StudyMed医師国家試験

「めまい」の陰に潜む病変部位―小脳梗塞で同名半盲は起こるのか?

第115回医師国家試験 B問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第17問

疾患と症状の組合せで可能性が低いのはどれか。

  1. a.小脳梗塞 ―― 同名半盲
  2. b.聴神経腫瘍 ―― 語音明瞭度低下
  3. c.突発性難聴 ―― 耳鳴
  4. d.パニック障害 ―― 動悸
  5. e.良性発作性頭位めまい症 ―― 寝返り時のめまい

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、めまいをきたしうる疾患と随伴症状の組合せから、「ありえないもの」を一つ選ぶ問題だ。コツは、それぞれの疾患が体のどこを障害しているかを考え、その部位で説明できる症状かどうかを確かめること。めまいの原因を大きく分けるとどうなるかな。
医学生医学生
内耳や前庭神経の障害による末梢性と、脳幹・小脳の障害による中枢性ですよね。
ドクタードクター
そう。さらに、不整脈や起立性低血圧などの循環器系、心因性のものも加えて考えると整理しやすい。では一つずつ見ていこう。まず良性発作性頭位めまい症と寝返り時のめまいはどう?
医学生医学生
耳鼻科の実習で、Dix-Hallpike試験で眼振が出るのを見ました。頭を動かしたときに起こるめまいなので、典型的な組合せだと思います。
ドクタードクター
その通り。剝がれた耳石が半規管に入り込み、頭位の変化で内リンパが動いて回転性めまいが起こる。寝返りや起き上がりで誘発され、通常1分以内に治まり、難聴や耳鳴は伴わない。めまいの原因として最も頻度が高い疾患だ。次は突発性難聴と耳鳴。
医学生医学生
突然聞こえなくなる病気なので、耳鳴を伴うのは自然ですね。
ドクタードクター
うん。原因不明の一側性の内耳性感音難聴で、耳鳴や耳閉感を伴うことが多い。回転性めまいを伴うこともあって、その場合は聴力予後が悪い傾向がある。めまい発作を反復しない点がメニエール病との違いだ。では聴神経腫瘍と語音明瞭度低下は?
医学生医学生
語音明瞭度って、聞こえの大きさとは違うんですよね。正直そこがあいまいです。
ドクタードクター
大事な点だね。聴神経腫瘍は前庭神経のSchwann細胞から生じる良性腫瘍で、内耳より中枢側、いわゆる後迷路の障害だ。この場合、純音聴力検査の閾値低下は軽いのに、言葉の聞き取りが不釣り合いに悪くなる。「音は聞こえるけど、何を言っているか分からない」という訴えになるんだ。
医学生医学生
なるほど。生理学で習った聴覚路の話とつながりました。パニック障害と動悸も、発作の代表的な症状なのでありそうです。
ドクタードクター
そうだね。パニック発作では突然強い恐怖とともに動悸、発汗、息苦しさ、胸痛、めまい感などが出て、数分で頂点に達する。めまいはふわふわした浮動感が中心で、眼振は伴わない。精神科の講義で、予期不安や広場恐怖とセットで習ったはずだ。
医学生医学生
残るのは小脳梗塞と同名半盲ですね。でも脳梗塞なら視野障害もありそうな気がして、迷いました。
ドクタードクター
そこで病変部位の考え方が生きてくる。同名半盲は両眼の視野の同じ側が欠ける状態で、視交叉より後ろの視覚路、つまり視索、外側膝状体、視放線、後頭葉視覚野の障害で起こる。代表的なのは後大脳動脈領域の梗塞による後頭葉障害だ。小脳は視覚路を含まないから、小脳梗塞だけで同名半盲は生じない。これが「可能性が低い」組合せで正解になる。
医学生医学生
神経解剖で描いた視覚路の図を思い出せば判断できるんですね。小脳梗塞ではどんな症状が出やすいんですか。
ドクタードクター
強いめまい、嘔吐、頭痛、体幹や四肢の運動失調、構音障害、注視方向性眼振や垂直性眼振などだ。ちなみに椎骨脳底動脈系の閉塞では小脳と後頭葉に同時に梗塞ができることもあるけれど、その場合の同名半盲は後頭葉の病変によるもの。小脳の症状と取り違えないようにしよう。
医学生医学生
救急外来でめまいの患者さんが来たら、まず中枢性かどうかを見分けることが大切だと救急科の実習で言われました。
ドクタードクター
まさにそこが臨床での要点だ。小脳梗塞は初期に神経症状が目立たず、歩いて受診することもあるし、発症直後はMRI拡散強調像でも写りにくいことがある。注視方向で向きが変わる眼振や純粋な垂直性眼振、起立や歩行ができないほどの体幹失調、構音障害や複視があれば中枢性を強く疑う。急性めまいではHINTSと呼ばれる頭部インパルス試験・眼振の方向・斜偏位の評価も有用とされている。
医学生医学生
逆に、視交叉の障害だと両耳側半盲になるんでしたよね。下垂体腺腫の典型として覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。視野障害のパターンから病変部位を逆算する力は、めまいに限らず神経診察全般で役に立つ。後頭葉病変では黄斑回避を伴うことがある点も合わせて押さえておこう。

