受胎前にやめる薬、続けてよい薬―関節リウマチ女性の妊娠計画とメトトレキサート
第114回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
挙児希望のある関節リウマチの女性に対して,妊娠前にあらかじめ中止すべき治療薬はどれか。
- a.タクロリムス
- b.インドメタシン
- c.エタネルセプト
- d.メトトレキサート
- e.サラゾスルファピリジン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
関節リウマチは妊娠可能年齢の女性に多く、挙児希望がある場合は、催奇形性のある薬を受胎前に切り替えつつ、妊娠中も使える薬で病勢を安定させることが母児の予後にとって重要です。メトトレキサートは葉酸代謝拮抗薬でヒトでの流産・催奇形性(MTX胚症)があり妊婦禁忌のため、器官形成期の曝露を避けるよう受胎前に中止し、休薬期間をおいて妊娠を計画します。インドメタシンなどのNSAIDsは主に妊娠後期の胎児動脈管早期閉鎖や羊水過少が問題で、受胎前中止の対象ではなく、タクロリムス、エタネルセプト、サラゾスルファピリジン、ステロイドなどは有益性が上回れば妊娠中も使用されえます。同様に受胎前中止が必要な薬としてレフルノミド(薬物除去処置を行う)も押さえておきましょう。薬ごとに「どの時期の曝露が問題になるか」を考える視点は、妊娠と薬物療法全般に応用できる重要な考え方です。
解答・解説
正解はdです
関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は20〜50歳代の女性に多く、妊娠・出産を希望する時期と治療期間が重なりやすい。妊娠を考える女性患者では、(1)胎児に奇形や毒性を起こしうる薬を受胎前に切り替えておくこと、(2)病勢をできるだけ落ち着かせた状態で妊娠に臨むこと、の二つを両立させる必要がある。RAの活動性が高いまま妊娠すると、早産や低出生体重児のリスクが上がるため、「妊娠を希望したら全部やめる」のではなく、妊娠中も使える薬に置き換えて病勢を保つという考え方が基本である。 本問は「妊娠前に(受胎の時点で体内に残らないよう)前もって中止しておくべき薬」を問うている。ここで重要なのは次の区別である。 ・ヒトで催奇形性が確立しており、器官形成期(妊娠4〜7週ごろ)に曝露すること自体が問題になる薬 → 妊娠が判明してから止めたのでは間に合わないため、計画的に受胎前に中止する。 ・妊娠の特定の時期(例:妊娠後期)にだけ問題となる薬 → 妊娠前に中止しておく必然性はなく、時期に応じて調整する。 ・妊娠中も有益性が危険性を上回れば使用できる薬 → 病勢コントロールのため継続しうる。 RA治療の中心薬(アンカードラッグ)であるメトトレキサート(MTX)は、葉酸代謝拮抗薬であり、ヒトで流産や催奇形性(MTX胚症)が確認されている。妊婦への投与は禁忌であり、妊娠を希望する場合は受胎前に中止し、休薬期間を設けてから妊娠を計画する。したがって正解はdである。
選択肢考察
- ×a. タクロリムス
カルシニューリン阻害薬に分類される免疫抑制薬で、T細胞の活性化(IL-2産生)を抑える。臓器移植後の妊娠例などで多くの使用経験があり、ヒトで明らかな催奇形性は確認されていない。わが国では以前は妊婦に禁忌とされていたが、2018年に添付文書が改訂され、治療上の有益性が危険性を上回る場合には妊娠中も投与できる扱いとなった。RAの病勢を保つために妊娠中も使用されうる薬であり、妊娠前に必ず中止すべき薬ではない。
- ×b. インドメタシン
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である。NSAIDsはプロスタグランジン合成を抑えるため、妊娠後期に使うと胎児の動脈管が収縮・早期閉鎖し、胎児肺高血圧や胎児循環不全を起こすおそれがある。また胎児の腎血流低下による羊水過少も問題となる。インドメタシンは添付文書上も妊婦への投与は禁忌とされている。しかし、問題となるのは主に妊娠中期以降の曝露であり、器官形成期の催奇形性が確立しているわけではない。妊娠が判明した時点で中止すれば足りるため、「妊娠前にあらかじめ中止しておく」必要がある薬には当たらない。
- ×c. エタネルセプト
