StudyMed医師国家試験

「食べられない」は立派な症状―うつ病の輪郭を他疾患の特徴的症状から描き出す

第115回医師国家試験 E問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第115回 E問題 第18問

うつ病の症状に含まれるのはどれか。

  1. a.食欲がない。
  2. b.入眠時に幻視を認める。
  3. c.好きなことだけにやる気を出す。
  4. d.簡単な計算でも間違った答えを言う。
  5. e.自殺せよという命令がテレパシーで頭に入ってくる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、うつ病の症状として正しいものを選ぶ問題だ。ポイントは、うつ病の診断項目をきちんと整理しておくことと、それ以外の選択肢が「どの疾患の特徴的症状か」を言い当てられること。消去法がそのまま知識の確認になる問題だね。
医学生医学生
うつ病というと、まず気分の落ち込みを思い浮かべます。でも選択肢に「抑うつ気分」そのものはないんですよね。
ドクタードクター
そう。だからこそ、うつ病の症状を気分だけでなく幅広く捉えておく必要がある。大きく分けると、気分の症状、身体の症状、精神運動の症状、思考の症状の4つに整理できるんだ。
医学生医学生
精神医学の講義でDSM-5の9項目を習いました。抑うつ気分と興味・喜びの喪失が中核で、そのどちらかを含めて5項目以上が2週間以上続く、でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。その9項目には、食欲の減退または増加・体重変化、不眠または過眠、精神運動の焦燥または制止、易疲労感、無価値感や罪責感、集中力・決断力の低下、希死念慮が並ぶ。つまり「食欲がない」は身体症状としてはっきり診断基準に含まれている。これが正解だ。
医学生医学生
「何を食べてもおいしくない」という訴えですね。精神科の実習でも、初診の患者さんに食欲と体重の変化を必ず聞いていました。
ドクタードクター
大事な問診項目だよ。ただし、食欲は増える方向でも症状になる点に注意。過食や体重増加が目立つタイプもあるから、「変化」として捉えておこう。では残りを見ていこう。寝入りばなの幻視はどうかな。
医学生医学生
幻覚があるなら統合失調症かと思ったんですが、「入眠時」というのが引っかかります。
ドクタードクター
いい着眼点。入眠時幻覚はナルコレプシーの特徴的症状だ。日中の耐え難い眠気、笑ったときなどに力が抜ける情動脱力発作、金縛り、そして入眠時幻覚。入眠直後にレム睡眠が出てしまうことが背景にある。うつ病の典型的な症状ではないね。
医学生医学生
好きなことだけにやる気が出る、というのは、意欲低下の一種としてうつ病に入りそうな気もしました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。うつ病の中核症状は「ほとんどすべての活動」への興味・喜びの喪失なんだ。以前楽しめた趣味にも関心がわかなくなる。仕事には行けないのに趣味は楽しめるという選択的な意欲は、ストレス因から離れると元気になる適応障害などで説明されることが多い。厳密には非定型の特徴を伴ううつ病で気分の反応性がみられることもあるけれど、典型像とは合わないと考えよう。
医学生医学生
簡単な計算を間違えるのは、うつ病で集中力が落ちているからでは?高齢者の仮性認知症も習いました。
ドクタードクター
鋭いね。でも答え方に注目してほしい。うつ病では思考制止のために時間がかかったり「わからない」と答えたりするのが特徴だ。一方、「2+2は?」に「5」と、意味は分かっていて少しずらした答えを返すのは的外れ応答といって、拘禁状況で生じるGanser症候群の特徴なんだ。
医学生医学生
最後のテレパシーで命令が入ってくるのは、思考吹入ですね。統合失調症のSchneiderの一級症状だとCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
その通り。自分の考えではないものが外から入れられる思考吹入、操られている感覚の作為体験は自我障害に分類され、統合失調症を強く示唆する。重症のうつ病でも罪業妄想のような気分に一致した精神病症状はありうるけれど、テレパシーによる命令の吹入は典型的ではないね。
医学生医学生
選択肢ごとに、ナルコレプシー、適応障害、Ganser症候群、統合失調症と対応させると整理しやすいです。
ドクタードクター
そういうこと。最後に臨床での発展知識を押さえよう。うつ病では朝に症状が重く夕方に軽くなる日内変動や、早朝覚醒が典型的だ。重症例では罪業・貧困・心気の微小妄想がみられる。そして診断の際には、躁病や軽躁病エピソードの既往がないかを必ず確認する。あれば双極性障害を考えることになるからね。
医学生医学生
治療方針が変わるから、過去の「調子が良すぎた時期」も聞き出さないといけないんですね。それと、希死念慮の確認も避けてはいけないと実習で教わりました。
ドクタードクター
その通り。自殺について尋ねることがリスクを高めるわけではないとされていて、むしろ率直に聞くことが安全につながる。身体症状を入口に受診する人も多いから、食欲や睡眠の訴えの裏にうつ病が隠れていないか、どの科にいても意識しておこう。

