銀白色の鱗屑と爪のくぼみ―乾癬性関節炎の腰痛・臀部痛が示すもの
第119回医師国家試験 A問題 第63問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。関節痛と皮疹を主訴に来院した。以前から皮疹を繰り返し認めていたが,約3か月前から背部の皮疹が拡大してきた。同時期から,手指の関節痛,腰痛および臀部痛を自覚するようになった。貼付剤で様子をみていたが,改善しないため受診した。意識は清明。体温36.5℃。上腕部と背部とに皮疹を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。両手の爪に点状陥凹を認める。両手の示指,中指,環指の遠位指節間関節および近位指節間関節に腫脹と圧痛を認める。アキレス腱付着部に軽度の圧痛を認める。血液所見:赤血球452万,Hb 14.1g/dL,Ht 45%,白血球5,600,血小板16万。免疫血清学所見:CRP 0.3mg/dL,リウマトイド因子〈RF〉陰性,抗核抗体陰性。背部の写真を下に示す。 この患者でみられる可能性が高いのはどれか。

- a.白内障
- b.外陰部潰瘍
- c.心嚢液貯留
- d.仙腸関節炎
- e.多発単神経炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑、爪の点状陥凹、DIP関節を含む関節炎、アキレス腱付着部炎、RF陰性がそろえば乾癬性関節炎を考えます。乾癬性関節炎は強直性脊椎炎などとともに脊椎関節炎に属し、付着部炎、仙腸関節炎・脊椎炎などの体軸病変、指趾炎、ぶどう膜炎を伴いうるため、腰痛・臀部痛は仙腸関節炎によるものと解釈できます。外陰部潰瘍はBehçet病、心嚢液貯留はSLEなどの漿膜炎、多発単神経炎は血管炎症候群に特徴的で、眼病変として典型的なのは白内障ではなくぶどう膜炎です。体軸型病変にはメトトレキサートの効果が乏しく生物学的製剤が選ばれるため、仙腸関節炎の有無は治療方針にも直結します。疾患を「脊椎関節炎」というグループで捉えることで、関節外症状や合併症を体系的に理解できるようになります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・40歳男性。以前から皮疹を繰り返し、約3か月前から背部の皮疹が拡大した。 ・皮疹の拡大とほぼ同時期に、手指の関節痛、腰痛、臀部痛が出現した。 ・両手の爪に点状陥凹(pitting)がある。 ・両手の示指・中指・環指で、遠位指節間関節(DIP関節)と近位指節間関節(PIP関節)に腫脹と圧痛がある。 ・アキレス腱付着部に圧痛がある(付着部炎を示唆)。 ・CRP 0.3mg/dLと炎症反応はごく軽度。リウマトイド因子(RF)陰性、抗核抗体陰性。 ・背部の写真では、境界明瞭でやや盛り上がった(浸潤を触れる)大小の紅斑が広範囲にみられ、表面に銀白色の鱗屑を伴う。尋常性乾癬に典型的な像である。
診断へのプロセス
成人で皮疹と多関節痛が同時にみられる場合、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、Behçet病、成人Still病、サルコイドーシス、Sjögren症候群、そして乾癬性関節炎(PsA)などを鑑別する。 本例では、①鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑(乾癬の皮疹)が関節症状に先行している、②爪の点状陥凹という乾癬に特徴的な爪病変がある、③DIP関節が侵されている、④アキレス腱付着部炎がある、⑤腰痛・臀部痛という体軸(脊椎・仙腸関節)の症状がある、⑥RFと抗核抗体が陰性、という点がそろっている。RAはPIP関節・中手指節間関節(MCP関節)が主体でDIP関節は通常侵されず、RF・抗CCP抗体が陽性となることが多い。SLEは抗核抗体がほぼ全例で陽性になる。したがって、乾癬性関節炎と診断できる。
設問の考え方
乾癬性関節炎は、強直性脊椎炎などとともに「脊椎関節炎(spondyloarthritis:SpA)」というグループに属する。脊椎関節炎に共通する特徴は、RF陰性、付着部炎、体軸関節(脊椎・仙腸関節)の炎症、ぶどう膜炎などの関節外症状である。本例の腰痛と臀部痛は、仙腸関節炎による炎症性腰背部痛・臀部痛として説明でき、最もみられる可能性が高いのは仙腸関節炎である。他の選択肢は、それぞれ別の膠原病・血管炎に特徴的な所見である。
選択肢考察
- ×a. 白内障
乾癬性関節炎に合併しやすい眼病変は、白内障ではなくぶどう膜炎(主に前部ぶどう膜炎)や結膜炎である。白内障は、慢性のぶどう膜炎や長期の副腎皮質ステロイド投与の結果として二次的に生じることはあるが、本例で直接みられる可能性が高い所見とはいえない。白内障を合併する全身疾患としては、サルコイドーシス(ぶどう膜炎に続発)、糖尿病、アトピー性皮膚炎、筋強直性ジストロフィーなどが知られる。
