StudyMed医師国家試験

浮上の速さが骨まで壊す―窒素の泡で読み解く減圧症

第115回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第115回 A問題 第14問

 減圧症で認められるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.関節痛
  2. b.骨壊死
  3. c.骨髄炎
  4. d.半月板損傷
  5. e.離断性骨軟骨炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は減圧症で何がみられるかを問う問題だ。カギは、体内に溶けた窒素が泡になったとき、その泡が「痛み」と「虚血」の2つを起こすという視点。まずは減圧症がなぜ起こるのか、整理してみよう。
医学生医学生
潜水病のことですよね。深く潜ると水圧がかかって、体に窒素が溶け込む、というイメージです。
ドクタードクター
その通り。背景にあるのはHenryの法則で、液体に溶ける気体の量はその気体の分圧に比例する。水深10mごとに約1気圧ずつ圧が加わるから、潜水中は窒素分圧が上がり、血液や組織、とくに脂肪組織に窒素がたくさん溶け込むんだ。
医学生医学生
そこから急に浮上すると、炭酸飲料の栓を開けたときみたいに泡が出てくる、ということですか。
ドクタードクター
まさにそのたとえがぴったり。肺から窒素が抜けきる前に周囲の圧が下がると、組織や血管の中で気泡化する。気泡は組織を圧迫・伸展し、血管を塞いで虚血を起こし、さらに血小板や凝固系、炎症反応も活性化する。潜水だけでなく、圧気工事のケーソン内で働く人にも起こるからケーソン病ともよばれるよ。
医学生医学生
生理学の講義で気体の法則をやったときは、臨床にこうつながるとは思っていませんでした。
ドクタードクター
国試ではそこがよく問われるんだ。では症状にいこう。急性期で最も多い症状は何だと思う?
医学生医学生
関節が痛くなるのは聞いたことがあります。ベンズとよばれるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく知っているね。関節痛はベンズとよばれ、痛みをかばって関節を曲げた姿勢をとることが名前の由来とされる。肩・肘・膝などの大関節やその周囲に、浮上後数分〜数時間で深く鈍い痛みが出る。関節周囲の結合組織や骨髄内の気泡による伸展・圧迫や循環障害が原因と考えられている。関節痛や皮膚症状にとどまるものがⅠ型、つまり軽症型だ。
医学生医学生
もう一つの正解は骨壊死ですね。でも骨に泡がたまるというのが、いまひとつイメージできません。
ドクタードクター
骨髄の中には脂肪組織が多いよね。脂肪は窒素をよく溶かし込むから、気泡ができやすい。その気泡による塞栓や骨髄内圧の上昇で骨への血流が途絶え、虚血性に骨が壊死する。これが減圧性骨壊死で、繰り返し減圧にさらされる職業潜水士や圧気作業者に慢性期の障害として起こる。大腿骨頭や上腕骨頭など、長管骨の骨端・骨幹端が好発部位だ。
医学生医学生
整形外科の実習で大腿骨頭壊死の患者さんを担当したとき、原因にステロイドとアルコールが挙がっていました。減圧症もその仲間なんですね。
ドクタードクター
そう、特発性大腿骨頭壊死の鑑別を考えるときに職歴を聞く意味がそこにある。しかも急性の減圧症症状を自覚していなくても起こりうるので、作業者には定期的な画像検査による健診が行われるんだ。では、ほかの選択肢を見ていこう。骨髄炎はどうかな。
医学生医学生
骨に起こる病気なので一瞬迷いましたが、骨髄炎は細菌感染ですよね。泡で感染は起こらないと思います。
ドクタードクター
その通り。減圧症で骨に起こるのは感染を伴わない「無菌性」の骨壊死だ。半月板損傷や離断性骨軟骨炎はどう判断する?
医学生医学生
半月板損傷はひねりなどの外傷や加齢変性、離断性骨軟骨炎は野球肘の上腕骨小頭みたいに、成長期のスポーツで繰り返すストレスが原因でした。どちらも窒素の泡とは関係ないですね。
ドクタードクター
完璧だね。離断性骨軟骨炎は名前に「炎」がつくけれど感染性の炎症ではない、という点も覚えておこう。ここからは発展知識だ。重症のⅡ型では脊髄障害による対麻痺や膀胱直腸障害、めまいや難聴などの内耳障害、肺の気泡で胸痛や呼吸困難を起こすチョークスがみられる。
医学生医学生
治療は酸素でしょうか。
ドクタードクター
まず100%酸素吸入で吸入気から窒素をなくし、組織からの窒素の洗い出しを促す。根本的治療は高気圧酸素療法で、再圧によってBoyleの法則で気泡を縮め、同時に高濃度酸素で窒素排出と組織の酸素化を進める。それから、潜水後に飛行機に乗るとさらに周囲圧が下がって気泡化を助長するので、一定時間は搭乗を避けるよう指導するんだ。
医学生医学生
息を止めたまま急浮上して肺が破れる動脈ガス塞栓症とは、どう区別すればいいですか。
ドクタードクター
いい質問だ。あちらは肺の圧外傷で空気が動脈系に入り、浮上直後から数分以内に意識障害や片麻痺を起こす。溶けていた窒素の気泡化とは機序が違うけれど、どちらも高気圧酸素療法の適応になる。機序の違いと治療の共通点をセットで押さえておこう。
医学生医学生
泡が関節を押せば痛み、骨の血管を塞げば壊死。物理の法則から症状まで一本の線でつながりました。

