StudyMed医師国家試験

ブドウ糖20%はなぜ腕から入れられない?―浸透圧で決まる「末梢か中心か」

第115回医師国家試験 E問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第115回 E問題 第20問

末梢静脈路ではなく末梢挿入中心静脈カテーテル〈PICC〉を選択すべき輸液製剤の組成はどれか。

  1. a.Na 154mEq/L
  2. b.K 20mEq/L
  3. c.Cl 35mEq/L
  4. d.Lactate 20mEq/L
  5. e.Glucose 20%

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、輸液製剤の組成を見て「末梢静脈から入れてよいか、中心静脈から入れるべきか」を判断する問題だ。着眼点はただ一つ、その液の浸透圧が血管にとってどれだけ負担になるか。数字の並びに惑わされず、それぞれがどの輸液の成分かを思い浮かべてみよう。
医学生医学生
PICCって、腕から入れるので末梢ルートの一種だと思っていました。中心静脈から入れる必要がある液でも、PICCで大丈夫なんですか。
ドクタードクター
そこが最初の誤解ポイントだね。PICCは上腕の静脈、主に尺側皮静脈から挿入するけれど、カテーテルの先端は上大静脈まで進めて留置する。つまり刺す場所は末梢でも、薬液が流れ込むのは中心静脈。だから扱いとしては中心静脈カテーテルの仲間なんだ。
医学生医学生
なるほど、「どこに刺すか」ではなく「先端がどこにあるか」が大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。では、なぜ中心静脈が必要になるのか。前腕の細い静脈は血流が少ないから、浸透圧の高い液が入ると薄まりきらずに血管内皮を傷つけ、静脈炎や血栓性閉塞を起こす。一般に末梢から入れられるのは、血漿浸透圧約285mOsm/Lの3倍程度、浸透圧比3くらいまでが目安とされている。
医学生医学生
生理学で血漿浸透圧は約290と習いましたが、その3倍というとだいたい900mOsm/Lくらいですね。
ドクタードクター
よく計算できたね。では選択肢を見ていこう。Na 154mEq/Lは何の液かな。
医学生医学生
生理食塩液ですね。Clも154で、ほぼ等張なので末梢から普通に入れていました。救急外来の実習でも最初に繋ぐのはこれでした。
ドクタードクター
そう、浸透圧は約308mOsm/Lで血漿とほぼ同じ。末梢で全く問題ない。次に、K 20mEq/L、Cl 35mEq/L、乳酸20mEq/Lはどうだろう。
医学生医学生
Na 35、K 20、Cl 35、乳酸20……維持輸液の3号液の組成と一致しますね。でもKは末梢から入れると危ないと聞いたことがあって、少し気になります。
ドクタードクター
良い引っかかりだね。Kは高濃度・急速投与で不整脈や心停止の危険があり、高濃度では血管痛や静脈炎の原因にもなる。だから末梢からは濃度40mEq/L以下、速度20mEq/時以下、1日100mEq以下が目安とされている。20mEq/Lならこの範囲内だ。乳酸は肝臓で代謝されて重炭酸イオンになるアルカリ化剤として入っているもので、乳酸リンゲル液も含めて末梢から投与されるよ。
医学生医学生
となると残るのはブドウ糖20%ですね。5%ブドウ糖液は等張と習いましたが、20%だとその4倍……。
ドクタードクター
まさにその発想で正解だ。ブドウ糖の分子量は180なので、20%液は1Lに200g、約1,100mOsm/Lで血漿の約4倍になる。浸透圧比3を大きく超えるから、末梢から入れると静脈炎を起こしやすい。これは高カロリー輸液、つまり中心静脈栄養の領域なので、PICCや中心静脈カテーテルを選ぶべき製剤なんだ。
医学生医学生
ブドウ糖濃度で言うと、どのあたりが境界なんでしょうか。
ドクタードクター
5%液は約278mOsm/L、10%液は約555mOsm/Lだから、末梢ではおおむね10%程度までが目安と考えておくといい。末梢静脈栄養用の製剤は、ブドウ糖を7.5%前後に抑えてアミノ酸や電解質を加え、浸透圧比を3程度にしている。ただしそれだけでは1日に入れられるエネルギー量に限りがあるから、長期の栄養管理には向かないんだ。
医学生医学生
だから長く絶食が続く患者さんでは、中心静脈栄養に切り替えるわけですね。消化器外科の実習で、術後の患者さんにPICCが入っていた理由がやっとつながりました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。最後に、中心静脈カテーテルの挿入部位ごとの特徴も押さえておこう。内頸静脈は超音波ガイド下で穿刺しやすいが、気胸や動脈誤穿刺の危険がある。鎖骨下静脈は固定しやすく感染が比較的少ない一方、気胸の危険が高い。大腿静脈は穿刺は容易だが、感染や深部静脈血栓症が多い。
医学生医学生
PICCは頸や胸を刺さないので、気胸の心配が少ないのが利点ですね。
ドクタードクター
その通り。重篤な機械的合併症が少ないのが大きな利点だ。ただ細くて長いカテーテルなので、閉塞や静脈血栓、上肢の血栓性静脈炎には注意が必要になる。また、高張液のほかに、血管刺激性の強い薬剤や、漏れると強い組織障害を起こす一部の抗癌薬・高濃度のカテコラミンなども中心静脈からの投与が望ましい。「何を入れるか」から「どこから入れるか」を決める習慣をつけておこう。

