StudyMed医師国家試験

赤ちゃんが吸うたびに跳ね上がる―妊娠から授乳までのホルモン曲線を読み解く

第115回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第8問

妊娠,分娩,産褥期における母体血中ホルモン値の変化を下に示す。  実線Aが表しているのはどれか。ただし,各線はa~eのいずれかに該当する。

第115回 B問題 第8問の問題画像
  1. a.エストロゲン
  2. b.プロラクチン
  3. c.プロゲステロン
  4. d.甲状腺刺激ホルモン
  5. e.絨毛性ゴナドトロピン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠・分娩・産褥期を通したホルモンの推移グラフから、1本の線の正体を当てる問題だ。ポイントは「どの時期に高くなるか」と「何に反応して動くか」。特に産褥期に描き込まれた吸啜刺激の矢印と、実線Aの動きの関係に注目してほしい。まず、実線Aの形を見てどんな印象を持ったかな。
医学生医学生
妊娠末期に向けてどんどん上がっているので、最初は胎盤のホルモン、エストロゲンかなと思いました。
ドクタードクター
妊娠末期にピークという点だけならそう考えたくなるね。でも胎盤由来のホルモンには大きな特徴がある。産生源の胎盤が分娩で体の外に出てしまうと、どうなると思う?
医学生医学生
作る場所がなくなるので、急激に下がるはずです。
ドクタードクター
その通り。エストロゲンもプロゲステロンも妊娠中は主に胎盤が産生していて、胎盤娩出とともに急降下し、その後は低いままだ。ところが実線Aは、分娩後にいったん下がったあと、産褥期に吸啜刺激の矢印に一致してギザギザと何度も上がっている。ここが決め手なんだ。
医学生医学生
授乳のたびに上がるということは、プロラクチンですね。生理学の講義で、乳頭刺激でプロラクチンとオキシトシンが出ると習いました。
ドクタードクター
正解。選択肢の中で吸啜刺激に反応するのはプロラクチンだけだ。乳頭への刺激が神経を通って視床下部に伝わると、普段プロラクチン分泌にブレーキをかけているドパミンの放出が減る。ブレーキが緩んだ分、下垂体前葉からプロラクチンが一気に出る。授乳ごとにこれが起こるから、パルス状の波形になるんだ。
医学生医学生
妊娠中に上がっていくのはなぜですか。授乳はまだしていないのに。
ドクタードクター
いい疑問だね。妊娠中は大量のエストロゲンが下垂体前葉のプロラクチン産生細胞を刺激して増やすので、プロラクチンは妊娠経過とともに漸増し、末期には非妊時の10倍以上になる。妊娠中の上昇は主に母体の下垂体由来で、脱落膜もプロラクチンを作るけれど、それは主に羊水中へ分泌されるんだ。
医学生医学生
でも、そんなにプロラクチンが高いなら、妊娠中から母乳が出てしまいそうです。
ドクタードクター
そこが面白いところ。胎盤由来の大量のエストロゲンとプロゲステロンが、乳腺でのプロラクチンの作用を抑えているんだ。分娩で胎盤が出るとこの抑制が外れて、産褥2〜3日頃から乳汁分泌が本格化する。エストロゲンの急降下とプロラクチンの持続が、ちょうど授乳開始のスイッチになっているわけだね。
医学生医学生
なるほど。では残りの線はどう考えればいいでしょうか。妊娠初期に鋭い山がある線が気になりました。
ドクタードクター
それが絨毛性ゴナドトロピン、hCGだ。着床直後から絨毛の合胞体栄養膜細胞が分泌し、妊娠8〜10週頃にピークを迎え、その後は低いレベルで推移する。妊娠黄体を維持して、黄体からのプロゲステロン分泌を保つのが役目だ。末期に最大となる実線Aとは形がまるで違う。
医学生医学生
妊娠初期に非妊時より下がっている線もありました。あれが甲状腺刺激ホルモンですか。
ドクタードクター
そう。hCGはTSHとαサブユニットが共通で、β鎖も似ているから、TSH受容体を弱く刺激する。hCGが最も高い妊娠初期には遊離T4がやや上がり、負のフィードバックでTSHが一時的に下がるんだ。これは生理的な変化で、妊娠一過性甲状腺機能亢進症としてBasedow病との鑑別が問題になることがある。
医学生医学生
産婦人科の実習で、つわりの強い妊婦さんの甲状腺機能を測っていたのを思い出しました。あれはこの鑑別のためだったんですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。hCGが高い妊娠悪阻では、この甲状腺機能の変化が目立ちやすいんだ。最後にプロゲステロンも整理しておこう。妊娠7〜9週頃までは妊娠黄体、それ以降は胎盤が主な産生源になる。この黄体から胎盤への切り替えを、黄体-胎盤シフトと呼ぶ。
医学生医学生
不妊治療のあとに黄体ホルモンを補充するのは、その切り替えまで妊娠を支えるためでしたね。
ドクタードクター
その通り。発展として、授乳とホルモンの臨床的な意味も押さえておこう。吸啜刺激ではオキシトシンも下垂体後葉から出て、乳腺の筋上皮細胞を収縮させて射乳を起こし、同時に子宮収縮を促して子宮復古を助ける。授乳中に後陣痛を感じる人がいるのはこのためだ。
医学生医学生
プロラクチンが高いままだと、排卵にも影響しますか。
ドクタードクター
する。高プロラクチン状態はGnRHの分泌を抑えるので、授乳中は排卵や月経の再開が遅れやすい。これが授乳性無月経だ。ただし排卵が起こらないとは限らないから、避妊の指導では「授乳中だから大丈夫」と思い込ませないよう注意が必要だよ。
医学生医学生
グラフ問題は、ホルモンの産生源と、何に反応して分泌されるかを考えれば読めるんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。胎盤由来なら分娩で急落、hCGは初期にピーク、TSHはhCGの影響で初期に低下、そして吸啜刺激に反応するのはプロラクチン。この4つの軸で整理すれば、どんな形のグラフでも落ち着いて読めるはずだ。

