StudyMed医師国家試験

蛋白は減らしてもエネルギーは削らない―腎不全期の糖尿病食事療法

第114回医師国家試験 A問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第114回 A問題 第29問

50歳の男性。糖尿病治療の目的で来院した。1か月前から両眼のかすみと視力低下を自覚して自宅近くの医療機関の眼科を受診したところ,両眼増殖糖尿病網膜症と診断され,内科を紹介されて受診した。これまで健康診断は受けていなかった。職業は自営業でデスクワークをしている。この1年間で体重は8kg減少している。身長170cm,体重62kg。脈拍72/分,整。血圧182/102mmHg。両側アキレス腱反射は消失している。両側足関節の振動覚は著明に低下。尿所見(空腹時):蛋白3+,糖3+,ケトン体1+,潜血(-)。血液生化学所見(空腹時):尿素窒素38mg/dL,クレアチニン2.4mg/dL,血糖348mg/dL,HbA1c 14.6%(基準4.6~6.2),トリグリセリド362mg/dL,HDLコレステロール28mg/dL,LDLコレステロール128mg/dL,Na 136mEq/L,K 5.2mEq/L,Cl 98mEq/L。  この患者の食事療法として正しいのはどれか。

  1. a.塩分摂取量は10g/日とする。
  2. b.蛋白摂取量は45g/日とする。
  3. c.総エネルギー量は1,400kcal/日とする。
  4. d.糖質の割合は総エネルギー量の40%とする。
  5. e.コレステロール摂取量は1,000mg/日とする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長く放置された糖尿病で合併症が進んだ患者さんの食事療法を問う問題だ。ポイントは、まず腎症の病期を見極めること、そしてその病期に合わせた食塩・蛋白・エネルギーの目安を、目標体重から実際の数字に落とし込めるかどうかだ。
医学生医学生
網膜症、神経障害、腎症の三大合併症がすべてそろっていますね。腎機能はかなり悪そうです。
ドクタードクター
そうだね。アキレス腱反射の消失と振動覚低下は両側対称性の多発神経障害、増殖網膜症もある。腎臓はクレアチニン2.4mg/dLで、50歳男性としてeGFRを推算すると約24になる。糖尿病性腎症の病期分類では何期かな。
医学生医学生
蛋白尿3+なので顕性腎症の第3期でしょうか。
ドクタードクター
惜しい。病期分類では、eGFRが30未満なら尿所見にかかわらず第4期、腎不全期になる。尿蛋白が多いからといって第3期にとどまるわけではないんだ。軽度の高カリウム血症もあって、腎不全期らしい所見がそろっている。
医学生医学生
腎臓内科の講義で、eGFR 30が大きな区切りだと習いました。では食事は腎不全期の基準で考えるんですね。
ドクタードクター
その通り。まずは計算の土台になる目標体重を出そう。65歳未満なら身長(m)の2乗×22だね。
医学生医学生
1.7×1.7×22で約64kgです。
ドクタードクター
よし。腎症第4期の蛋白質の目安は目標体重1kgあたり0.6〜0.8gだから、約38〜51g/日。45g/日はおよそ0.7g/kgで、この範囲にきちんと収まる。これが正解だ。蛋白制限は糸球体の過剰濾過を抑え、尿毒症物質やリン・カリウムの負荷を減らす目的で行うんだ。
医学生医学生
塩分10g/日はどうですか。日本人の平均くらいなので、普通に思えてしまいます。
ドクタードクター
まさに「普通」なのが問題なんだ。血圧が180台の高血圧で、しかも腎不全期だから、食塩は6g/日未満に制限すべきだ。10g/日は健常男性の目標量よりも多くて、制限の意味をなさない。
医学生医学生
総エネルギー1,400kcalは、糖尿病なら控えめでよさそうな気がしたんですが。
ドクタードクター
そこが今回の大事な落とし穴だ。1,400kcalは目標体重あたり約22kcal/kgで、第4期の目安25〜35kcal/kgを下回る。この人はBMIが約21で肥満ではないし、1年で8kgも痩せている。蛋白を制限しているときにエネルギーまで足りないと、体の蛋白が分解されてエネルギー源にされてしまう。異化が進んで尿素窒素が上がり、低栄養にもなるんだ。デスクワーク中心なら1,600〜1,900kcal/日程度は確保したい。
医学生医学生
蛋白は減らしても、エネルギーは削らない。逆方向の調整なんですね。
ドクタードクター
そう。だから糖質を総エネルギーの40%に抑えるのも適切ではない。糖尿病の食事では炭水化物を50〜60%程度とするのが標準で、蛋白を絞った分のエネルギーは糖質と脂質で補う必要がある。糖質を40%にすれば脂質が過剰になるか、エネルギー不足になる。この人は高トリグリセリド血症と低HDLもあるから、脂質に頼るのも避けたい。
医学生医学生
コレステロール1,000mg/日は、さすがに多すぎますよね。
ドクタードクター
卵4〜5個分に相当する量だね。三大合併症をもつこの人は動脈硬化性疾患のリスクが非常に高く、LDLコレステロールも管理目標を上回っている。高LDLコレステロール血症の食事療法では200mg/日未満が推奨されているから、1,000mgを指示するのは明らかに誤りだ。
医学生医学生
腎不全期の食事は、蛋白は0.6〜0.8g/kg、エネルギーは25〜35kcal/kg、食塩は6g未満、高カリウムならカリウムも制限、という組み合わせで覚えればいいですね。
ドクタードクター
よくまとまった。カリウムは1.5g/日未満が目安で、生野菜や果物を控えたり、野菜を茹でこぼしたりする工夫を指導する。治療全体としては、著明な高血糖とケトン体陽性、体重減少があり、腎機能も低下しているから、インスリン療法で血糖を管理するのが基本になる。
医学生医学生
内分泌内科を回ったとき、増殖網膜症がある人は血糖を急に下げすぎないようにと指導医に言われました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。急激な血糖改善で網膜症が悪化することがあるから、眼科と連携して光凝固などを進めつつ、血糖は緩やかに是正する。降圧ではレニン・アンジオテンシン系阻害薬が中心になるけれど、高カリウム血症の悪化には注意が必要だ。食事療法は管理栄養士と協力して、患者さんが続けられる形にしていこう。

