StudyMed医師国家試験

顔は語る―下顎突出と仮面様顔貌から読み解く「視診の名所」

第119回医師国家試験 F問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第29問

顔貌の特徴と疾患の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.下顎突出 ―― 先端巨大症
  2. b.仮面様顔貌 ―― Parkinson病
  3. c.眼球突出 ―― Sheehan症候群
  4. d.眉毛脱失 ―― Cushing病
  5. e.満月様顔貌 ―― Basedow病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、顔貌の特徴と疾患の対応を問う問題だ。顔は患者さんが診察室に入った瞬間から観察できる、最初の診断情報なんだ。丸暗記より、「なぜその顔になるのか」という機序から考えると迷わない。まずは選択肢を眺めて、どれが怪しいと思うかな。
医学生医学生
眼球突出と満月様顔貌は聞き覚えがあるんですが、組み合わさっている疾患がしっくりきません。
ドクタードクター
いい違和感だね。実はこの問題、5つの組み合わせのうち3つは顔貌と疾患が入れ替えてある。正しい2つを先に確認しよう。下顎突出と先端巨大症はどうかな。
医学生医学生
成長ホルモンが過剰になって骨が大きくなるからですよね。内分泌の講義で、昔の写真と比べて顔つきが変わったという症例を見ました。
ドクタードクター
その通り。先端巨大症は骨端線が閉じた後に、主に下垂体のGH産生腺腫からGHが過剰に出て、IGF-1を介して骨や軟部組織が肥大する病気だ。下顎が前に出て反対咬合になったり歯の隙間が開いたりし、眉弓や頬骨の突出、鼻や唇の肥大も加わる。これをまとめて先端巨大症様顔貌と呼ぶんだ。だから昔の写真との比較は診断にとても役立つ。
医学生医学生
指輪や靴のサイズが合わなくなる、という病歴も聞くんでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ほかに巨舌、声が低く太くなる、発汗過多、睡眠時無呼吸、耐糖能異常や高血圧も合併しやすい。では仮面様顔貌とParkinson病は?
医学生医学生
脳神経内科を回ったとき、表情があまり動かない患者さんがいて、まばたきも少なかったのが印象に残っています。
ドクタードクター
まさにそれが仮面様顔貌だ。黒質のドパミン神経細胞が変性して、無動と筋強剛が表情筋にも現れるから表情が乏しくなり、瞬目も減る。脂ぎった脂漏性顔貌を伴うことも多い。ただし薬剤性パーキンソニズムやうつ病でもみられることがあるので、顔だけで決めつけないこと。では残りの3つ。眼球突出とSheehan症候群はどうだろう。
医学生医学生
Sheehan症候群は分娩時の大出血で下垂体が壊死する病気でしたよね。下垂体の病気なので、眼に何か出るのかと一瞬思いました。
ドクタードクター
そう連想しがちだけど、Sheehan症候群は腫瘍ではなく、妊娠で腫大していた下垂体前葉が虚血で壊死して機能が落ちる病態だ。乳汁分泌不全、無月経、腋毛・恥毛の脱落、低血圧、低血糖などが出て、ACTH低下でメラニンが減って皮膚は色白になる。眼球突出は起こらない。眼球突出の代表はBasedow病の甲状腺眼症だよ。
医学生医学生
じゃあ満月様顔貌の相手がBasedow病というのも逆ですね。Basedow病はむしろ痩せるはずです。
ドクタードクター
その通り。Basedow病は代謝亢進で体重が減りやすく、特徴的な顔貌は眼球突出や上眼瞼後退、つまり目を見開いたような表情だ。満月様顔貌はコルチゾール過剰で顔に脂肪がつく所見で、Cushing症候群やステロイドの長期投与でみられる。
医学生医学生
最後の眉毛脱失とCushing病も入れ替えですか。Cushing病だとむしろ毛が増えるイメージがあります。
ドクタードクター
正解。Cushing病では副腎性アンドロゲンも増えて、女性では多毛になることがある。眉毛の脱落、特に外側1/3が抜けるのは甲状腺機能低下症の特徴で、Hertoghe徴候と呼ばれる。むくんだ顔、厚い唇、巨舌、乾燥した皮膚と合わせて粘液水腫顔貌だね。
医学生医学生
整理すると、骨が育つなら先端巨大症、表情筋が動かないならParkinson病、眼窩が腫れるならBasedow病、毛が育たないなら甲状腺機能低下症、脂肪がつくならCushing症候群、ということですね。
ドクタードクター
見事なまとめだ。ついでに甲状腺眼症の機序も押さえよう。眼窩の線維芽細胞や脂肪組織にもTSH受容体があり、自己免疫性の炎症で外眼筋が肥大し脂肪が増えるため、眼球が前に押し出されると考えられている。複視や、重症例では視神経の圧迫も起こり、喫煙は増悪因子だ。片側だけの眼球突出なら眼窩腫瘍なども鑑別に入れる。
医学生医学生
OSCEの医療面接の練習でも、入室時の様子をよく観察するように言われました。顔だけで見当がつく疾患はほかにもありますか。
ドクタードクター
代表的なものを挙げておこう。側頭筋や咬筋が萎縮した細長い斧様顔貌と前頭部の脱毛は筋強直性ジストロフィー、蝶形紅斑は全身性エリテマトーデス、上眼瞼のヘリオトロープ疹は皮膚筋炎、口周囲の放射状のしわと開口制限は全身性強皮症、眼窩や頬がくぼんだヒポクラテス顔貌は重篤な消耗状態を示す。Sheehan症候群については、ホルモン補充で副腎皮質ステロイドを甲状腺ホルモンより先に始める、という臨床上の注意点も重要だよ。
医学生医学生
顔貌は入室した瞬間の第一印象から診断が始まっている、ということですね。
ドクタードクター
そう。ただし顔貌はあくまで手がかりで、最終的には病歴や検査で裏づけることを忘れないでほしい。