まとめ

妊娠・分娩・産褥期のホルモン推移は、それぞれの産生源と分泌調節を理解すると読み解けます。プロラクチンは妊娠中にエストロゲンの刺激で漸増し、産褥期には吸啜刺激のたびにドパミンの抑制が弱まってパルス状に分泌されるため、授乳に一致して上下する線がプロラクチンです。エストロゲン・プロゲステロンは胎盤由来で妊娠末期に最高値となり胎盤娩出とともに急低下し、hCGは妊娠8〜10週頃にピーク、TSHはhCGのTSH様作用により妊娠初期に一過性に低下します。妊娠中は胎盤ホルモンが乳汁分泌を抑えており、分娩後にその抑制が外れて授乳が始まること、授乳中の高プロラクチン状態が排卵を抑えることも重要です。これらの知識は、産褥期の授乳支援や避妊指導、妊娠初期の甲状腺機能の評価といった臨床判断に直結します。

解答・解説

正解はbです

図の読み取り

図には妊娠期・分娩期・産褥期を通した5種類のホルモンの推移が、非妊時レベルを基準とした相対値で描かれている。実線Aの特徴は次の3点である。 (1) 妊娠経過とともに徐々に上昇し、妊娠末期(分娩直前)に最も高くなる。 (2) 分娩後にいったん低下する。 (3) 産褥期に「吸啜刺激」の矢印に一致して鋸歯状にパルス状の上昇を繰り返し、授乳が途絶えると非妊時レベルに向かって下がっていく。

考え方

産褥期に吸啜刺激(乳児が乳頭を吸う刺激)に反応して分泌が増えるホルモンは、下垂体前葉のプロラクチンと下垂体後葉のオキシトシンである。選択肢の中ではプロラクチンだけがこれに当てはまる。 乳頭への刺激は求心性神経を介して視床下部に伝わり、プロラクチン分泌を抑制しているドパミンの放出を減らす。その結果、下垂体前葉からプロラクチンが一過性に放出される。授乳のたびにこの反応が起こるため、図のようにパルス状の波形になる。 他の線については次のように考えると、図全体が矛盾なく説明できる。 ・妊娠初期に鋭いピークを作り、その後低下する破線: hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン) ・妊娠初期に一時的に非妊時レベルより下がる一点鎖線: TSH(甲状腺刺激ホルモン) ・妊娠末期まで上昇し、胎盤娩出とともに急激に低下する点線・破線: エストロゲンとプロゲステロン(いずれも胎盤由来で、産褥期の吸啜刺激には反応しない)

選択肢考察

  1. ×a.  エストロゲン

    妊娠中のエストロゲン(主にエストリオール)は胎児副腎と胎盤が協力して産生する(胎児胎盤系)。妊娠経過に伴って増加し妊娠末期に最大となる点はAと共通するが、産生源である胎盤が娩出されると急速に低下し、産褥期に吸啜刺激で再上昇することはない。したがってAではない。図では妊娠末期に高値をとり分娩期に急落する線の一つがこれに当たる。

