StudyMed医師国家試験

「眼瞼下垂+瞳孔不同」は大きい側か小さい側か―交感・副交感で読み解く瞳孔異常

第117回医師国家試験 E問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第5問

瞳孔異常をきたす原因と所見の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.急性緑内障発作 ―― 散瞳
  2. b.交感神経作動薬 ―― 散瞳
  3. c.Horner症候群 ―― 散瞳
  4. d.動眼神経麻痺 ―― 散瞳
  5. e.有機リン中毒 ―― 縮瞳

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は瞳孔異常の原因と所見の組合せから、誤っているものを選ぶ問題だ。丸暗記に頼らず、瞳孔を動かす2つの筋肉と、それを支配する自律神経を押さえれば、すべての選択肢を理屈で判定できるよ。まず、瞳孔を縮める筋肉と広げる筋肉は何だったかな。
医学生医学生
縮めるのが瞳孔括約筋、広げるのが瞳孔散大筋です。生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
そう。括約筋は副交感神経支配で、Edinger-Westphal核から出た線維が動眼神経に乗り、毛様体神経節で乗り換えて届く。伝達物質はアセチルコリンでムスカリン受容体だ。一方、散大筋は交感神経支配で、視床下部から脳幹・頸髄を下り、第1胸髄付近から出て上頸神経節で乗り換え、内頸動脈に沿って眼に達する。こちらはノルアドレナリンでα1受容体だ。
医学生医学生
つまり交感神経が優位なら散瞳、副交感神経が優位なら縮瞳ということですね。
ドクタードクター
その通り。さらに、刺激だけでなく「麻痺」も考えるのがポイントだ。副交感神経が麻痺すれば相対的に散瞳、交感神経が麻痺すれば縮瞳になる。この原則で選択肢を見ていこう。まず交感神経作動薬は?
医学生医学生
散大筋を収縮させるので散瞳です。眼科の実習で、眼底検査の前にフェニレフリンとトロピカミドの合剤を点眼しているのを見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。フェニレフリンはα1刺激薬、トロピカミドは副交感神経遮断薬で、別々の経路から散瞳させるんだ。コカインや覚醒剤の中毒で散瞳がみられるのも同じ理屈だね。では有機リン中毒は?
医学生医学生
コリンエステラーゼ阻害でアセチルコリンが分解されずに溜まるので、ムスカリン作用で括約筋が収縮して縮瞳です。
ドクタードクター
正しい。針先のような著明な縮瞳が特徴で、流涎、流涙、気道分泌増加、徐脈、下痢、発汗などのムスカリン症状に加えて、筋線維束攣縮や筋力低下といったニコチン症状も出る。治療はアトロピンとプラリドキシムだ。次に動眼神経麻痺はどうだろう。
医学生医学生
動眼神経には括約筋に行く副交感神経線維が含まれているので、麻痺すると散瞳ですね。
ドクタードクター
そう。あわせて上眼瞼挙筋の麻痺で高度の眼瞼下垂、外眼筋麻痺で眼が外下方を向く。臨床的に重要なのは、副交感神経線維が動眼神経の表層を走ること。外からの圧迫で瞳孔異常が出やすいので、散瞳を伴う動眼神経麻痺では内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤をまず疑う。糖尿病などによる虚血性の麻痺では瞳孔が保たれることが多いんだ。
医学生医学生
急性緑内障発作の散瞳は、自律神経とは少し違う仕組みに思えます。
ドクタードクター
いい疑問だね。急性緑内障発作は、もともと隅角が狭い眼で瞳孔が中等度に開いたときに、虹彩根部が隅角をふさいで房水が流れなくなり、眼圧が急上昇して起こる。高眼圧で虹彩の血流が障害され、括約筋が虚血で麻痺するため、中等度散瞳のまま固定して対光反射が消える。筋そのものの障害だけれど、括約筋が働かなくなるという点では同じ考え方で説明できるよ。激しい眼痛や頭痛、悪心・嘔吐で、救急外来に頭痛として来ることもあるから要注意だ。
医学生医学生
そうすると、残るHorner症候群が誤りですね。交感神経の障害なので、散大筋が働かずに縮瞳するはずです。
ドクタードクター
正解。Horner症候群は視床下部から眼に至る交感神経経路のどこかの障害で、患側の縮瞳、Müller筋麻痺による軽度の眼瞼下垂、障害部位によっては顔面の発汗低下を伴う。原因としては、肺尖部のPancoast腫瘍、Wallenberg症候群、内頸動脈解離などが大事だ。
医学生医学生
Horner症候群も動眼神経麻痺も眼瞼下垂と瞳孔不同があるので、どちらの瞳孔が異常なのか混乱しそうです。
ドクタードクター
そこが国試でも臨床でも引っかかるところだね。区別のコツは3つ。Horner症候群は小さいほうが患側で、下垂は軽度、眼球運動は正常。動眼神経麻痺は大きいほうが患側で、下垂は高度、眼球運動障害を伴う。さらに、Horner症候群は散瞳できないから暗所で左右差が目立ち、動眼神経麻痺は縮瞳できないから明所で左右差が目立つ。
医学生医学生
暗い部屋と明るい部屋で瞳孔不同の差を比べれば、どちらの側の異常かを見分けられるんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点をまとめよう。意識障害の患者で片側の散瞳を見たら、テント切痕ヘルニアによる動眼神経圧迫を考えて緊急対応が必要だ。逆に両側の著明な縮瞳なら、橋出血やオピオイド、有機リン中毒を鑑別に挙げる。救急で瞳孔を見るのは、まさにこうした危険なサインを拾うためなんだ。
医学生医学生
救急科の実習でペンライトで瞳孔を見る意味が、今日やっとつながった気がします。

