赤血球が大きくなる理由―MCVで読み解く貧血の鑑別
第115回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
大球性貧血をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.慢性腎不全
- b.脾臓摘出術後
- c.骨髄異形成症候群
- d.長期アルコール多飲
- e.ヒトパルボウイルスB19感染
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
貧血の鑑別では、まずMCVで小球性・正球性・大球性に分けることが出発点です。大球性貧血はビタミンB12・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血のほか、長期アルコール多飲(骨髄への直接毒性、葉酸欠乏、肝障害に伴う膜への脂質沈着)や骨髄異形成症候群(異形成と無効造血による成熟障害)、肝疾患、甲状腺機能低下症、網赤血球の著増でもみられます。一方、腎性貧血やパルボウイルスB19による赤芽球癆は赤血球の産生量が減るだけで成熟は保たれるため正球性となり、脾臓摘出後はHowell-Jolly小体などが出現しても貧血そのものは起こしません。MCV高値は常習飲酒の手がかりや、高齢者でのMDSを疑うきっかけにもなるため、MCVと網赤血球を組み合わせて病態を考える姿勢は日常診療で大いに役立ちます。
解答・解説
正解はc, dです
貧血の原因と赤血球の大きさ(平均赤血球容積:MCV)の関係を問う一般問題である。 貧血の鑑別は、まずMCVによって小球性(およそ80fL未満)、正球性(80〜100fL)、大球性(100fL超)に分けて考えるのが基本である。MCVは「赤血球数に対するヘマトクリット値の比」から算出され、MCV(fL)=Ht(%)÷RBC(×10^6/μL)×10で求められる。 ・小球性貧血:ヘモグロビン合成の障害。鉄欠乏性貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血、慢性炎症に伴う貧血(一部)。 ・正球性貧血:赤血球の産生低下や喪失・破壊。腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆、急性出血、溶血性貧血の多く、慢性炎症に伴う貧血。 ・大球性貧血:DNA合成障害による巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏)と、それ以外(アルコール多飲、肝疾患、骨髄異形成症候群、甲状腺機能低下症、網赤血球の著増、一部の薬剤など)。 本問では、赤芽球の成熟過程に異常が生じて大きな赤血球が作られる病態を選べばよい。骨髄異形成症候群(造血細胞の異形成による分化成熟障害)と長期アルコール多飲(骨髄への直接毒性と葉酸欠乏)がこれに当たる。腎性貧血とパルボウイルスB19感染は赤血球産生量が減るだけで赤血球の形態は保たれるため正球性であり、脾臓摘出後はそもそも貧血の原因とならない。
選択肢考察
- ×a. 慢性腎不全
誤り。慢性腎不全では、腎の尿細管周囲の間質細胞で作られるエリスロポエチン(赤血球造血を促すホルモン)の産生が低下し、腎性貧血をきたす。赤芽球の成熟そのものは正常で、作られる赤血球の数が減るだけなので、正球性正色素性貧血となる。網赤血球は増加しない。治療は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)やHIF-PH阻害薬の投与と、鉄欠乏の補正である。
- ×b. 脾臓摘出術後
誤り。脾臓は古くなった赤血球の処理や、赤血球内の封入体を取り除く役割を担う。脾臓摘出後は、本来脾臓で除去される核の遺残物(Howell-Jolly小体)を含む赤血球や標的赤血球が末梢血に出現し、一過性の血小板増加・白血球増加もみられるが、赤血球の大きさは変わらず、脾臓摘出そのものが貧血を起こすことはない。むしろ遺伝性球状赤血球症などでは溶血が減って貧血が改善する。臨床的には、莢膜を持つ細菌(肺炎球菌など)による重症感染症(OPSI)への注意が重要である。
- ○c. 骨髄異形成症候群
正しい。骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞のクローン性疾患で、血球の異形成と無効造血(骨髄では造血が盛んなのに、成熟した血球が末梢に出てこない状態)により血球減少をきたす。赤芽球系の成熟障害のため、大球性または正球性の貧血を示し、MCVが高値となる例が多い。ビタミンB12・葉酸が正常であるにもかかわらず大球性貧血を示す高齢者ではMDSを疑う。特に5番染色体長腕欠失を伴うMDS(5q−症候群)は大球性貧血が特徴的である。ただし全例が大球性になるわけではない。
- ○d. 長期アルコール多飲
正しい。長期の大量飲酒では大球性貧血、あるいは貧血を伴わない大球症(MCV高値のみ)がしばしばみられる。機序として、①エタノールの骨髄赤芽球や赤血球膜に対する直接的な毒性、②食事摂取不足・吸収障害・葉酸の腸肝循環の障害などによる葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血)、③アルコール性肝障害に伴う赤血球膜への脂質沈着、が挙げられる。MCV高値は γ-GTP上昇とともに常習飲酒を示唆する所見として臨床的価値が高く、禁酒によって数か月で改善する。
- ×e. ヒトパルボウイルスB19感染
誤り。ヒトパルボウイルスB19は赤芽球系前駆細胞(P抗原を受容体として感染)で増殖してこれを破壊し、赤血球産生を一時的に停止させる。骨髄では巨大前赤芽球(giant pronormoblast)がみられるが、末梢血の赤血球の大きさは変わらず、網赤血球が著減する正球性貧血となる。健常者では赤血球寿命が長いため貧血は目立たないが、遺伝性球状赤血球症などの慢性溶血性貧血患者では急激に貧血が進む無形成発作(aplastic crisis)を、免疫不全者では持続感染による慢性の赤芽球癆を起こす。小児では伝染性紅斑(りんご病)の原因ウイルスであり、妊婦の感染は胎児水腫の原因となる。
MCVによる貧血の分類
・小球性(MCV<80fL):鉄欠乏性貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血、慢性炎症に伴う貧血(一部) ・正球性(80〜100fL):腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆(パルボウイルスB19感染など)、急性出血、溶血性貧血、慢性炎症に伴う貧血、骨髄浸潤(白血病・癌の骨髄転移) ・大球性(MCV>100fL): 巨赤芽球性:ビタミンB12欠乏(悪性貧血、胃全摘後など)、葉酸欠乏(摂取不足、妊娠、アルコール、メトトレキサートなど) 非巨赤芽球性:アルコール多飲、肝疾患、骨髄異形成症候群、甲状腺機能低下症、網赤血球の著増(溶血や出血からの回復期)
網赤血球数による整理
網赤血球は骨髄の赤血球産生能を反映する。増加していれば溶血や出血後の回復(骨髄は反応している)、減少していれば産生障害(腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆、MDSなど)を考える。網赤血球は成熟赤血球より大きいため、著増するとMCVが見かけ上上昇することがある。
脾臓摘出後の末梢血所見
Howell-Jolly小体、標的赤血球、一過性の血小板・白血球増加。摘脾後重症感染症(OPSI)予防のため肺炎球菌ワクチンなどを接種する。
POINT
・大球性貧血:ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏(巨赤芽球性)、アルコール多飲、肝疾患、骨髄異形成症候群、甲状腺機能低下症、網赤血球増加。 ・アルコール多飲によるMCV高値は常習飲酒の手がかり(γ-GTP上昇とあわせて評価)。 ・ビタミンB12・葉酸が正常な高齢者の大球性貧血ではMDSを疑う。 ・腎性貧血、パルボウイルスB19による赤芽球癆は正球性貧血。 ・脾臓摘出後はHowell-Jolly小体が出現するが貧血は起こさない。
