その因子は病気を増やす?減らす?―リスクファクターの「向き」を見抜く
第115回医師国家試験 B問題 第1問
国試問題にチャレンジ
リスクファクターと疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.飲酒 ―― 食道癌
- b.低体重 ―― 睡眠時無呼吸症候群
- c.体重増加 ―― フレイル
- d.食物繊維の摂取 ―― 糖尿病
- e.n-3系多価不飽和脂肪酸摂取 ―― 虚血性心疾患
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
リスクファクターの問題では、要因が疾患を増やす方向(危険因子)か減らす方向(予防因子)かを区別することが要点です。飲酒は喫煙とともに食道扁平上皮癌の二大危険因子で、ALDH2低活性の人では特にリスクが高く、一方で腺癌はGERD・Barrett食道・肥満が危険因子です。睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子は肥満、フレイルでは体重増加ではなく体重減少・低栄養が問題となり、食物繊維は2型糖尿病、n-3系多価不飽和脂肪酸は虚血性心疾患に対して予防的に働くとされます。体重の影響は年齢層で向きが変わり、高齢者では低体重がフレイルにつながる点も重要です。因子の「向き」を正しく理解することは、試験対策にとどまらず、具体的な生活指導や予防医療の実践に直結します。
解答・解説
正解はaです
問われていること
生活習慣や体格などの要因が、その疾患の発生確率を高める方向(リスクファクター:危険因子)に働くのか、それとも低める方向(予防因子)に働くのかを正しく区別できるかを問う問題である。
考え方
選択肢には「リスクファクター」の欄に、実際には予防的に働く要因(食物繊維、n-3系多価不飽和脂肪酸)や、方向が逆になっている要因(低体重と睡眠時無呼吸症候群、体重増加とフレイル)が混ぜてある。各要因について「多いほど・あるほど病気が増えるのか減るのか」を一つずつ確認すればよい。飲酒は食道癌(特に扁平上皮癌)の確立した危険因子であり、方向も正しい組合せはこれだけである。
選択肢考察
- ○a. 飲酒 ―― 食道癌
正しい。日本の食道癌の大部分を占める扁平上皮癌では、飲酒と喫煙が二大危険因子であり、両者が重なると危険はさらに大きくなる。アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドには発癌性があり、これを分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が遺伝的に弱い人(少量の飲酒で顔が赤くなる体質)が飲酒を続けると、特に危険が高い。熱い飲食物の習慣も危険因子とされる。なお腺癌では、胃食道逆流症(GERD)、Barrett食道、肥満が主な危険因子である。
- ×b. 低体重 ―― 睡眠時無呼吸症候群
誤り。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子は肥満であり、低体重ではない。肥満では頸部や咽頭周囲に脂肪が沈着して上気道が狭くなり、睡眠中に筋緊張が低下すると気道が閉塞しやすくなる。そのほか、小顎・下顎後退、扁桃肥大、巨舌などの顎顔面・上気道の形態、男性、加齢、飲酒、鎮静薬の使用なども危険因子となる。
- ×c. 体重増加 ―― フレイル
誤り。フレイルは、加齢に伴って心身の予備能力が低下し、ストレスに対して健康障害(要介護、転倒、入院、死亡など)を起こしやすくなった状態である。その危険因子・評価項目は体重減少、低栄養、筋力低下、歩行速度の低下、活動量の低下などであり、体重の「増加」ではなく「減少」が問題となる。Friedらの基準でも、意図しない体重減少が構成要素の一つとして挙げられている。
- ×d. 食物繊維の摂取 ―― 糖尿病
誤り。食物繊維は食後の糖の吸収を緩やかにして血糖上昇を抑え、満腹感による過食の防止にも役立つため、2型糖尿病の発症を抑える方向に働くとされる。2型糖尿病の危険因子は、遺伝素因に加えて過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢などであり、食物繊維の摂取は予防因子である。
- ×e. n-3系多価不飽和脂肪酸摂取 ―― 虚血性心疾患
誤り。n-3系多価不飽和脂肪酸(青魚に多いエイコサペンタエン酸〔EPA〕、ドコサヘキサエン酸〔DHA〕など)は、血中中性脂肪の低下、血小板凝集の抑制、抗炎症作用などをもち、虚血性心疾患の危険を下げる方向に働くとされる。虚血性心疾患の危険因子は、高血圧、脂質異常症(特にLDLコレステロール高値)、糖尿病、喫煙、肥満、加齢、男性、家族歴などであり、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取も危険を高める。
食道癌の組織型と危険因子
・扁平上皮癌:飲酒、喫煙、ALDH2低活性(飲酒による顔面紅潮体質)、熱い飲食物、野菜・果物の摂取不足など。日本では食道癌の大部分を占め、中部食道に多い。 ・腺癌:胃食道逆流症、Barrett食道、肥満など。欧米で多く、下部食道に多い。
主な疾患と、危険因子・予防因子の整理
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群:危険因子は肥満、顎顔面形態、扁桃肥大、男性、加齢、飲酒など。 ・フレイル:危険因子は体重減少、低栄養、筋力低下、身体活動の低下、社会的孤立など。対策は十分なたんぱく質摂取と運動。 ・2型糖尿病:危険因子は過食、運動不足、肥満など。食物繊維の摂取や身体活動は予防的に働く。 ・虚血性心疾患:危険因子は高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満など。n-3系多価不飽和脂肪酸(魚の摂取)は予防的に働くとされる。
体重と疾患の関係
肥満は睡眠時無呼吸症候群、2型糖尿病、虚血性心疾患、食道腺癌などの危険因子である一方、高齢者では低体重・体重減少がフレイルやサルコペニアの危険因子となる。年齢層によって注意すべき体重の方向が変わる点を押さえておくとよい。
POINT
・食道扁平上皮癌の二大危険因子は飲酒と喫煙。腺癌はGERD・Barrett食道・肥満。 ・睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子は肥満(低体重ではない)。 ・フレイルは体重「減少」・低栄養が危険因子。 ・食物繊維(糖尿病)、n-3系多価不飽和脂肪酸(虚血性心疾患)は予防因子として働く。