まとめ

めまいの原因は末梢性(内耳・前庭神経)、中枢性(脳幹・小脳)、循環器性や心因性に分けて考え、各疾患の障害部位から随伴症状を説明できるかで判断します。良性発作性頭位めまい症は寝返りなど頭位変換で誘発される短時間の回転性めまい、突発性難聴は耳鳴・耳閉感を伴う突然の感音難聴、聴神経腫瘍は後迷路性難聴として語音明瞭度の低下が目立ち、パニック発作では動悸などの自律神経症状がみられます。一方、同名半盲は視交叉より後方の視覚路、とくに後頭葉の障害で生じるため、視覚路を含まない小脳の梗塞では起こりません。小脳梗塞はめまい、嘔吐、体幹失調、構音障害、注視方向性・垂直性眼振が特徴で、初期に見逃されやすいため、中枢性めまいの見分け方を身につけることが救急診療での安全につながります。

解答・解説

正解はaです

めまいを主訴としうる疾患と、それに伴う症状の組合せを問う問題である。「可能性が低い」組合せを一つ選ぶ。 めまいの原因は大きく、①末梢性(内耳・前庭神経の障害:良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎、突発性難聴など)、②中枢性(脳幹・小脳の障害:小脳梗塞・出血、椎骨脳底動脈循環不全など)、③その他(起立性低血圧や不整脈などの循環器疾患、心因性めまいなど)に分けて考える。 それぞれの疾患で、障害されている部位から説明できる随伴症状かどうかを判断すればよい。聴神経腫瘍(後迷路性難聴)、突発性難聴(内耳性難聴)、パニック障害(自律神経症状)、良性発作性頭位めまい症(頭位変換による誘発)の組合せはいずれも典型的である。一方、同名半盲は視交叉より後方の視覚路(視索、外側膝状体、視放線、後頭葉視覚野)の障害で生じる症状であり、視覚路を含まない小脳の障害では起こらない。したがって a の組合せが最も可能性が低い。

選択肢考察

  1. ○a.  小脳梗塞 ―― 同名半盲

    可能性が低い組合せであり、これが正解。同名半盲は両眼の視野の同じ側(右または左)が欠ける状態で、視交叉より後方の視覚路(視索、外側膝状体、視放線、後頭葉)の障害によって生じる。原因としては後大脳動脈領域の梗塞による後頭葉障害が代表的である。小脳は視覚路を含まないため、小脳梗塞単独で同名半盲は生じない。小脳梗塞で生じやすいのは、強い浮動性(ときに回転性)めまい、嘔吐、頭痛、体幹・四肢の運動失調(起立・歩行困難)、構音障害、注視方向性眼振や垂直性眼振などである。発症初期には神経症状が目立たず、患者が歩いて受診することもあるため、末梢性めまいと誤認しないよう注意を要する。なお、椎骨脳底動脈系の閉塞では小脳と後頭葉に同時に梗塞が生じることがありうるが、その場合の同名半盲は後頭葉病変によるものである。

  2. ×b.  聴神経腫瘍 ―― 語音明瞭度低下

    可能性が高い組合せである。聴神経腫瘍は主に前庭神経のSchwann細胞から発生する良性腫瘍(前庭神経鞘腫)で、内耳道から小脳橋角部に発生する。内耳より中枢側(後迷路)の障害であるため、純音聴力閾値の低下が比較的軽くても、言葉の聞き取り(語音明瞭度)が不釣り合いに大きく低下するのが特徴である。音は聞こえるが何を言っているか分からない、という訴えになる。ほかに一側性の進行性感音難聴、耳鳴、平衡障害がみられ、腫瘍が増大すると顔面神経・三叉神経症状や小脳症状を伴う。