まとめ

瞳孔の大きさは、副交感神経支配の瞳孔括約筋(縮瞳)と交感神経支配の瞳孔散大筋(散瞳)のバランスで決まり、交感神経優位や副交感神経の麻痺で散瞳、副交感神経優位や交感神経の麻痺で縮瞳となります。交感神経作動薬は散瞳、有機リン中毒はコリンエステラーゼ阻害による縮瞳、動眼神経麻痺は副交感神経線維の障害による散瞳、急性緑内障発作は括約筋の虚血性麻痺による中等度散瞳をきたします。Horner症候群は交感神経経路の障害で縮瞳となるため、「散瞳」との組合せは誤りです。眼瞼下垂を伴う瞳孔不同では、小さい側が患側で下垂が軽度ならHorner症候群、大きい側が患側で眼球運動障害を伴えば動眼神経麻痺と考え、後者では動脈瘤による圧迫を疑います。自律神経の原則から瞳孔所見を読み解く力は、脳卒中や中毒、頭蓋内圧亢進などの救急診療で危険なサインを見逃さないための基本となります。

解答・解説

正解はcです

瞳孔の大きさは、虹彩にある2種類の平滑筋のバランスで決まる。 ・瞳孔括約筋:瞳孔を縮める(縮瞳)。副交感神経支配で、Edinger-Westphal核から出た線維が動眼神経に乗って毛様体神経節に至り、そこで乗り換えて短毛様体神経として括約筋に達する。伝達物質はアセチルコリン(ムスカリン受容体)である。 ・瞳孔散大筋:瞳孔を広げる(散瞳)。交感神経支配で、視床下部から脳幹・頸髄を下行し、第1胸髄付近から出て上頸神経節で乗り換え、内頸動脈に沿って眼に達する。伝達物質はノルアドレナリン(α1受容体)である。 したがって、交感神経が優位になる(交感神経の刺激、または副交感神経の遮断・麻痺)と散瞳し、副交感神経が優位になる(副交感神経の刺激、または交感神経の遮断・麻痺)と縮瞳する。また、筋そのものが障害された場合は、括約筋の障害で散瞳、散大筋の障害で縮瞳となる。 各選択肢について、原因がどちらの神経・筋にどう作用するかを考えれば正誤を判定できる。Horner症候群は交感神経経路の障害であり、散大筋が働かなくなるため縮瞳となる。よって「Horner症候群 ― 散瞳」の組合せが誤りである。本問は「誤っているもの」を選ぶ形式である。

選択肢考察

  1. ×a.  急性緑内障発作 ―― 散瞳

    正しい組合せである。急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角症・緑内障)は、もともと隅角が狭い眼で、暗所や散瞳薬などにより瞳孔が中等度に開いたときに、虹彩根部が隅角をふさいで房水の流出が途絶え、眼圧が急上昇して起こる。激しい眼痛・頭痛、悪心・嘔吐、視力低下、毛様充血、角膜浮腫による角膜混濁を伴う。高眼圧によって虹彩の血流が障害され、瞳孔括約筋が虚血で麻痺するため、瞳孔は中等度散瞳の状態で固定し、対光反射が減弱・消失する。

  2. ×b.  交感神経作動薬 ―― 散瞳

    正しい組合せである。交感神経作動薬(例:α1受容体刺激薬のフェニレフリン)は瞳孔散大筋を収縮させ、散瞳をきたす。眼底検査の際の散瞳薬として、副交感神経遮断薬(トロピカミドなど)とともに用いられる。なお、コカインやアンフェタミンなど交感神経系を刺激する薬物の中毒でも散瞳がみられる。