- ×b. 外陰部潰瘍
外陰部潰瘍は、口腔内アフタ性潰瘍・皮膚症状(結節性紅斑様皮疹など)・眼症状(ぶどう膜炎)とともにBehçet病の4主症状の一つである。Behçet病も関節炎を伴うが、本例の皮疹は鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑で乾癬の像であり、口腔内アフタなども記載されていない。乾癬性関節炎で外陰部潰瘍が出現することは通常ない。
- ×c. 心嚢液貯留
心嚢液貯留は心膜炎に伴って生じ、SLE(漿膜炎は分類基準の項目の一つ)、関節リウマチ、成人Still病などでみられる。本例は抗核抗体陰性でSLEは否定的であり、炎症反応もほぼない。乾癬性関節炎で心膜炎・心嚢液貯留を生じることはまれで、可能性が高い所見ではない。なお脊椎関節炎(特に強直性脊椎炎)の心血管病変としては、大動脈炎による大動脈弁閉鎖不全や伝導障害が知られる。
- ○d. 仙腸関節炎
乾癬性関節炎は脊椎関節炎の一つであり、体軸型病変として仙腸関節炎や脊椎炎を伴うことがある。本例では腰痛と臀部痛を訴えており、臀部痛は仙腸関節炎の典型的な症状である(左右交代性の臀部痛として現れることもある)。乾癬性関節炎の仙腸関節炎は、強直性脊椎炎と比べて片側性・非対称性のことが多い。診断には仙腸関節のX線撮影やMRI(骨髄浮腫の検出に有用)が用いられる。付着部炎(アキレス腱付着部の圧痛)と合わせ、脊椎関節炎としての特徴に合致する。
- ×e. 多発単神経炎
多発単神経炎は、複数の末梢神経が非対称性・時間差をもって障害されるもので、神経を栄養する小血管(神経栄養血管)の血管炎による虚血が主な原因である。結節性多発動脈炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎などの血管炎症候群のほか、悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)、SLE、Sjögren症候群でもみられる。乾癬性関節炎の典型的な合併症ではない。
乾癬性関節炎(psoriatic arthritis:PsA)の概要
・乾癬患者の一部(報告により異なるが、欧米ではおよそ2〜3割、日本ではそれより少ないとされる)に関節炎が生じる。多くは皮疹が関節炎に先行するが、関節炎が先行する例や同時発症例もある。 ・RFは通常陰性で、抗CCP抗体も多くは陰性。HLA-B27の陽性率は体軸型病変をもつ例で高い。 ・病態の中心は付着部炎(腱・靱帯が骨に付着する部分の炎症)であり、滑膜炎が主体のRAと異なる。
主な病型(Moll & Wrightの分類)
①DIP関節優位型、②非対称性少関節炎型、③対称性多関節炎型(RAに類似)、④ムチランス型(高度の骨破壊・骨吸収による変形)、⑤体軸型(脊椎炎・仙腸関節炎)。
特徴的な所見
・爪病変:点状陥凹、爪甲剥離、爪甲下角質増殖。爪病変はDIP関節炎と関連が強い。 ・指趾炎(dactylitis):指全体がソーセージ様に腫れる。 ・付着部炎:アキレス腱付着部、足底腱膜付着部など。 ・X線所見:DIP関節の骨びらんと骨増殖の併存、末節骨の骨吸収、pencil-in-cup変形など。 ・関節外症状:ぶどう膜炎、炎症性腸疾患の合併など。
分類基準
CASPAR基準(Classification Criteria for Psoriatic Arthritis)では、炎症性関節疾患(関節・脊椎・付着部)があることを前提に、現在の乾癬(2点)、乾癬の既往または家族歴、乾癬性爪病変、RF陰性、指趾炎、X線での関節近傍の新生骨形成(各1点)を数え、3点以上で乾癬性関節炎と分類する。本例は現在の乾癬・爪病変・RF陰性で3点以上を満たす。
治療
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、メトトレキサートなどの従来型抗リウマチ薬、アプレミラスト(PDE4阻害薬)、生物学的製剤(TNF阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬など)、JAK阻害薬が用いられる。体軸型病変にはメトトレキサートなどの従来型抗リウマチ薬の効果が乏しく、生物学的製剤が選択される。
POINT
・乾癬の皮疹+爪の点状陥凹+DIP関節炎+付着部炎+RF陰性 → 乾癬性関節炎。 ・乾癬性関節炎は脊椎関節炎の一つ:仙腸関節炎・脊椎炎、付着部炎、指趾炎、ぶどう膜炎を伴いうる。 ・RAとの鑑別:RAはPIP・MCP関節主体でDIP関節は侵されにくく、RF・抗CCP抗体陽性が多く、爪病変はない。 ・外陰部潰瘍→Behçet病、心嚢液貯留→SLEなどの漿膜炎、多発単神経炎→血管炎症候群。
