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FASTが探すのは「黒い影」―外傷初期診療で超音波が見ているもの

第115回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第115回 E問題 第9問

外傷の初期診療において迅速簡易超音波検査〈FAST〉で確認するのはどれか。

  1. a.気胸
  2. b.骨折
  3. c.臓器損傷
  4. d.大動脈径
  5. e.体腔内出血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、外傷の初期診療で行う迅速簡易超音波検査、FASTの目的を問う問題だ。FASTが外傷診療の流れのどこで、何のために行われるのかを押さえれば、迷わず答えられるよ。
医学生医学生
FASTって、救急科の実習で研修医の先生がベッドサイドでさっとやっていたエコーですよね。おなかの臓器が傷ついていないか見ているのだと思っていました。
ドクタードクター
そう思う人は多いんだけど、そこが落とし穴なんだ。まず外傷初期診療の流れから整理しよう。日本のJATECでは、生命を脅かす生理学的な異常を見つけて蘇生するprimary surveyを先に行い、そのあとで解剖学的な損傷を系統的に調べるsecondary surveyに進む。primary surveyはA・B・C・D・Eの順に評価する。
医学生医学生
気道、呼吸、循環、中枢神経、脱衣と体温管理ですね。OSCEの救急の課題でも、まずABCと叩き込まれました。
ドクタードクター
その通り。FASTはこのうちCの循環の評価で、胸部と骨盤のエックス線と一緒に行う。つまりショックの原因を探すための検査なんだ。外傷のショックで一番多いのは何だろう。
医学生医学生
出血性ショックです。
ドクタードクター
正解。そして外から見えない大量出血の場所は、胸腔、腹腔、後腹膜が代表だ。もう一つ、閉塞性ショックを起こす心タンポナーデも見逃せない。FASTはこのうち心嚢、胸腔、腹腔に液体がたまっていないかを見る。外傷患者では、その液体は出血とみなすんだ。
医学生医学生
だから答えは体腔内出血なんですね。エコーでは液体は黒く抜けて見えるから、それを探すわけですか。
ドクタードクター
そう、無エコー域、echo free spaceとして描出される。観察部位は心窩部から心嚢、右上腹部の肝腎境界にあたるモリソン窩、右胸腔、左上腹部の脾周囲、左胸腔、そして膀胱周囲のダグラス窩や膀胱直腸窩だ。仰臥位では液体は低いところにたまりやすいから、モリソン窩や骨盤腔が要所になる。
医学生医学生
解剖実習で、仰臥位だとモリソン窩が腹腔の低い位置になると習ったのを思い出しました。それで臓器損傷が答えではない理由は何ですか。
ドクタードクター
FASTは肝臓や脾臓の損傷そのものを描出する検査ではなく、損傷の結果としてたまった血液を見つける検査だからだ。実質臓器の損傷は超音波では必ずしも見えないし、程度の評価は循環が安定してからの造影CTが中心になる。だからFASTが陰性でも臓器損傷は否定できない。
医学生医学生
気胸もエコーでわかると聞いたことがありますが、FASTには入らないんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。lung slidingの消失などで気胸を評価できることがわかってきて、FASTに気胸の評価を加えたものをEFAST、extended FASTと呼ぶ。でも本来のFASTは液体貯留の検索だから、気胸は含まれない。それに緊張性気胸はBの段階で、呼吸音の左右差や頸静脈怒張、気管偏位といった身体所見から診断し、画像を待たずに緊急脱気すべき病態だ。
医学生医学生
骨折と大動脈径も、FASTの役割ではないということですね。
ドクタードクター
そう。骨折はエックス線やCTで評価する。primary surveyでは出血源として重要な骨盤骨折を骨盤エックス線で確認し、四肢の骨折はsecondary surveyで診ていく。外傷性大動脈損傷は胸部エックス線での上縦隔拡大などから疑い、造影CTで診断するのが一般的だ。腹部大動脈瘤で大動脈径を測ることはあるけれど、外傷のFASTとは目的が違う。
医学生医学生
FASTは「どこに血がたまっているか」をすぐ知って、次の処置を決めるための検査なんですね。
ドクタードクター
まさにそこが価値なんだ。心嚢液なら心嚢穿刺や心膜開窓、大量血胸なら胸腔ドレナージ、腹腔内出血なら緊急開腹や経カテーテル動脈塞栓術と、すぐ処置の判断につながる。しかも1分程度を目標に、非侵襲的に、患者を動かさずに繰り返しできる。
医学生医学生
繰り返す、というのは大事なんですか。
ドクタードクター
とても大事だ。受傷直後は出血が少なくて陰性でも、時間とともに増えてくることがある。だからバイタルサインが変化したときなどは再検する。それから後腹膜出血はFASTでは評価が難しく、骨盤エックス線やCTに頼ることも覚えておこう。FAST陰性なのにショックが続くなら、骨盤骨折による後腹膜出血を疑う、という発想が臨床では大切だよ。

