StudyMed医師国家試験

喫煙者の肺癌400名、すべてがタバコのせい?―集団寄与危険度で「防げた罹患」を数える

第114回医師国家試験 F問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第49問

ある地域における住民の肺癌罹患数は1年間に800名であり,この地域の住民の喫煙率は20%である。喫煙による肺癌罹患の相対危険度は4倍である。  この地域の住民において能動喫煙により増加したと考えられる肺癌の罹患数はどれか。

  1. a.200
  2. b.240
  3. c.300
  4. d.400
  5. e.450

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は疫学の計算問題だ。テーマは「地域全体の肺癌のうち、喫煙がなければ起こらなかった分はどれだけか」。使う材料は喫煙率と相対危険度の2つだけ。ここで大事なのは、喫煙者の肺癌がすべて喫煙のせいではない、という視点なんだ。まずはどう考える?
医学生医学生
相対危険度が4倍なので、喫煙者の肺癌のうち4分の3が喫煙のせい、という感じでしょうか。でも喫煙者が何人肺癌になったのかがわからないです。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。まず喫煙者と非喫煙者の罹患数に分けるところから始めよう。非喫煙者の罹患率を基準の1とすると、喫煙者は4。人口の比は非喫煙者が8割、喫煙者が2割、つまり4対1だ。罹患数は人口と罹患率の掛け算だから、どうなる?
医学生医学生
非喫煙者は4×1で4、喫煙者は1×4で4。罹患数は同じ4対4になるんですね、意外です。
ドクタードクター
そう。合わせて8マスが800名だから、1マスは100名。非喫煙者から400名、喫煙者から400名の肺癌が出ていることになる。
医学生医学生
じゃあ答えは喫煙者の400名ですか?
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だよ。喫煙者だって、もしタバコを吸っていなかったとしても非喫煙者と同じ率では肺癌になる。喫煙者の4マスのうち1マス、つまり100名は喫煙と関係なく生じた分なんだ。
医学生医学生
なるほど、だから400から100を引いて300名。喫煙で増えたのはその300名なんですね。
ドクタードクター
その通り、正解は300名だ。400名と答えるのは喫煙者の肺癌の総数をそのまま答えてしまった誤り。200名や240名、450名は掛け方や割合の見積もりを誤ると出てくる値で、きちんと分けて考えれば300名に落ち着く。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習ったLevinの式でも解けますか。式だけ丸暗記していて、ちょっと自信がないんですが。
ドクタードクター
もちろん。曝露者割合をP、相対危険度をRRとすると、集団寄与危険度割合はP(RR−1)を1+P(RR−1)で割ったものだ。0.2×3で0.6、分母は1.6だから8分の3。800名に掛けると300名で、マスの考え方と一致する。
医学生医学生
分母の1.6は、集団全体の罹患率が非喫煙者の1.6倍という意味ですね。
ドクタードクター
よく読み取れたね。集団全体の罹患率から非喫煙者の罹患率を引いたものが集団寄与危険度で、それを集団全体の罹患率で割ったのが集団寄与危険度割合。式の意味がわかっていれば、忘れても自分で組み立て直せるよ。
医学生医学生
さっき最初に言った「4分の3」は何だったんでしょう。
ドクタードクター
それは曝露群寄与危険度割合、つまり(RR−1)/RRで、喫煙者の罹患のうち喫煙によるものの割合だ。喫煙者400名の4分の3で300名となり、ちゃんと同じ答えになる。対象が喫煙者だけか、集団全体かの違いだね。CBTでも国試でもこの2つの混同はよく狙われるよ。
医学生医学生
相対危険度、寄与危険度、寄与危険度割合、集団寄与危険度……似た名前が多くて混乱しそうです。
ドクタードクター
整理のコツは「比か差か」と「誰を分母にするか」。相対危険度は比で関連の強さ、寄与危険度は差で曝露者に上乗せされたリスク、集団寄与危険度割合は集団全体で曝露をなくせば防げる割合だ。公衆衛生の現場で施策の効果を見積もるときに使うのは、最後の集団寄与危険度割合なんだ。
医学生医学生
相対危険度がすごく大きい要因から対策すればいいわけではない、ということですか。
ドクタードクター
まさにそこが応用のポイント。相対危険度が大きくても曝露者がごく少なければ集団への影響は小さいし、相対危険度がそこそこでも曝露者が多ければ防げる罹患は大きくなる。喫煙対策が重視されるのは、関連の強さと曝露の多さの両方があるからなんだよ。

まとめ

喫煙による過剰罹患数は、喫煙者の罹患数から「喫煙者が非喫煙者と同じ率で罹患した場合の罹患数」を差し引いて求めます。本問では喫煙者と非喫煙者がともに400名ずつ罹患し、喫煙者のうち100名は喫煙がなくても生じた分なので、喫煙による増加は300名です。Levinの式による集団寄与危険度割合P(RR−1)/{1+P(RR−1)}=3/8を全罹患数800名に掛けても同じ結果になり、曝露群寄与危険度割合(RR−1)/RR=3/4と混同しないことが重要です。集団寄与危険度は相対危険度だけでなく曝露の頻度にも左右されるため、公衆衛生施策の優先順位を考えるうえで欠かせない指標です。