まとめ

顔貌は視診で最初に得られる診断の手がかりで、その成り立ちを機序から理解すると対応する疾患を正しく結びつけられます。GH過剰で骨・軟部組織が肥大すれば下顎突出を含む先端巨大症様顔貌、Parkinson病では無動・筋強剛により仮面様顔貌を呈します。眼球突出はBasedow病の甲状腺眼症、眉毛外側1/3の脱落は甲状腺機能低下症、満月様顔貌はCushing症候群やステロイド長期投与の所見であり、Sheehan症候群は分娩時大出血による下垂体前葉機能低下症で眼球突出はきたしません。このほか斧様顔貌、蝶形紅斑、ヘリオトロープ疹なども合わせて整理しておくと、診察室での第一印象を鑑別診断に活かす力が養われます。

解答・解説

正解はa, bです

問われていること

視診で得られる顔貌の特徴と、それを生じる代表的な疾患との対応を問う問題である。顔貌は診察室に入った瞬間から観察でき、内分泌疾患や神経疾患の診断の手がかりとして重要である。

考え方

各顔貌がどのような機序で生じるかを考えると、対応する疾患を正しく結びつけられる。 ・骨や軟部組織が過剰に成長する → 成長ホルモン(GH)過剰(先端巨大症):下顎突出、眉弓・頬骨の突出、鼻・口唇の肥大 ・表情筋の動きが乏しくなる → 無動・筋強剛(Parkinson病):仮面様顔貌 ・眼窩内の組織が自己免疫性炎症で腫れる → 甲状腺眼症(Basedow病など):眼球突出 ・毛の成長が低下する → 甲状腺ホルモン不足(甲状腺機能低下症):眉毛外側1/3の脱落 ・顔面に脂肪が沈着する → コルチゾール過剰(Cushing症候群):満月様顔貌 これらを正しく組み合わせると、選択肢のうち正しいのは「下顎突出―先端巨大症」と「仮面様顔貌―Parkinson病」である。他の3つは、顔貌と疾患の組み合わせが入れ替わっている。

選択肢考察

  1. ○a.  下顎突出 ―― 先端巨大症

    先端巨大症は、骨端線閉鎖後に主に下垂体のGH産生腺腫からGHが過剰に分泌され、IGF-1を介して骨や軟部組織が肥大する疾患である。顔面では下顎の突出(それに伴う反対咬合・咬合不全や歯間の開大)、眉弓部の膨隆、頬骨の突出、鼻や口唇の肥大がみられ、これらをまとめて先端巨大症様顔貌と呼ぶ。ほかに巨舌、手足の容積増大(指輪や靴が合わなくなる)、声帯の肥厚による低く太い声、発汗過多、睡眠時無呼吸、耐糖能異常・高血圧などを伴う。

  2. ○b.  仮面様顔貌 ―― Parkinson病

    Parkinson病は黒質のドパミン神経細胞の変性による疾患で、安静時振戦、筋強剛(固縮)、無動・寡動、姿勢反射障害を主徴とする。表情筋の無動と筋強剛により顔の表情が乏しくなり、まばたきが減って一点を見つめるような表情となる。これを仮面様顔貌という。脂ぎった顔(脂漏性顔貌)を伴うことも多い。仮面様顔貌は他のパーキンソン症候群(薬剤性など)や、うつ病などの精神疾患でもみられることがある。

