二峰性の熱と渡航歴―麻疹を見抜く決め手は「頰の内側」にある
第114回医師国家試験 D問題 第29問
国試問題にチャレンジ
6歳の女児。発熱と発疹を主訴に祖父に連れられて来院した。3日前に発熱と咳嗽が出現した。一旦解熱したが,本日から再度発熱し体幹に発疹が出現したため来院した。1週前に家族で麻疹流行地を旅行していたという。 鑑別のために最も重要な所見を呈する部位はどれか。
- a.口唇
- b.頰粘膜
- c.眼球結膜
- d.頸部リンパ節
- e.BCGの接種部位
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
カタル期のあとにいったん解熱し、再発熱とともに発疹が出る二峰性の経過と流行地への渡航歴は、麻疹を強く示唆します。麻疹に特異度の高い身体所見は臼歯対側の頰粘膜に出るKoplik斑で、発疹の1〜2日前から出現し発疹出現後数日で消えるため、発疹出現早期に観察する意義があります。口唇・眼球結膜・頸部リンパ節・BCG接種部位は川崎病の主要症状にかかわる部位で、結膜充血やリンパ節腫脹は麻疹でもみられるため鑑別の決め手にはなりません。確定には麻疹IgM抗体やPCR法を用い、5類全数把握として直ちに届け出て、空気感染対策を徹底します。発熱と発疹の小児で「どの所見がどの疾患に特異的か」を整理しておくことは、川崎病との鑑別や感染拡大防止の初動に直結します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・6歳の女児。主訴は発熱と発疹。 ・3日前に発熱と咳嗽で発症し、いったん解熱したのち本日再び発熱し、同時に体幹に発疹が出た。つまり、発熱が二つの山をつくる経過(二峰性発熱)で、2回目の発熱と同時に発疹が出ている。 ・発症の約1週前に麻疹が流行している地域を家族で訪れている。
診断へのプロセス
小児の発熱と発疹の組み合わせでは、麻疹、風疹、水痘、突発性発疹などのウイルス性発疹症、溶連菌感染症、薬疹に加え、川崎病が必ず鑑別に挙がる。 本例では、咳嗽を伴う前駆期(カタル期)のあとにいったん熱が下がり、再発熱とともに体幹から発疹が出るという経過が、麻疹の典型像(カタル期→一時的解熱→発疹期の再発熱)とよく合う。さらに麻疹流行地への渡航歴があり、麻疹の潜伏期(感染から発症まで約10〜12日)とも矛盾しない。したがって麻疹を第一に考える。
設問の考え方
問われているのは「鑑別のために最も重要な所見を呈する部位」である。麻疹に特異度の高い身体所見は、頰粘膜(臼歯に向かい合う部分)に出現するKoplik斑(コプリック斑:赤い粘膜の上に散在する白色の小斑点)である。Koplik斑は発疹が出る1〜2日前から現れ、発疹出現後2〜3日で消えていくため、発疹が出始めた今の時点ならまだ観察できる可能性が高い。 一方、ほかの選択肢(口唇、眼球結膜、頸部リンパ節、BCG接種部位)は、いずれも発熱・発疹の小児で重要な鑑別疾患である川崎病の主要症状にかかわる部位であり、麻疹でも類似の所見(結膜充血、リンパ節腫脹)がみられることがあるため、麻疹を確定的に示す根拠にはならない。
選択肢考察
- ×a. 口唇
口唇の紅潮・亀裂・出血は川崎病の主要症状(口唇・口腔所見)であり、口唇周囲の水疱やびらんは単純ヘルペスウイルスによるヘルペス性歯肉口内炎でみられる。麻疹には口唇に特異的な所見はないため、麻疹を見分ける決め手にはならない。
- ○b. 頰粘膜
麻疹ではカタル期の終わりごろ、臼歯に面した頰粘膜に、周囲が発赤した白色の小斑点(Koplik斑)が出現する。発疹が出る前に麻疹を臨床的に疑える、ほぼ唯一の特徴的所見であり、発疹出現後2〜3日程度で消退するため、発疹が出始めた本例の時点で観察する価値が高い。なお、Koplik斑に類似した粘膜疹は風疹など他のウイルス感染でも報告されているので、最終的には血清IgM抗体やPCR法などの検査で確認する。
