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「突然でした」が決め手―半身のしびれから脳梗塞を見抜く病歴聴取

第114回医師国家試験 B問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第114回 B問題 第18問

1週前からの左上下肢のしびれを主訴に60歳台の男性が来院した。  原因として脳梗塞を最も示唆するのはどれか。

  1. a.「以前に同じような症状があった」
  2. b.「症状の出現は突然であった」
  3. c.「症状の変動はなかった」
  4. d.「頭痛は伴わなかった」
  5. e.「発熱はなかった」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、片側の上下肢のしびれを訴える患者で、どの病歴が脳梗塞を最も示唆するかを問う問題だ。ポイントは「脳梗塞でもみられる情報」ではなく「ほかの原因と区別して脳梗塞を指し示す情報」はどれか、という視点で選択肢を比べること。まず、左半身のしびれから病変部位はどこを考えるかな。
医学生医学生
左の上下肢なので、対側の右大脳半球ですか。感覚の中継核ということで右視床でしょうか。
ドクタードクター
いいね。片側上下肢に限った感覚障害なら、対側視床の病変が典型だ。原因としては脳梗塞、特にラクナ梗塞や脳出血などの脳血管障害が代表だけれど、脳腫瘍や脱髄疾患、頸髄症も鑑別に挙がる。では、脳血管障害の最大の特徴は何だと思う?
医学生医学生
神経内科の講義で「脳卒中は発症様式が大事」と繰り返し言われました。突然起こる、ということですよね。
ドクタードクター
その通り。血管が詰まる、あるいは破れた瞬間に、その支配領域の機能が失われる。だから症状は突然出て、患者さんは「何時ごろ、何をしていたときに」と答えられることが多い。腫瘍や変性疾患、頸椎症、末梢神経障害は数週から数か月かけて徐々に進むのが一般的だから、突然発症という情報は鑑別にとても強い。これが正解だ。
医学生医学生
でも、以前に同じような症状があった、というのもTIAが前にあったと考えれば脳梗塞らしく思えてしまいます。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。確かにTIAは脳梗塞の前触れとして重要だ。ただ、TIAを経ずに発症する脳梗塞のほうがむしろ多い。それに、しびれを繰り返すこと自体は、頸椎症による神経根症や脊髄症、手根管症候群、片頭痛の前兆、てんかんの感覚発作でもみられる。脳梗塞に特異的とはいえないから、突然の発症に比べると示唆する力は弱いんだ。
医学生医学生
症状の変動がなかった、というのはどうでしょう。脳梗塞は一度起きたら固定するイメージがあります。
ドクタードクター
そこも誤解しやすい。アテローム血栓性脳梗塞や、穿通枝の根元が詰まる分枝粥腫型梗塞、いわゆるBADでは、症状が段階的に悪化したり、良くなったり悪くなったりすることがよくある。一方、心原性脳塞栓症は突然発症して短時間で完成しやすい。つまり変動の有無は病型の推定には役立つけれど、脳梗塞かどうかを判断する根拠にはならない。変動のないしびれはほかの疾患でもいくらでもあるからね。
医学生医学生
頭痛がないのは、出血ではなく梗塞らしさを示しませんか。
ドクタードクター
脳梗塞は頭痛を伴わないことが多く、脳出血やくも膜下出血では頭痛を伴いやすい、という傾向はある。でも小さな脳出血では頭痛がないことも多いから、頭痛の有無で梗塞と出血を確実には区別できない。そもそも頸椎症や末梢神経障害のしびれも頭痛を伴わないから、脳梗塞を特に示唆する情報にはならないんだ。
医学生医学生
発熱がなかった、というのも同じ理屈で、多くの疾患にあてはまる陰性情報ですね。
ドクタードクター
その通り。発熱があれば脳膿瘍や脳炎、感染性心内膜炎による塞栓症を考えるきっかけになるけれど、発熱がないことはほとんど鑑別の役に立たない。陰性情報は特異性が低い、というのは病歴問題全般で使える考え方だよ。
医学生医学生
OSCEの医療面接で、発症様式を「突然ですか、徐々にですか」と聞くよう練習したのは、こういう意味があったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。発展として、今回のような片側の顔面・上下肢に感覚障害だけが出て運動麻痺を伴わない病態を純粋感覚性脳卒中と呼ぶ。視床の後外側腹側核や後内側腹側核の小梗塞や小出血で起こり、ラクナ症候群のひとつだ。口角と手指に限ってしびれる手口感覚症候群も視床病変の代表的な症候だよ。
医学生医学生
頸髄症との区別はどうすればいいですか。脳神経外科の実習で、頸椎症の患者さんも手足のしびれを訴えていました。
ドクタードクター
部位診断の基本は顔面の症状だ。顔面にもしびれがあれば脳の病変、顔面になく頸部以下だけなら頸髄の病変を考える。それから臨床では、突然発症の神経症状をみたら、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、心房細動といった危険因子も併せて確認し、速やかに画像検査で評価することが大切だ。
医学生医学生
発症様式で脳血管障害を疑い、症状の分布で部位を絞り、危険因子と画像で裏付ける、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。病歴の一言が診断の方向を大きく決めることを覚えておこう。

