StudyMed医師国家試験

最期の選択は誰が決める?―「人生会議」と推定意思で読み解く終末期の意思決定

第115回医師国家試験 B問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第16問

終末期における意思決定のプロセスについて正しいのはどれか。

  1. a.対象は癌患者である。
  2. b.意思決定は変化することはない。
  3. c.積極的安楽死が選択肢の一つとなる。
  4. d.可能な限り生命を維持したいと希望する患者は対象とならない。
  5. e.本人の意思が確認できない場合,家族等による推定意思が尊重される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人生の最終段階における医療・ケアをどう決めていくか、そのプロセスを問う問題だ。根拠になるのは厚生労働省のガイドライン。「誰の意思を基本にするのか」「本人が意思を示せないときはどうするのか」の2点に注目して考えよう。
医学生医学生
終末期というと、まず緩和ケア病棟の癌患者さんを思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
多くの人がそうイメージするね。でもガイドラインは対象を癌に限定していないんだ。癌のように予後が数日〜数か月と予測しやすい経過もあれば、心不全やCOPDのように急性増悪と回復を繰り返しながら最期を迎える経過、脳血管疾患の後遺症や老衰で年単位で衰えていく経過もある。どの状態を人生の最終段階とみなすかは、本人の状態を踏まえて医療・ケアチームが判断するとされている。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心不全を何度も繰り返して入院している高齢の方がいて、先生が「この方こそ早めに話し合いが必要」とおっしゃっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその感覚が大事だよ。では、話し合いは一度すれば十分だと思う?
医学生医学生
一度しっかり決めておけば、あとはその方針に従えばいいのかなと思っていました。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところ。病状の進行、体調、家族関係や生活環境の変化で、本人の気持ちは変わりうることが前提なんだ。だから話し合いは繰り返し行い、その都度内容を文書に残して共有する。このプロセスがアドバンス・ケア・プランニング、ACP、愛称「人生会議」だ。「意思決定は変化することはない」という記述は、この考え方と正反対になる。
医学生医学生
医療倫理の講義で、自己決定権の尊重は一回きりの同意ではなく継続的なプロセスだと習いました。では、積極的安楽死はどうでしょう。本人が強く望めば選択肢になりますか。
ドクタードクター
ならない。積極的安楽死は、薬物投与などで意図的に生命を短縮させる行為で、ガイドラインは対象外と明記している。日本にはこれを合法化する法律はなく、本人や家族の要請があっても、医師が行えば刑事責任を問われうる。一方で、本人の意思に基づいて延命治療を始めない・中止すること、そして十分な緩和ケアで苦痛を和らげることはガイドラインの範囲内だ。この区別はしっかり押さえておこう。
医学生医学生
逆に、「できるだけ長く生きたい」と望む患者さんは、このガイドラインの対象外になるんですか。延命を控えるための手順というイメージがあって。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。実はそこも誤解されやすい。ガイドラインは延命治療を差し控えるためのものではなく、本人の意思を基本に方針を決める手順を示したものなんだ。だから延命を望む意思も同じように尊重の対象になる。ただし、実際に何を提供するかは、医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性に基づいて判断する。
医学生医学生
となると、正しいのは「本人の意思が確認できない場合、家族等による推定意思が尊重される」ですね。
ドクタードクター
正解。意識障害や認知機能の低下で本人の意思が確認できないときは、手順が段階的に決まっている。まず家族等が本人の意思を推定できるなら、その推定意思を尊重して本人にとって最善の方針をとる。推定できなければ、本人にとって何が最善かを家族等と繰り返し話し合う。家族等がいない、あるいは判断をチームに委ねる場合は、医療・ケアチームが本人にとっての最善を判断する。
医学生医学生
ポイントは「家族が何を望むか」ではなく、「本人ならどう考えるか」を家族に推し量ってもらうということですね。
ドクタードクター
その通り。そこを取り違えないことが一番大切だ。それから、ここでいう「家族等」は法的な親族に限らない。2018年の改訂で、本人が信頼を寄せる友人なども含むと明記された。単身世帯が増えている社会背景を反映しているんだ。
医学生医学生
チームの中で意見が割れたり、家族と合意できなかったりしたらどうするんですか。
ドクタードクター
そのときは倫理委員会のような、複数の専門家からなる話し合いの場を別に設けて検討や助言を受ける。また2018年改訂では、病院だけでなく在宅や介護施設も想定し、医療・ケアチームに介護職を含めたのも特徴だ。関連用語として、心停止時に蘇生を行わないDNARは「蘇生以外の治療もしない」という意味ではない点も、臨床でよく問題になるから覚えておこう。
医学生医学生
地域医療実習で訪問診療に同行したとき、元気なうちから「もしものとき」をご家族と話していて、あれがACPだったんだと腑に落ちました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。意思表示ができなくなる前に、本人の意思を推定する人を決めておくことも望ましいとされている。早めに、繰り返し、記録に残す。これが現場での実践のコツだ。