まとめ

FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)は、外傷初期診療のprimary surveyにおけるC(循環)の評価として、胸部・骨盤エックス線とともにショックの原因を探すために行う超音波検査です。目的は体腔内出血の検出で、心嚢、モリソン窩、左右胸腔、脾周囲、膀胱周囲の液体貯留(無エコー域)を短時間で確認します。臓器損傷そのもの、骨折、大動脈径、後腹膜出血の評価には向かず、気胸の評価まで加えたものはEFASTと呼ばれます。陰性でも損傷は否定できないため、循環の変化に応じて繰り返し施行し、安定すれば造影CTで精査します。FASTの位置づけを理解することは、外傷患者のショックに対して迅速に処置を判断するための基本となります。

解答・解説

正解はeです

FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma、迅速簡易超音波検査)は、外傷初期診療において、ショックの原因となる体腔内の出血(液体貯留)の有無を短時間で調べる超音波検査である。 日本の外傷初期診療ガイドライン(JATEC)では、まず生命を脅かす生理学的異常を見つけて蘇生する primary survey(PS)を行い、その後に解剖学的な損傷を系統的に調べる secondary survey(SS)へ進む。PSは A(Airway:気道)、B(Breathing:呼吸)、C(Circulation:循環)、D(Dysfunction of CNS:中枢神経障害)、E(Exposure and Environmental control:脱衣と体温管理)の順に評価し、FASTはこのうち C の評価で、胸部・骨盤のエックス線撮影とともにショックの原因検索として行う。 外傷で見られるショックの多くは出血性ショックであり、その出血源として「外から見えない」大量出血の部位は、胸腔(大量血胸)、腹腔(腹腔内出血)、後腹膜(骨盤骨折など)が代表的である。また、閉塞性ショックの原因となる心タンポナーデ(心嚢内の血液貯留)も見逃してはならない。FASTはこれらのうち、心嚢、胸腔、腹腔の液体貯留(外傷では出血とみなす)を、ベッドサイドで1分程度を目標に、非侵襲的に、繰り返し評価できる点に価値がある。 したがって、FASTで確認するのは「体腔内出血」であり、損傷した臓器そのものの評価や骨折、大血管径の評価は目的としない。

選択肢考察

  1. ×a.  気胸

    通常のFASTの評価対象ではない。肺の超音波検査で、臓側胸膜と壁側胸膜が呼吸に伴ってずれ動く所見(lung sliding)が消失していることなどから気胸を診断できることが分かってきており、FASTに気胸の評価を加えたものを extended FAST(EFAST)と呼ぶ。しかし本来のFASTは液体貯留(出血)の検索であり、気胸は対象に含まれない。なお、緊張性気胸はPSのBの段階で、身体所見(呼吸音の左右差、頸静脈怒張、気管偏位など)から臨床的に診断し、画像を待たずに緊急脱気を行うべき病態である。

  2. ×b.  骨折

    FASTの評価対象ではない。骨折はエックス線撮影やCTで評価する。PSでは出血源として重要な骨盤骨折や大量血胸の原因となる胸部損傷を胸部・骨盤のエックス線撮影で確認し、四肢の骨折はSSにおける視診・触診とその後の画像検査で評価する。