解答・解説

正解はcです

問われていること

地域全体の肺癌罹患800名のうち、「喫煙がなければ発生しなかった」と考えられる分、すなわち喫煙による過剰罹患数を求める問題である。これは集団寄与危険度(population attributable risk:集団全体で曝露によって増えた罹患)と、その割合である集団寄与危険度割合(population attributable fraction:PAF)の考え方で解く。

解法1:人数を割り振って考える

非喫煙者の肺癌罹患率をI0とし、住民数をNとおく。 ・喫煙者:0.2N人、罹患率は相対危険度4倍なので4×I0  → 罹患数 = 0.2N × 4I0 = 0.8N・I0 ・非喫煙者:0.8N人、罹患率I0  → 罹患数 = 0.8N × I0 = 0.8N・I0 合計 = 1.6N・I0 = 800名 より、N・I0 = 500名となる。 したがって、喫煙者からの罹患は 0.8 × 500 = 400名、非喫煙者からの罹患も400名である。 もし喫煙者が喫煙していなかったら、喫煙者0.2N人の罹患率もI0のはずなので、罹患数は 0.2 × 500 = 100名にとどまる。 よって喫煙によって増えた罹患数 = 400 − 100 = 300名である。

解法2:集団寄与危険度割合の公式を使う

曝露者割合をP、相対危険度をRRとすると、Levin(レビン)の式より PAF = P(RR − 1) / {1 + P(RR − 1)}   = 0.2 × (4 − 1) / {1 + 0.2 × (4 − 1)}   = 0.6 / 1.6 = 3/8 これは、集団全体の罹患率It = I0 × {P × RR + (1 − P)} = I0 × (0.8 + 0.8) = 1.6I0 を用いて、PAF = (It − I0) / It = (1.6 − 1) / 1.6 = 3/8 と求めるのと同じである。 喫煙による過剰罹患数 = 800 × 3/8 = 300名となる。

図でイメージする

非喫煙者の罹患を基準に「1マス」とすると、人口割合が非喫煙者:喫煙者 = 4:1、罹患率が1:4なので、罹患数は非喫煙者4マス、喫煙者4マスで計8マス = 800名、1マス = 100名となる。喫煙者の4マスのうち1マスは喫煙しなくても生じた分であり、残り3マス(300名)が喫煙による増加分である。

選択肢考察

  1. ×a.  200

    計算上の過剰罹患数300名と一致しない。曝露者割合と相対危険度の掛け合わせ方を誤ると得られる値であり、誤りである。

  2. ×b.  240

    800 × 0.2 × (4 − 1) / ... と分母の補正を欠いた計算や、全罹患数に単純に割合を掛けるなどの誤った方法で得られうる値であり、正しい過剰罹患数300名とは異なる。

  3. ○c.  300

    喫煙者からの罹患400名のうち、喫煙していなくても生じたはずの100名を差し引いた300名が喫煙による増加分である。集団寄与危険度割合3/8を全罹患数800名に掛けても300名となり、一致する。

  4. ×d.  400

    400名は喫煙者から発生した肺癌の総数である。喫煙者であっても喫煙がなければ非喫煙者と同じ率(100名分)で罹患するため、その分を差し引く必要がある。差し引かずに答えた誤りである。

  5. ×e.  450

    全罹患数のうち喫煙による割合を誤って大きく見積もった値であり、正しい過剰罹患数300名と一致しない。

疫学で用いるリスク指標の整理

・相対危険度(RR)= 曝露群の罹患率 / 非曝露群の罹患率。曝露と疾病の関連の強さを示す。 ・寄与危険度(AR、リスク差)= 曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率。曝露者において曝露によって増えた罹患率。 ・寄与危険度割合(曝露群寄与危険度割合)= (曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率) / 曝露群の罹患率 = (RR − 1) / RR。曝露者の罹患のうち曝露によるものの割合。本問ではRR = 4なので3/4となり、喫煙者からの罹患400名のうち300名が喫煙によるものという結果と一致する。 ・集団寄与危険度(PAR)= 集団全体の罹患率 − 非曝露群の罹患率。 ・集団寄与危険度割合(PAF)= PAR / 集団全体の罹患率 = P(RR − 1) / {1 + P(RR − 1)}。集団全体の罹患のうち、曝露をなくせば防げる割合を示し、公衆衛生施策の効果の見積もりに用いられる。

ポイントとなる考え方

相対危険度が大きくても、曝露者の割合が小さければ集団への影響(PAF)は小さくなる。逆に、相対危険度がそれほど大きくなくても曝露者が多ければ、集団全体で防げる罹患は大きくなる。施策の優先順位を考える際には、RRだけでなく曝露の頻度も考慮する必要がある。

POINT

・喫煙による過剰罹患数 = 喫煙者の罹患数 − 喫煙者が非喫煙者と同じ率で罹患した場合の罹患数。 ・集団寄与危険度割合 PAF = P(RR − 1) / {1 + P(RR − 1)}(Levinの式)。 ・本問:PAF = 0.6/1.6 = 3/8、800 × 3/8 = 300名。 ・曝露群寄与危険度割合は (RR − 1)/RR(本問では3/4)であり、集団寄与危険度割合と混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。