まとめ

人生の最終段階における医療・ケアは、適切な情報提供のもと、本人が医療・ケアチームと十分に話し合い、本人の意思決定を基本として進めるのが原則です。対象は癌に限らず心不全・COPD・脳血管疾患後遺症・老衰なども含み、本人の意思は変わりうるため、話し合いを繰り返して文書に残すACP(人生会議)が重視されます。本人の意思が確認できない場合は、家族等が推定できればその推定意思を尊重し、推定できなければ家族等と最善を話し合い、家族等がいなければチームが最善を判断します。積極的安楽死はガイドラインの対象外である一方、延命を望む意思も等しく尊重されます。「本人ならどう考えるか」を軸に据える姿勢は、あらゆる診療科で終末期に向き合う医師にとって欠かせない基盤です。

解答・解説

正解はeです

本問は、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂)の基本的な考え方を問う問題である。

ガイドラインの基本原則

・医師などから適切な情報提供と説明がなされ、それに基づいて患者本人が医療・ケアチームと十分に話し合ったうえで、本人の意思決定を基本として医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。 ・本人の意思は時間や病状とともに変わりうるため、話し合いは一度で終わらせず繰り返し行い、その内容をその都度文書に残す。 ・医療・ケアの開始・不開始、内容の変更、中止などは、多職種からなる医療・ケアチームが、医学的妥当性と適切性をもとに慎重に判断する。 ・生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死はガイドラインの対象外である。

本人の意思が確認できない場合の手順

①家族等が本人の意思を推定できる場合:その推定意思を尊重し、本人にとって最善の方針をとる。 ②家族等が本人の意思を推定できない場合:本人にとって何が最善かを家族等と十分に話し合い、最善の方針をとる。話し合いは繰り返す。 ③家族等がいない場合、または家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合:本人にとって最善の方針を医療・ケアチームが判断する。 なお、チーム内で方針が決まらない場合や、本人・家族等との合意が得られない場合には、複数の専門家からなる話し合いの場(倫理委員会など)を別に設けて検討・助言を受ける。 この手順の①に一致する選択肢eが正解である。対象疾患を限定する記述、意思は不変とする記述、積極的安楽死を容認する記述、延命を望む患者を除外する記述は、いずれもガイドラインの考え方と矛盾する。

選択肢考察

  1. ×a.  対象は癌患者である。

    誤り。人生の最終段階のあり方は疾患によって異なり、ガイドラインは癌に限定していない。がんの末期のように予後が数日〜数か月と予測できる場合のほか、慢性疾患(心不全、慢性閉塞性肺疾患など)で急性増悪と回復を繰り返しながら最期を迎える場合、脳血管疾患の後遺症や老衰で数か月〜数年かけて死を迎える場合も含まれる。どのような状態を人生の最終段階とするかは、本人の状態を踏まえて医療・ケアチームが適切かつ妥当に判断すべきものとされている。

