ヘルメット形の赤血球は何を語るか―「外から壊される」溶血と血栓性血小板減少性紫斑病
第115回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
赤血球破砕症候群がみられるのはどれか。
- a.異常ヘモグロビン症
- b.遺伝性球状赤血球症
- c.自己免疫性溶血性貧血
- d.発作性寒冷血色素尿症
- e.血栓性血小板減少性紫斑病
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
赤血球破砕症候群は、赤血球自体は正常であるにもかかわらず、血管内で物理的な力を受けて切断される病態の総称で、末梢血にヘルメット形などの破砕赤血球が出現し、直接Coombs試験陰性の血管内溶血を呈します。原因は人工弁や高度弁膜症などの心臓・大血管性と、微小血管に血栓が生じる血栓性微小血管症(TMA)に大別され、ADAMTS13活性著減により血小板血栓が多発する血栓性血小板減少性紫斑病はその代表です。遺伝性球状赤血球症や異常ヘモグロビン症は赤血球内部の異常、自己免疫性溶血性貧血や発作性寒冷血色素尿症は抗体や補体による溶血であり、物理的破砕は特徴となりません。TTPの治療は血漿交換が第一選択で、血小板輸血は原則避ける点が臨床上きわめて重要です。溶血を「どこで・どのように壊れるか」で整理することは、溶血性貧血全体の鑑別と緊急疾患の早期発見の基盤になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
赤血球破砕症候群(red cell fragmentation syndrome:RFS)の概念と、その原因となる疾患を問う問題である。
赤血球破砕症候群とは
赤血球そのものには異常がないのに、血管内を流れる途中で外からの物理的な力(機械的ストレス)を受けて壊される病態を総称して赤血球破砕症候群と呼ぶ。壊された赤血球は、ヘルメット形、三角形、半月形などの断片として末梢血塗抹標本に現れ、これを破砕赤血球(schistocyte、断片化赤血球)という。赤血球が血管内で壊れるため、血管内溶血の所見(LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、ヘモグロビン尿など)を伴い、直接Coombs試験は陰性である。 原因は大きく2つに分けられる。 ・心臓・大血管の異常:人工弁置換後、高度の大動脈弁狭窄症などの弁膜症、大動脈縮窄症など。乱流や高いずり応力により赤血球が壊れる。 ・微小血管の異常:細い血管に血小板血栓やフィブリン血栓ができ、その間を赤血球が通過するときに切断される。血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)が代表で、RFSの大部分はこちらに属する。
正解を導く考え方
選択肢のうち、赤血球自体の異常による溶血(異常ヘモグロビン症、遺伝性球状赤血球症)や、抗体による溶血(自己免疫性溶血性貧血、発作性寒冷血色素尿症)では、赤血球は物理的に切断されないため破砕赤血球は特徴的所見とならない。微小血管に血小板血栓を形成するTMAの代表疾患である血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)が、赤血球破砕症候群を呈する。
選択肢考察
- ×a. 異常ヘモグロビン症
異常ヘモグロビン症は、グロビン遺伝子の変異によって構造の異常なヘモグロビンがつくられる遺伝性疾患の総称である。代表は鎌状赤血球症(低酸素下でHbSが重合し赤血球が鎌状に変形する)や、不安定ヘモグロビン症(変性したヘモグロビンがHeinz小体として沈着する)である。感染や酸化ストレスとなる薬剤を契機に溶血発作を起こすことがあるが、溶血の原因は赤血球内部の異常であり、外力で切断されるわけではない。赤血球破砕症候群には含まれない。
- ×b. 遺伝性球状赤血球症
遺伝性球状赤血球症は、スペクトリンやアンキリン、バンド3などの赤血球膜骨格蛋白の遺伝的異常により、赤血球が小型の球状となり変形能が低下する疾患である。わが国の先天性溶血性貧血で最も多い。変形しにくい赤血球が脾臓の狭い通路を通過できずに捕捉・破壊される血管外溶血が主体で、貧血・黄疸・脾腫を三徴とする。末梢血では球状赤血球を認め、赤血球浸透圧抵抗が減弱するが、破砕赤血球は特徴とならない。
- ×c. 自己免疫性溶血性貧血
