速すぎる思考と壊れたつながり―観念奔逸で見分ける躁状態と統合失調症
第113回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
双極性障害でみられる思考障害はどれか。
- a.連合弛緩
- b.滅裂思考
- c.思考途絶
- d.言語新作
- e.観念奔逸
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
思考障害は思考内容の障害(妄想など)と思考形式の障害(思路障害)に分かれ、本問の選択肢はすべて思路障害です。双極性障害の躁状態では精神活動が亢進し、考えが速く次々と湧いて話題がそれていく観念奔逸がみられ、うつ状態では反対に考えが進まない思考制止がみられます。連合弛緩・滅裂思考・思考途絶・言語新作は思考のつながりや流れそのものが障害される所見で、統合失調症に特徴的です。観念奔逸と滅裂思考は「連想のつながりが追えるか」で、観念奔逸と迂遠思考は「目的にたどり着けるか」で区別します。用語を「速さの異常」か「つながりの異常」かで整理しておくことは、精神科面接で患者さんの話し方から病態を推測する力の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
思考障害(考えることの異常)のうち、どの所見が双極性障害に特徴的かを問う問題である。 思考障害は、考えの「内容」の異常(妄想など)と、考えの「進み方・つながり方」の異常である思路障害(思考形式の障害)に大別される。本問の選択肢はいずれも思路障害であり、それぞれ典型的にみられる疾患がおおむね決まっている。 考え方の鍵は、気分の変化が思考の「速さ」に表れるのか、思考の「つながり(論理の結び付き)」そのものが壊れるのかという区別である。双極性障害の躁状態では気分が高揚し精神活動全体が亢進するため、考えが次々と速く湧き出し、話題がめまぐるしく移り変わる(観念奔逸)。一方、うつ状態では反対に考えが進まなくなる(思考制止)。これに対し、連合弛緩・滅裂思考・思考途絶・言語新作は、思考どうしの論理的な結び付きや思考の流れ自体が障害される所見であり、統合失調症に特徴的である。したがって正解は観念奔逸である。
選択肢考察
- ×a. 連合弛緩
連合弛緩は、ひとつの考えと次の考えとの結び付き(連合)がゆるみ、話の筋道がはっきりしなくなった状態である。一文一文はある程度意味が通っても、全体として何を言いたいのかがつかみにくい。滅裂思考の軽い段階とも位置づけられ、統合失調症に特徴的な思路障害である。双極性障害に典型的な所見ではない。
- ×b. 滅裂思考
滅裂思考は、連合弛緩がさらに進み、考えどうしのつながりが失われて話がばらばらになり、聞き手には意味がほとんど理解できない状態である。極端になると単語が無関係に羅列されるだけになり、「言葉のサラダ」と呼ばれる。統合失調症に特徴的であり、双極性障害の典型所見ではない。なお、意識障害(せん妄など)を背景として思考がまとまらなくなる場合は「思考散乱」と呼び、意識清明下で生じる滅裂思考と区別する。
- ×c. 思考途絶
思考途絶は、話している最中に思考の流れが突然断ち切られ、会話が急に止まってしまう現象である。患者は「頭が真っ白になった」「考えを抜き取られた」と体験することがあり、後者は思考奪取(作為体験の一種)として語られることもある。統合失調症に特徴的な所見である。うつ状態で考えが全般に遅く進まなくなる思考制止とは異なり、流れが突発的に途切れる点が特徴である。
- ×d. 言語新作
言語新作は、本人だけが意味を知る新しい言葉を作り出したり、既存の言葉に独自の意味を与えて用いたりすることである。他者とは共有されない私的な言語であり、統合失調症でみられる。双極性障害の典型所見ではない。
- ○e. 観念奔逸
正しい。観念奔逸は、考えが次から次へと速いテンポで湧いて出て、連想に引きずられて話題がどんどん横道にそれ、最終的な目標にたどり着けなくなる状態である。双極性障害の躁状態(躁病エピソード)に特徴的な思路障害である。滅裂思考と違い、隣り合う考えの間には音の類似(語呂合わせ)や周囲の刺激など、聞き手にも追える連想のつながりが保たれている点が重要な鑑別点である。多弁・談話心迫(しゃべり続けずにいられない)、注意の転導性亢進(気が散りやすい)を伴うことが多い。
思路障害(思考の進み方の異常)の整理
・観念奔逸:考えが速く次々と湧き、話題が逸れていく。連想のつながりは保たれる。双極性障害の躁状態。 ・思考制止:考えが進まず、反応が遅く口数が少なくなる。うつ病・双極性障害のうつ状態。 ・連合弛緩:考えのつながりがゆるみ、話の筋がはっきりしない。統合失調症。 ・滅裂思考:つながりが失われ、話がまとまらず理解できない。統合失調症(極端なものが言葉のサラダ)。 ・思考途絶:思考の流れが突然途切れる。統合失調症。 ・迂遠(迂遠思考):細部にこだわって回りくどくなるが、最終的には目的にたどり着く。てんかん、知的能力障害、認知症などでみられる。 ・保続:一度浮かんだ考えや言葉が繰り返し現れ、次へ移れない。器質性脳疾患(認知症など)。 ・思考散乱:意識障害を背景に思考がまとまらない。せん妄など。
思考内容の異常との区別
妄想(被害妄想、誇大妄想、微小妄想など)は思考内容の障害である。躁状態では誇大妄想、うつ状態では微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)がみられやすい。
躁状態の主な症状
気分の高揚または易怒性、自尊心の肥大・誇大性、睡眠欲求の減少、多弁、観念奔逸、注意散漫、目標指向性の活動の増加、浪費・性的逸脱など困った結果になりうる行動への熱中。
POINT
・観念奔逸=躁状態(双極性障害)。考えは速いが連想のつながりは追える。 ・思考制止=うつ状態。 ・連合弛緩・滅裂思考・思考途絶・言語新作=統合失調症。 ・観念奔逸と滅裂思考の違いは「つながりが保たれているか」。迂遠は回りくどくても目的に到達する点で観念奔逸と異なる。