  2. ×b.  意思決定は変化することはない。

    誤り。病状の進行、心身の状態、家族関係や生活環境の変化などにより、本人の意思は変わりうることが前提とされている。そのため医療・ケアチームは、本人がそのつど自分の意思を表明・伝達できるよう支援し、話し合いを繰り返すことが重要とされる。この繰り返しの話し合いのプロセスがアドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」)である。

  3. ×c.  積極的安楽死が選択肢の一つとなる。

    誤り。積極的安楽死とは、苦痛から解放する目的で薬物投与などにより意図的に患者の生命を短縮・終了させる行為である。ガイドラインは、生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死を対象としないと明記しており、決定プロセスの選択肢には含まれない。日本では積極的安楽死を合法化する法律はなく、本人や家族の要請があっても医師が行えば刑事責任を問われうる。一方、本人の意思に基づく延命治療の不開始・中止や、十分な緩和ケア(疼痛や不快症状の緩和)はガイドラインの対象であり、両者を区別することが重要である。

  4. ×d.  可能な限り生命を維持したいと希望する患者は対象とならない。

    誤り。ガイドラインは延命治療の差し控え・中止だけを目的としたものではなく、本人の意思決定を基本とした医療・ケアの方針決定の手順を示したものである。したがって、できる限りの延命を望む本人の意思も等しく尊重の対象となり、そのような患者もガイドラインの対象に含まれる。ただし、提供する医療・ケアの内容は医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性に基づいて判断する。

  5. ○e.  本人の意思が確認できない場合,家族等による推定意思が尊重される。

    正しい。意識障害や認知機能の低下などで本人の意思が確認できない場合、家族等が本人の意思を推定できるのであれば、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることが基本とされる。推定できない場合は、本人にとって何が最善かを家族等と話し合って決める。ここでいう「家族等」には、法的な親族に限らず、本人が信頼を寄せる親しい友人など、本人を支える存在も含まれる(2018年改訂で明記)。また、意思表示ができなくなる場合に備え、本人の意思を推定する者を前もって定めておくことが望ましいとされている。

ガイドラインの変遷

・2007年:「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として策定。富山県の病院での人工呼吸器取り外し事案などを背景に、方針決定の手順を明確化する目的で作られた。 ・2015年:「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に名称変更。 ・2018年:「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改訂。主な改訂点は、①病院だけでなく在宅・介護施設も想定し、医療・ケアチームに介護従事者を含めたこと、②ACPの概念を盛り込み、話し合いを繰り返すことを重視したこと、③本人の意思を推定する者として家族等(信頼できる者を含む)を前もって定めておくことの重要性、④単身世帯の増加を踏まえ、家族等の範囲を広げたこと、⑤話し合った内容をその都度文書にまとめ共有すること、である。

関連用語

・アドバンス・ケア・プランニング(ACP):将来の医療・ケアについて、本人を主体に家族等や医療・ケアチームが繰り返し話し合い、本人の意思決定を支援するプロセス。 ・事前指示(アドバンス・ディレクティブ):意思決定能力を失った場合に備え、受けたい・受けたくない医療や代理意思決定者をあらかじめ示しておくこと。 ・DNAR(Do Not Attempt Resuscitation):心停止時に心肺蘇生を行わないという指示。蘇生以外の治療を差し控えることを意味しない。 ・安楽死の区別:積極的安楽死(薬物などで死期を意図的に早める)は認められない。延命治療の不開始・中止(いわゆる消極的安楽死・尊厳死)は、本人の意思に基づき適切なプロセスを経れば許容されうる。

POINT

・人生の最終段階の医療・ケアは、本人の意思決定を基本とし、医療・ケアチームとの話し合いを繰り返して決める。 ・対象は癌に限らない(慢性疾患の急性増悪の繰り返し、脳血管疾患後遺症、老衰なども含む)。 ・本人の意思は変わりうる→その都度話し合い、文書に残す(ACP)。 ・本人の意思が確認できない→家族等が推定できればその推定意思を尊重、できなければ家族等と最善を話し合う、家族等がいなければチームで最善を判断。 ・積極的安楽死はガイドラインの対象外。 ・延命を望む意思も尊重の対象である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。