StudyMed医師国家試験

その因子は病気を増やす?減らす?―リスクファクターの「向き」を見抜く

第115回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第1問

リスクファクターと疾患の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.飲酒 ―― 食道癌
  2. b.低体重 ―― 睡眠時無呼吸症候群
  3. c.体重増加 ―― フレイル
  4. d.食物繊維の摂取 ―― 糖尿病
  5. e.n-3系多価不飽和脂肪酸摂取 ―― 虚血性心疾患

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の基本問題で、生活習慣や体格がある病気を増やす方向に働くのか、減らす方向に働くのかを問うものだ。選択肢には、実は予防的に働く要因や、向きが逆になっている組合せが紛れ込んでいる。一つずつ「多いほど病気が増えるか」を確かめていこう。
医学生医学生
パッと見て、飲酒と食道癌は正しそうです。消化器内科の講義で、飲酒と喫煙が二大危険因子だと習いました。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。日本の食道癌の大部分は扁平上皮癌で、飲酒と喫煙が重なると危険はさらに大きくなる。カギになるのがアセトアルデヒドだ。アルコールの代謝産物で発癌性があり、これを分解するALDH2の活性が遺伝的に弱い人が飲み続けると特にリスクが高い。
医学生医学生
少し飲んだだけで顔が赤くなる体質の人ですね。生化学の実習で、パッチテストで自分の体質を調べました。
ドクタードクター
いい経験だね。そういう人が「慣れて飲めるようになった」と言って飲酒を続けるのが一番危ない。熱い飲食物の習慣も危険因子とされている。一方、食道腺癌の危険因子は胃食道逆流症、Barrett食道、肥満で、組織型によってリスクの顔ぶれが違うことも押さえておこう。
医学生医学生
扁平上皮癌は日本に多くて中部食道、腺癌は欧米に多くて下部食道、という対比でしたね。
ドクタードクター
そう。では次、低体重と睡眠時無呼吸症候群の組合せはどうだろう。
医学生医学生
睡眠時無呼吸は太った人に多いイメージなので、低体重は逆だと思います。
ドクタードクター
正しい感覚だ。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子は肥満。頸部や咽頭周囲に脂肪がつくと上気道が狭くなり、眠って筋緊張が落ちると閉塞しやすくなる。ただし、肥満がなくても小顎や下顎後退、扁桃肥大、巨舌といった顎顔面・上気道の形態が原因になることがあるので、やせているから否定、とはならない点は臨床で注意したい。男性、加齢、飲酒、鎮静薬の使用も危険因子だ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、細身なのに顎が小さくて重症の無呼吸だった患者さんがいました。では体重増加とフレイルは、太ると動けなくなるから正しい気もしてしまうんですが。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。フレイルは加齢で心身の予備能力が落ち、ちょっとしたストレスで要介護や転倒、入院につながりやすくなった状態だ。Friedの基準では、意図しない体重減少、筋力低下、歩行速度の低下、疲労感、活動量の低下が構成要素になっている。つまり問題になるのは体重の「減少」なんだ。
医学生医学生
高齢者では体重が減ることのほうが危ない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。若年・中年では肥満が多くの病気のリスクになるけれど、高齢者では低体重や体重減少がフレイルやサルコペニアにつながる。年齢層によって注意すべき体重の向きが変わるんだ。対策は十分なたんぱく質摂取と運動だよ。次は食物繊維と糖尿病。
医学生医学生
食物繊維は血糖の上昇を緩やかにするはずなので、むしろ予防因子ではないでしょうか。
ドクタードクター
正解。食物繊維は糖の吸収を穏やかにして食後高血糖を抑え、満腹感で過食を防ぐことにも役立つ。2型糖尿病の危険因子は遺伝素因に加えて過食、運動不足、肥満、加齢などで、食物繊維は予防側だ。最後のn-3系多価不飽和脂肪酸と虚血性心疾患は?
医学生医学生
EPAやDHAのことですよね。青魚に多くて、脂質異常症の薬にもなっていたと思います。これも予防側ですか。
ドクタードクター
その通り。中性脂肪の低下、血小板凝集の抑制、抗炎症作用などがあり、虚血性心疾患のリスクを下げる方向に働くとされる。逆にリスクを上げるのは、高血圧、LDLコレステロール高値、糖尿病、喫煙、肥満、加齢、男性、家族歴、そして飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取だ。
医学生医学生
「脂肪酸」とひとくくりにせず、種類ごとに向きを覚える必要があるんですね。
ドクタードクター
まさにそこが大事。この問題は、因子と疾患の関係を「ある・なし」ではなく「どちら向きか」で理解しているかを試している。外来で生活指導をするときも、何を減らし何を増やすかを具体的に伝えるには、この向きの理解が欠かせない。たとえば食道癌の患者さんでは、頭頸部など他部位の扁平上皮癌が重複することもあるので、飲酒・喫煙歴のある人には内視鏡で咽頭まで丁寧に観察する、という発想にもつながるよ。
医学生医学生
リスクファクターの知識が、そのまま予防と早期発見の行動に結びつくわけですね。
ドクタードクター
その通り。危険因子は覚える対象であると同時に、介入の手がかりなんだ。

