毎年作成される。
平均寿命・平均余命の性質
・年齢別死亡率のみから計算されるため、人口の年齢構成の影響を受けず、異なる集団や年次の比較に適した保健水準の総合指標である。 ・乳児死亡率の低下は平均寿命を大きく押し上げる。 ・健康寿命は、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間であり、平均寿命との差が「不健康な期間」を表す。
関連する指標の区別
・平均寿命: 0歳平均余命(平均値)。 ・寿命中位数: 生命表上で出生者の半数が生存する年齢(中央値)。 ・死亡者の平均年齢: 実際の死亡者の年齢の平均で、人口構成の影響を受ける。
POINT
・平均寿命=0歳の平均余命であり、生命表から求める。 ・平均余命ex=Tx(x歳以降の生存曲線下面積)/lx(x歳の生存数)。 ・生存率曲線の下の面積=平均寿命。 ・生存率50%の年齢は寿命中位数であり、平均寿命ではない。 ・平均寿命は人口の年齢構成の影響を受けない。死亡者の平均年齢とは異なる。