まとめ

糖尿病性腎症は、尿所見にかかわらずeGFR 30mL/分/1.73m²未満で第4期(腎不全期)と判断し、食事療法の内容がこの病期で大きく変わります。腎不全期の目安は、目標体重(65歳未満では身長(m)²×22)あたり蛋白質0.6〜0.8g/日、エネルギー25〜35kcal/日、食塩6g/日未満で、高カリウム血症があればカリウムを1.5g/日未満に制限します。蛋白制限中にエネルギーが不足すると体蛋白の異化が進むため、エネルギーは十分に確保し、炭水化物も総エネルギーの50〜60%程度を保つのが原則です。動脈硬化リスクの高い患者ではコレステロール摂取を200mg/日未満に抑えます。病期判定から目標体重に基づく具体的な数値設定までを結びつける力は、糖尿病診療と栄養指導の実践に直結します。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・50歳男性。健康診断を受けておらず、視力低下を契機に両眼の増殖糖尿病網膜症が見つかった。 ・1年で8kgの体重減少。空腹時血糖348mg/dL、HbA1c 14.6%、尿糖3+、尿ケトン体1+。高血糖が持続し、インスリン作用が不足している状態である。 ・両側アキレス腱反射の消失と足関節振動覚の著明な低下は、左右対称性・遠位優位の多発神経障害で、糖尿病神経障害に典型的である。 ・尿蛋白3+(潜血陰性)、尿素窒素38mg/dL、クレアチニン2.4mg/dL、K 5.2mEq/Lと軽度の高カリウム血症。日本人の推算式(eGFR=194×Cr^−1.094×年齢^−0.287)で計算するとeGFRは約24mL/分/1.73m²となる。 ・血圧182/102mmHgの高血圧、トリグリセリド362mg/dL、HDLコレステロール28mg/dL、LDLコレステロール128mg/dLの脂質異常症も合併している。