まとめ

リスクファクターの問題では、要因が疾患を増やす方向(危険因子)か減らす方向(予防因子)かを区別することが要点です。飲酒は喫煙とともに食道扁平上皮癌の二大危険因子で、ALDH2低活性の人では特にリスクが高く、一方で腺癌はGERD・Barrett食道・肥満が危険因子です。睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子は肥満、フレイルでは体重増加ではなく体重減少・低栄養が問題となり、食物繊維は2型糖尿病、n-3系多価不飽和脂肪酸は虚血性心疾患に対して予防的に働くとされます。体重の影響は年齢層で向きが変わり、高齢者では低体重がフレイルにつながる点も重要です。因子の「向き」を正しく理解することは、試験対策にとどまらず、具体的な生活指導や予防医療の実践に直結します。

解答・解説

正解はaです

問われていること

生活習慣や体格などの要因が、その疾患の発生確率を高める方向(リスクファクター:危険因子)に働くのか、それとも低める方向(予防因子)に働くのかを正しく区別できるかを問う問題である。

考え方

選択肢には「リスクファクター」の欄に、実際には予防的に働く要因(食物繊維、n-3系多価不飽和脂肪酸)や、方向が逆になっている要因(低体重と睡眠時無呼吸症候群、体重増加とフレイル)が混ぜてある。各要因について「多いほど・あるほど病気が増えるのか減るのか」を一つずつ確認すればよい。飲酒は食道癌(特に扁平上皮癌)の確立した危険因子であり、方向も正しい組合せはこれだけである。

選択肢考察

  1. ○a.  飲酒 ―― 食道癌

    正しい。日本の食道癌の大部分を占める扁平上皮癌では、飲酒と喫煙が二大危険因子であり、両者が重なると危険はさらに大きくなる。アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドには発癌性があり、これを分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が遺伝的に弱い人(少量の飲酒で顔が赤くなる体質)が飲酒を続けると、特に危険が高い。熱い飲食物の習慣も危険因子とされる。なお腺癌では、胃食道逆流症(GERD)、Barrett食道、肥満が主な危険因子である。

  2. ×b.  低体重 ―― 睡眠時無呼吸症候群

    誤り。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子は肥満であり、低体重ではない。肥満では頸部や咽頭周囲に脂肪が沈着して上気道が狭くなり、睡眠中に筋緊張が低下すると気道が閉塞しやすくなる。そのほか、小顎・下顎後退、扁桃肥大、巨舌などの顎顔面・上気道の形態、男性、加齢、飲酒、鎮静薬の使用なども危険因子となる。

  3. ×c.  体重増加 ―― フレイル

    誤り。フレイルは、加齢に伴って心身の予備能力が低下し、ストレスに対して健康障害(要介護、転倒、入院、死亡など)を起こしやすくなった状態である。その危険因子・評価項目は体重減少、低栄養、筋力低下、歩行速度の低下、活動量の低下などであり、体重の「増加」ではなく「減少」が問題となる。Friedらの基準でも、意図しない体重減少が構成要素の一つとして挙げられている。

  4. ×d.  食物繊維の摂取 ―― 糖尿病

    誤り。食物繊維は食後の糖の吸収を緩やかにして血糖上昇を抑え、満腹感による過食の防止にも役立つため、2型糖尿病の発症を抑える方向に働くとされる。2型糖尿病の危険因子は、遺伝素因に加えて過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢などであり、食物繊維の摂取は予防因子である。

  5. ×e.  n-3系多価不飽和脂肪酸摂取 ―― 虚血性心疾患

    誤り。n-3系多価不飽和脂肪酸(青魚に多いエイコサペンタエン酸〔EPA〕、ドコサヘキサエン酸〔DHA〕など)は、血中中性脂肪の低下、血小板凝集の抑制、抗炎症作用などをもち、虚血性心疾患の危険を下げる方向に働くとされる。虚血性心疾患の危険因子は、高血圧、脂質異常症(特にLDLコレステロール高値)、糖尿病、喫煙、肥満、加齢、男性、家族歴などであり、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取も危険を高める。

食道癌の組織型と危険因子

・扁平上皮癌:飲酒、喫煙、ALDH2低活性(飲酒による顔面紅潮体質)、熱い飲食物、野菜・果物の摂取不足など。日本では食道癌の大部分を占め、中部食道に多い。 ・腺癌:胃食道逆流症、Barrett食道、肥満など。欧米で多く、下部食道に多い。

主な疾患と、危険因子・予防因子の整理

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群:危険因子は肥満、顎顔面形態、扁桃肥大、男性、加齢、飲酒など。 ・フレイル:危険因子は体重減少、低栄養、筋力低下、身体活動の低下、社会的孤立など。対策は十分なたんぱく質摂取と運動。 ・2型糖尿病:危険因子は過食、運動不足、肥満など。食物繊維の摂取や身体活動は予防的に働く。 ・虚血性心疾患:危険因子は高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満など。n-3系多価不飽和脂肪酸(魚の摂取)は予防的に働くとされる。

体重と疾患の関係

肥満は睡眠時無呼吸症候群、2型糖尿病、虚血性心疾患、食道腺癌などの危険因子である一方、高齢者では低体重・体重減少がフレイルやサルコペニアの危険因子となる。年齢層によって注意すべき体重の方向が変わる点を押さえておくとよい。

POINT

・食道扁平上皮癌の二大危険因子は飲酒と喫煙。腺癌はGERD・Barrett食道・肥満。 ・睡眠時無呼吸症候群の最大の危険因子は肥満(低体重ではない)。 ・フレイルは体重「減少」・低栄養が危険因子。 ・食物繊維(糖尿病)、n-3系多価不飽和脂肪酸(虚血性心疾患)は予防因子として働く。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。