顔は語る―下顎突出と仮面様顔貌から読み解く「視診の名所」
第119回医師国家試験 F問題 第29問
国試問題にチャレンジ
顔貌の特徴と疾患の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.下顎突出 ―― 先端巨大症
- b.仮面様顔貌 ―― Parkinson病
- c.眼球突出 ―― Sheehan症候群
- d.眉毛脱失 ―― Cushing病
- e.満月様顔貌 ―― Basedow病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
顔貌は視診で最初に得られる診断の手がかりで、その成り立ちを機序から理解すると対応する疾患を正しく結びつけられます。GH過剰で骨・軟部組織が肥大すれば下顎突出を含む先端巨大症様顔貌、Parkinson病では無動・筋強剛により仮面様顔貌を呈します。眼球突出はBasedow病の甲状腺眼症、眉毛外側1/3の脱落は甲状腺機能低下症、満月様顔貌はCushing症候群やステロイド長期投与の所見であり、Sheehan症候群は分娩時大出血による下垂体前葉機能低下症で眼球突出はきたしません。このほか斧様顔貌、蝶形紅斑、ヘリオトロープ疹なども合わせて整理しておくと、診察室での第一印象を鑑別診断に活かす力が養われます。
解答・解説
正解はa, bです
問われていること
視診で得られる顔貌の特徴と、それを生じる代表的な疾患との対応を問う問題である。顔貌は診察室に入った瞬間から観察でき、内分泌疾患や神経疾患の診断の手がかりとして重要である。
考え方
各顔貌がどのような機序で生じるかを考えると、対応する疾患を正しく結びつけられる。 ・骨や軟部組織が過剰に成長する → 成長ホルモン(GH)過剰(先端巨大症):下顎突出、眉弓・頬骨の突出、鼻・口唇の肥大 ・表情筋の動きが乏しくなる → 無動・筋強剛(Parkinson病):仮面様顔貌 ・眼窩内の組織が自己免疫性炎症で腫れる → 甲状腺眼症(Basedow病など):眼球突出 ・毛の成長が低下する → 甲状腺ホルモン不足(甲状腺機能低下症):眉毛外側1/3の脱落 ・顔面に脂肪が沈着する → コルチゾール過剰(Cushing症候群):満月様顔貌 これらを正しく組み合わせると、選択肢のうち正しいのは「下顎突出―先端巨大症」と「仮面様顔貌―Parkinson病」である。他の3つは、顔貌と疾患の組み合わせが入れ替わっている。
選択肢考察
- ○a. 下顎突出 ―― 先端巨大症
先端巨大症は、骨端線閉鎖後に主に下垂体のGH産生腺腫からGHが過剰に分泌され、IGF-1を介して骨や軟部組織が肥大する疾患である。顔面では下顎の突出(それに伴う反対咬合・咬合不全や歯間の開大)、眉弓部の膨隆、頬骨の突出、鼻や口唇の肥大がみられ、これらをまとめて先端巨大症様顔貌と呼ぶ。ほかに巨舌、手足の容積増大(指輪や靴が合わなくなる)、声帯の肥厚による低く太い声、発汗過多、睡眠時無呼吸、耐糖能異常・高血圧などを伴う。
- ○b. 仮面様顔貌 ―― Parkinson病
Parkinson病は黒質のドパミン神経細胞の変性による疾患で、安静時振戦、筋強剛(固縮)、無動・寡動、姿勢反射障害を主徴とする。表情筋の無動と筋強剛により顔の表情が乏しくなり、まばたきが減って一点を見つめるような表情となる。これを仮面様顔貌という。脂ぎった顔(脂漏性顔貌)を伴うことも多い。仮面様顔貌は他のパーキンソン症候群(薬剤性など)や、うつ病などの精神疾患でもみられることがある。
- ×c. 眼球突出 ―― Sheehan症候群
