StudyMed医師国家試験

速すぎる思考と壊れたつながり―観念奔逸で見分ける躁状態と統合失調症

第113回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第9問

双極性障害でみられる思考障害はどれか。

  1. a.連合弛緩
  2. b.滅裂思考
  3. c.思考途絶
  4. d.言語新作
  5. e.観念奔逸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は思考障害のうち、双極性障害に特徴的なものを選ぶ問題だ。選択肢はどれも精神医学の用語で似たように見えるけれど、「思考のスピードの異常」なのか「思考のつながりそのものの異常」なのか、という軸で整理すると一気に見通しがよくなる。まず、思考障害の大きな分け方は覚えているかな。
医学生医学生
思考内容の障害と思考形式の障害、でしたよね。妄想は内容の障害だと精神医学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。思考形式の障害は、考えの進み方やつながり方の異常で、思路障害とも呼ばれる。今回の選択肢は全部この思路障害なんだ。では双極性障害、特に躁状態の患者さんを思い浮かべてみよう。どんな話し方をするだろう。
医学生医学生
精神科の実習で躁状態の患者さんを担当しましたが、とにかく話が止まらなくて、話題がどんどん変わっていきました。
ドクタードクター
まさにそれが観念奔逸だ。躁状態では気分が高揚して精神活動全体が亢進するから、考えが次々と速いテンポで湧き出し、連想に引っ張られて話題が横道へそれていく。結果として最初の目的にたどり着けなくなる。これが正解だね。
医学生医学生
でも、話がどんどん飛んでいくなら、滅裂思考との区別が難しくないですか。聞いていて意味がわからなくなる点は似ている気がします。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ここが一番の鑑別点だ。観念奔逸では、隣り合う考えどうしのつながりは保たれている。語呂合わせのような音の類似や、目に入った周囲のものがきっかけになっていて、聞き手も「ああ、そこから連想したのか」と追えるんだ。一方、滅裂思考では考えどうしの結び付きそのものが失われていて、話がばらばらになり、聞き手には意味がほとんど理解できない。
医学生医学生
速いけれど筋は追えるのが観念奔逸、つながりが壊れているのが滅裂思考、ということですね。滅裂思考は統合失調症でしょうか。
ドクタードクター
そう、統合失調症に特徴的だ。極端になると無関係な単語が並ぶだけの「言葉のサラダ」になる。なお、せん妄のように意識障害を背景に思考がまとまらない場合は思考散乱と呼んで、意識清明下で起こる滅裂思考とは区別するよ。では連合弛緩はどうだろう。
医学生医学生
滅裂思考と名前は違いますが、同じグループのような気がします。
ドクタードクター
鋭いね。連合弛緩は考えと考えの結び付きがゆるんで、話の筋道がはっきりしなくなった状態。一文ずつはある程度意味が通っても、全体として何が言いたいのかがつかみにくい。滅裂思考の軽い段階と位置づけられていて、これも統合失調症に特徴的だ。
医学生医学生
思考途絶は、うつ状態で考えが進まなくなるのと同じですか。双極性障害にはうつ状態もあるので迷いました。
ドクタードクター
そこはよく混同されるポイントだ。うつ状態で考えが全体的に遅く、なかなか進まなくなるのは思考制止という。これに対して思考途絶は、話している最中に思考の流れが突然プツッと断ち切られて、会話が急に止まる現象なんだ。患者さんは「頭が真っ白になった」「考えを抜き取られた」と体験することがあって、後者は思考奪取という作為体験として語られることもある。統合失調症に特徴的な所見だよ。
医学生医学生
全体がゆっくりなのが思考制止、突然途切れるのが思考途絶、ですね。最後の言語新作は、本人だけがわかる言葉を作ることでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。新しい言葉を作ったり、既存の言葉に独自の意味を与えて使ったりする。他人と共有されない私的な言語で、これも統合失調症でみられる。つまり今回の選択肢は、観念奔逸だけが躁状態、残りの4つは統合失調症という構図なんだ。
医学生医学生
気分の変化は思考の「速さ」に出て、統合失調症では思考の「つながり」が壊れる、と覚えればよさそうです。
ドクタードクター
いいまとめだ。もう少し広げておこう。似た用語に迂遠思考がある。細部にこだわって回りくどくなるけれど、最終的には目的にたどり着く点で、たどり着けない観念奔逸とは違う。てんかんや知的能力障害、認知症などでみられる。保続は一度浮かんだ考えや言葉が繰り返し出てきて次に移れない状態で、認知症などの器質性脳疾患でみられるね。
医学生医学生
思考内容のほうでは、躁とうつで妄想の種類も違うんでしたよね。
ドクタードクター
そう。躁状態では誇大妄想、うつ状態では罪業・貧困・心気の微小妄想がみられやすい。臨床では、観念奔逸に加えて睡眠欲求の減少、多弁、注意の転導性亢進、浪費などの行動がそろうかを確認して躁病エピソードを判断する。うつ病と診断されていた人に過去の躁や軽躁のエピソードがないかを丁寧に聞くことも大切だ。双極性障害を見逃して抗うつ薬だけで治療すると、躁転などのリスクにつながりうるからね。