まとめ

片側上下肢のしびれでは対側の大脳、特に視床の病変を考え、脳梗塞・脳出血のほか脳腫瘍、脱髄疾患、頸髄症などが鑑別に挙がります。脳血管障害の最大の特徴は突然発症であり、徐々に進行することが多い腫瘍・変性疾患・頸椎症・末梢神経障害との鑑別に最も役立つ病歴です。一方、過去の同様の症状、症状の変動の有無、頭痛や発熱がないことは、ほかの疾患にもあてはまるため脳梗塞を特に示唆しません。症状の変動はむしろ病型推定の手がかりで、心原性脳塞栓症は突発完成、アテローム血栓性脳梗塞やBADは進行・変動しうる点も押さえておきましょう。病歴聴取で発症様式を必ず確認する習慣は、脳卒中を見逃さず迅速な診療につなげるための基本となります。

解答・解説

正解はbです

症候の整理

60歳台の男性で、1週間前から左の上肢と下肢の両方にしびれがある。半身(片側の上下肢)に限った感覚障害なので、まず考えるのは対側(右側)大脳半球の中枢性病変であり、なかでも感覚の中継核である右視床の病変が典型的である。脳梗塞(とくにラクナ梗塞)や脳出血といった脳血管障害が代表で、ほかに脳腫瘍、脱髄疾患、頸髄病変(変形性頸椎症や後縦靱帯骨化症による頸髄症など)も鑑別にあがる。

脳梗塞を示唆する病歴とは

脳血管障害(脳卒中)の最大の特徴は「発症の様式」にある。血管が詰まる、あるいは破れると、その血管が支配する領域の脳機能が短時間で失われる。そのため症状は「突然」出現し、患者は「何時何分、何をしていたときに起きたか」を言えることが多い。これに対して、脳腫瘍や変性疾患、頸椎症、末梢神経障害などは数週から数か月かけて徐々に進行するのが一般的である。したがって、脳梗塞を最も強く示唆する病歴は、発症が突発的であったことである。 本問は、「脳梗塞の患者にみられうる所見かどうか」ではなく、「ほかの原因と区別して脳梗塞を示唆する力がどれだけあるか」を比べる問題である。脳梗塞でもみられうる陰性所見(頭痛なし、発熱なし、変動なし)は、ほかの多くの疾患でも同じようにみられるため、鑑別の決め手にならない点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  「以前に同じような症状があった」

    誤り。以前に同じ症状が現れて自然に消えたのであれば、一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)が先にあった可能性を考える根拠にはなる。TIAは脳梗塞の前触れとして重要である。しかし、TIAを経ずに発症する脳梗塞のほうがむしろ多い。また、しびれを繰り返すこと自体は、頸椎症による神経根症・脊髄症、手根管症候群などの末梢神経障害、片頭痛の前兆、てんかんの感覚発作などでもみられる。脳梗塞に特異的とはいえず、突然の発症に比べて示唆する力は弱い。

  2. ○b.  「症状の出現は突然であった」

    正しい。脳梗塞を含む脳血管障害は、血流が途絶えた(あるいは出血した)時点で症状が出るので、突然発症するのが最大の特徴である。片側の上下肢に限った感覚障害が突然出現した場合は、対側の視床のラクナ梗塞(純粋感覚性脳卒中)などの脳血管障害を強く疑う。徐々に進む経過が多い腫瘍性・変性疾患・頸椎疾患・末梢神経障害との鑑別にもっとも役立つ情報である。

