StudyMed医師国家試験

右心から左心をのぞく窓―Swan-Ganzカテーテルで測れるもの・測れないもの

第114回医師国家試験 F問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第32問

心臓手術後の胸部エックス線写真を別に示す。  矢印のカテーテルで測定するのはどれか。2つ選べ。

第114回 F問題 第32問の問題画像
  1. a.左室圧
  2. b.心拍出量
  3. c.大動脈圧
  4. d.肺静脈圧
  5. e.肺動脈楔入圧

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心臓手術後の胸部エックス線写真に写るライン類のうち、矢印のカテーテルが何かを見抜き、それで何が測定できるかを問う問題だ。カギはカテーテルの「通り道」。写真では頸部の静脈から上大静脈に入り、右房・右室を経て肺動脈へ先端が進んでいる。この走行から何のカテーテルかわかるかな。
医学生医学生
静脈から入って肺動脈まで届いているので、Swan-Ganzカテーテルでしょうか。
ドクタードクター
正解。肺動脈カテーテルとも呼ばれる右心カテーテルだ。ここからの考え方は2本立て。ひとつは、通り道にある右房・右室・肺動脈の圧は直接測れること。もうひとつは、通り道にない左心系の圧は直接は測れないことだ。
医学生医学生
そうすると左室圧と大動脈圧は測れない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。左室も大動脈も動脈側にあるから、静脈側から右心系を通るこのカテーテルは届かない。左室圧は橈骨動脈や大腿動脈から大動脈を逆行させ、大動脈弁を越えて左室にカテーテルを進める左心カテーテル検査で測定する。大動脈圧なら、臨床では橈骨動脈などに留置した動脈ラインで連続的にモニターするのが一般的だ。
医学生医学生
ICU実習で、術後の患者さんに動脈ラインとSwan-Ganzの両方が入っていたのを思い出しました。役割が違うんですね。
ドクタードクター
そう、それぞれ見ているものが違うんだ。では肺動脈楔入圧はどうだろう。
医学生医学生
楔入圧は左房圧を反映すると習いましたが、左心系は測れないはずなのにどうして測れるのか、少し混乱しています。
ドクタードクター
いい疑問だね。Swan-Ganzカテーテルの先端にはバルーンが付いている。肺動脈でバルーンを膨らませると、カテーテルは血流に乗って末梢へ流され、同じくらいの太さの肺動脈枝にはまり込んで血流を止める。すると先端より先は流れのない血液の柱になり、肺毛細血管・肺静脈を介して左房の圧がそのまま伝わってくる。これが肺動脈楔入圧だ。測っているのはあくまで肺動脈の先端の圧だけど、左房圧の近似値として使えるわけだ。
医学生医学生
右心側にいながら、左心の前負荷をのぞけるということですね。じゃあ肺静脈圧も同じ理屈で測れることになりませんか。
ドクタードクター
そこが迷いどころだね。楔入圧は肺静脈圧や左房圧を近似的に反映する値ではあるけれど、カテーテル先端は肺静脈には届かないから、肺静脈圧を直接測定しているわけではない。このカテーテルで「測定する」項目として挙げるなら肺動脈楔入圧のほうだ。
医学生医学生
間接的に推定できることと、そのカテーテルで測定する値とは分けて考えるんですね。では心拍出量はどうやって測るんでしょうか。
ドクタードクター
熱希釈法を使う。右房付近に開口する近位側の孔から冷たい生理食塩水を一定量すばやく注入すると、冷やされた血液が右室を経て肺動脈へ流れていく。先端近くのサーミスタという温度センサーがその温度変化を記録し、温度変化曲線の面積から心拍出量を計算するんだ。心拍出量が多いほど冷えた血液が速く薄まるから、曲線の面積は小さくなる。
医学生医学生
生理学の実習でやった指示薬希釈法の、指示薬の代わりに「冷たさ」を使うイメージですね。答えは心拍出量と肺動脈楔入圧の2つになります。
ドクタードクター
正解だ。ほかにもこのカテーテルでは、右房圧つまり中心静脈圧、右室圧、肺動脈圧、それに肺動脈血から混合静脈血酸素飽和度も得られる。これらを組み合わせれば体血管抵抗や肺血管抵抗も計算できる。
医学生医学生
心拍出量と楔入圧と聞くと、CBTの勉強で覚えたForrester分類が浮かびます。
ドクタードクター
よくつながったね。急性心筋梗塞後の心不全の評価に使う分類で、肺動脈楔入圧18mmHgと心係数2.2L/分/m2を境に4群に分ける。楔入圧が高ければ肺うっ血、心係数が低ければ末梢循環不全と考え、うっ血だけなら利尿薬や血管拡張薬、循環不全だけなら輸液、両方なら強心薬や補助循環を検討する。まさにこのカテーテルで得られる2つの指標で成り立っている分類だ。
医学生医学生
臨床で注意することはありますか。
ドクタードクター
留置後の胸部エックス線写真で、先端が末梢に入り込みすぎていないかを必ず確認すること。先端が深く入ったまま、あるいはバルーンを膨らませたまま放置すると、肺梗塞や肺動脈破裂という重大な合併症につながりうる。楔入圧を測ったらバルーンはしぼませる、が基本だよ。

