「本も患者も」―Osler結節に名を残した臨床医学教育の父
第120回医師国家試験 E問題 第10問
国試問題にチャレンジ
下記は,歴史上のある医師に関する記載である。 「1849年にカナダで生まれ,医師としての科学的視点と患者に寄り添う姿勢の重要性を説き,今日の臨床医学,医学教育の発展に多大な貢献をした内科医である。感染性心内膜炎において指趾末端にみられる有痛性皮下出血について記載したことでも知られる。また,“To study the phenomena of disease without books is to sail an uncharted sea, while to study books without patients is not to go to sea at all.”(患者を診ずに本だけで勉強するのは,まったく航海に出ないに等しいが,反面,本を読まずに疾病の現象を学ぶのは,海図を持たずに航海するに等しい)などの名言を残した。」 この説明に該当する人物はどれか。
- a.Albert Schweitzer〈アルベルト・シュバイツァー〉
- b.Edward Jenner〈エドワード・ジェンナー〉
- c.Louis Pasteur〈ルイ・パスツール〉
- d.Robert Koch〈ロベルト・コッホ〉
- e.William Osler〈ウィリアム・オスラー〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
1849年カナダ生まれの内科医で、感染性心内膜炎の指趾末端にできる有痛性小結節(Osler結節)に名を残したのはWilliam Oslerです。Johns Hopkins大学でベッドサイド教育とレジデント制度を整え、現在の臨床実習・研修制度の原型を作り、患者と書物の両方から学ぶ重要性を説きました。Osler結節は無痛性で手掌・足底に生じるJaneway病変と対比して覚え、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu病)にもその名が残っています。ほかの人物はJenner=種痘、Pasteur=自然発生説の否定・低温殺菌法・狂犬病ワクチン、Koch=結核菌・コレラ菌の発見と4原則、Schweitzer=アフリカでの医療奉仕と業績で対応づけましょう。医学史の人物を所見名や業績と結びつけて理解することは、知識の定着だけでなく、臨床医としての姿勢を考えるきっかけにもなります。
解答・解説
正解はeです
医学史上の人物を、生まれた年・国、業績、名を冠した所見、残した言葉から特定させる問題である。 手がかりは次の3つである。 ・1849年にカナダで生まれた内科医で、臨床医学と医学教育の発展に貢献した。 ・感染性心内膜炎で指趾の末端に現れる有痛性の皮下病変を記載した。この病変は、記載者の名をとってOsler結節と呼ばれる。 ・患者を診ることと書物で学ぶことの両方が必要だと説く言葉を残した。 特に2つ目の手がかりは、国家試験で頻出の身体所見「Osler結節」に直結している。ここからWilliam Oslerとすぐに判断できる。ほかの選択肢の人物は、いずれも感染症・予防接種・細菌学・医療奉仕の分野の人物であり、カナダ出身の内科医ではない。
選択肢考察
- ×a. Albert Schweitzer〈アルベルト・シュバイツァー〉
誤り。Schweitzer(1875〜1965年)は、当時ドイツ領だったアルザス地方に生まれた。神学者・哲学者・オルガン奏者として活躍したのち、医学を学んで医師になった。1913年からアフリカのガボン(当時フランス領)のランバレネに病院を開き、生涯にわたって現地住民の医療に尽くした。「生命への畏敬」という倫理思想を唱え、1952年にノーベル平和賞を受賞した。カナダ生まれではなく、Osler結節とも関係がない。
- ×b. Edward Jenner〈エドワード・ジェンナー〉
誤り。Jenner(1749〜1823年)はイギリスの医師である。牛痘にかかった乳搾りの女性は天然痘にかからないという言い伝えに注目し、1796年に少年へ牛痘を接種して、天然痘を予防できることを示した(種痘法)。それまでの人痘接種(天然痘患者の膿を接種する方法)よりもはるかに安全な予防法であり、近代免疫学の出発点とされる。種痘はその後世界中に広まり、1980年のWHOによる天然痘根絶宣言につながった。