  3. ×c.  突発性難聴 ―― 耳鳴

    可能性が高い組合せである。突発性難聴は原因不明に突然発症する一側性(まれに両側性)の内耳性感音難聴である。難聴の発症と前後して、耳鳴、耳閉感を伴うことが多い。めまい(回転性)や悪心・嘔吐を伴うこともあり、めまいを伴う例は聴力予後が悪い傾向がある。めまい発作は通常反復しない点でメニエール病と区別される。

  4. ×d.  パニック障害 ―― 動悸

    可能性が高い組合せである。パニック障害(パニック症)は、予期しないパニック発作を繰り返し、また発作が起きるのではないかという予期不安や、逃げられない場所を避ける広場恐怖を伴う不安症である。パニック発作では突然強い恐怖・不快感が起こり、動悸、発汗、身震い、息苦しさ、胸痛、悪心、めまい感、寒気・ほてり、死や発狂への恐怖などが出現し、数分で頂点に達する。めまいは心因性(浮動感やふらつき)で、眼振は伴わない。動悸はパニック発作の代表的な症状である。

  5. ×e.  良性発作性頭位めまい症 ―― 寝返り時のめまい

    可能性が高い組合せである。良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、卵形嚢の耳石が剝がれて半規管内に入り込み(半規管結石症)、または半規管のクプラに付着して、頭位の変化に伴い内リンパ流動が生じて回転性めまいを起こす疾患である。寝返り、起床時の起き上がり、上を向く・下を向くなどの頭の動きで誘発され、めまいは通常1分以内に治まる。同じ頭位変換を繰り返すとめまいが軽くなる(疲労現象)。難聴や耳鳴は伴わない。めまいの原因疾患として最も頻度が高い。

末梢性めまいと中枢性めまいの見分け方

・末梢性:回転性が多い。一方向性の水平(回旋混合)性眼振で、注視方向によって向きが変わらない。固視で眼振が抑制される。難聴・耳鳴を伴うことがある(BPPV、前庭神経炎では伴わない)。歩行は可能なことが多い。 ・中枢性:浮動性が多いが回転性もある。注視方向性眼振、純粋な垂直性・回旋性眼振。構音障害、複視、顔面・四肢の感覚障害や麻痺、運動失調(とくに起立・歩行不能な体幹失調)などの神経症状を伴う。 ・急性めまいでは、HINTS(頭部インパルス試験、眼振の方向、斜偏位)が中枢性病変の拾い上げに有用とされる。

主なめまい疾患の特徴

・BPPV:頭位変換で誘発、数十秒以内、難聴なし。Dix-Hallpike試験で診断し、Epley法などの耳石置換法で治療する。 ・メニエール病:回転性めまい発作(数十分〜数時間)を反復し、変動する低音障害型感音難聴、耳鳴、耳閉感を伴う。内リンパ水腫が病態。 ・前庭神経炎:先行する上気道感染後に強い回転性めまいが数日続く。難聴は伴わない。 ・突発性難聴:突然の一側性感音難聴、耳鳴・耳閉感、ときにめまい(反復しない)。 ・聴神経腫瘍:一側性の進行性感音難聴、語音明瞭度の低下、聴性脳幹反応(ABR)でⅠ-Ⅴ波間潜時の延長。造影MRIで診断。 ・小脳梗塞・出血:めまい、嘔吐、頭痛、体幹失調、構音障害。早期は神経所見に乏しく、MRI拡散強調像でも発症直後は描出されにくいことがある。

同名半盲の病変部位

視索・外側膝状体・視放線・後頭葉視覚野。後頭葉病変(後大脳動脈領域の梗塞など)では黄斑回避を伴うことがある。視交叉の障害(下垂体腫瘍など)では両耳側半盲となる。

POINT

・同名半盲は視交叉より後方の視覚路(とくに後頭葉)の障害で生じ、小脳病変では生じない。 ・小脳梗塞:めまい、嘔吐、体幹失調、構音障害、注視方向性・垂直性眼振。 ・聴神経腫瘍:後迷路性難聴で語音明瞭度の低下が目立つ。 ・突発性難聴:突然の感音難聴に耳鳴・耳閉感、ときにめまい。 ・パニック発作:動悸、発汗、呼吸困難、めまい感などの自律神経症状。 ・BPPV:寝返りなど頭位変換で誘発される短時間の回転性めまい、難聴なし。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。