- ×c. 眼球結膜
両側眼球結膜充血は川崎病の主要症状の一つである。麻疹でもカタル期に結膜充血や眼脂がみられるため、結膜の所見だけでは麻疹と川崎病を見分けることはできず、麻疹に特異的な所見とはいえない。
- ×d. 頸部リンパ節
非化膿性の頸部リンパ節腫脹は川崎病の主要症状の一つである。麻疹を含む多くのウイルス感染症でも反応性に頸部リンパ節が腫れることがあり、特異性は低い。
- ×e. BCGの接種部位
BCG接種痕の発赤・腫脹は川崎病に特徴的な所見で、2019年改訂の川崎病診断の手引きでは発疹の項目に含められている。麻疹ではこの所見はみられないので、麻疹の診断根拠にはならない。
麻疹の概要
・原因:麻疹ウイルス(パラミクソウイルス科)。空気感染(飛沫核感染)のほか飛沫・接触でも感染し、感染力は極めて強い。免疫のない人が曝露するとほぼ全員が発症する。 ・潜伏期:約10〜12日。 ・臨床経過 カタル期(3〜4日):発熱、咳嗽、鼻汁、結膜充血・眼脂。終盤に頰粘膜のKoplik斑が出現。感染力が最も強い時期である。 発疹期(3〜4日):いったん熱がやや下がったのち再び高熱となり(二峰性発熱)、耳後部・顔面から体幹、四肢へと紅色の斑状丘疹が広がる。発疹は融合する傾向がある。 回復期:解熱し、発疹は褐色の色素沈着を残して消える。 ・合併症:肺炎(ウイルス性・細菌の二次感染)、中耳炎、クループ、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE:感染から数年後に発症する遅発性の中枢神経疾患)。麻疹罹患後は一時的に細胞性免疫が低下し、ツベルクリン反応が陰性化することもある。 ・診断:臨床像に加え、血清の麻疹特異的IgM抗体、咽頭ぬぐい液・血液・尿からのウイルス遺伝子検出(PCR法)で確認する。 ・治療:特異的な抗ウイルス薬はなく、対症療法が中心。細菌の二次感染(肺炎、中耳炎など)があれば抗菌薬を用いる。WHOは重症化と死亡の減少を目的に、麻疹の小児へのビタミンA投与(経口)を推奨している。 ・予防:MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)を1歳時と小学校入学前1年間の2回接種する。曝露後72時間以内のワクチン接種、6日以内のγグロブリン投与で発症予防・軽症化が期待できる。 ・公衆衛生:感染症法の5類感染症(全数把握)で、診断したら直ちに届け出る。学校保健安全法では第2種感染症で、出席停止期間は解熱後3日を経過するまで。日本は2015年にWHOから麻疹排除状態と認定されたが、海外からの持ち込みによる散発例・集団発生が続いている。
川崎病との比較
川崎病(2019年改訂の診断の手引き)の主要症状は、発熱、両側眼球結膜充血、口唇・口腔所見(口唇紅潮、いちご舌など)、発疹(BCG接種痕の発赤を含む)、四肢末端の変化(急性期の手足の硬性浮腫・紅斑、回復期の膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹の6つである。発熱と発疹のある小児では両者の鑑別が重要になり、Koplik斑の有無や感染者との接触歴・渡航歴が麻疹を示す手がかりとなる。
POINT
・麻疹は「カタル期→いったん解熱→再発熱とともに発疹」という二峰性の経過をとる。 ・麻疹に特異的な身体所見は頰粘膜のKoplik斑で、発疹の1〜2日前に出現し、発疹出現後数日で消える。 ・口唇、眼球結膜、頸部リンパ節、BCG接種部位は川崎病の主要症状にかかわる部位である。 ・麻疹は5類感染症(全数把握・直ちに届出)、学校保健では解熱後3日を経過するまで出席停止。
