項部硬直がなくても油断禁物―jolt accentuationが告げる髄膜炎と腰椎穿刺の意義
第114回医師国家試験 E問題 第33問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。発熱と頭痛を主訴に来院した。昨日から38℃の発熱,頭痛および頻回の嘔吐があり受診した。鼻汁,咽頭痛,咳嗽および排尿時痛はいずれも認めない。意識は清明。身長155cm,体重48kg。体温39.6℃。脈拍104/分,整。血圧108/50mmHg。呼吸数22/分。SpO2 99%(room air)。頸部リンパ節腫脹を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。背部に叩打痛を認めない。項部硬直とKernig徴候を認めないがjolt accentuationを認める。尿所見:蛋白(-),糖(-),ケトン体(-),潜血(-),白血球(-)。血液所見:赤血球440万,Hb 13.0g/dL,Ht 44%,白血球3,600(桿状核好中球9%,分葉核好中球55%,好酸球3%,好塩基球2%,単球4%,リンパ球27%),血小板14万。血液生化学所見:尿素窒素26mg/dL,クレアチニン1.1mg/dL,Na 135mEq/L,K 4.1mEq/L,Cl 93mEq/L。CRP 0.3mg/dL。血液培養の検体を採取し,抗菌薬治療を開始した。 次に行うべきなのはどれか。
- a.尿培養
- b.便培養
- c.咽頭培養
- d.喀痰培養
- e.腰椎穿刺
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発熱・頭痛・嘔吐があり、尿路・消化管・上気道・下気道などに感染巣を示す所見がない場合は髄膜炎を疑い、腰椎穿刺による髄液検査で確定と病型鑑別を行います。項部硬直やKernig徴候は特異度は高いものの感度が低く、陰性でも髄膜炎は否定できず、感度が高いとされるjolt accentuationの陽性は重要な手がかりです。細菌性髄膜炎が疑われる場合は血液培養採取後に抗菌薬を遅らせず開始し、抗菌薬投与後であっても髄液の細胞数・蛋白・糖やグラム染色、PCRは診断と治療方針の決定に役立ちます。意識障害や局所神経症状、乳頭浮腫、免疫不全などがあれば穿刺前に頭部CTを行います。身体所見の感度・特異度を理解し、症状のある臓器に的を絞って検査を選ぶ姿勢は、救急診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・23歳女性。前日からの発熱(来院時39.6℃)、頭痛、頻回の嘔吐という急性の経過である。 ・鼻汁・咽頭痛・咳嗽がなく、上気道・下気道の感染を示す症状はない。排尿時痛や背部(肋骨脊柱角)の叩打痛もなく、尿所見も正常であり、膀胱炎や腎盂腎炎は考えにくい。腹部所見にも異常がなく、下痢などの消化器症状の記載もない。 ・項部硬直とKernig徴候は認めないが、jolt accentuation(頭を水平方向に1秒間に2〜3回の速さで振ると頭痛が増悪する所見)が陽性である。 ・意識は清明で、呼吸数22/分、収縮期血圧108mmHgであり、quick SOFA(qSOFA)は呼吸数の1項目のみで1点である。 ・白血球3,600/μL、CRP 0.3mg/dLと炎症反応は目立たないが、発症からまだ時間が短いことも考慮する必要がある。BUN/Cr比の上昇(26/1.1)は嘔吐による脱水を反映していると考えられる。
診断へのプロセス
発熱・頭痛・嘔吐の三つがそろい、他の臓器に感染巣を示す所見がない。そのうえでjolt accentuationが陽性であることから、急性の髄膜炎を強く疑う。jolt accentuationは髄膜炎に対する感度が高い所見とされ、項部硬直やKernig徴候は感度が低いため、これらが陰性でも髄膜炎は否定できない。急性発症であることから、細菌性髄膜炎かウイルス性(無菌性)髄膜炎がまず鑑別となる。髄膜刺激徴候が比較的軽く、炎症反応も乏しい点はウイルス性を示唆するが、臨床所見だけで細菌性を除外することはできない。
設問の考え方
細菌性髄膜炎は治療開始の遅れが予後を左右する救急疾患であるため、疑った時点で血液培養を採取し、速やかに経験的(エンピリック)な抗菌薬治療を始めることは妥当である。本例ではすでにそれが行われており、次に必要なのは髄膜炎の確定と、細菌性かウイルス性かの鑑別である。そのための検査が腰椎穿刺による髄液検査である。 原則としては、髄液培養の検出率を保つため抗菌薬投与前に腰椎穿刺を行うのが望ましい。ただし、頭部CTを先に撮る必要がある場合など腰椎穿刺がすぐに行えない状況では、血液培養の採取後に抗菌薬を先行させ、その後に腰椎穿刺を行う。抗菌薬投与後は髄液培養の陽性率が下がるものの、髄液の細胞数・蛋白・糖の変化はしばらく残り、グラム染色や抗原検査・PCR検査も診断に役立つため、抗菌薬開始後であっても腰椎穿刺を行う意義は大きい。