Sheehan症候群は、分娩時の大量出血やショックにより、妊娠で腫大していた下垂体前葉が虚血・壊死に陥って生じる下垂体前葉機能低下症である。産後の乳汁分泌不全、無月経、腋毛・恥毛の脱落、易疲労感、低血圧、低血糖、寒がりなどを呈し、ACTH低下によるメラニン産生減少で皮膚は色白となる。眼球突出は生じない。眼球突出の代表的な原因は、甲状腺眼症をきたすBasedow病である。
- ×d. 眉毛脱失 ―― Cushing病
Cushing病は、下垂体のACTH産生腺腫によりコルチゾールが過剰となる病態(Cushing症候群の一型)である。顔貌としては満月様顔貌、顔面の紅潮、ざ瘡がみられ、副腎性アンドロゲンも増えるため女性では多毛を伴うことがある。眉毛が脱失することはない。眉毛の脱失、特に外側1/3の脱落(Hertoghe徴候)は甲状腺機能低下症に特徴的な所見である。
- ×e. 満月様顔貌 ―― Basedow病
満月様顔貌は、コルチゾール過剰により顔面に脂肪が沈着して丸くなる顔貌で、Cushing症候群(Cushing病を含む)や副腎皮質ステロイドの長期投与でみられる。Basedow病は、TSH受容体に対する刺激抗体による甲状腺機能亢進症で、代謝亢進のためむしろ体重減少をきたしやすい。Basedow病に特徴的な顔貌は、甲状腺眼症による眼球突出や上眼瞼後退(目を見開いたような表情)である。
代表的な顔貌と疾患の整理
・先端巨大症様顔貌:下顎突出、眉弓・頬骨の突出、鼻・口唇の肥大、巨舌 → 先端巨大症 ・仮面様顔貌:表情が乏しい、瞬目の減少 → Parkinson病、パーキンソン症候群、うつ病 ・満月様顔貌:顔面が丸く赤みを帯びる → Cushing症候群、ステロイド長期投与 ・粘液水腫顔貌:眼瞼・顔面のむくみ、眉毛外側1/3の脱落、厚い口唇、巨舌、乾燥した皮膚 → 甲状腺機能低下症 ・眼球突出、上眼瞼後退 → Basedow病(甲状腺眼症)。片側性の場合は眼窩腫瘍なども鑑別する。 ・斧様顔貌(側頭筋・咬筋の萎縮による細長い顔)、前頭部脱毛 → 筋強直性ジストロフィー ・ヒポクラテス顔貌(眼窩・頬がくぼみ、鼻がとがる) → 重篤な消耗状態、汎発性腹膜炎など ・蝶形紅斑 → 全身性エリテマトーデス ・ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑) → 皮膚筋炎 ・仮面様で口周囲の放射状のしわ、開口制限 → 全身性強皮症 ・僧帽弁顔貌(頬部の紅潮) → 僧帽弁狭窄症
甲状腺眼症の機序
眼窩内の線維芽細胞や脂肪組織にもTSH受容体が発現しており、TSH受容体抗体などを介した自己免疫性炎症により外眼筋の肥大や眼窩脂肪の増生が起こると考えられている。その結果、眼球突出、眼瞼腫脹、複視(眼球運動障害)を生じ、重症例では圧迫性視神経症をきたす。喫煙は増悪因子である。
Sheehan症候群の要点
妊娠中は下垂体前葉(特にプロラクチン産生細胞)が腫大して虚血に弱くなっているため、分娩時の大出血・低血圧で梗塞を起こす。乳汁分泌不全が最初の手がかりとなることが多い。副腎不全による低血糖・低血圧は生命に関わるため、ホルモン補充では副腎皮質ステロイドを甲状腺ホルモンより先に開始する。
POINT
・下顎突出、眉弓・頬骨突出、鼻・口唇肥大 → 先端巨大症 ・仮面様顔貌 → Parkinson病(うつ病などでもみられる) ・眼球突出 → Basedow病(甲状腺眼症) ・眉毛外側1/3の脱落 → 甲状腺機能低下症 ・満月様顔貌 → Cushing症候群・ステロイド長期投与 ・Sheehan症候群は分娩時大量出血後の下垂体前葉機能低下症で、腋毛・恥毛の脱落や乳汁分泌不全を呈し、眼球突出はきたさない。
