「隔離」はどこまで許されるか―感染症法の類型で読み解く入院勧告
第113回医師国家試験 F問題 第19問
国試問題にチャレンジ
感染症法に基づく入院勧告の対象となるのはどれか。
- a.麻疹
- b.破傷風
- c.B型肝炎
- d.鳥インフルエンザ(H5N1)
- e.後天性免疫不全症候群〈AIDS〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
感染症法では、感染症を危険度に応じて1〜5類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症に分類し、類型ごとにとれる措置を定めています。身体の自由を制限する入院勧告は、1類・2類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症に限られ、3類以下では行われません。鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)は2類感染症で入院勧告の対象ですが、それ以外の亜型は4類です。麻疹、破傷風、急性B型肝炎、AIDSはいずれも5類の全数把握で、麻疹は直ちに届出が必要でも入院勧告の対象ではない点に注意が必要です。「疾患の類型」と「類型ごとの措置」をセットで覚えることが、届出や患者対応など臨床現場での正しい判断につながります。
解答・解説
正解はdです
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)は、感染症を感染力や重篤性などの危険度に応じて1類〜5類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症に分類し、分類ごとに行政がとれる措置を定めている。 入院勧告(従わない場合は入院措置)は、患者の身体の自由を制限する最も強い措置の一つであるため、危険度が特に高い分類に限って認められている。具体的には、1類感染症、2類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症が対象であり、指定感染症も政令で指定されれば準用される。3類感染症以下では入院勧告は行われない。 したがって本問は、各選択肢の疾患が感染症法上どの類型に属するかを思い出せれば解ける。麻疹、破傷風、B型肝炎(急性ウイルス性肝炎として)、AIDSはいずれも5類感染症(全数把握)であり、2類感染症に属するのは鳥インフルエンザ(H5N1)のみである。
選択肢考察
- ×a. 麻疹
麻疹は5類感染症の全数把握対象であり、入院勧告の対象ではない。ただし感染力が極めて強く、集団発生の早期把握が重要なため、診断した医師は直ちに(24時間以内に)保健所へ届け出る必要がある。届出の迅速さと入院勧告の有無は別の問題である点に注意する。
- ×b. 破傷風
破傷風は5類感染症(全数把握、診断後7日以内に届出)である。破傷風菌(Clostridium tetani)の芽胞が創傷から侵入して発症し、ヒトからヒトへは感染しないため、隔離目的の入院勧告を行う意味がない。治療のための入院は必要になるが、それは法的な勧告ではなく医学的判断による。
- ×c. B型肝炎
B型肝炎は、ウイルス性肝炎(E型肝炎およびA型肝炎を除く)として5類感染症の全数把握対象であり、入院勧告の対象ではない。届出対象は急性肝炎であり、無症候性キャリアや慢性肝炎は届出対象外である。主な感染経路は血液・体液であり、日常の接触では感染しない。
- ○d. 鳥インフルエンザ(H5N1)
鳥インフルエンザ(H5N1)は2類感染症に分類される。ヒトでの致命率が高く、ヒト-ヒト感染能を獲得すれば大流行(パンデミック)につながるおそれがあるためである。2類感染症は入院勧告の対象であり、本選択肢が正解となる。同じく鳥インフルエンザ(H7N9)も2類感染症であるが、それ以外の亜型の鳥インフルエンザは4類感染症であり入院勧告の対象とならない。
- ×e. 後天性免疫不全症候群〈AIDS〉
AIDS(およびHIV感染症)は5類感染症の全数把握対象(診断後7日以内に届出)であり、入院勧告の対象ではない。HIVの感染経路は性的接触、血液、母子感染に限られ、日常生活での接触や空気・飛沫では感染しないため、隔離の必要はない。
感染症法の類型と主な措置
1類感染症:エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱。入院勧告(原則として第一種感染症指定医療機関)、就業制限、消毒、交通制限などが可能。 2類感染症:急性灰白髄炎(ポリオ)、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1)、鳥インフルエンザ(H7N9)。入院勧告、就業制限、消毒などが可能。 3類感染症:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス。入院勧告はないが、特定業務(飲食物を扱う業務など)への就業制限がある。 4類感染症:動物や飲食物を介して感染する疾患(E型肝炎、A型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱、つつが虫病、日本脳炎、上記以外の鳥インフルエンザなど)。媒介動物の駆除や消毒などの対物措置が中心。 5類感染症:国が発生動向調査を行い情報提供する疾患。全数把握(麻疹、風疹、破傷風、AIDS/HIV感染症、梅毒、急性ウイルス性肝炎〈A型・E型を除く〉など)と定点把握(季節性インフルエンザ、感染性胃腸炎など)がある。 新型インフルエンザ等感染症:新型インフルエンザ、再興型インフルエンザなど。入院勧告の対象となる。 新感染症:未知の重篤な感染症。1類感染症に準じた措置がとられる。
届出の時期
1〜4類感染症、新型インフルエンザ等感染症は診断後直ちに届出。5類感染症の全数把握疾患は原則7日以内だが、麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届出とされている。
2類の鳥インフルエンザ
H5N1とH7N9のみが2類であり、それ以外の亜型は4類である。ヒトの季節性インフルエンザは5類(定点把握)である。
POINT
・入院勧告の対象は1類・2類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症(指定感染症は政令で準用)。3類以下は対象外。 ・2類感染症:ポリオ、結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)。 ・麻疹、破傷風、急性B型肝炎、AIDSはいずれも5類感染症(全数把握)。 ・麻疹は5類だが届出は直ちに行う。