まとめ

末梢静脈は血流が少なく、高張液が入ると静脈炎や血栓性閉塞を起こしやすいため、末梢から投与できる輸液は浸透圧比3程度(約900mOsm/L)までが目安とされます。ブドウ糖20%液は約1,100mOsm/Lと血漿の約4倍の高張液で、高カロリー輸液に相当するため、先端を上大静脈に置くPICCや中心静脈カテーテルから投与します。一方、Na 154mEq/Lの生理食塩液や、K 20・Cl 35・乳酸20mEq/L程度を含む維持輸液(3号液)は末梢静脈から投与できます。PICCは上腕の尺側皮静脈などから挿入するため気胸などの重篤な機械的合併症が少ない反面、閉塞や血栓に注意が必要です。輸液の組成から浸透圧を見積もり、適切な投与経路を選ぶ力は、病棟で輸液や栄養管理を行ううえでの基本となります。

解答・解説

正解はeです

本問は、輸液製剤の組成から、末梢静脈から安全に投与できるか、それとも中心静脈から投与すべきかを判断させる問題である。

末梢静脈と中心静脈の違い

前腕などの末梢静脈は血管径が細く血流量も少ないため、浸透圧の高い液が流入すると十分に希釈されず、血管内皮が障害されて静脈炎(発赤・疼痛・硬結)や血栓性閉塞を起こしやすい。一般に、末梢静脈から投与できる輸液の浸透圧は血漿浸透圧(約285mOsm/L)の3倍程度(浸透圧比3、およそ900mOsm/L前後)までが目安とされる。これを超える高張液は、血流が豊富で速やかに希釈される中心静脈(上大静脈など)から投与する。

PICCとは

末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC: peripherally inserted central venous catheter)は、上腕の静脈(主に尺側皮静脈、ほかに上腕静脈・橈側皮静脈)から挿入し、先端を上大静脈に留置するカテーテルである。挿入部位は末梢だが、薬液が流れ込むのは中心静脈なので、高張液を投与できる。

正解を導く考え方

各選択肢の数値が、どの輸液製剤のどの成分に相当するかを考える。Na 154mEq/Lは生理食塩液、K 20mEq/L・Cl 35mEq/L・乳酸20mEq/Lは維持輸液(3号液)などに含まれる濃度で、いずれも末梢静脈から日常的に投与されている。一方、ブドウ糖20%は、ブドウ糖だけで約1,100mOsm/Lに達する高張液であり、高カロリー輸液(中心静脈栄養)の基本液に相当するため、中心静脈から投与する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  Na 154mEq/L

    生理食塩液(0.9%塩化ナトリウム液)のNa濃度である(Clも154mEq/L)。浸透圧は約308mOsm/Lで血漿とほぼ等張であり、末梢静脈から問題なく投与できる。生理食塩液を溶媒とする一部の膠質輸液(代用血漿剤)も同程度のNaを含み、やはり末梢静脈から投与される。