TNF(腫瘍壊死因子)α/LTαの可溶性受容体とヒトIgG1のFc部分を結合させた融合蛋白製剤で、TNF阻害薬(生物学的製剤)の一つである。胎盤通過は主にFc受容体を介したIgGの能動輸送によるが、エタネルセプトは完全なIgG抗体ではないため、インフリキシマブやアダリムマブなどのモノクローナル抗体製剤に比べて胎盤移行が少ないとされる。現在までにヒトで明らかな催奇形性は示されておらず、有益性が危険性を上回ると判断される場合には妊娠中も投与されうる。妊娠前に必ず中止すべき薬ではない。
- ○d. メトトレキサート
葉酸の活性化を担うジヒドロ葉酸還元酵素を阻害し、核酸合成を抑える葉酸代謝拮抗薬である。細胞分裂が盛んな胎芽の発生を障害し、流産を起こすほか、頭蓋骨の骨化不全、顔面形態異常、四肢の異常などを特徴とする奇形(MTX胚症)がヒトで報告されている。この作用は異所性妊娠の薬物治療や人工妊娠中絶に利用されるほど強い。妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与禁忌であり、器官形成期の曝露を避けるには妊娠判明後の中止では遅い。このため挙児希望がある場合は受胎前に中止し、添付文書では投与終了後少なくとも1月経周期は妊娠を避けるよう求められている(臨床ではより長めの休薬期間を設けることもある)。中止後は妊娠中も使用可能な薬に切り替えて病勢を維持する。
- ×e. サラゾスルファピリジン
スルファピリジンと5-アミノサリチル酸がアゾ結合した薬で、RAでは従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)として用いられる。動物実験・疫学研究のいずれでも明らかな催奇形性は認められておらず、炎症性腸疾患の妊婦でも広く使用経験がある。添付文書上は妊婦には有益性が危険性を上回る場合に使用する位置づけであり、禁忌ではない。妊娠中の継続も選択肢となる薬で、妊娠前に必ず中止すべき薬ではない。なお葉酸の吸収・代謝を妨げる作用があるため、使用中は葉酸補充を併用するのが望ましい。
RAと妊娠
RAは妊娠中、特に妊娠後期に病勢が軽快する例が多い一方、出産後は再燃しやすい。ただし妊娠中も活動性が残る例は少なくなく、病勢が高いと早産・低出生体重のリスクが高まる。そのため、受胎前から妊娠中も使える薬で寛解あるいは低疾患活動性を目指すことが推奨される。
妊娠前後のRA治療薬の扱い(概略)
・受胎前に中止が必要:メトトレキサート(催奇形性・流産)、レフルノミド(催奇形性。体内に長く残るため、コレスチラミンによる薬物除去処置を行ってから妊娠を計画する)。 ・時期により注意:NSAIDs(妊娠後期の胎児動脈管収縮・羊水過少。インドメタシンなど一部は添付文書上妊婦禁忌)。 ・妊娠中も使用されうる:副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンは胎盤で不活化されやすい)、サラゾスルファピリジン、タクロリムス、ヒドロキシクロロキン、TNF阻害薬(胎盤移行の少ないセルトリズマブ ペゴルやエタネルセプトなどが選ばれやすい)。
生物学的製剤の胎盤移行
IgGは胎児性Fc受容体(FcRn)を介して主に妊娠中期以降に胎盤を通過する。IgG抗体型の製剤(インフリキシマブ、アダリムマブなど)は妊娠後期に胎児へ移行し、出生後もしばらく児の血中に残るため、生後早期の生ワクチン(BCGなど)の接種時期に配慮が必要となる。Fc部分をもたないセルトリズマブ ペゴルは胎盤移行がごくわずかである。
男性患者の場合
メトトレキサートについては、男性が服用している場合も、投与中および投与終了後少なくとも3か月間はパートナーが妊娠を避けるよう添付文書で勧告されている(精子形成周期を考慮)。
POINT
・メトトレキサートはヒトで催奇形性・流産作用があり妊婦禁忌。挙児希望時は受胎前に中止し、休薬期間をおいてから妊娠を計画する。 ・レフルノミドも受胎前中止が必要(薬物除去処置を行う)。 ・NSAIDsの問題は主に妊娠後期(胎児動脈管早期閉鎖・羊水過少)であり、受胎前中止の対象ではない。 ・タクロリムス、サラゾスルファピリジン、TNF阻害薬、ステロイドは有益性が上回れば妊娠中も使用しうる。 ・妊娠中もRAの病勢をコントロールすることが母児の予後に重要。
