同じ年の受賞者に要注意―日本人ノーベル生理学・医学賞5人の業績を整理する
第114回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
ノーベル生理学・医学賞を受賞した日本人研究者とその研究者が貢献した研究内容の組合せで誤っているのはどれか。
- a.大隅良典 ―― オートファジーの仕組みの解明
- b.大村智 ―― マラリアに対する新たな治療法の発見
- c.利根川進 ―― 抗体の多様性に関する遺伝的原理の発見
- d.本庶佑 ―― 免疫チェックポイント分子の発見
- e.山中伸弥 ―― 成熟した細胞のリプログラミングによる多能性の獲得
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本人のノーベル生理学・医学賞受賞者は、利根川進(1987年、免疫グロブリン遺伝子再構成による抗体多様性の解明)、山中伸弥(2012年、iPS細胞)、大村智(2015年、線虫感染症に対するエバーメクチン/イベルメクチンの発見)、大隅良典(2016年、オートファジーの機構解明)、本庶佑(2018年、PD-1の発見とがん免疫療法への応用)であり、2025年には坂口志文が制御性T細胞の発見で受賞しています。本問で誤っているのは大村智とマラリア治療法の組合せで、マラリアに対するアルテミシニンの発見は同年に受賞した屠呦呦の業績です。イベルメクチンは疥癬や糞線虫症、免疫チェックポイント阻害薬はがん治療、iPS細胞は再生医療や創薬に応用されており、いずれも日常臨床と直結しています。同年の共同受賞者まで含めて業績を整理しておくと、取り違えを防げるとともに、基礎研究が臨床に結びつく流れを理解する助けになります。
解答・解説
正解はbです
本問は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した日本人研究者と、その受賞理由となった業績との対応を問う一般問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、研究者と業績の組合せが事実と一致しないものを1つ選ぶ。 各研究者の受賞年と業績を整理すると、利根川進(1987年、抗体遺伝子の再構成による抗体多様性の解明)、山中伸弥(2012年、iPS細胞の作製)、大村智(2015年、寄生虫感染症の治療薬イベルメクチンにつながるエバーメクチンの発見)、大隅良典(2016年、オートファジーの機構解明)、本庶佑(2018年、PD-1の発見とがん免疫療法への応用)となる。 大村智が受賞した2015年には、抗マラリア薬アルテミシニンを発見した中国の屠呦呦(トゥ・ヨウヨウ)も同時に受賞している。同じ年の受賞であるため業績を取り違えやすいが、「マラリアに対する新たな治療法の発見」は屠呦呦の業績であり、大村智の業績は線虫(回虫類)による寄生虫感染症に対する治療法の発見である。したがって誤っている組合せはbである。
選択肢考察
- ×a. 大隅良典 ―― オートファジーの仕組みの解明
正しい組合せである。大隅良典は2016年に単独で受賞した。出芽酵母を用いて、栄養飢餓時に細胞が自らの細胞質成分を膜(オートファゴソーム)で包み込み、液胞(動物細胞ではリソソームに相当)へ運んで分解する現象を観察し、その実行に必要な一群の遺伝子(ATG遺伝子)を同定した。オートファジー(自食作用)は細胞内のタンパク質や小器官の品質管理と栄養の再利用を担い、神経変性疾患、感染防御、がんなどとの関連が研究されている。
- ○b. 大村智 ―― マラリアに対する新たな治療法の発見
誤った組合せであり、本問の正解である。大村智は2015年に、ウィリアム・キャンベルとともに「線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対する新たな治療法の発見」で受賞した。静岡県の土壌から分離した放線菌(Streptomyces avermitilis)が産生するエバーメクチン(avermectin)を見いだし、その誘導体であるイベルメクチンがオンコセルカ症(河川盲目症)やリンパ系フィラリア症の制圧に大きく貢献した。イベルメクチンは日本では糞線虫症や疥癬の治療にも用いられる。「マラリアに対する新たな治療法の発見」は同年に共同受賞した屠呦呦の業績で、植物(クソニンジン)から抗マラリア薬アルテミシニンを発見したことによる。
