StudyMed医師国家試験

「決めるのは誰か」―人生の最終段階の意思決定、主役はいつも本人

第114回医師国家試験 E問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第114回 E問題 第1問

人生の最終段階〈エンド・オブ・ライフ〉における医療およびケアの意思決定について適切なのはどれか。

  1. a.患者本人の意思が確認できない場合は家族の意向に従う。
  2. b.患者本人の意思が確認できる場合は患者の意向を尊重する。
  3. c.患者が認知症の場合は患者本人の意思が確認できないと判断する。
  4. d.患者本人の意思決定能力の判断には精神科医の診察が必要となる。
  5. e.患者の配偶者と実子の意見が対立する場合は配偶者の意見を優先する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は人生の最終段階、エンド・オブ・ライフにおける医療・ケアの意思決定の問題だ。土台になるのは厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」。誰の意思をどの順番で尊重し、誰がどうやって方針を決めるのか、という骨組みに注目してほしい。
医学生医学生
終末期だと、ご家族の意向が大きいイメージがあります。家族が「延命はしないで」と言ったら、それに従うものだと思っていました。
ドクタードクター
そう考える学生は多いね。でもガイドラインの軸は一貫していて、適切な情報提供と説明を受けたうえで、本人が医療・ケアチームと十分に話し合い、本人が意思決定することが基本なんだ。だから、本人の意思が確認できる場合はその意向を尊重する、という選択肢が正解になる。
医学生医学生
医療倫理の講義で習った4原則のうち、自律尊重にあたるんですね。
ドクタードクター
その通り。では本人の意思が確認できない場合はどうなるか。家族の意向に従う、という選択肢はどう思う?
医学生医学生
本人が話せないなら、いちばん身近な家族が決めるしかない気がしますが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。尊重されるのは家族自身の希望ではなく、「本人ならどう望むか」という推定意思なんだ。家族等は本人の価値観や以前の言葉をもとに、本人の意思を推定する役割を担う。推定できないときは、本人にとって何が最善かを家族等と医療・ケアチームで話し合って決める。
医学生医学生
家族は「決める人」ではなく「本人の声を代弁する人」ということですね。
ドクタードクター
いい言い換えだね。次に、認知症なら意思は確認できないと判断する、という選択肢は?
医学生医学生
老年内科の実習で、軽度の認知症の方が「家に帰りたい」とはっきり話していたのを思い出しました。認知症だから一律に無理、とは言えない気がします。
ドクタードクター
その感覚は正しい。認知症の程度は人によって大きく違い、同じ人でも時間帯や体調で変動する。診断名だけで意思決定能力がないと決めつけるのは不適切で、分かりやすい説明を工夫するなどして本人の意思決定を支援し、その都度確認していくことが求められている。
医学生医学生
では、意思決定能力の判断には精神科医の診察が必要、というのはどうですか。精神科の実習で能力評価のコンサルトを受けている場面を見たので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのも分かる。ただ、意思決定能力の評価は通常、担当している医療・ケアチームが行う。説明を理解する力、自分の状況に当てはめて認識する力、選択肢を比べて論理的に考える力、選択を伝える力、の4つの要素で考えるのが一般的だ。判断が難しいときに精神科医などへ相談することはあっても、必須というわけではない。
医学生医学生
最後の、配偶者と実子の意見が対立したら配偶者を優先する、というのは民法の相続順位みたいな発想ですね。
ドクタードクター
鋭いね。でもガイドラインには続柄による優先順位の規定はない。しかも「家族等」には、本人が信頼を寄せる親しい友人なども含まれうるんだ。家族等の間で意見がまとまらない場合や、チームの中で方針が決まらない場合には、複数の専門家からなる話し合いの場を別に設けて、検討や助言を受けることになっている。
医学生医学生
誰か一人の意見で決めるのではなく、本人を中心にチームで話し合う、というのが全体を貫いているんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として押さえたいのがACP、アドバンス・ケア・プランニングで、愛称は「人生会議」。本人の意思は病状や時間とともに変わりうるから、元気なうちから家族等や医療者と繰り返し話し合い、その都度文書に残していく。事前指示書を一度書いて終わり、ではなくプロセス全体を指すのがポイントだ。2018年の改訂では、在宅や介護施設も想定し、介護職もチームに含めることが明確になった。
医学生医学生
意思を伝えられなくなったときのために、代弁してくれる人を前もって決めておくことも大事ですね。
ドクタードクター
そうだね。単身高齢者が増えるなかで、その人が家族とは限らない。それから、生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死はこのガイドラインの対象外であることも覚えておこう。症状緩和や家族等への精神的・社会的援助を含めた総合的なケアを続けることが前提なんだ。

