StudyMed医師国家試験

42兆円の中身を読む―国民医療費は「治療の費用」の統計である

第114回医師国家試験 F問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第24問

28年度の国民医療費について正しいのはどれか。

  1. a.予防接種の費用を含む。
  2. b.生活保護による医療扶助費は含まれない。
  3. c.国民医療費の総額は40兆円を超えている。
  4. d.65歳以上の入院医療費が50%以上を占める。
  5. e.受診1日あたりの単価が最も高いのは75歳以上の入院医療費である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は国民医療費の問題だ。押さえるべきは2つ。どんな費用が含まれるかという定義と、平成28年度の主な数値。とくに定義は「傷病の治療のための費用か」という1本の物差しで判断できるから、そこを意識してほしい。
医学生医学生
公衆衛生の講義で出てきましたが、数字が多くて苦手です。まず予防接種は、医療機関で打つので含まれる気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが典型的な誤解だね。国民医療費はその年度に医療機関などで傷病の治療に要した費用を推計したもの。予防接種は病気になる前の予防だから含まれない。健康診断や人間ドック、正常な妊娠・分娩も同じ理由で対象外だ。
医学生医学生
正常分娩が入らないのは意外でした。産婦人科の実習で分娩に立ち会ったので、医療の一部という感覚がありました。
ドクタードクター
臨床の感覚とは少しずれるよね。正常分娩は病気ではないので保険診療の対象外、だから国民医療費にも入らない。ほかにも差額ベッド代、先進医療などの自費部分、美容整形、市販薬の購入費、介護保険のサービスも含まれない。
医学生医学生
では、生活保護の医療扶助はどうでしょう。保険料ではなく税金から出ているので、別枠なのかと思いました。
ドクタードクター
いい疑問だ。でも判断の基準は誰が払ったかではなく、治療の費用かどうか。医療扶助は受給者の傷病の治療に対する給付だから、公費負担医療給付分として含まれる。医療保険の給付、後期高齢者医療の給付、患者の自己負担も、財源を問わず全部入るんだ。
医学生医学生
なるほど、財源ではなく中身で決まるんですね。だとすると数値の問題が残ります。総額はどのくらいでしたか。
ドクタードクター
平成28年度は約42兆1千億円。前年度より0.5%減ったけれど、40兆円は超えている。だから総額が40兆円を超えているという記述が正解だ。
医学生医学生
減ったのは珍しいですね。高齢化でずっと増えているイメージでした。
ドクタードクター
前年度に高額なC型肝炎治療薬の使用が急増した反動と、薬価改定の影響と言われている。流れとしては増加が続いていて、平成25年度に初めて40兆円を超え、令和4年度には46兆円台に達した。令和2年度は新型コロナの流行による受診控えで一時的に減っている。国民1人当たりは平成28年度で約33万2千円、対GDP比は約7.8%だ。
医学生医学生
高齢者の割合も聞かれますよね。65歳以上が半分以上というのは正しそうに感じますが。
ドクタードクター
そこが落とし穴の選択肢だ。65歳以上は入院・外来・歯科・薬局調剤などを全部合わせると総額の約6割を占める。でも医科入院医療費は総額の4割弱にすぎず、そのうち65歳以上の入院分に限ると総額の約26%程度になる。全体に占める割合なのか、入院に限った割合なのかを区別しないと引っかかるよ。
医学生医学生
「65歳以上の医療費」と「65歳以上の入院医療費」をすり替えているんですね。最後の、1日当たり単価が最も高いのは75歳以上の入院というのはどうですか。
ドクタードクター
1人当たり医療費は高齢になるほど高いけれど、それは受診回数や入院日数が多いからなんだ。入院の1日当たり単価で見ると、最も高いのは0〜4歳の乳幼児。NICUでの管理や手術など、密度の高い医療が短期間に集中するためと考えられる。高齢者の入院は長くなりやすく、1日に直すとむしろ単価は低めになる。
医学生医学生
小児科の実習でNICUを見学したとき、医療機器の多さに驚きました。単価が高いのも納得です。
ドクタードクター
実感と結びつけると覚えやすいね。財源の構成もついでに押さえておこう。おおよそ保険料が5割、公費が4割、患者負担が1割強だ。数字は年度ごとに更新されるから、本番前には最新の統計にも目を通しておくといい。
医学生医学生
定義は「治療かどうか」で判断して、数値は総額・1人当たり・高齢者の割合を区分ごとに覚える、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。医療費の統計は医療政策や診療報酬の議論の土台になるから、医師として働きはじめてからも役立つ知識だよ。

まとめ

国民医療費は、その年度に傷病の治療に要した費用の推計であり、医療保険・公費負担医療・患者負担など財源を問わず含まれるため、生活保護の医療扶助も対象となります。一方、予防接種や健康診断、正常な妊娠・分娩、差額ベッド代、介護保険サービスなど、治療でないものや保険診療の対象外のものは含まれません。平成28年度の総額は約42.1兆円で前年度からわずかに減少したものの40兆円を上回っており、65歳以上は総額の約6割を占めますが、入院医療費に限ると約4分の1にとどまります。入院1日当たりの単価は乳幼児が最も高いなど、割合や単価がどの区分を指しているかを読み分けることが、統計問題を正確に解き、医療政策を理解する基本となります。