- ×c. 利根川進 ―― 抗体の多様性に関する遺伝的原理の発見
正しい組合せである。利根川進は1987年に単独で受賞し、日本人として初のノーベル生理学・医学賞受賞者となった。B細胞が分化する過程で、免疫グロブリン遺伝子のV(可変)・D(多様性)・J(結合)の各遺伝子断片がそれぞれ多数の候補から1つずつ選ばれて組み合わされる(遺伝子再構成、V(D)J組換え)ことを示した。限られた数の遺伝子から膨大な種類の抗体が作られる仕組みを明らかにした業績である。
- ×d. 本庶佑 ―― 免疫チェックポイント分子の発見
正しい組合せである。本庶佑は2018年に、CTLA-4を研究したジェームズ・アリソンとともに「免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用」で受賞した。T細胞の活性化を抑えるブレーキ役の分子PD-1(programmed cell death-1)を発見し、がん細胞がPD-1の結合相手であるPD-L1を発現して免疫から逃れる仕組みを解明した。これを阻害する抗PD-1抗体ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の開発につながった。
- ×e. 山中伸弥 ―― 成熟した細胞のリプログラミングによる多能性の獲得
正しい組合せである。山中伸弥は2012年に、カエルの核移植実験で分化細胞の核が初期化されうることを示したジョン・ガードンとともに「成熟細胞が初期化され多能性をもちうることの発見」で受賞した。マウスやヒトの線維芽細胞に4つの転写因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc:山中因子)を導入することで、さまざまな細胞に分化できる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製した。リプログラミング(初期化)とは、分化を終えた細胞の性質を書き換えて未分化な状態に戻すことをいう。
日本人のノーベル生理学・医学賞受賞者
・1987年 利根川進:抗体の多様性を生む遺伝的原理(免疫グロブリン遺伝子の再構成)の発見(単独受賞) ・2012年 山中伸弥:成熟細胞のリプログラミングによる多能性獲得(iPS細胞)の発見(ジョン・ガードンと共同受賞) ・2015年 大村智:線虫感染症に対する新たな治療法(エバーメクチン/イベルメクチン)の発見(ウィリアム・キャンベルと共同受賞。同年、屠呦呦がアルテミシニンによるマラリア治療法の発見で受賞) ・2016年 大隅良典:オートファジーの仕組みの解明(単独受賞) ・2018年 本庶佑:免疫チェックポイント阻害因子(PD-1)の発見とがん治療への応用(ジェームズ・アリソンと共同受賞) 本試験の実施時点(2020年)では上記5人であったが、その後2025年に坂口志文が、末梢性免疫寛容に関わる制御性T細胞(Treg)の発見で受賞している。
関連する薬剤・臨床応用
・イベルメクチン:グルタミン酸作動性クロライドチャネルに作用し、無脊椎動物の神経・筋を麻痺させる。糞線虫症、疥癬、オンコセルカ症、リンパ系フィラリア症などに用いる。 ・アルテミシニン誘導体:熱帯熱マラリアの治療の中心であり、耐性化を防ぐため他の抗マラリア薬との併用療法(ACT)で用いる。 ・免疫チェックポイント阻害薬:抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)など。間質性肺炎、大腸炎、甲状腺機能異常、1型糖尿病などの免疫関連有害事象に注意する。 ・iPS細胞:再生医療(網膜色素上皮細胞の移植など)や、患者由来細胞を用いた疾患モデル作製・創薬研究に応用されている。
POINT
・大村智=線虫(寄生虫)感染症の治療薬(エバーメクチン→イベルメクチン)。マラリア(アルテミシニン)は同年受賞の屠呦呦。 ・利根川進=抗体多様性(遺伝子再構成)、山中伸弥=iPS細胞、大隅良典=オートファジー、本庶佑=PD-1(免疫チェックポイント)。 ・2025年には坂口志文が制御性T細胞の発見で受賞している。
