StudyMed医師国家試験

ポンプの柄を外した男―John Snowのコレラ調査でリスク比を計算する

第113回医師国家試験 F問題 第84問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第84問

19世紀のロンドンで,激しい下痢を伴う,後にコレラと判明する疾患が大流行した。疫学者のJohn Snowは水道水との関連を疑い,詳しい調査を行った。調査の結果の概要を以下に示す。なお,表中のA,Bは異なる水系を持つ供給元である。 供給元死亡数(人) 人口(人) A 810  150,000 B 18  24,000 この疾患の死亡に関するAのBに対するリスク比を計算せよ。  ただし,小数第3位以下の数値が得られた場合には,小数第3位を四捨五入すること。解答:① . ②③

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、疫学の古典であるJohn Snowのコレラ調査を題材に、リスク比を計算する問題だ。ポイントは、リスクの定義を正しく押さえることと、「AのBに対する」という言葉からどちらを分子に置くかを読み取ること。まず、リスクとは何か説明できるかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った気がしますが……死亡数を人口で割ったもの、でしょうか。
ドクタードクター
大筋はそれでいい。正確には、観察開始時点で対象となった集団、つまり危険曝露人口のうち、観察期間中に事象を起こした人の割合だ。累積罹患率とも呼ぶ。今回は表の人口が分母、死亡数が分子にあたる。
医学生医学生
じゃあAのリスクは810を150,000で割って、0.0054ですね。
ドクタードクター
その通り。人口1,000人あたり5.4人と言い換えると実感しやすい。Bはどうかな。
医学生医学生
18を24,000で割って、0.00075です。1,000人あたり0.75人。死亡数だけ見るとAが45倍に見えますけど、人口が全然違うので、そのまま比べてはいけないんですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。そこがこの問題のミソだ。集団の大きさが違うときは、必ず割合に直してから比べる。では、リスク比は?
医学生医学生
Aのリスクを分子、Bのリスクを分母にして、0.0054÷0.00075で7.2です。
ドクタードクター
正解。分数のまま整理すると、810×24,000を150,000×18で割る形になって、ちょうど7.2で割り切れる。小数のゼロの数で混乱しそうなときは、この方法で検算するといい。解答欄は小数第2位までの形式だから、7.20と書くことになる。
医学生医学生
分母と分子を逆にしてしまうと0.14になってしまうので、「AのBに対する」の読み方は大事ですね。
ドクタードクター
そう、基準になるのが「に対する」の側、つまりBだ。では、7.2という数字はどう解釈する?
医学生医学生
A水系の水を使っていた人は、B水系の人に比べてコレラで死亡するリスクが7.2倍高かった、ということです。
ドクタードクター
その通り。リスク比が1より大きければ曝露が危険を高める方向に関連、1なら関連なし、1未満なら危険を下げる方向の関連を示す。ここでいう曝露はA水系の水の使用だね。
医学生医学生
CBTの勉強で、リスク差という指標もあった気がします。
ドクタードクター
寄与危険とも呼ばれるね。曝露群のリスクから非曝露群のリスクを引いたもので、今回なら5.4−0.75で1,000人あたり4.65人。リスク比が関連の強さを示すのに対して、リスク差は曝露によって上乗せされた発生の大きさを示す。さらに、(リスク比−1)÷リスク比で求める曝露群寄与危険割合は、(7.2−1)÷7.2でおよそ86%。A水系の住民の死亡のうち、約86%は水系の違いで説明できると考えられるわけだ。
医学生医学生
オッズ比との違いもよく混乱します。
ドクタードクター
リスク比はコホート研究のように、集団を追いかけて発生を数えられるときに求めるものだ。症例対照研究では、症例と対照の数を研究者が決めてしまうからリスクそのものを計算できない。だからオッズ比を使う。まれな疾患ならオッズ比はリスク比の近似になる、という関係も覚えておこう。
医学生医学生
John Snowは、コレラ菌が見つかる前にこの調査をしたんですよね。
ドクタードクター
そうなんだ。当時は悪い空気が病気を起こすというミアズマ説が有力だった。Snowは患者の住所を地図に記録してブロード街の井戸の周囲に死亡が集中していることを示し、さらに水道会社ごとの死亡を比較して、汚染された水が原因だと考えた。Kochがコレラ菌を確認したのは1883年で、それより30年近く前の話だ。井戸のポンプの柄を外すよう提言した逸話は有名だね。
医学生医学生
原因の病原体が分からなくても、データで関連を示せば予防策が打てるということですね。
ドクタードクター
まさにそれが疫学の力だ。臨床でも、新しい感染症や薬の副作用が疑われたとき、原因の解明を待たずにまず関連の強さを数字で評価して対策を考える場面がある。リスク、リスク比、リスク差を自在に計算できることは、論文を読むうえでも欠かせない基礎体力になるよ。