  3. ×c.  「症状の変動はなかった」

    誤り。脳梗塞でも、病型によって急性期に症状が変動することはよくある。アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞(とくに穿通枝の根元が詰まる分枝粥腫型梗塞[branch atheromatous disease:BAD])では、症状が段階的に悪化したり、よくなったり悪くなったりすることがある。一方、心原性脳塞栓症は突然発症して短時間で症状が完成することが多い。このように、変動の有無は脳梗塞のどの病型かを推定する手がかりにはなるが、脳梗塞かどうかを判断する根拠にはならない。変動のない感覚障害は、ほかの多くの疾患でもみられる。

  4. ×d.  「頭痛は伴わなかった」

    誤り。脳梗塞では頭痛を伴わないことが多く、脳出血やくも膜下出血では頭痛を伴いやすいとはいえる。しかし、小さな脳出血では頭痛がないことも多いので、頭痛がないことで梗塞と出血を確実に区別することはできない。さらに、頸椎症や末梢神経障害など脳血管障害以外のしびれの原因の多くも頭痛を伴わない。したがって、頭痛がないという情報から脳梗塞を特に示唆することはできない。

  5. ×e.  「発熱はなかった」

    誤り。発熱は脳梗塞の診断に直接関係しない。発熱があれば脳膿瘍、脳炎、感染性心内膜炎による塞栓症などを考えるきっかけにはなるが、発熱がないことは、脳梗塞以外にも変形性頸椎症、後縦靱帯骨化症、脳腫瘍などの多くの疾患にあてはまる。鑑別に役立つ情報はほとんどない。

脳血管障害を疑う病歴のポイント

・発症様式:突然発症(分単位、あるいは秒単位で症状が現れる)。発症時刻や、発症時にしていたことを特定できることが多い。 ・危険因子:高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、心房細動、加齢など。 ・前駆症状:TIAの既往は脳梗塞のハイリスクの指標となる。

脳梗塞の主な臨床病型と経過

・心原性脳塞栓症:心房細動などで心臓内にできた血栓が脳動脈を詰まらせる。突然発症し、短時間で症状が完成する。日中の活動時に多く、梗塞が広くなりやすく、重症になりやすい。 ・アテローム血栓性脳梗塞:太い動脈の粥状硬化(アテローム硬化)が原因。安静時や睡眠中に起こりやすく、段階的に進行したり、症状が変動したりすることがある。前駆するTIAが比較的多い。 ・ラクナ梗塞:穿通枝が詰まって起こる直径15mm未満の小さな梗塞。高血圧と関連が深い。意識障害や皮質症状(失語・失認など)は伴わず、純粋運動性片麻痺、純粋感覚性脳卒中、運動失調不全片麻痺などの「ラクナ症候群」を示す。

純粋感覚性脳卒中(pure sensory stroke)

視床の後外側腹側核(VPL核)・後内側腹側核(VPM核)の小梗塞や小出血で起こり、対側の顔面・上下肢に感覚障害(しびれ)だけが出て、運動麻痺は伴わない。口角と手指に限ってしびれが出る手口感覚症候群(cheiro-oral syndrome)も視床病変の代表的な症候である。

片側上下肢のしびれの鑑別

・中枢性(脳):脳梗塞・脳出血、脳腫瘍、多発性硬化症などの脱髄疾患、てんかん(感覚発作)、片頭痛の前兆 ・脊髄:頸髄症(変形性頸椎症、後縦靱帯骨化症、椎間板ヘルニア)。ただし顔面には症状が出ない。 顔面にも症状があれば脳の病変、顔面になく頸部以下だけであれば頸髄の病変を考えるのが部位診断の基本である。

POINT

・脳血管障害の最大の特徴は突然発症であり、病歴聴取では発症様式を必ず確認する。 ・片側上下肢の感覚障害だけが突然出た場合は、対側視床のラクナ梗塞(純粋感覚性脳卒中)が典型である。 ・症状の変動の有無は脳梗塞の病型推定(心原性は突発完成、アテローム血栓性・ラクナ・BADは変動・進行しうる)に役立つが、脳梗塞かどうかの判断には役立たない。 ・頭痛なし、発熱なしといった陰性情報は特異性が低い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。