  3. ○c.  Horner症候群 ―― 散瞳

    誤った組合せであり、本問の正解である。Horner症候群は、視床下部から眼に至る交感神経経路のどこかが障害されて起こる。瞳孔散大筋が働かなくなるため患側は縮瞳し、瞳孔不同を生じる。散瞳がうまくできないため、暗所で健側の瞳孔が大きくなると左右差がより目立つ。ほかに、Müller筋(交感神経支配の瞼板筋)の麻痺による軽度の眼瞼下垂、瞼裂狭小、障害部位によっては患側顔面の発汗低下を伴う。原因として肺尖部腫瘍(Pancoast腫瘍)、Wallenberg症候群(延髄外側症候群)、内頸動脈解離などが重要である。

  4. ×d.  動眼神経麻痺 ―― 散瞳

    正しい組合せである。動眼神経には瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維が含まれるため、その麻痺により括約筋が働かなくなり患側は散瞳し、対光反射が減弱・消失する。明所で健側が縮瞳すると左右差がより目立つ。あわせて上眼瞼挙筋の麻痺による高度の眼瞼下垂と、外眼筋麻痺による外下方への眼位ずれ(複視)を伴う。副交感神経線維は動眼神経の表層を走るため、外から圧迫されると瞳孔異常が出やすく、散瞳を伴う動眼神経麻痺では内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤などの圧迫性病変をまず疑う。これに対し、糖尿病などによる虚血性の動眼神経麻痺では瞳孔が保たれることが多い。

  5. ×e.  有機リン中毒 ―― 縮瞳

    正しい組合せである。有機リン(農薬などに含まれる)はアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害するため、神経終末でアセチルコリンが蓄積し、ムスカリン作用・ニコチン作用が過剰となる。ムスカリン作用で瞳孔括約筋が強く収縮し、著明な縮瞳(針先瞳孔)をきたす。ほかに流涎、流涙、気道分泌増加、徐脈、下痢、発汗などのムスカリン症状と、筋線維束攣縮・筋力低下などのニコチン症状がみられる。治療にはアトロピンとプラリドキシム(PAM)が用いられる。

瞳孔を支配する神経と筋

・縮瞳:瞳孔括約筋/副交感神経(動眼神経経由)/アセチルコリン・ムスカリン受容体 ・散瞳:瞳孔散大筋/交感神経/ノルアドレナリン・α1受容体

散瞳をきたす主な原因

副交感神経遮断薬(アトロピン、トロピカミド)、交感神経刺激薬(フェニレフリン、コカイン、覚醒剤)、動眼神経麻痺、急性緑内障発作、瞳孔緊張症(Adie瞳孔)、外傷性散瞳、テント切痕ヘルニア(鉤ヘルニアによる動眼神経圧迫)

縮瞳をきたす主な原因

副交感神経刺激薬(ピロカルピン)、コリンエステラーゼ阻害(有機リン、サリン)、オピオイド(モルヒネなど)、Horner症候群、橋出血(両側の著明な縮瞳)、虹彩炎(炎症による括約筋の刺激)

Horner症候群と動眼神経麻痺の比較

・Horner症候群:患側縮瞳、軽度眼瞼下垂(Müller筋麻痺)、顔面発汗低下。暗所で瞳孔不同が目立つ。眼球運動は正常 ・動眼神経麻痺:患側散瞳、高度眼瞼下垂(上眼瞼挙筋麻痺)、眼球運動障害(外下方偏位)。明所で瞳孔不同が目立つ どちらも眼瞼下垂を伴う瞳孔不同だが、瞳孔の大きさが逆である点で区別できる。

Horner症候群の障害部位

1次ニューロン(視床下部〜脳幹・頸髄:Wallenberg症候群、頸髄病変)、2次ニューロン(胸髄〜上頸神経節:肺尖部腫瘍、頸部外傷・手術)、3次ニューロン(上頸神経節〜眼:内頸動脈解離、海綿静脈洞病変)に分けられる。

POINT

・交感神経(散大筋)優位で散瞳、副交感神経(括約筋)優位で縮瞳 ・Horner症候群=交感神経障害 → 縮瞳・軽度眼瞼下垂・顔面無汗 ・動眼神経麻痺=副交感神経障害 → 散瞳・高度眼瞼下垂・眼球運動障害(散瞳を伴えば動脈瘤による圧迫を疑う) ・急性緑内障発作は中等度散瞳で対光反射が消失する ・有機リン中毒はコリンエステラーゼ阻害で縮瞳(治療はアトロピン+PAM)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。