まとめ

思考障害は思考内容の障害(妄想など)と思考形式の障害(思路障害)に分かれ、本問の選択肢はすべて思路障害です。双極性障害の躁状態では精神活動が亢進し、考えが速く次々と湧いて話題がそれていく観念奔逸がみられ、うつ状態では反対に考えが進まない思考制止がみられます。連合弛緩・滅裂思考・思考途絶・言語新作は思考のつながりや流れそのものが障害される所見で、統合失調症に特徴的です。観念奔逸と滅裂思考は「連想のつながりが追えるか」で、観念奔逸と迂遠思考は「目的にたどり着けるか」で区別します。用語を「速さの異常」か「つながりの異常」かで整理しておくことは、精神科面接で患者さんの話し方から病態を推測する力の基礎になります。

解答・解説

正解はeです

思考障害(考えることの異常)のうち、どの所見が双極性障害に特徴的かを問う問題である。 思考障害は、考えの「内容」の異常(妄想など)と、考えの「進み方・つながり方」の異常である思路障害(思考形式の障害)に大別される。本問の選択肢はいずれも思路障害であり、それぞれ典型的にみられる疾患がおおむね決まっている。 考え方の鍵は、気分の変化が思考の「速さ」に表れるのか、思考の「つながり(論理の結び付き)」そのものが壊れるのかという区別である。双極性障害の躁状態では気分が高揚し精神活動全体が亢進するため、考えが次々と速く湧き出し、話題がめまぐるしく移り変わる(観念奔逸)。一方、うつ状態では反対に考えが進まなくなる(思考制止)。これに対し、連合弛緩・滅裂思考・思考途絶・言語新作は、思考どうしの論理的な結び付きや思考の流れ自体が障害される所見であり、統合失調症に特徴的である。したがって正解は観念奔逸である。

選択肢考察

  1. ×a.  連合弛緩

    連合弛緩は、ひとつの考えと次の考えとの結び付き(連合)がゆるみ、話の筋道がはっきりしなくなった状態である。一文一文はある程度意味が通っても、全体として何を言いたいのかがつかみにくい。滅裂思考の軽い段階とも位置づけられ、統合失調症に特徴的な思路障害である。双極性障害に典型的な所見ではない。

  2. ×b.  滅裂思考

    滅裂思考は、連合弛緩がさらに進み、考えどうしのつながりが失われて話がばらばらになり、聞き手には意味がほとんど理解できない状態である。極端になると単語が無関係に羅列されるだけになり、「言葉のサラダ」と呼ばれる。統合失調症に特徴的であり、双極性障害の典型所見ではない。なお、意識障害(せん妄など)を背景として思考がまとまらなくなる場合は「思考散乱」と呼び、意識清明下で生じる滅裂思考と区別する。

  3. ×c.  思考途絶

    思考途絶は、話している最中に思考の流れが突然断ち切られ、会話が急に止まってしまう現象である。患者は「頭が真っ白になった」「考えを抜き取られた」と体験することがあり、後者は思考奪取(作為体験の一種)として語られることもある。統合失調症に特徴的な所見である。うつ状態で考えが全般に遅く進まなくなる思考制止とは異なり、流れが突発的に途切れる点が特徴である。

  4. ×d.  言語新作

    言語新作は、本人だけが意味を知る新しい言葉を作り出したり、既存の言葉に独自の意味を与えて用いたりすることである。他者とは共有されない私的な言語であり、統合失調症でみられる。双極性障害の典型所見ではない。

  5. ○e.  観念奔逸

    正しい。観念奔逸は、考えが次から次へと速いテンポで湧いて出て、連想に引きずられて話題がどんどん横道にそれ、最終的な目標にたどり着けなくなる状態である。双極性障害の躁状態(躁病エピソード)に特徴的な思路障害である。滅裂思考と違い、隣り合う考えの間には音の類似(語呂合わせ)や周囲の刺激など、聞き手にも追える連想のつながりが保たれている点が重要な鑑別点である。多弁・談話心迫(しゃべり続けずにいられない)、注意の転導性亢進(気が散りやすい)を伴うことが多い。

思路障害(思考の進み方の異常)の整理

・観念奔逸:考えが速く次々と湧き、話題が逸れていく。連想のつながりは保たれる。双極性障害の躁状態。 ・思考制止:考えが進まず、反応が遅く口数が少なくなる。うつ病・双極性障害のうつ状態。 ・連合弛緩:考えのつながりがゆるみ、話の筋がはっきりしない。統合失調症。 ・滅裂思考:つながりが失われ、話がまとまらず理解できない。統合失調症(極端なものが言葉のサラダ)。 ・思考途絶:思考の流れが突然途切れる。統合失調症。 ・迂遠(迂遠思考):細部にこだわって回りくどくなるが、最終的には目的にたどり着く。てんかん、知的能力障害、認知症などでみられる。 ・保続:一度浮かんだ考えや言葉が繰り返し現れ、次へ移れない。器質性脳疾患(認知症など)。 ・思考散乱:意識障害を背景に思考がまとまらない。せん妄など。

思考内容の異常との区別

妄想(被害妄想、誇大妄想、微小妄想など)は思考内容の障害である。躁状態では誇大妄想、うつ状態では微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)がみられやすい。

躁状態の主な症状

気分の高揚または易怒性、自尊心の肥大・誇大性、睡眠欲求の減少、多弁、観念奔逸、注意散漫、目標指向性の活動の増加、浪費・性的逸脱など困った結果になりうる行動への熱中。

POINT

・観念奔逸=躁状態(双極性障害)。考えは速いが連想のつながりは追える。 ・思考制止=うつ状態。 ・連合弛緩・滅裂思考・思考途絶・言語新作=統合失調症。 ・観念奔逸と滅裂思考の違いは「つながりが保たれているか」。迂遠は回りくどくても目的に到達する点で観念奔逸と異なる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。