解答・解説

正解はcです

国民医療費は厚生労働省が毎年度推計している統計で、その年度内に医療機関などで「傷病の治療」に要した費用を合計したものである。本問は、国民医療費にどの費用が含まれるかという範囲(定義)の知識と、平成28年度(2016年度)の主要な数値の知識を組み合わせて問うている。

範囲の考え方

判断の基準は「傷病の治療のための費用か」と「保険診療の対象となる費用か」である。治療費であれば、医療保険・公費負担医療・患者の自己負担のどこから支払われたかを問わず含まれる。そのため、生活保護の医療扶助のような公費による治療費も含まれる。一方、予防(予防接種・健診)、正常な妊娠・分娩、保険の対象外となる費用(差額ベッド代など)、介護保険サービスは含まれない。

平成28年度の主な数値

総額は42兆1,381億円で、前年度より0.5%減少した。前年度に高額なC型肝炎治療薬の使用が急増した反動と、薬価改定の影響による。国民医療費は平成25年度に初めて40兆円を超えており、平成28年度の減少後も40兆円を上回っている。国民1人当たりは約33万2千円、国内総生産(GDP)に対する比率は約7.8%、国民所得に対する比率は約10.8%であった。 年齢階級別では、65歳以上が総額の約6割を占める。ただし、これは入院・外来・歯科・薬局調剤などをすべて合わせた割合である。診療種類別にみると、医科入院医療費は総額の4割弱にとどまる。数値を読むときは「全体に占める割合」なのか「ある区分に限定した割合」なのかを区別することが重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  予防接種の費用を含む。

    国民医療費の対象は傷病の治療に要した費用に限られる。予防接種は病気にかかる前の予防を目的とするため含まれない。同じ理由で、健康診断や人間ドックの費用、正常な妊娠・分娩の費用も対象外である。

  2. ×b.  生活保護による医療扶助費は含まれない。

    国民医療費は、誰が費用を支払ったかではなく、傷病の治療費かどうかで範囲が決まる。生活保護法に基づく医療扶助は生活保護受給者の傷病の治療に対する給付であり、公費負担医療給付分として国民医療費に含まれる。公害健康被害の補償による医療給付なども同様に含まれる。したがって「含まれない」とする記述は誤りである。

  3. ○c.  国民医療費の総額は40兆円を超えている。

    平成28年度の国民医療費は42兆1,381億円であった。前年度比0.5%減と一時的に減少したが、40兆円は上回っている。国民医療費は高齢化と医療の高度化を背景に増加を続けており、平成25年度に初めて40兆円を超えた。その後も増加傾向が続き、令和4年度(2022年度)には46兆円台に達している。

  4. ×d.  65歳以上の入院医療費が50%以上を占める。

    65歳以上の医療費は、入院・外来などをすべて合わせると国民医療費の約6割を占める。しかし、医科入院医療費は国民医療費全体の4割弱である。そのうち65歳以上の入院分に限ると、総額に対する割合は約26%にとどまる。「65歳以上の医療費全体」と「65歳以上の入院医療費」を混同させる選択肢であり、50%以上とする記述は誤りである。

  5. ×e.  受診1日あたりの単価が最も高いのは75歳以上の入院医療費である。

    1人当たりの医療費は高齢になるほど高い。これは受診回数や入院日数が多いためであり、受診1日当たりの単価が高いからではない。入院の1日当たり単価は0〜4歳の乳幼児で最も高い。新生児集中治療室(NICU)での管理や手術など、密度の高い医療が短期間に集中するためと考えられる。高齢者の入院は長期化しやすく、1日当たりに直すと単価はむしろ低めになる。

国民医療費に含まれるもの

・医科診療(入院・入院外)、歯科診療の医療費 ・薬局調剤医療費 ・入院時食事・生活医療費 ・訪問看護医療費 ・療養費等(柔道整復師やはり・きゅう師による施術費、補装具など保険給付の対象となるもの、移送費など) ・財源を問わない:医療保険の給付、公費負担医療(生活保護の医療扶助など)、後期高齢者医療の給付、患者の一部負担

国民医療費に含まれないもの

・予防にかかる費用:予防接種、健康診断、人間ドック ・正常な妊娠・分娩の費用 ・保険診療の対象外:入院時の室料差額(差額ベッド代)、歯科の差額、先進医療などの自費部分、美容整形 ・介護保険法による介護サービスの費用 ・市販薬(OTC医薬品)の購入費

平成28年度の主な数値

・総額:42兆1,381億円(前年度比0.5%減) ・国民1人当たり:約33万2千円 ・対GDP比:約7.8%、対国民所得比:約10.8% ・65歳以上の割合:総額の約6割 ・財源別:保険料が約5割、公費が約4割、患者負担が約1割強

近年の動向

国民医療費は令和2年度に新型コロナウイルス感染症の流行による受診控えで一時的に減少したが、その後は再び増加に転じた。令和4年度は46兆6,967億円、国民1人当たり約37万円、対GDP比は約8.2%である。

POINT

・国民医療費=その年度に「傷病の治療」に要した費用の推計。 ・予防接種・健診・正常分娩・差額ベッド代・介護保険サービスは含まない。 ・生活保護の医療扶助などの公費負担医療、患者の自己負担分は含む。 ・平成28年度は約42.1兆円で、40兆円超えは平成25年度から。 ・65歳以上は医療費全体の約6割を占めるが、65歳以上の入院医療費に限れば約1/4。 ・入院1日当たりの単価は乳幼児(0〜4歳)が最も高い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。