まとめ

リスク(累積罹患率)は観察期間中の発生数を危険曝露人口で割った割合で、リスク比(相対危険)は曝露群のリスクを非曝露群のリスクで割って求めます。本問では「AのBに対する」なのでAを分子に置き、(810/150,000)÷(18/24,000)=0.0054÷0.00075=7.20となり、A水系の住民はコレラで死亡するリスクが7.2倍高かったと解釈できます。リスク比は関連の強さを、リスク差(寄与危険)は曝露による発生の上乗せ分を表し、症例対照研究ではリスク比の代わりにオッズ比を用います。John Snowは病原体が発見される前に汚染された水系とコレラの関連を疫学的に示し、予防対策につなげました。集団の大きさを揃えて比較し、その強さを数値で評価する考え方は、疫学研究の読解や公衆衛生上の判断の基本となります。

解答・解説

正解は7.20です

問われていること

水道の供給元Aから給水を受けていた集団(曝露群に相当)と、供給元Bから給水を受けていた集団(比較対照群に相当)とで、コレラによる死亡の起こりやすさが何倍違うかを、リスク比(相対危険)として求める問題である。

リスクとリスク比の定義

リスク(累積罹患率)とは、観察開始時点で対象となった集団のうち、観察期間中に事象(ここでは死亡)を起こした人の割合である。  リスク = 期間中に事象が発生した人数 ÷ 観察開始時の集団の人数(危険曝露人口) リスク比(相対危険、relative risk:RR)は、比較したい2群のリスクの比である。  リスク比 = 曝露群のリスク ÷ 非曝露群(基準群)のリスク 「AのBに対するリスク比」なので、Aのリスクを分子、Bのリスクを分母に置く。本問では表の「人口」が危険曝露人口、「死亡数」が発生数にあたる。

計算過程

1. 供給元Aのリスク  810 ÷ 150,000 = 0.0054(人口1,000人あたり5.4人) 2. 供給元Bのリスク  18 ÷ 24,000 = 0.00075(人口1,000人あたり0.75人) 3. リスク比  0.0054 ÷ 0.00075 = 7.2 分数のまま整理すると、  (810/150,000) ÷ (18/24,000) = (810 × 24,000) ÷ (150,000 × 18) = 19,440,000 ÷ 2,700,000 = 7.2 となり、割り切れる。

解答の書き方

解答欄は「①.②③」の形式で小数第2位まで求めるので、7.2を7.20と記入する。したがって①=7、②=2、③=0である。

結果の解釈

A水系の水道水を使っていた住民は、B水系の住民に比べてコレラで死亡するリスクが7.2倍高かったことになる。リスク比が1より大きければその曝露(ここではA水系の水の使用)が死亡の危険を高める方向に関連していることを示し、1なら関連なし、1未満なら危険を下げる方向の関連を示す。

John Snowとコレラ調査

John Snow(1813-1858)は英国の医師で、近代疫学の祖とされる。1850年代のロンドンでコレラが流行した際、当時有力であった「悪い空気(瘴気、ミアズマ)が病気を起こす」という説に疑問を持ち、患者の住所を地図上に記録してブロード街の井戸の周囲に死亡が集中していることを示した。また、取水地点の異なる水道会社ごとに給水を受ける家庭の死亡を比較し、汚染された水系から給水を受けた住民で死亡が多いことを明らかにした。これらの結果から、病原体(コレラ菌)がKochによって確認される(1883年)よりも前に、汚染された水を介して病気が広がることを示し、井戸のポンプの柄を外すよう提言したとされる。原因が特定される前でも、疫学的な関連の把握によって予防対策が取れることを示した事例として知られる。

疾病頻度の指標

・リスク(累積罹患率):一定期間内に新たに発症した人数 ÷ 期間開始時の危険曝露人口。0〜1の割合で、観察期間を明示して用いる。 ・罹患率(発生率):新たに発症した人数 ÷ 観察人時(人年など)。単位時間あたりの発生の速さを表す。 ・有病率:ある時点(または期間)に疾病を有している人数 ÷ その時点の人口。疾病がどの程度存在するかを表し、新規発生の尺度ではない。おおむね「有病率 ≒ 罹患率 × 平均有病期間」の関係がある。

曝露と疾病の関連の指標

・リスク比(相対危険)= 曝露群のリスク ÷ 非曝露群のリスク:関連の強さを表し、主にコホート研究で求める。 ・リスク差(寄与危険)= 曝露群のリスク − 非曝露群のリスク:曝露によって増えた発生の大きさを表す。本問では 5.4 − 0.75 = 1,000人あたり4.65人となる。 ・曝露群寄与危険割合 = (リスク比 − 1) ÷ リスク比:曝露群の発生のうち曝露に起因する割合。本問では (7.2 − 1) ÷ 7.2 ≒ 0.86、すなわち約86%となる。 ・オッズ比:症例対照研究では発生率を直接求められないため、リスク比の代わりにオッズ比を用いる。まれな疾患ではオッズ比はリスク比の近似値となる。

POINT

・リスク = 発生数 ÷ 危険曝露人口、リスク比 = 曝露群のリスク ÷ 非曝露群のリスク。 ・「AのBに対する」はAを分子、Bを分母に置く。 ・本問は (810/150,000) ÷ (18/24,000) = 0.0054 ÷ 0.00075 = 7.20。 ・リスク比は関連の強さ、リスク差(寄与危険)は曝露による発生の上乗せ分を表す。 ・John Snowはコレラの病原体発見以前に、水系との関連を疫学的に示した。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。