まとめ

減圧症は、高圧下でHenryの法則に従って体内に溶け込んだ窒素が、急な減圧によって組織や血管内で気泡化し、障害を起こす疾患です。急性期には関節痛(ベンズ)が最も多く、重症型では脊髄障害、内耳障害、チョークスなどがみられます。慢性期には、窒素を多く溶かす骨髄脂肪内の気泡による虚血で、大腿骨頭や上腕骨頭などに無菌性の減圧性骨壊死が生じ、自覚症状がなくても起こりうるため健診が重要です。感染による骨髄炎や、外傷・スポーツ障害である半月板損傷・離断性骨軟骨炎は減圧症とは無関係です。治療は100%酸素吸入と高気圧酸素療法が柱であり、気体の物理法則から病態と治療を理解しておくことは、環境医学や職業性疾患の問題に広く応用できます。

解答・解説

正解はa, bです

減圧症(decompression sickness、DCS)は、高い圧力のかかった環境(潜水、圧気工事のケーソン内など)から急に圧力の低い環境へ戻ったときに、体内に溶け込んでいた不活性ガス(主に窒素)が気泡となって組織や血管内に現れ、さまざまな障害を起こす病気である。潜水病、ケーソン病ともよばれる。 機序の理解にはHenryの法則(液体に溶ける気体の量はその気体の分圧に比例する)が鍵となる。水深10mごとに約1気圧ずつ圧が加わるため、潜水中は呼吸する空気中の窒素分圧が高まり、血液や組織(とくに脂肪組織)に多量の窒素が溶け込む。浮上が速すぎると、溶けていた窒素が肺から十分に排出される前に周囲圧が下がり、炭酸飲料の栓を開けたときのように組織内や血管内で気泡化する。気泡は、①組織を物理的に圧迫・伸展する、②血管を塞いで虚血を起こす、③血小板・凝固系や炎症反応を活性化する、といった作用で障害を生じる。 症状は急性期と慢性期に分けて整理する。急性期には関節痛(ベンズ)が最も多く、重症例では脊髄障害などの神経症状や呼吸循環障害が出現する。慢性期の後遺症として、骨髄内の血流障害による無菌性の骨壊死(減圧性骨壊死)がある。本問は、気泡による「痛み」と「虚血」という二つの視点で選択肢を見ると正解にたどり着ける。

選択肢考察

  1. ○a.  関節痛

    関節痛は減圧症で最も多い症状で、英語でbends(ベンズ)とよばれる。患者が痛みをかばって関節を曲げた姿勢をとることが名称の由来とされる。肩・肘・膝などの大関節やその周囲に、浮上後数分〜数時間(多くは6時間以内、遅くとも24時間程度まで)で深く鈍い痛みが出現する。関節周囲の結合組織や腱、骨髄内に生じた窒素気泡による組織の伸展・圧迫や局所の循環障害が原因と考えられている。関節痛や皮膚症状(かゆみ、大理石様皮斑)にとどまるものはⅠ型(軽症型)に分類される。