  3. ×c.  眼球突出 ―― Sheehan症候群

    Sheehan症候群は、分娩時の大量出血やショックにより、妊娠で腫大していた下垂体前葉が虚血・壊死に陥って生じる下垂体前葉機能低下症である。産後の乳汁分泌不全、無月経、腋毛・恥毛の脱落、易疲労感、低血圧、低血糖、寒がりなどを呈し、ACTH低下によるメラニン産生減少で皮膚は色白となる。眼球突出は生じない。眼球突出の代表的な原因は、甲状腺眼症をきたすBasedow病である。

  4. ×d.  眉毛脱失 ―― Cushing病

    Cushing病は、下垂体のACTH産生腺腫によりコルチゾールが過剰となる病態(Cushing症候群の一型)である。顔貌としては満月様顔貌、顔面の紅潮、ざ瘡がみられ、副腎性アンドロゲンも増えるため女性では多毛を伴うことがある。眉毛が脱失することはない。眉毛の脱失、特に外側1/3の脱落(Hertoghe徴候)は甲状腺機能低下症に特徴的な所見である。

  5. ×e.  満月様顔貌 ―― Basedow病

    満月様顔貌は、コルチゾール過剰により顔面に脂肪が沈着して丸くなる顔貌で、Cushing症候群(Cushing病を含む)や副腎皮質ステロイドの長期投与でみられる。Basedow病は、TSH受容体に対する刺激抗体による甲状腺機能亢進症で、代謝亢進のためむしろ体重減少をきたしやすい。Basedow病に特徴的な顔貌は、甲状腺眼症による眼球突出や上眼瞼後退(目を見開いたような表情)である。

代表的な顔貌と疾患の整理

・先端巨大症様顔貌:下顎突出、眉弓・頬骨の突出、鼻・口唇の肥大、巨舌 → 先端巨大症 ・仮面様顔貌:表情が乏しい、瞬目の減少 → Parkinson病、パーキンソン症候群、うつ病 ・満月様顔貌:顔面が丸く赤みを帯びる → Cushing症候群、ステロイド長期投与 ・粘液水腫顔貌:眼瞼・顔面のむくみ、眉毛外側1/3の脱落、厚い口唇、巨舌、乾燥した皮膚 → 甲状腺機能低下症 ・眼球突出、上眼瞼後退 → Basedow病(甲状腺眼症)。片側性の場合は眼窩腫瘍なども鑑別する。 ・斧様顔貌(側頭筋・咬筋の萎縮による細長い顔)、前頭部脱毛 → 筋強直性ジストロフィー ・ヒポクラテス顔貌(眼窩・頬がくぼみ、鼻がとがる) → 重篤な消耗状態、汎発性腹膜炎など ・蝶形紅斑 → 全身性エリテマトーデス ・ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑) → 皮膚筋炎 ・仮面様で口周囲の放射状のしわ、開口制限 → 全身性強皮症 ・僧帽弁顔貌(頬部の紅潮) → 僧帽弁狭窄症

甲状腺眼症の機序

眼窩内の線維芽細胞や脂肪組織にもTSH受容体が発現しており、TSH受容体抗体などを介した自己免疫性炎症により外眼筋の肥大や眼窩脂肪の増生が起こると考えられている。その結果、眼球突出、眼瞼腫脹、複視(眼球運動障害)を生じ、重症例では圧迫性視神経症をきたす。喫煙は増悪因子である。

Sheehan症候群の要点

妊娠中は下垂体前葉(特にプロラクチン産生細胞)が腫大して虚血に弱くなっているため、分娩時の大出血・低血圧で梗塞を起こす。乳汁分泌不全が最初の手がかりとなることが多い。副腎不全による低血糖・低血圧は生命に関わるため、ホルモン補充では副腎皮質ステロイドを甲状腺ホルモンより先に開始する。

POINT

・下顎突出、眉弓・頬骨突出、鼻・口唇肥大 → 先端巨大症 ・仮面様顔貌 → Parkinson病(うつ病などでもみられる) ・眼球突出 → Basedow病(甲状腺眼症) ・眉毛外側1/3の脱落 → 甲状腺機能低下症 ・満月様顔貌 → Cushing症候群・ステロイド長期投与 ・Sheehan症候群は分娩時大量出血後の下垂体前葉機能低下症で、腋毛・恥毛の脱落や乳汁分泌不全を呈し、眼球突出はきたさない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。