まとめ

うつ病(大うつ病性障害)はDSM-5で、抑うつ気分または興味・喜びの喪失を含む9項目中5項目以上が2週間以上続くことで診断され、食欲・体重の変化、睡眠障害、易疲労感といった身体症状も診断項目に含まれます。うつ病の興味の喪失は「ほとんどすべての活動」に及ぶため、好きなことにだけ意欲が出る状態は適応障害などを考えます。入眠時幻覚はナルコレプシー、的外れ応答はGanser症候群、思考吹入などの自我障害は統合失調症に特徴的な症状として結び付けておくと鑑別に迷いません。日内変動、早朝覚醒、微小妄想、躁病エピソードの既往確認、希死念慮の評価も合わせて押さえておきたいポイントです。身体の訴えの背後にあるうつ病に気付く力は、精神科に限らずあらゆる診療科で役立ちます。

解答・解説

正解はaです

本問は、うつ病(大うつ病性障害)の中核症状を、他の精神疾患に特徴的な症状と区別できるかを問うている。

うつ病の症状の捉え方

うつ病の症状は大きく、気分の症状(抑うつ気分、興味・喜びの喪失)、身体(自律神経)の症状(睡眠障害、食欲・体重の変化、易疲労感)、精神運動の症状(焦燥または制止)、思考の症状(罪責感・無価値感、集中力・決断力の低下、希死念慮)に整理できる。DSM-5(米国精神医学会の診断基準第5版)では、これら9項目のうち5項目以上がほぼ毎日、2週間以上同時に続き、そのうち少なくとも1つは「抑うつ気分」または「興味・喜びの喪失」であることが求められる。

正解を導く考え方

選択肢のうち、上記の項目に直接該当するのは「食欲がない」(食欲減退)だけである。残りはいずれも別の病態を想起させる症状である。入眠時の幻視はナルコレプシー、選択的な意欲はうつ病の「全般的な興味の喪失」と矛盾する状態、簡単な計算への的外れな答えはGanser(ガンザー)症候群(拘禁反応)、外部から命令が入り込む体験は統合失調症の自我障害(作為体験・思考吹入)を示唆する。うつ病の典型像にどの症状が「含まれない」かを、疾患ごとの特徴的症状として結び付けておくと迷わない。

選択肢考察

  1. ○a.  食欲がない。

    食欲減退はうつ病の代表的な身体症状であり、DSM-5の診断基準にも「食欲の減退または増加、あるいは有意な体重変化(例: 1か月で体重の5%以上の増減)」として含まれる。患者は「何を食べてもおいしくない」「食べる気がしない」と訴え、体重減少を伴うことが多い。なお、過食・体重増加の形で現れる場合もあり(非定型の特徴)、食欲の変化は増減どちらの方向でも症状となる点も押さえておく。

  2. ×b.  入眠時に幻視を認める。

    寝入りばなにありありとした幻覚(多くは幻視)を体験する入眠時幻覚は、ナルコレプシーの特徴的症状である。ナルコレプシーでは日中の耐え難い眠気、情動脱力発作(カタプレキシー)、睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚がみられ、入眠直後にレム睡眠が出現すること(入眠時レム睡眠期)が背景にある。幻視はほかにLewy小体型認知症やせん妄、統合失調症でもみられるが、うつ病の症状としては典型的ではない。