まとめ

人生の最終段階における医療・ケアは、適切な説明を受けた本人が医療・ケアチームと十分に話し合ったうえで、本人が意思決定することが基本です。本人の意思が確認できない場合は、家族の希望ではなく家族等が推定する「本人の意思」を尊重し、推定できなければ本人にとっての最善をチームと家族等で話し合って決めます。認知症の診断だけで意思決定能力なしとはせず、能力の評価は担当チームが行い、家族等の意見の対立に続柄による優先順位はなく、合意できなければ複数の専門家からなる話し合いの場で検討します。本人の意思は変わりうるため、ACP(人生会議)として繰り返し話し合い記録に残すことが重視されており、臨床のあらゆる場面で求められる意思決定支援の基本となる考え方です。

解答・解説

正解はbです

テーマ

本問は、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2007年策定、2018年改訂)に沿った意思決定の進め方を問うものである。

ガイドラインの基本的な考え方

・医師などから適切な情報提供と説明を受けたうえで、本人が医療・ケアチームと十分に話し合い、本人による意思決定を基本とする。 ・本人の意思は病状や時間の経過で変わりうるため、話し合いは繰り返し行い、その都度内容を文書にまとめる。本人が意思を示せなくなる場合に備え、家族等も含めて事前から話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング〈ACP〉、愛称「人生会議」)が重視されている。 ・方針の決定は医師一人や家族の誰か一人ではなく、多職種からなる医療・ケアチームで行う。

決定の手順

1. 本人の意思が確認できる場合:本人と医療・ケアチームが十分に話し合い、本人の意思決定を基本として方針を決める。 2. 本人の意思が確認できない場合:  ・家族等が本人の意思を推定できるときは、その推定意思を尊重し、本人にとって最善の方針をとる。  ・推定できないときは、本人にとって何が最善かを家族等と十分に話し合い、最善の方針をとる。  ・家族等がいない、または家族等が判断を医療・ケアチームに委ねるときは、本人にとっての最善の方針をとる。 3. 医療・ケアチームの中で方針が決まらない場合、本人・家族等と医療・ケアチームの間で合意が得られない場合、家族等の中で意見がまとまらない場合などには、複数の専門家からなる話し合いの場を別に設置し、方針の検討や助言を受ける。

正解を導く考え方

このガイドラインの軸は「本人の意思(確認できなければ推定意思)を最優先し、チームで繰り返し話し合って決める」という点にある。家族の意向そのものや、特定の立場の人の意見を機械的に優先する選択肢は誤りであり、本人の意思が確認できる場合にそれを尊重するとした選択肢が適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者本人の意思が確認できない場合は家族の意向に従う。

    本人の意思が確認できない場合に尊重されるのは、家族自身の希望ではなく「本人ならどう望むか」という推定意思である。家族等は本人の価値観や以前の発言をもとに本人の意思を推定する役割を担い、推定できないときも本人にとっての最善を家族等と医療・ケアチームで話し合って決める。家族の意向にそのまま従うのは不適切である。

  2. ○b.  患者本人の意思が確認できる場合は患者の意向を尊重する。

    ガイドラインは、適切な情報提供と説明を前提に、本人が医療・ケアチームと十分に話し合ったうえで本人が意思決定することを基本原則としている。これは自己決定権(自律尊重)の考え方に基づく。本人の意思は変化しうるため、話し合いは繰り返し行い、家族等も交えて共有し、その内容を記録しておくことが求められる。