  3. ×c.  臓器損傷

    FASTの目的ではない。FASTは肝臓・脾臓などの実質臓器の損傷そのものを描出・診断するのではなく、臓器損傷の結果として体腔内にたまった液体(出血)を検出する検査である。実質臓器の損傷は超音波で必ずしも描出できず、損傷の有無や程度の評価は、循環が安定した段階で行う造影CTが中心となる。FASTが陰性でも臓器損傷を否定することはできない。

  4. ×d.  大動脈径

    FASTの評価対象ではない。外傷性大動脈損傷は胸部エックス線写真での上縦隔拡大などを手がかりに疑い、造影CTで診断するのが一般的である(経食道心エコーが用いられることもある)。腹部大動脈瘤の評価で大動脈径を測定することはあるが、それは外傷初期診療のFASTの目的とは異なる。

  5. ○e.  体腔内出血

    正しい。FASTは、心嚢腔、左右の胸腔、腹腔(肝腎境界のモリソン窩、脾周囲、膀胱周囲のダグラス窩・膀胱直腸窩)に液体貯留があるかどうかを調べ、外傷患者ではこれを出血と判断する。心タンポナーデ、大量血胸、腹腔内出血はいずれもショックの原因となり、緊急の処置(心嚢穿刺・心膜開窓、胸腔ドレナージ、緊急開腹や経カテーテル動脈塞栓術など)の判断に直結する。FASTは短時間・非侵襲的でベッドサイドで繰り返し施行できるため、初回陰性でもバイタルサインの変化時などに再検する。なお、後腹膜出血はFASTでは評価が難しく、骨盤エックス線やCTで評価する。

FASTの観察部位(JATECで推奨される順序の例)

①心窩部:心嚢液貯留(心タンポナーデ) ②右上腹部:モリソン窩(肝腎境界)の液体貯留 ③右胸腔:血胸 ④左上腹部:脾周囲(脾腎境界)の液体貯留 ⑤左胸腔:血胸 ⑥下腹部:膀胱周囲(ダグラス窩・膀胱直腸窩)の液体貯留 腹腔内の液体は仰臥位で低い位置にたまりやすく、モリソン窩や骨盤腔が観察の要所となる。液体は超音波で黒く抜ける無エコー域(echo free space)として描出される。

FASTの特徴

・利点:短時間(1分程度が目標)、非侵襲的、ベッドサイドで施行でき、患者を移動させずに繰り返し評価できる。 ・限界:少量の出血や後腹膜出血、実質臓器損傷そのもの、管腔臓器損傷の検出は難しい。陰性でも損傷は否定できず、循環が安定していれば造影CTで精査する。

EFAST(extended FAST)

FASTに両側の前胸部での気胸の評価を加えたもの。lung slidingの消失などを指標とする。

外傷初期診療の流れ(JATEC)

・Primary survey(ABCDE)と蘇生:生理学的異常の評価と安定化。Cの段階でFAST、胸部・骨盤エックス線撮影を行い、ショックの原因を検索する。 ・Secondary survey:頭からつま先までの系統的な身体診察と、CTなどによる解剖学的損傷の評価。

外傷によるショックの分類

・出血性ショック(最多):胸腔・腹腔・後腹膜(骨盤骨折)・長管骨骨折・外出血 ・閉塞性ショック:心タンポナーデ、緊張性気胸 ・神経原性ショック:頸髄・上位胸髄損傷(徐脈を伴う低血圧)

POINT

・FAST=Focused Assessment with Sonography for Trauma。目的は体腔内出血(心嚢・胸腔・腹腔の液体貯留)の検出。 ・Primary surveyのC(循環)の評価で、胸部・骨盤エックス線とともに行う。 ・観察部位:心嚢、モリソン窩、右胸腔、脾周囲、左胸腔、膀胱周囲(ダグラス窩)。 ・臓器損傷そのもの、骨折、後腹膜出血の評価には向かない。陰性でも損傷は否定できず、繰り返し施行する。 ・気胸まで評価するものはEFAST(extended FAST)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。