StudyMed医師国家試験

「小さい子ほど治りにくい」―小児急性中耳炎の難治化因子を耳管・免疫・環境で読み解く

第114回医師国家試験 A問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第114回 A問題 第12問

小児急性中耳炎の難治化に関連しないのはどれか。

  1. a.年齢6歳以上
  2. b.免疫能の低下
  3. c.鼻副鼻腔炎の合併
  4. d.集団保育所への通所
  5. e.薬剤耐性菌の耳漏内検出

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は小児の急性中耳炎のうち、なかなか治らない、あるいは繰り返してしまう「難治化」の背景を問う問題だ。選択肢のなかに一つだけ、むしろ治りやすい方向の因子が紛れている。解剖、免疫、環境、起炎菌という4つの視点で整理していこう。
医学生医学生
まず基本からですが、急性中耳炎はどうやって起こるんでしたっけ。かぜのあとに多いというイメージはあります。
ドクタードクター
そのイメージで合っているよ。鼻や咽頭、つまり鼻咽腔にいる細菌が耳管を通って中耳に入り、化膿性の炎症を起こす。多くはウイルス性の上気道炎が先行する。起炎菌の大部分は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスの3つだ。
医学生医学生
微生物学の講義で、肺炎球菌とインフルエンザ菌は莢膜をもつ菌だと習いました。それが関係してきますか。
ドクタードクター
鋭いね。まさにそこが免疫の話につながる。莢膜をもつ菌を排除するには、莢膜多糖体に対する抗体、主にIgG2によるオプソニン作用が重要なんだ。ところがIgG2の産生は2歳ごろまで未熟で、母体からの移行抗体も生後数か月で減っていく。だから乳幼児は中耳炎を繰り返しやすい。
医学生医学生
ということは、原発性免疫不全やIgG2サブクラス欠損のように免疫能が低下していれば、当然難治化しやすいわけですね。
ドクタードクター
その通り。免疫能の低下は難治化に関連する因子だ。次に解剖を考えよう。乳幼児の耳管は大人と比べてどう違うかな。
医学生医学生
解剖実習では成人の耳管しか見ていませんが、子どもは短いと聞いた気がします。
ドクタードクター
短く、太く、そして水平に近い。成人の耳管は長く傾斜があるので、鼻咽腔の分泌物は中耳に上がりにくい。乳幼児では逆行性に細菌が入りやすいんだ。これが鼻副鼻腔炎の合併が問題になる理由でもある。
医学生医学生
鼻副鼻腔炎があると、鼻咽腔にずっと細菌がいる状態になって、耳管経由で中耳に細菌が補給され続けるということですか。
ドクタードクター
そう。しかも鼻閉や粘膜の腫れで耳管の換気・排泄機能が落ちるから、中耳の炎症が引きにくい。だから鼻副鼻腔炎の合併は難治化因子で、治療では鼻汁吸引などの鼻処置も一緒に行うことが勧められる。
医学生医学生
集団保育所への通所はどうでしょう。小児科実習で、保育園に通い始めてから毎月のように熱を出すという子を見ました。
ドクタードクター
典型的なエピソードだね。集団保育では上気道炎が子ども同士で繰り返し伝播する。さらに乳幼児の鼻咽腔には肺炎球菌やインフルエンザ菌が高率に保菌されていて、薬剤耐性菌も子ども間で水平感染しやすい。いったん治っても再感染して反復・遷延するので、集団保育は代表的な難治化因子なんだ。
医学生医学生
耳漏から薬剤耐性菌が出た場合も、抗菌薬が効きにくいので難治化に関連しますね。PRSPやBLNARでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。ペニシリン耐性肺炎球菌やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌が関与すると、通常量のアモキシシリンが効きにくい。高用量アモキシシリンやアモキシシリン・クラブラン酸、他系統への変更、鼓膜切開による排膿などを検討することになる。
医学生医学生
そうなると残るのは6歳以上という年齢ですね。低年齢ほど難治化しやすいなら、6歳以上はむしろ逆方向です。
ドクタードクター
正解。ガイドラインで難治化・反復化の因子とされるのは2歳未満の低年齢だ。学童期になると耳管が長く傾斜も強くなり、免疫も成熟して上気道炎の頻度も減る。耐性菌の検出率も下がる。だから6歳以上は難治化と関連しない、というのが答えになる。
医学生医学生
耳管、免疫、環境、耐性菌の4つは、どれも乳幼児ほど不利になる方向にそろっているんですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。臨床での発展知識も押さえておこう。小児急性中耳炎のガイドラインでは、24か月未満かどうかという年齢と、耳痛・発熱・啼泣などの症状、鼓膜の発赤・膨隆・耳漏などの所見をスコア化して重症度を決める。軽症なら抗菌薬を使わず数日経過観察するのが基本で、中等症以上ではアモキシシリンが第一選択、鼓膜の膨隆が強い重症例では鼓膜切開も行う。
医学生医学生
年齢が重症度スコアにも入っているんですね。反復性中耳炎の定義もあったと思いますが。
ドクタードクター
一般に6か月以内に3回以上、または12か月以内に4回以上を反復性中耳炎とする。対策としては鼻処置、抗菌薬の適正使用、鼓膜換気チューブ留置、肺炎球菌結合型ワクチンやHibワクチンの接種、漢方の十全大補湯などがある。リスク因子としては兄弟の存在や受動喫煙も挙げられ、母乳栄養は予防的に働くとされているよ。抗菌薬の安易な使用が耐性菌を増やすことにもつながるから、重症度に応じた使い分けが大切なんだ。