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は赤血球に対する自己抗体により溶血が起こる疾患で、抗体が最もよく結合する温度により温式と冷式(寒冷凝集素症、発作性寒冷血色素尿症)に分けられる。最も多い温式AIHAでは、IgG抗体が結合した赤血球が脾臓のマクロファージに処理される血管外溶血が主体である。直接Coombs試験が陽性となり、末梢血では球状赤血球を認めることがあるが、破砕赤血球は認めない。
- ×d. 発作性寒冷血色素尿症
発作性寒冷血色素尿症は冷式AIHAの一つで、Donath-Landsteiner抗体(IgG型の二相性溶血素)が原因である。この抗体は低温で赤血球に結合し、体温に戻ったときに補体を活性化して血管内溶血を起こすため、寒冷曝露後にヘモグロビン尿が出現する。小児のウイルス感染後に一過性にみられることが多く、かつては梅毒に伴うものが知られた。溶血の機序は補体による膜傷害であり、物理的な破砕ではないため、破砕赤血球は特徴とならない。
- ○e. 血栓性血小板減少性紫斑病
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、von Willebrand因子(VWF)を切断する酵素ADAMTS13の活性が著しく低下することで発症する。ADAMTS13が働かないと、血管内皮から放出された超高分子量のVWF多量体が切断されずに残り、全身の微小血管に血小板血栓が多発する。赤血球はこの血栓で狭くなった微小血管を通過する際に物理的に切断され、破砕赤血球が出現し血管内溶血を起こす。すなわちTTPは血栓性微小血管症の代表疾患であり、赤血球破砕症候群を呈する。後天性TTPの多くはADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)が原因で、先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)は遺伝子変異による。
血栓性微小血管症(TMA)
微小血管性溶血性貧血(破砕赤血球を伴う溶血性貧血)、消費性の血小板減少、微小血管内の血小板血栓による臓器障害を特徴とする病態の総称である。 ・TTP:ADAMTS13活性著減(10%未満)が診断の鍵。古典的には5徴(溶血性貧血、血小板減少、腎機能障害、発熱、動揺する精神神経症状)が知られるが、すべてそろうことは少ない。治療は血漿交換が第一選択で、後天性では副腎皮質ステロイド、リツキシマブ、カプラシズマブ(VWFと血小板の結合を阻害する薬)などを併用する。血小板輸血は血栓形成を助長するおそれがあり、原則として避ける。 ・HUS(溶血性尿毒症症候群):志賀毒素産生性大腸菌(腸管出血性大腸菌O157など)感染に続発するものが典型で、溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害を3徴とする。補体制御異常による非典型HUS(aHUS)もある。 ・その他:造血幹細胞移植関連TMA、妊娠関連(HELLP症候群など)、悪性腫瘍関連、薬剤性TMA、悪性高血圧、強皮症腎クリーゼなど。
赤血球破砕症候群の主な原因
・心臓・大血管性:人工弁(特に弁周囲逆流を伴う場合)、高度の弁膜症、大動脈縮窄症、補助循環装置など ・微小血管性:TTP、HUS、播種性血管内凝固(DIC)、HELLP症候群、移植関連TMA、癌の微小血管転移、巨大血管腫(Kasabach-Merritt現象)など
溶血の場による整理
・血管内溶血が主体:発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、発作性寒冷血色素尿症、ABO不適合輸血、赤血球破砕症候群 ・血管外溶血が主体:遺伝性球状赤血球症、温式AIHA 血管内溶血ではハプトグロビンの著明な低下、ヘモグロビン尿、長期的にはヘモジデリン尿がみられる。
POINT
・赤血球破砕症候群=血管内で赤血球が物理的に壊される病態。破砕赤血球(schistocyte)と血管内溶血、直接Coombs試験陰性が特徴。 ・原因は心臓・大血管性(人工弁、弁膜症)と微小血管性(TTP、HUS、DICなどのTMA)。 ・TTPはADAMTS13活性著減→超高分子量VWF多量体→微小血管の血小板血栓。治療は血漿交換、血小板輸血は原則禁忌。 ・遺伝性球状赤血球症・温式AIHAは血管外溶血、発作性寒冷血色素尿症はDonath-Landsteiner抗体による補体性の血管内溶血で、いずれも破砕赤血球は特徴とならない。