まとめ

静脈から右房・右室を通って肺動脈に留置されるSwan-Ganzカテーテルは、通り道にある右房圧・右室圧・肺動脈圧を直接測定できるほか、先端のバルーンを楔入させて左房圧を近似的に反映する肺動脈楔入圧を、先端近くのサーミスタを用いた熱希釈法で心拍出量を測定できます。左室圧や大動脈圧は動脈側から入る左心カテーテルや動脈ラインで測るもので、肺静脈圧も楔入圧から推定はできても直接は測定できません。肺動脈楔入圧と心係数はForrester分類の2軸であり、心不全の病態把握や治療方針の決定に直結します。留置後は胸部エックス線写真で先端位置を確認し、肺梗塞や肺動脈破裂を防ぐことが重要です。カテーテルの走行から「何が測れて何が測れないか」を考える習慣は、ICUや術後管理での循環動態の理解に欠かせません。

解答・解説

正解はb, eです

心臓手術後の患者では、循環動態を細かく把握するために、術後の胸部エックス線写真で様々なライン類が写っている。本問の矢印のカテーテルは、頸部(内頸静脈など)から上大静脈に入り、右房・右室を通過して肺動脈へ先端が進んでいる。このように静脈側から右心系を通って肺動脈に留置されるのは、肺動脈カテーテル、すなわちSwan-Ganz(スワン・ガンツ)カテーテルである。 設問は「このカテーテルで何が測れるか」を問うている。考え方の軸は次の2点である。 ①カテーテルの通り道(右房・右室・肺動脈)にある部位の圧は直接測定できる。 ②通り道にない左心系(左室・大動脈など)の圧は直接は測れない。ただし、先端のバルーンを膨らませて肺動脈の末梢枝に楔入(wedge)させると、カテーテル先端から先の血流が止まり、肺毛細血管・肺静脈を介して左房圧を間接的に反映する肺動脈楔入圧(PCWP:pulmonary capillary wedge pressure)が得られる。 さらに、Swan-Ganzカテーテルには先端近くにサーミスタ(温度センサー)が付いており、熱希釈法による心拍出量の測定が可能である。したがって、本カテーテルで測定する項目として、心拍出量と肺動脈楔入圧を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  左室圧

    誤り。左室は動脈側からアプローチする左心系の部屋であり、静脈側から右心系を通って肺動脈に留置されるSwan-Ganzカテーテルは左室に到達しない。左室圧は、大腿動脈や橈骨動脈から大動脈を逆行させて大動脈弁を越え、左室内にカテーテルを進める左心カテーテル検査で直接測定する。なお、肺動脈楔入圧からは左室拡張末期圧をおおまかに推定できるが、左室圧そのもの(特に収縮期圧)は測定できない。

  2. ○b.  心拍出量

    正しい。Swan-Ganzカテーテルでは熱希釈法で心拍出量を測定する。右房付近に開口する近位側の注入孔から、冷たい(または室温の)生理食塩水を一定量(通常10mL程度)急速に注入すると、血液が冷やされた状態で右室を経て肺動脈へ流れる。カテーテル先端付近のサーミスタがこの血液温の変化を記録し、温度変化曲線の面積から心拍出量を計算する(心拍出量が多いほど冷却された血液が速く薄まり、曲線の面積は小さくなる)。持続的に心拍出量を測定できるタイプのカテーテルもある。

  3. ×c.  大動脈圧

    誤り。大動脈は左室から血液が駆出される体循環側の血管であり、右心系・肺動脈を通るSwan-Ganzカテーテルでは測定できない。臨床では、橈骨動脈などに留置した動脈ラインで観血的動脈圧として連続測定するか、左心カテーテル検査で大動脈起始部の圧を測定する。