  3. ×c.  好きなことだけにやる気を出す。

    うつ病の中核症状の一つは「ほとんどすべての活動に対する興味・喜びの著しい減退」であり、以前は楽しめた趣味にも関心がわかなくなるのが特徴である。したがって、仕事や義務には意欲が出ないのに好きなことにだけは熱心に取り組めるという状態は、うつ病の典型像とは合わない。このような選択的な意欲の低下は、特定のストレス状況(職場など)から離れると症状が軽くなる適応障害や、パーソナリティの偏りなどで説明されることが多い。

  4. ×d.  簡単な計算でも間違った答えを言う。

    「2+2は?」に「5」と答えるように、質問の意味は理解しているのに少しずれた答えを返す現象を的外れ応答(当意即答)という。拘禁状況(刑務所や未決勾留中など)で生じる心因反応であるGanser症候群の特徴的症状である。うつ病でも思考制止や集中力低下のために計算に時間がかかったり、「わからない」「できない」と答えたりすること(うつ病性仮性認知症)はあるが、わざと外したような誤答を返すのはうつ病の症状ではない。

  5. ×e.  自殺せよという命令がテレパシーで頭に入ってくる。

    自分の考えではないものが外部から頭の中に入れられると感じる体験は思考吹入であり、自分の思考や行動が他者に操られていると感じる作為体験(させられ体験)とともに自我障害に分類される。命令する声として聞こえる場合は命令性の幻聴となる。これらはSchneiderの一級症状に含まれ、統合失調症を強く示唆する。うつ病でも重症例では罪業妄想などの気分に一致した精神病症状を伴うことはあるが、テレパシーによる命令の吹入はうつ病の典型的症状ではない。

DSM-5による大うつ病性障害(うつ病)の診断基準の要点

以下の9項目のうち5項目以上が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を示す。少なくとも1項目は①または②である。 ①ほぼ毎日、一日中続く抑うつ気分 ②ほとんどすべての活動における興味・喜びの著しい減退 ③食欲の減退または増加、有意な体重減少または増加 ④不眠または過眠 ⑤精神運動焦燥または制止 ⑥易疲労性または気力の減退 ⑦無価値感または過剰・不適切な罪責感 ⑧思考力・集中力の減退、または決断困難 ⑨死についての反復思考、反復する希死念慮、自殺企図 さらに、症状によって著しい苦痛または社会的・職業的機能の障害が生じていること、物質や他の医学的疾患によるものではないこと、躁病・軽躁病エピソードの既往がないこと(あれば双極性障害を考える)が必要である。

うつ病の臨床的特徴

・日内変動: 朝に症状が重く夕方に軽くなる傾向がある。 ・睡眠障害: 早朝覚醒が典型的である。 ・思考の特徴: 微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)が重症例でみられる。 ・高齢者では、思考制止による認知機能低下が認知症のようにみえるうつ病性仮性認知症に注意する。

適応障害との違い

適応障害は、明らかなストレス因の出現から3か月以内に、ストレス因に不釣り合いな苦痛や機能障害が生じるもので、ストレス因(またはその結果)が消失すれば6か月以内に症状は改善する。ストレス因から離れると(休日など)元気に過ごせることが多い点が、ストレス状況と無関係に症状が持続するうつ病との鑑別点となる。

選択肢に登場した症状と代表的疾患

・入眠時幻覚: ナルコレプシー ・的外れ応答: Ganser症候群(拘禁反応) ・思考吹入・作為体験・命令性幻聴: 統合失調症

POINT

・うつ病の中核症状は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」で、DSM-5では9項目中5項目以上が2週間以上続くことで診断する。 ・食欲・体重の変化、睡眠障害、易疲労感などの身体症状も診断項目に含まれる。 ・好きなことにだけ意欲が出る状態はうつ病の全般的な興味の喪失と矛盾し、適応障害などを考える。 ・入眠時幻覚=ナルコレプシー、的外れ応答=Ganser症候群、思考吹入=統合失調症と結び付けて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。