  2. ×b.  K 20mEq/L

    維持輸液(3号液)に含まれる代表的なK濃度であり、末梢静脈から投与できる。Kは高濃度・急速投与で不整脈や心停止を起こす危険があり、また高濃度では血管痛や静脈炎の原因にもなるため、末梢静脈からの投与では濃度40mEq/L以下、速度20mEq/時以下、1日量100mEq以下が目安とされる。20mEq/Lはこの範囲内である。

  3. ×c.  Cl 35mEq/L

    維持輸液(3号液)に含まれる代表的なCl濃度である。3号液は低張の電解質組成(例: Na 35mEq/L、K 20mEq/L、Cl 35mEq/L、乳酸20mEq/L、ブドウ糖4%台)で、浸透圧は末梢静脈の許容範囲内にあるため、末梢静脈から投与できる。

  4. ×d.  Lactate 20mEq/L

    開始液(1号液)や維持輸液(3号液)などに含まれる乳酸の濃度である。乳酸は肝臓で代謝されて重炭酸イオン(HCO3⁻)を生じるため、アシドーシスの補正を目的としたアルカリ化剤として配合されている。乳酸リンゲル液(乳酸28mEq/L程度)も含め、これらはいずれも末梢静脈から投与される。

  5. ○e.  Glucose 20%

    ブドウ糖20%液は1Lあたり200gのブドウ糖を含み、ブドウ糖の分子量180から計算すると浸透圧は約1,100mOsm/Lと、血漿の約4倍に達する。これを末梢静脈から投与すると、静脈炎や血管閉塞を起こしやすい。ブドウ糖濃度が高い(目安として10%を超える)輸液は高カロリー輸液(中心静脈栄養)の領域であり、カテーテル先端が上大静脈にあるPICCや中心静脈カテーテルから投与する必要がある。

末梢静脈から投与できる輸液の目安

・浸透圧比(血漿浸透圧に対する比)3程度まで。 ・ブドウ糖濃度はおおむね10%程度まで(ブドウ糖5%液は約278mOsm/Lでほぼ等張、10%液は約555mOsm/L)。 ・末梢静脈栄養(PPN)用の製剤は、ブドウ糖約7.5%にアミノ酸・電解質を加え、浸透圧比を約3に抑えている。PPNだけでは1日に投与できるエネルギー量に限りがあるため、長期の栄養管理には向かない。

中心静脈から投与すべきもの

・高カロリー輸液(高濃度ブドウ糖を含む中心静脈栄養)。 ・高張液や血管刺激性の強い薬剤。 ・血管外漏出で強い組織障害を起こす薬剤(一部の抗癌薬、高濃度のカテコラミンなど)。

中心静脈カテーテルの主な挿入部位

・内頸静脈: 超音波ガイド下で穿刺しやすく、広く用いられる。気胸・動脈誤穿刺の危険がある。 ・鎖骨下静脈: 固定しやすく感染が比較的少ないが、気胸の危険が高い。 ・大腿静脈: 穿刺は容易だが、感染や深部静脈血栓症の危険が高い。 ・PICC(上腕の尺側皮静脈など): 頸部・胸部を穿刺しないため気胸や大血管損傷などの重篤な機械的合併症の危険が小さい。カテーテルが細長いため、閉塞や静脈血栓、上肢の血栓性静脈炎には注意が必要である。

代表的な輸液製剤の組成の例

・生理食塩液: Na 154、Cl 154mEq/L(等張) ・乳酸リンゲル液: Na 130、K 4、Cl 109、乳酸28mEq/L程度、Ca含有(細胞外液補充液) ・開始液(1号液): Kを含まず、Na 90、Cl 70、乳酸20mEq/L程度、ブドウ糖を少量含む ・維持液(3号液): Na 35、K 20、Cl 35、乳酸20mEq/L程度、ブドウ糖4%台 (製品によって数値は多少異なる)

POINT

・末梢静脈から投与できるのは浸透圧比3程度までの輸液であり、それを超える高張液は中心静脈から投与する。 ・ブドウ糖20%は約1,100mOsm/Lの高張液で、高カロリー輸液に相当するためPICCまたは中心静脈カテーテルを用いる。 ・生理食塩液(Na 154mEq/L)や維持輸液(K 20、Cl 35、乳酸20mEq/L)は末梢静脈から投与できる。 ・PICCは上腕の静脈(主に尺側皮静脈)から挿入し、先端を上大静脈に置く中心静脈カテーテルで、気胸などの機械的合併症が少ない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。