  3. ×c.  患者が認知症の場合は患者本人の意思が確認できないと判断する。

    認知症の程度や症状は人によって大きく異なり、同じ人でも時間帯や体調で変動する。認知症の診断があることだけで意思決定能力がないと決めつけるのは不適切であり、本人の状態に応じて分かりやすい説明を工夫するなど意思決定を支援し、その都度意思を確認する(厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」も同趣旨)。意思が確認できない場合でも、発症前の考え方や価値観から家族等が推定意思を示せれば、それを尊重する。

  4. ×d.  患者本人の意思決定能力の判断には精神科医の診察が必要となる。

    意思決定能力は、一般に、説明内容を理解する力(理解)、それを自分の状況に当てはめて認識する力(認識)、選択肢を比較して論理的に考える力(論理的思考)、選択を伝える力(表明)の4要素から評価される。この評価は通常、担当する医療・ケアチームが行う。判断が難しい場合に精神科医などの専門家へ相談することはあるが、精神科医の診察が必須とされているわけではない。

  5. ×e.  患者の配偶者と実子の意見が対立する場合は配偶者の意見を優先する。

    ガイドラインには、家族の続柄によって意見の優先順位を決める規定はない。また「家族等」には法的な親族に限らず、本人が信頼を寄せる親しい友人なども含まれうる。本人の意思が確認できるならそれを尊重すればよく、確認できない場合は、本人の推定意思や本人にとっての最善は何かという観点から話し合いを重ねる。それでも家族等の中で意見がまとまらなければ、複数の専門家からなる話し合いの場を設けて検討・助言を受ける。

ガイドライン改訂(2018年)の主なポイント

・名称が「終末期医療」から「人生の最終段階における医療・ケア」に変わり、医療だけでなくケアも対象であることが明示された。 ・病院だけでなく在宅医療・介護施設での利用を想定し、医療・ケアチームに介護従事者も含まれることを明確にした。 ・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の考え方を取り入れ、本人の意思の変化に応じて繰り返し話し合うことを重視した。 ・本人が自らの意思を伝えられなくなる場合に備え、意思を推定する者として家族等の信頼できる者を前もって定めておくことの重要性が示された。 ・単身高齢者の増加を踏まえ、「家族」ではなく「家族等」(親しい友人などを含む)という表現が用いられている。

関連する概念

・インフォームド・コンセント:十分な説明を受け、理解したうえでの本人の同意。 ・事前指示(アドバンス・ディレクティブ):意思表示ができなくなった場合に受けたい・受けたくない医療をあらかじめ示しておくもの。ACPは、事前指示書の作成にとどまらず、価値観や希望を家族等・医療者と継続的に共有するプロセス全体を指す。 ・医療倫理の4原則:自律尊重、善行、無危害、正義(公正)。本人の意思決定の尊重は自律尊重原則に基づく。 ・意思決定支援:意思決定能力が低下していても、本人が自分で決められるよう説明方法や環境を整えて支えること。

決定にあたっての留意点

・生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインの対象外である。 ・可能な限り疼痛やその他の不快な症状を緩和し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行う。

POINT

・人生の最終段階の医療・ケアは、本人が医療・ケアチームと十分話し合ったうえでの本人の意思決定が基本。 ・本人の意思が確認できない場合は、家族等による「本人の推定意思」を尊重し、推定できなければ本人にとっての最善を話し合って決める。家族の希望に従うのではない。 ・認知症という診断だけで意思決定能力なしと判断しない。 ・意思決定能力の評価は担当チームが行い、判断困難時に精神科医などの専門家に相談する。 ・家族間の意見対立に続柄による優先順位はなく、合意できなければ複数の専門家からなる話し合いの場で検討する。 ・ACP(人生会議)で繰り返し話し合い、内容を文書に残す。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。