まとめ

小児急性中耳炎は、鼻咽腔の細菌が耳管を通って中耳に感染して起こり、主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスです。難治化・反復化の因子には、2歳未満の低年齢、免疫能の低下(莢膜菌に対するIgG2抗体の未熟さを含む)、鼻副鼻腔炎の合併、集団保育、PRSPやBLNARなどの薬剤耐性菌の関与があり、6歳以上の年長児は耳管や免疫が成熟しているためむしろ難治化しにくくなります。乳幼児の耳管は短く・太く・水平に近いことが、中耳炎の起こりやすさの解剖学的な背景です。治療は重症度に応じて、軽症は経過観察、中等症以上はアモキシシリンを第一選択とし、反復例では鼻処置、鼓膜換気チューブ、ワクチン接種なども検討します。難治化因子を「耳管・免疫・環境・起炎菌」の視点で整理しておくと、診療方針の判断や保護者への説明にも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

急性中耳炎は、鼻や咽頭(鼻咽腔)の細菌が耳管を通って中耳に入り、急性の化膿性炎症を起こす疾患である。小児、特に乳幼児に多い。起炎菌の大部分は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスの3菌種で、多くはかぜ(上気道炎)に続いて発症する。 小児で中耳炎が起こりやすく治りにくい背景には、次のような要素がある。 ・解剖学的要因:乳幼児の耳管は成人に比べて太く・短く・水平に近いため、鼻咽腔の分泌物や細菌が中耳に入りやすい。 ・免疫学的要因:乳児期には母体由来の移行抗体が減り、自前の抗体産生(特に莢膜をもつ菌に対する抗体)が未熟である。 ・環境要因:集団保育では上気道炎が流行しやすく、薬剤耐性菌の保菌・伝播が起こりやすい。 ・起炎菌の要因:ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)など、薬剤耐性菌が増えている。 小児急性中耳炎診療ガイドラインでも、2歳未満の低年齢、集団保育、薬剤耐性菌の関与などが難治化・反復化の因子として挙げられている。つまり難治化に関係するのは「低年齢」であり、年齢が上がるほど耳管機能や免疫が成熟して難治化しにくくなる。したがって「6歳以上」は難治化と関連しない因子であり、正解はaである。

選択肢考察

  1. ○a.  年齢6歳以上

    急性中耳炎の難治化・反復化のリスクとなるのは2歳未満の低年齢である。乳幼児は耳管が短く水平に近いこと、莢膜をもつ細菌に対する抗体産生が未熟であること、上気道炎にかかる頻度が高いことなどが重なるためである。学童期(6歳以上)になると耳管が長く傾斜も強くなり、免疫能も成熟して上気道炎の頻度も減るため、急性中耳炎自体の発症が少なくなり、耐性菌の検出率も下がる。したがって6歳以上は難治化とは関連しない。

