StudyMed医師国家試験

酸素を吸っているのにPaO2 58―A-aDO2「97」が告げる肺のガス交換障害

第114回医師国家試験 D問題 第75問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第75問

酸素投与(FIO2 0.28)下での動脈血ガス分析結果を示す。pH 7.38,PaCO2 36Torr,PaO2 58Torr,HCO3- 21.2mEq/L。  肺胞気-動脈血酸素分圧較差〈A-aDO2〉を求めよ。なお,大気圧760Torr,37℃での飽和水蒸気圧47Torr,呼吸商0.8とする。  ただし,小数点以下の数値が得られた場合には,小数第1位を四捨五入すること。 解答:①② Torr)

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は呼吸器の計算問題、肺胞気-動脈血酸素分圧較差、いわゆるA-aDO2を求める問題だ。ポイントは、直接は測れない「肺胞の酸素分圧」を肺胞気式でどう計算するか。そして出てきた数字が何を意味するかまで考えられると一段上の理解になる。まずA-aDO2が何の差なのか、言葉で説明できるかな。
医学生医学生
肺胞の中の酸素分圧と、動脈血の酸素分圧の差ですよね。大文字のAが肺胞、小文字のaが動脈だったと思います。
ドクタードクター
その通り。動脈血のPaO2は血液ガスで実測できるけれど、肺胞の中のPAO2は直接測れない。だから式で推定するんだ。肺胞気式、覚えているかな。
医学生医学生
CBTの前に暗記した気がします。PAO2=FIO2×(大気圧-47)-PaCO2/0.8、でしたっけ。でも、なぜこの形になるのかはあまり考えたことがありませんでした。
ドクタードクター
式は意味が分かると忘れにくい。順に分解しよう。吸った空気は気道で37℃に温められ、水蒸気で飽和する。だから乾燥したガスが使える圧は大気圧から飽和水蒸気圧47 Torrを引いた分になる。そこに吸入酸素濃度を掛けたものが、吸入気酸素分圧、PIO2だ。
医学生医学生
なるほど、47を引くのは気道で加湿されるからなんですね。後ろのPaCO2を0.8で割る部分は何を表しているんですか。
ドクタードクター
肺胞では酸素が血液に取り込まれ、代わりに二酸化炭素が出てくる。その交換比が呼吸商で、通常0.8とおく。肺胞で失われた酸素の分を、肺胞CO2分圧を呼吸商で割って見積もっているわけだ。そしてCO2は拡散が非常に速いから、肺胞と動脈血の分圧はほぼ等しいとみなせる。だから実測できるPaCO2で代用できるんだ。
医学生医学生
生理学の講義で、CO2はO2の約20倍拡散しやすいと習いました。それがここで効いてくるんですね。では計算してみます。713に0.28を掛けて199.64、36を0.8で割って45、引いてPAO2は154.64 Torrです。
ドクタードクター
いいね。最後にPaO2を引くと?
医学生医学生
154.64から58を引いて96.64、小数第1位を四捨五入して97 Torrです。うっかり室内気の0.21で計算しそうになりましたが、今回は酸素投与下なので0.28を使うんですね。
ドクタードクター
そこは本番で本当に間違えやすいところだ。問題文の条件を必ず式に入れること。では97という数字をどう解釈するかな。
医学生医学生
正常はたしか10〜20 Torr以下だったので、かなり開いています。
ドクタードクター
そう。ただし注意点があって、A-aDO2は吸入酸素濃度が上がると健常者でも大きくなる。だから酸素投与下の値を室内気の基準値と単純に比べることはできない。それでも、酸素を吸ってなおPaO2が58 Torrにとどまっているのは、肺胞から血液への酸素の受け渡しそのものが障害されていることを強く示唆する。
医学生医学生
PaCO2は36で上がっていないし、pHもほぼ正常なので、低換気が原因ではないということですね。
ドクタードクター
まさにそこがA-aDO2を計算する意義だ。低酸素血症の機序は5つに整理できる。肺胞低換気と吸入気酸素分圧の低下、たとえば高地では、A-aDO2は正常のまま。一方、換気血流比不均等、シャント、拡散障害ではA-aDO2が開大する。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、間質性肺炎の患者さんが歩くとすぐSpO2が下がっていたのを覚えています。あれは拡散障害ですか。
ドクタードクター
いい観察だね。拡散障害では、運動で血流が速くなり酸素を受け取る時間が短くなるため、労作時の低酸素が目立つ。ただ臨床で最も多いのは換気血流比不均等で、COPDや肺炎、肺塞栓症などが代表だ。こちらは酸素投与でPaO2が改善しやすい。逆に無気肺やARDS、肺動静脈瘻のような純粋なシャントは、酸素を増やしても上がりにくいのが特徴だ。
医学生医学生
酸素への反応性で、シャントかどうかの見当がつけられるんですね。
ドクタードクター
その通り。あわせて覚えておきたいのがP/F比、PaO2をFIO2で割った値だ。今回なら58を0.28で割って約207。ARDSの重症度分類にも使われ、FIO2の影響を受けにくい酸素化の指標として、ICUでは毎日のように使うよ。室内気なら「PAO2≒150-1.25×PaCO2」と暗算できるのも便利だ。
医学生医学生
PaCO2が40ならPAO2は約100、という感じですね。ベッドサイドでもすぐ使えそうです。