- ×c. Louis Pasteur〈ルイ・パスツール〉
誤り。Pasteur(1822〜1895年)はフランスの化学者・微生物学者で、Kochとともに近代細菌学の開祖とされる。白鳥の首フラスコを使った実験で、生物は自然に発生するという説(自然発生説)を否定した。また、発酵や腐敗が微生物の働きで起こることを示し、低温殺菌法(パスチャライゼーション)を考案した。病原体を弱めて接種する方法を確立し、家禽コレラ、炭疽、狂犬病のワクチンを開発した。ワクチン(vaccine)という名称は、Jennerの牛痘(ラテン語でvacca=雌牛)にちなんでPasteurが広めたものである。
- ×d. Robert Koch〈ロベルト・コッホ〉
誤り。Koch(1843〜1910年)はドイツの医師・細菌学者である。炭疽菌が炭疽の原因であることを証明し、1882年に結核菌、1883年にコレラ菌を発見した。固形培地を使って細菌を純粋に培養する方法を確立し、ある微生物が病気の原因であると認めるための条件(Kochの4原則)を示した。1905年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。北里柴三郎はKochのもとで学んだ。
- ○e. William Osler〈ウィリアム・オスラー〉
正しい。Osler(1849〜1919年)はカナダのオンタリオ州で生まれた内科医である。カナダのMcGill大学、アメリカのペンシルベニア大学、Johns Hopkins大学で教え、晩年はイギリスのオックスフォード大学の欽定医学教授を務めた。Johns Hopkins大学では、学生を病棟に出して実際の患者から学ばせるベッドサイド教育と、卒業後に病院で段階的に経験を積む研修医(レジデント)制度を整え、現在の臨床研修の原型を作った。感染性心内膜炎で指趾の先端の指腹にできる、痛みを伴う小さな結節はOsler結節と呼ばれる。遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu病)にも名を残している。日本では日野原重明がその思想を広めたことでも知られる。
Oslerの業績と医学教育への影響
・教科書『The Principles and Practice of Medicine』(1892年)を著し、長く英語圏の標準的な内科学書となった。 ・「医学は不確実性の科学であり、確率の技(art)である」といった言葉で、科学的な視点と患者一人ひとりに向き合う姿勢の両方が必要だと説いた。講演集『平静の心(Aequanimitas)』は、医師の心構えを説いた書として今も読み継がれている。
Oslerの名がつく疾患・所見
・Osler結節:感染性心内膜炎で、指趾の先端の指腹に生じる有痛性の小結節。免疫複合体による血管炎が原因と考えられている。 ・Janeway病変:同じく感染性心内膜炎でみられ、手掌・足底に生じる無痛性の出血斑。Osler結節との違いは「痛みの有無」と「場所」である。 ・Osler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症):皮膚・粘膜の毛細血管拡張、繰り返す鼻出血、肺や脳などの動静脈奇形を特徴とする常染色体顕性(優性)遺伝の疾患。
関連する医学史上の人物
・Jenner:牛痘接種による天然痘の予防(1796年) ・Pasteur:自然発生説の否定、低温殺菌法、狂犬病ワクチン ・Koch:結核菌(1882年)・コレラ菌(1883年)の発見、Kochの4原則 ・Virchow:細胞病理学説(すべての細胞は細胞から生じる) ・Semmelweis:手指消毒による産褥熱の予防 ・Nightingale:近代看護の確立、統計を用いた衛生改革 ・Röntgen:X線の発見(1895年) ・Landsteiner:ABO式血液型の発見(1901年) ・Schweitzer:アフリカでの医療奉仕、「生命への畏敬」
POINT
・1849年カナダ生まれの内科医で、Osler結節(感染性心内膜炎の有痛性指趾末端結節)に名を残すのはWilliam Oslerである。 ・Oslerはベッドサイド教育と研修医制度を確立し、近代の臨床医学教育の基礎を築いた。 ・Jenner=種痘、Pasteur=狂犬病ワクチン・低温殺菌法、Koch=結核菌・コレラ菌の発見、Schweitzer=アフリカでの医療奉仕、と対応づけて覚える。