  2. ×b.  免疫能の低下

    主要な起炎菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌は莢膜をもつ細菌であり、その防御には莢膜多糖体に対する抗体(主にIgG2サブクラス)とオプソニン作用が重要である。IgG2の産生は2歳ごろまで未熟であり、乳幼児で中耳炎が繰り返しやすい理由の一つとなる。原発性免疫不全やIgG2サブクラス欠損などの免疫能低下があれば、感染が遷延・反復しやすく難治化に関連する。

  3. ×c.  鼻副鼻腔炎の合併

    中耳と鼻咽腔は耳管でつながっている。鼻副鼻腔炎があると、鼻咽腔に細菌(耐性菌を含む)が多く存在し続け、耳管経由で中耳への細菌の供給源となる。さらに鼻閉や粘膜腫脹によって耳管の換気・排泄機能が低下し、中耳の炎症が治まりにくくなる。そのため鼻副鼻腔炎の合併は急性中耳炎の難治化に関連し、治療では鼻処置や鼻汁吸引を併せて行うことが勧められる。

  4. ×d.  集団保育所への通所

    集団保育の場では、上気道炎が子ども同士で繰り返し伝播しやすい。また乳幼児の鼻咽腔には肺炎球菌やインフルエンザ菌が高率に保菌されており、薬剤耐性菌の保菌者も多く、子ども間で耐性菌が水平感染する。発熱のない上気道炎の児が登園することや、家族内で感染した児が登園することも伝播を助ける。いったん治癒しても保育所で再感染して反復・遷延しやすく、集団保育は難治化の代表的なリスク因子である。

  5. ×e.  薬剤耐性菌の耳漏内検出

    耳漏(中耳から外耳道に流れ出た膿性分泌物)からペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)などの耐性菌が検出された場合、通常量のアモキシシリンなど第一選択の抗菌薬が効きにくく、治療が遷延しやすい。乳幼児、特に低年齢児ほど耐性菌の検出率は高い。耐性菌の関与は難治化に直結する因子であり、高用量アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、他系統の抗菌薬への変更や、鼓膜切開による排膿などが検討される。

急性中耳炎の概要

・定義:急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴うことがある。 ・好発:生後6か月〜2歳ごろに最も多い。 ・主な起炎菌:肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス。ウイルス性上気道炎が先行することが多い。 ・所見:鼓膜の発赤、膨隆、光錐の消失、中耳貯留液、耳漏など。

重症度に応じた治療(小児急性中耳炎診療ガイドラインの考え方)

・年齢(24か月未満か)、耳痛・発熱・啼泣などの臨床症状、鼓膜の発赤・膨隆・耳漏などの所見をスコア化し、軽症・中等症・重症に分類する。 ・軽症では抗菌薬を使わずに数日間経過を観察することが基本である。 ・中等症以上ではアモキシシリン(AMPC)が第一選択で、効果がなければ増量や他剤への変更を行う。鼓膜の膨隆が強い重症例では鼓膜切開も行う。

難治性・反復性中耳炎

・反復性中耳炎:一般に、過去6か月以内に3回以上、または12か月以内に4回以上の急性中耳炎を繰り返すものを指す。 ・リスク因子:2歳未満、集団保育、薬剤耐性菌、鼻副鼻腔炎の合併、免疫能の低下(IgG2低値など)、兄弟の存在、受動喫煙など。母乳栄養は予防的に働くとされる。 ・対策:鼻処置、抗菌薬の適正使用、鼓膜換気チューブ留置、肺炎球菌結合型ワクチンやインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン接種、漢方薬(十全大補湯)など。

乳幼児の耳管の特徴

成人の耳管は長く、外耳道に対して約45度傾いているのに対し、乳幼児の耳管は短く、太く、水平に近い。このため鼻咽腔からの逆行性感染が起こりやすい。

POINT

・小児急性中耳炎の難治化因子:2歳未満の低年齢、集団保育、薬剤耐性菌(PRSP、BLNAR)、鼻副鼻腔炎の合併、免疫能低下。 ・年長児(学童)は耳管・免疫が成熟し、難治化しにくい。 ・主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス。 ・乳幼児の耳管は短く・太く・水平に近いため中耳炎を起こしやすい。 ・軽症は経過観察、中等症以上はアモキシシリンが第一選択。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。