  4. ×d.  肺静脈圧

    誤り。肺静脈は肺で酸素化された血液を左房へ戻す血管であり、Swan-Ganzカテーテルの先端はそこまで到達しないため、肺静脈圧を直接測定することはできない。肺動脈楔入圧は、楔入部位から先の血流が止まった静止した血液柱を介して肺静脈圧・左房圧を近似的に反映する値ではあるが、あくまで間接的な推定値である。本カテーテルで「測定する」項目としては肺動脈楔入圧が該当し、肺静脈圧は該当しない。

  5. ○e.  肺動脈楔入圧

    正しい。Swan-Ganzカテーテルの先端にはバルーンが付いている。肺動脈内でバルーンを膨らませると、カテーテルは血流に乗って末梢へ流され、自身の径と同じ太さの肺動脈枝にはまり込んで(楔入して)血流を遮断する。このとき先端孔で測定される圧が肺動脈楔入圧である。遮断部位より先は血流がないため、先端の圧は肺毛細血管・肺静脈を介して左房圧とほぼ等しくなり、さらに僧帽弁に狭窄がなければ左室拡張末期圧の目安にもなる。左心系の前負荷(うっ血の程度)を右心カテーテルで評価できる点が大きな利点である。正常値はおおむね6〜12mmHgで、18mmHgを超えると肺うっ血の指標となる。

Swan-Ganzカテーテル(肺動脈カテーテル)で得られる主な情報

・中心静脈圧/右房圧(CVP/RAP):近位孔で測定。右心系の前負荷の指標。 ・右室圧:挿入時に先端が右室を通過する際に測定。 ・肺動脈圧(PAP):先端孔で測定。肺高血圧の評価に用いる。 ・肺動脈楔入圧(PCWP):バルーンを膨らませて測定。左房圧≒左室拡張末期圧を反映し、左心系の前負荷の指標となる。 ・心拍出量(CO):熱希釈法で測定。体表面積で割ると心係数(CI)になる。 ・混合静脈血酸素飽和度(SvO2):肺動脈血を採取または光ファイバーで連続測定。全身の酸素需給バランスの指標。 ・これらから体血管抵抗・肺血管抵抗も計算できる。

Forrester分類

急性心筋梗塞後の心不全の血行動態評価に用いる分類で、肺動脈楔入圧18mmHgと心係数2.2L/分/m2を境界として4群に分ける。 ・I群:PCWP≦18、CI>2.2(正常)→経過観察、必要に応じて鎮静など ・II群:PCWP>18、CI>2.2(肺うっ血のみ)→利尿薬・血管拡張薬 ・III群:PCWP≦18、CI≦2.2(末梢循環不全・脱水)→輸液 ・IV群:PCWP>18、CI≦2.2(肺うっ血+末梢循環不全)→強心薬、補助循環など この分類はSwan-Ganzカテーテルで得られる2つの指標(PCWPとCI)で成り立っており、本問の正解選択肢と直結する知識である。

右心カテーテルと左心カテーテル

・右心カテーテル:静脈(内頸静脈、大腿静脈、鎖骨下静脈など)から挿入し、右房→右室→肺動脈へ進める。Swan-Ganzカテーテルはベッドサイドでも挿入でき、ICUでの循環管理に用いられる。 ・左心カテーテル:動脈(橈骨動脈、大腿動脈など)から挿入し、大動脈→左室へ進める。左室圧・大動脈圧の測定、左室造影、冠動脈造影などに用いる。

胸部エックス線写真での確認

留置後は、カテーテル先端が肺門部から大きく外れた末梢に入り込みすぎていないかを確認する。先端が末梢に入りすぎたまま、あるいはバルーンを膨らませたまま放置すると、肺梗塞や肺動脈破裂の原因となる。

POINT

・Swan-Ganzカテーテル:静脈から右房→右室→肺動脈に留置する右心カテーテル ・測定できるもの:右房圧(CVP)、右室圧、肺動脈圧、肺動脈楔入圧、心拍出量(熱希釈法)、混合静脈血酸素飽和度 ・肺動脈楔入圧≒左房圧≒左室拡張末期圧(左心系の前負荷を間接的に評価) ・左室圧・大動脈圧は左心カテーテル(動脈側)で測定する ・PCWP 18mmHgとCI 2.2L/分/m2でForrester分類

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。