  2. ○b.  骨壊死

    減圧に繰り返しさらされる職業潜水士や圧気作業者では、慢性期の障害として無菌性骨壊死(減圧性骨壊死、dysbaric osteonecrosis)が起こる。骨髄内の脂肪組織は窒素を多く溶かし込むため気泡が生じやすく、気泡による塞栓や骨髄内圧の上昇で骨への血流が途絶え、骨組織が虚血性に壊死する。好発部位は大腿骨頭、上腕骨頭、大腿骨遠位部・脛骨近位部などの長管骨の骨端・骨幹端である。関節近傍に生じると関節面が陥没して変形性関節症に進行することがある。急性の減圧症症状を自覚していなくても発症しうる点が重要で、定期的な画像検査による健診が行われる。

  3. ×c.  骨髄炎

    骨髄炎は細菌などの病原体が骨や骨髄に感染して起こる炎症である(血行性感染、開放骨折や手術後の直接感染など)。減圧症は気泡による物理的・虚血性の障害であり、感染を伴わないため骨髄炎は起こらない。減圧症で骨に生じるのは感染を伴わない「無菌性」の骨壊死である。

  4. ×d.  半月板損傷

    半月板損傷は、膝に体重がかかった状態でのひねり動作などの外傷や、加齢による変性を原因として生じる。疼痛、膝のひっかかり感(キャッチング)、ロッキング、関節水腫などを呈する。減圧に伴う気泡形成とは無関係である。

  5. ×e.  離断性骨軟骨炎

    離断性骨軟骨炎は、成長期のスポーツ選手などで、繰り返す力学的ストレスにより関節軟骨とその直下の骨が母床から分離する疾患である。野球肘における上腕骨小頭や、大腿骨内側顆が好発部位である。名称に「炎」とつくが感染性の炎症ではない。減圧症との関連はない。

減圧症の病型

・Ⅰ型(軽症型):関節痛(ベンズ)、皮膚症状(そう痒感、大理石様皮斑)、リンパ浮腫など ・Ⅱ型(重症型):中枢神経障害(とくに脊髄障害による対麻痺・感覚障害・膀胱直腸障害)、内耳障害(めまい、難聴)、肺の気泡による呼吸循環障害(チョークス:胸痛、咳、呼吸困難)など

慢性期の障害

・減圧性骨壊死(大腿骨頭、上腕骨頭などの無菌性骨壊死) ・脊髄障害などの神経後遺症

誘因・危険因子

急速な浮上、深く長い潜水、反復潜水、潜水後の飛行機搭乗や高所への移動(さらに周囲圧が下がるため気泡化が助長される)、脱水、疲労、肥満、寒冷、卵円孔開存(静脈側の気泡が動脈側へ移行しうる)など。潜水後は一定時間(目安として12〜24時間以上)飛行機搭乗を避けるよう指導される。

治療

・100%酸素吸入:吸入気から窒素をなくし、組織から窒素を洗い出す(窒素の分圧勾配を大きくする) ・高気圧酸素療法:再圧によって気泡を縮小させ(Boyleの法則)、同時に高濃度酸素で窒素排出と組織酸素化を促す。根本的治療である ・輸液による脱水補正

鑑別:動脈ガス塞栓症

息を止めたまま急浮上すると、肺内の空気が膨張して肺胞が破れ(肺の圧外傷)、空気が肺静脈から動脈系へ入って脳などに塞栓を起こす。浮上直後〜数分以内に意識障害や片麻痺などを起こす点で、溶存窒素の気泡化による減圧症とは機序が異なる。両者をまとめて減圧障害とよぶことがあり、いずれも高気圧酸素療法の適応となる。

POINT

・減圧症は、高圧下で体内に溶けた窒素が急な減圧で気泡化して起こる(Henryの法則)。 ・急性期:関節痛(ベンズ)が最多。重症型は脊髄障害、内耳障害、チョークス(呼吸循環障害)。 ・慢性期:減圧性骨壊死(大腿骨頭・上腕骨頭などの無菌性骨壊死)。 ・治療は100%酸素吸入と高気圧酸素療法。潜水後の飛行機搭乗は誘因となる。 ・骨髄炎(感染)、半月板損傷・離断性骨軟骨炎(外傷・スポーツ障害)は無関係。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。