診断

増殖網膜症、神経障害、腎症という三大細小血管合併症がそろっており、長期間にわたり未治療で経過した糖尿病(経過からは2型糖尿病が考えやすい。ただし緩徐進行1型糖尿病を除外するには抗GAD抗体などの検査が必要である)と判断できる。腎機能障害は、高度の蛋白尿と網膜症の合併から糖尿病性腎症によるものと考えるのが妥当である。糖尿病性腎症病期分類(2014)では、eGFRが30mL/分/1.73m²未満であれば尿アルブミン・尿蛋白の値にかかわらず第4期(腎不全期)とされ、本例はこれに当たる。

食事療法の考え方

本問は腎症第4期の糖尿病患者に対する食事療法を問うている。まず、エネルギー量・蛋白量の計算基準となる体重を求める。 ・目標体重(標準体重):身長(m)²×22=1.7×1.7×22≒63.6kg(約64kg) 腎症第4期の主な食事指導の目安は次のとおりである。 ・総エネルギー:25〜35kcal/kg目標体重/日 → 本例で約1,600〜2,200kcal/日。デスクワーク中心の身体活動量(25〜30kcal/kg)を考慮すると約1,600〜1,900kcal/日が目安となる。 ・蛋白質:0.6〜0.8g/kg目標体重/日 → 約38〜51g/日 ・食塩:6g/日未満 ・カリウム:1.5g/日未満(高カリウム血症がある場合) 蛋白質を制限するとき、エネルギーが不足すると体蛋白が分解されてエネルギー源として使われ(異化亢進)、尿素窒素の上昇や低栄養を招く。このため「蛋白は減らし、エネルギーは十分に確保する」ことが腎不全期の食事療法の原則である。

選択肢考察

  1. ×a.  塩分摂取量は10g/日とする。

    本例は182/102mmHgの高血圧と腎症第4期を合併しており、食塩は6g/日未満に制限すべきである。食塩制限は降圧と体液量の管理、腎症進行の抑制につながる。10g/日は日本人成人の平均的な摂取量とほぼ同じで、健常者の目標量(男性7.5g/日未満)よりも多く、制限としての意味をなさない。

  2. ○b.  蛋白摂取量は45g/日とする。

    腎症第4期の蛋白摂取量の目安は0.6〜0.8g/kg目標体重/日である。目標体重約64kgで計算すると約38〜51g/日となり、45g/日(約0.7g/kg)はこの範囲に収まる。蛋白制限は糸球体内圧の上昇(過剰濾過)を抑え、尿毒症物質やリン・カリウムの負荷を減らす目的で行う。ただし過度の制限は低栄養を招くため、十分なエネルギー摂取と組み合わせる。

  3. ×c.  総エネルギー量は1,400kcal/日とする。

    1,400kcal/日は目標体重64kgあたり約22kcal/kgで、腎症第4期の目安(25〜35kcal/kg、デスクワークでは25〜30kcal/kg程度)を下回る。本例はBMI約21.5と肥満ではなく、すでに1年で8kg減少している。蛋白制限中にエネルギーが不足すると体蛋白の異化が進み、低栄養や尿素窒素の上昇を招く。このため約1,600〜1,900kcal/日を確保すべきである。

  4. ×d.  糖質の割合は総エネルギー量の40%とする。

    糖尿病の食事療法では、炭水化物(糖質)は総エネルギーの50〜60%程度とするのが標準である。本例は蛋白質を総エネルギーの約1割に制限するので、不足分のエネルギーは糖質と脂質で補う必要がある。糖質を40%に抑えると、残りの約半分を脂質で摂ることになって脂質過多となるか、エネルギー不足となって蛋白異化を促してしまう。高トリグリセリド血症と低HDLコレステロール血症を合併する本例では、脂質過多も避けるべきである。したがって腎不全期に極端な糖質制限は適切でない。