選択肢考察
- ×a. 尿培養
排尿時痛がなく、背部叩打痛もなく、尿検査で白血球・潜血も陰性であり、膀胱炎や腎盂腎炎を疑う所見はない。発熱の原因として尿路感染症は考えにくく、優先して行う検査ではない。
- ×b. 便培養
嘔吐はあるが、下痢・腹痛・血便などの腸管感染症を示す所見はなく、腹部診察も正常である。本例の嘔吐は髄膜炎に伴う頭蓋内圧上昇や髄膜刺激によるものと解釈でき、便培養の意義は乏しい。
- ×c. 咽頭培養
咽頭痛や鼻汁がなく、頸部リンパ節腫脹も認めないため、溶連菌などによる咽頭炎・上気道感染症を疑う根拠はない。咽頭培養は本例の診断に結びつかない。
- ×d. 喀痰培養
咳嗽がなく、呼吸音も正常で、SpO2も99%と保たれており、肺炎などの下気道感染症を疑う所見はない。呼吸数22/分はやや多いが、発熱によるものと考えられる。喀痰培養を行う意義はない。
- ○e. 腰椎穿刺
発熱・頭痛・嘔吐にjolt accentuation陽性が加わり、他に感染巣がないことから急性髄膜炎が疑われる。髄膜炎の確定診断と、細菌性かウイルス性かの鑑別には腰椎穿刺による髄液検査(初圧、細胞数と細胞の種類、蛋白、糖と髄液糖/血糖比、グラム染色、培養、抗原検査・PCR)が欠かせない。抗菌薬投与後でも髄液の細胞数や生化学的変化は残り、診断や治療方針(抗菌薬の継続・変更・中止)の決定に有用である。なお、意識障害、局所神経症状、けいれん、乳頭浮腫、免疫不全などがある場合は、脳ヘルニアの危険を評価するため穿刺前に頭部CTを行う。
髄膜刺激徴候
・項部硬直:仰臥位で頭部を前屈させると抵抗がある。 ・Kernig徴候:仰臥位で股関節と膝関節を90°に屈曲させた状態から膝を伸ばそうとすると、抵抗や痛みのため135°以上伸展できない。 ・Brudzinski徴候:頭部を前屈させると股関節・膝関節が自然に屈曲する。 ・jolt accentuation:頭部を水平方向に素早く振ると頭痛が増強する。感度が高く、陰性であることが髄膜炎の可能性を下げる手がかりとして用いられてきた(ただし、その後の研究では感度がそれほど高くないとする報告もあり、陰性のみで否定はしない)。 項部硬直とKernig徴候は特異度が比較的高い一方で感度は低く、陰性でも髄膜炎を否定できない。
髄膜炎の分類と髄液所見の目安
・細菌性:急性発症。髄液は混濁し、初圧上昇、細胞数著増(多核球優位)、蛋白上昇、糖低下(髄液糖/血糖比0.4未満が目安)。 ・ウイルス性(無菌性):急性発症。髄液は水様透明、細胞数は軽度〜中等度増加(単核球優位、初期は多核球優位のこともある)、蛋白は軽度上昇、糖は正常。エンテロウイルスが代表的な原因で、多くは予後良好である。 ・結核性・真菌性(クリプトコックスなど):亜急性〜慢性に発症。単核球優位の細胞増多、蛋白上昇、糖低下。結核性ではADA上昇、クリプトコックスでは墨汁染色や抗原検査が有用である。
細菌性髄膜炎疑い時の初期対応
1. 意識障害・局所神経症状・けいれん・乳頭浮腫・免疫不全などがなければ、速やかに腰椎穿刺を行い、その後直ちに抗菌薬を投与する。 2. 頭部CTが必要な場合は、血液培養の採取後に抗菌薬(成人では副腎皮質ステロイドのデキサメタゾンを抗菌薬の直前または同時に併用)を先に投与し、CTで禁忌がないことを確かめてから腰椎穿刺を行う。 3. 抗菌薬投与を腰椎穿刺のために遅らせない。成人の経験的治療には、第3世代セフェム(セフトリアキソンなど)とバンコマイシンの併用が基本となり、高齢者や免疫不全者ではリステリアを考慮してアンピシリンを加える。
quick SOFA(qSOFA)
呼吸数22/分以上、意識変容、収縮期血圧100mmHg以下の3項目のうち2項目以上で敗血症を疑う。本例は1点である。
POINT
・発熱・頭痛・嘔吐で他に感染巣がなければ髄膜炎を疑い、腰椎穿刺で髄液検査を行う。 ・jolt accentuationは感度の高い所見。項部硬直・Kernig徴候は感度が低く、陰性でも髄膜炎は否定できない。 ・細菌性髄膜炎が疑われる場合、抗菌薬投与を遅らせない。腰椎穿刺は抗菌薬投与前が原則だが、先行投与後でも髄液検査の意義は大きい。 ・意識障害、局所神経症状、けいれん、乳頭浮腫、免疫不全があれば穿刺前に頭部CTを行う。 ・感染巣を示す症状のない臓器の培養(尿・便・咽頭・喀痰)は診断に寄与しない。