まとめ

A-aDO2は肺胞気酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差で、PAO2は肺胞気式「FIO2×(大気圧-飽和水蒸気圧)-PaCO2/呼吸商」で求めます。本問ではFIO2 0.28を用いて0.28×713-36/0.8=154.64 Torr、そこからPaO2 58を引いて96.64、四捨五入して97 Torrとなります。室内気でのA-aDO2の正常はおおむね10〜20 Torr以下ですが、FIO2が高いほど健常者でも大きくなる点に注意が必要です。A-aDO2が正常な低酸素血症は肺胞低換気や吸入気酸素分圧の低下、開大する低酸素血症は換気血流比不均等・シャント・拡散障害と整理でき、P/F比とあわせて低酸素血症の機序を見極める基本的な道具になります。

解答・解説

正解は97 Torrです

考え方

肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は、肺胞内の酸素分圧(PAO2、Aは alveolar:肺胞)と動脈血の酸素分圧(PaO2、aは arterial:動脈)の差である。 A-aDO2 = PAO2 - PaO2 PaO2は血液ガス分析で実測されるが、PAO2は直接測れないため、肺胞気式(簡略式)で計算する。

肺胞気式の成り立ち

① 吸入気が気道に入ると37℃で水蒸気が飽和するため、乾燥ガスが使える圧は「大気圧-飽和水蒸気圧」となる。 ② そのうち酸素が占める分圧は、吸入酸素濃度(FIO2)を掛けて求める。これが吸入気酸素分圧(PIO2)である。 ③ 肺胞では酸素が血液に取り込まれ、代わりに二酸化炭素が排出される。呼吸商R(CO2産生量/O2消費量)を用いると、肺胞で失われた酸素分の分圧は「PACO2/R」と表せる。CO2は拡散が非常に速く、肺胞気と動脈血の分圧がほぼ等しい(PACO2 ≒ PaCO2)ため、実測できるPaCO2で代用する。 したがって PAO2 = FIO2 ×(大気圧 - 飽和水蒸気圧)- PaCO2 / R

計算

与えられた値:FIO2 0.28、大気圧 760 Torr、飽和水蒸気圧 47 Torr、PaCO2 36 Torr、R 0.8、PaO2 58 Torr ・PIO2 = 0.28 ×(760 - 47)= 0.28 × 713 = 199.64 Torr ・PaCO2 / R = 36 / 0.8 = 45 Torr ・PAO2 = 199.64 - 45 = 154.64 Torr ・A-aDO2 = 154.64 - 58 = 96.64 Torr 小数第1位を四捨五入して、A-aDO2 = 97 Torr となる。

結果の解釈

室内気吸入時(FIO2 0.21)の健常者のA-aDO2はおおむね10〜20 Torr以下(加齢で増大)である。本例は酸素投与下でPaO2が58 Torrと低く、A-aDO2も著明に開大しているため、肺胞から血液への酸素の受け渡しそのものに障害がある(換気血流比不均等、シャント、拡散障害)と判断できる。なお、PaCO2 36 Torr・pH 7.38・HCO3- 21.2 mEq/Lと、酸塩基平衡はほぼ正常範囲であり、肺胞低換気による低酸素血症ではない。 ただし、A-aDO2はFIO2が高くなるほど正常でも大きくなるため、酸素投与下の値を室内気の基準値と単純に比較することはできない点に注意する。

低酸素血症の5つの機序とA-aDO2

・肺胞低換気(例:鎮静薬過量、神経筋疾患、COPDの急性増悪の一部):PaCO2が上昇し、それに見合ってPAO2が低下する。A-aDO2は正常。 ・吸入気酸素分圧の低下(例:高地):A-aDO2は正常。 ・換気血流比(V/Q)不均等(例:COPD、気管支喘息、肺炎、肺塞栓症):A-aDO2開大。低酸素血症の最も頻度の高い原因で、酸素投与でPaO2は改善しやすい。 ・シャント(例:無気肺、重症肺炎、ARDS、肺動静脈瘻、右左短絡のある先天性心疾患):A-aDO2開大。純粋なシャントは酸素投与で改善しにくい。 ・拡散障害(例:間質性肺炎、肺線維症、肺気腫による肺胞面積の減少):A-aDO2開大。特に運動時に低酸素血症が目立つ。

拡散の性質

CO2は水への溶解度が高く、O2の約20倍拡散しやすい。そのため拡散障害ではまずPaO2が低下し、PaCO2は上昇しにくい。この性質があるからこそ、肺胞気式でPACO2の代わりにPaCO2を用いることができる。

室内気での簡易計算

大気圧760 Torr、FIO2 0.21のとき PIO2 ≒ 150 Torr となり、 PAO2 ≒ 150 - PaCO2 / 0.8(≒ 150 - 1.25 × PaCO2) として暗算できる。たとえばPaCO2 40 TorrならPAO2 ≒ 100 Torrである。

関連指標

P/F比(PaO2/FIO2):酸素化の指標で、ARDSの重症度分類(Berlin定義)に用いられる。本例では 58 / 0.28 ≒ 207 である。

POINT

・A-aDO2 = PAO2 - PaO2 ・PAO2 = FIO2 ×(大気圧 - 飽和水蒸気圧)- PaCO2 / 呼吸商 ・本問:0.28 × 713 - 36 / 0.8 - 58 = 199.64 - 45 - 58 = 96.64 → 97 Torr ・室内気でのA-aDO2の正常値はおおむね10〜20 Torr以下で、加齢とともに増大する。FIO2が高いほど正常でも大きくなる。 ・A-aDO2が正常な低酸素血症=肺胞低換気または吸入気酸素分圧低下。開大する低酸素血症=換気血流比不均等・シャント・拡散障害。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。