  5. ×e.  コレステロール摂取量は1,000mg/日とする。

    1,000mg/日は、鶏卵およそ4〜5個分に相当する過剰な量である。本例は糖尿病に網膜症・腎症・神経障害を合併しており、動脈硬化性疾患のリスクが非常に高い。LDLコレステロールは128mg/dLで、管理目標(糖尿病では120mg/dL未満、細小血管合併症などを伴う場合は100mg/dL未満)を上回っている。高LDLコレステロール血症に対する食事療法では、コレステロール摂取を200mg/日未満に抑えることが推奨されている。なお、食事摂取基準ではコレステロールに明確な上限値は設けられていない。いずれにしても、1,000mg/日と多量に摂るよう指示することは誤りである。

糖尿病性腎症病期分類(2014)

・第1期(腎症前期):正常アルブミン尿(尿アルブミン/クレアチニン比30mg/gCr未満)、eGFR 30以上 ・第2期(早期腎症期):微量アルブミン尿(30〜299mg/gCr)、eGFR 30以上 ・第3期(顕性腎症期):顕性アルブミン尿(300mg/gCr以上)または持続性蛋白尿(0.5g/gCr以上)、eGFR 30以上 ・第4期(腎不全期):尿所見を問わず、eGFR 30未満 ・第5期(透析療法期):透析療法中 ※2023年の改訂で「第3期」などの名称の一部が見直されている(例:顕性アルブミン尿期)が、eGFR 30未満を腎不全期とする枠組みは同じである。

腎症の進行に応じた食事療法の要点

・食塩:高血圧がある場合や顕性腎症期以降は6g/日未満 ・蛋白質:顕性腎症期以降で0.8〜1.0g/kg、腎不全期で0.6〜0.8g/kgを目安とし、病態に応じて個別に調整する ・エネルギー:蛋白制限を行う場合は25〜35kcal/kg/日と十分に確保する ・カリウム:高カリウム血症があれば1.5g/日未満に制限(生野菜・果物を控える、野菜は茹でこぼすなど)

目標体重とエネルギー量(糖尿病診療ガイドライン2019以降)

・目標体重:65歳未満は身長(m)²×22、65歳以上は22〜25を目安に個別に設定 ・エネルギー係数:軽い労作(デスクワーク中心)25〜30kcal/kg、普通の労作30〜35kcal/kg、重い労作35〜kcal/kg ・栄養素の配分:炭水化物50〜60%、蛋白質20%以下を目安とし、残りを脂質とする(脂質が25%を超える場合は脂肪酸の組成に配慮する)。ただし病態に応じて個別化する。

本例の治療全般

著明な高血糖と尿ケトン体陽性、体重減少があり、腎機能も低下しているため、インスリン療法による血糖管理が必要である。あわせて、増殖網膜症に対する眼科治療(汎網膜光凝固など)、レニン・アンジオテンシン系阻害薬を中心とした降圧(高カリウム血症に注意)、脂質管理、禁煙指導を行う。なお、増殖網膜症がある状態で急激に血糖を下げると網膜症が悪化することがあるため、血糖は緩やかに是正する。

POINT

・腎症第4期(eGFR 30mL/分/1.73m²未満)の食事療法の目安:蛋白質0.6〜0.8g/kg目標体重/日、エネルギー25〜35kcal/kg/日、食塩6g/日未満、高カリウム血症ではカリウム1.5g/日未満。 ・目標体重=身長(m)²×22(65歳未満)。170cmなら約64kg。 ・蛋白制限時はエネルギーを十分に確保する(不足すると異化が亢進する)。 ・炭水化物は総エネルギーの50〜60%程度。極端な糖質制限は腎不全期に不適切。 ・高LDLコレステロール血症ではコレステロール摂取を200mg/日未満に抑える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。