  2. ○b.  プロラクチン

    妊娠中は高濃度のエストロゲンが下垂体前葉のプロラクチン産生細胞を刺激して増殖させるため、プロラクチンは妊娠経過とともに漸増し、妊娠末期に非妊時の10倍以上に達する。分娩後は低下傾向となるが、授乳を行うと吸啜刺激のたびに視床下部からのドパミンによる抑制が弱まり、プロラクチンが一過性に大きく分泌される。図の産褥期にみられる吸啜刺激に一致したパルス状の上昇はこの反応を表しており、Aはプロラクチンである。授乳をやめると数週〜数か月で非妊時レベルに戻る。

  3. ×c.  プロゲステロン

    妊娠7〜9週頃までは妊娠黄体から、それ以降は主に胎盤から分泌され、妊娠の維持(子宮筋の収縮抑制など)に働く。妊娠末期に向かって増加し、胎盤娩出後は急速に低下する。エストロゲンと同様、産褥期に吸啜刺激で上昇することはないためAではない。

  4. ×d.  甲状腺刺激ホルモン

    hCGはTSHと共通のαサブユニットをもち、β鎖も構造が似ているため、TSH受容体を弱く刺激する。hCGが最高値となる妊娠初期(8〜12週頃)には甲状腺ホルモン(特に遊離T4)がやや上昇し、負のフィードバックによりTSHは一時的に低下する。図で妊娠初期に非妊時レベルを下回る一点鎖線がこれに当たり、妊娠末期に上昇したり吸啜刺激に反応したりすることはない。この時期のTSH低値は生理的なもので、妊娠一過性甲状腺機能亢進症として知られ、Basedow病との鑑別が問題になることがある。

  5. ×e.  絨毛性ゴナドトロピン

    hCGは受精卵が着床した直後から絨毛(合胞体栄養膜細胞)が分泌し、妊娠8〜10週頃に最高値に達した後、妊娠中期以降は低いレベルで推移する。妊娠黄体を維持して黄体からのプロゲステロン分泌を保つ役割がある。図で妊娠初期に鋭いピークをつくる破線がhCGであり、妊娠末期に最大となるAとは推移が異なる。

妊娠中の主なホルモンと産生源

・hCG: 絨毛の合胞体栄養膜細胞が産生する。妊娠8〜10週頃にピーク。妊娠反応検査で検出されるホルモンである。 ・プロゲステロン: 妊娠7〜9週頃までは妊娠黄体、その後は胎盤が主な産生源となる(黄体-胎盤シフト)。生殖補助医療の後に一定期間黄体ホルモンを補充するのは、この切り替えが完了するまで妊娠を支えるためである。 ・エストロゲン: 妊娠中は胎児副腎で作られたDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩)が胎児肝で水酸化され、胎盤でエストリオールに変換される(胎児胎盤系)。 ・プロラクチン: 妊娠中の増加は主に母体の下垂体前葉による(脱落膜もプロラクチンを産生するが、主に羊水中へ分泌される)。 ・hPL(ヒト胎盤性ラクトーゲン): 胎盤由来で、妊娠後半にインスリン抵抗性をもたらす。

妊娠中に乳汁分泌が起こらない理由

プロラクチンは妊娠中から高値であるが、胎盤由来の大量のエストロゲンとプロゲステロンが乳腺でのプロラクチン作用を抑えているため、本格的な乳汁分泌は起こらない。分娩により胎盤が娩出されるとこの抑制が外れ、産褥2〜3日頃から乳汁分泌が本格化する。

吸啜刺激と2つのホルモン

・プロラクチン(下垂体前葉): 乳汁を作らせる(乳汁産生)。 ・オキシトシン(下垂体後葉): 乳腺の筋上皮細胞を収縮させ乳汁を押し出す(射乳)。同時に子宮収縮を促し、子宮復古を助ける。 また、授乳による高プロラクチン状態はGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑えるため、授乳中は排卵・月経の再開が遅れる(授乳性無月経)。

POINT

・産褥期に吸啜刺激でパルス状に上昇する → プロラクチン(およびオキシトシン) ・妊娠初期にピーク → hCG(8〜10週頃) ・hCGのTSH様作用により、妊娠初期にTSHは一過性に低下する ・エストロゲン・プロゲステロンは妊娠末期に最高値となり、胎盤娩出とともに急低下する ・妊娠中はエストロゲン・プロゲステロンが乳汁分泌を抑制しており、分娩後に抑制が外れる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。