StudyMed医師国家試験

「人は誰でも間違える」から始める医療安全―事故を防ぐのは個人の注意力よりチームの仕組み

第113回医師国家試験 E問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第4問

医療安全について正しいのはどれか。

  1. a.医療従事者が過失なく行動すれば事故は起きない。
  2. b.ヒヤリハット事例の報告が少ない病院は事故が少ない。
  3. c.複数の医療従事者が医療行為での確認を行うと事故が増加する。
  4. d.事故を起こした医療従事者の責任追及が再発予防に必須である。
  5. e.医療従事者間の良好なコミュニケーションは事故防止に有用である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療安全の基本的な考え方を問う問題だ。どの選択肢も一見もっともらしく聞こえるけれど、判断の軸はひとつ。「事故を個人の問題として見るか、システムの問題として見るか」だ。この視点で一つずつ見ていこう。
医学生医学生
正直、医療事故は気をつけていれば防げるものだと思っていました。過失なく行動すれば事故は起きない、というのは正しそうに見えます。
ドクタードクター
多くの人がそう感じるところだね。でも現代の医療安全は「To Err is Human(人は誰でも間違える)」という前提に立っている。それに、医療事故には過失がないものも含まれるんだ。たとえば初めて使った薬で予測できないアナフィラキシーが起きることもあるし、適切に行った手技でも一定の確率で合併症は生じる。
医学生医学生
そういえば医療安全の講義で、「医療事故」と「医療過誤」は違うと習いました。過誤のほうが過失のあるものでしたよね。
ドクタードクター
その通り。医療事故は過失の有無を問わない人身事故全体を指し、そのうち医療従事者の過失によるものが医療過誤だ。さらに事故は機器の設計、業務手順、人員配置、情報伝達など複数の要因が重なって起こることが多い。だから「個人が完璧なら事故ゼロ」という考え方は成り立たないんだ。
医学生医学生
ヒヤリハットの報告が少ない病院は事故も少ない、というのはどうでしょう。数字としては安全そうに見えますけど。
ドクタードクター
そこが落とし穴。ヒヤリハットは患者に害が及ぶ前に気づかれたか、結果的に害がなかったエラーのこと。報告が少ないのは、発生が少ないからではなく「報告しにくい雰囲気」や制度の不備で埋もれているだけかもしれない。そういう施設では事故の芽が見えないまま、重大事故になって初めて問題が表に出やすいんだ。
医学生医学生
報告が多いほうが、むしろ安全文化が根付いている証拠なんですね。
ドクタードクター
そう考えていい。ここで有名なのがハインリッヒの法則で、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、さらに300件のヒヤリハットがあるとされる。土台のヒヤリハットを拾って対策することが、重大事故の予防につながるという考え方だ。
医学生医学生
臨床実習で輸血のときに、看護師さんと二人で製剤と患者さんの照合をしました。複数人で確認すると事故が増える、というのは逆ですよね。
ドクタードクター
逆だね。薬剤の種類や量、患者の取り違え、輸血製剤、手術部位などを複数人で確認するダブルチェックや、手術前のタイムアウトは、一人では見落とすエラーを拾う機会を増やして事故を減らす。ただし「誰かが見てくれるから」とお互いに依存すると形骸化するから、各自が独立して確認することが大切なんだ。
医学生医学生
事故を起こした人の責任をはっきりさせないと、また同じことが起きるような気もしてしまいます。
ドクタードクター
感覚的にはそう思うよね。でも責任追及を前面に出すと、当事者も周りもエラーを報告しにくくなって、隠蔽を招く。そうなると原因がわからず再発を防げない。再発予防で大事なのは、根本原因分析(RCA)などでエラーの背後にある手順や環境の問題を明らかにし、システムを改善することだ。医療事故調査制度も、目的は責任追及ではなく医療安全の確保と再発防止とされている。
医学生医学生
となると残るのは、医療従事者間の良好なコミュニケーションが事故防止に有用、という選択肢ですね。
ドクタードクター
正解。医療事故の多くには、指示の伝達ミス、申し送りの不備、疑問を感じても言い出せない雰囲気といったコミュニケーションの問題が関わっている。職種や立場を越えて率直に指摘できる関係があれば、誰かが誤りに気づいた時点で止められる。
医学生医学生
OSCEの医療面接の練習でも、伝え方の大切さは何度も言われました。医療者同士でも同じなんですね。
ドクタードクター
まさに。具体的な方法も押さえておこう。口頭指示は必ず復唱する、報告はSBAR、つまり状況・背景・評価・提案の順で伝える、チームSTEPPSのようなチームワーク訓練を行う、といった取り組みがある。研修医になると上級医に電話で報告する場面が増えるから、SBARはすぐ役立つよ。
医学生医学生
スイスチーズモデルも医療安全の講義で出てきました。穴のあいたチーズが何枚も重なっているイメージでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。リーズンが提唱したモデルで、防護策の一枚一枚には穴があるけれど、普段はどこかの層でエラーが止まる。たまたま穴が一直線に並んだときに事故になる。だから層を重ねること、つまりダブルチェックなどの多重確認と、穴を小さくすること、つまり手順の標準化や、フルネームと生年月日など2つ以上の識別子での患者確認、フェイルセーフ・フールプルーフの機器設計が重要になる。
医学生医学生
個人を責めるより、仕組みで穴をふさぐ。そのためにまずヒヤリハットを報告して、チームで声をかけ合う、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。医療安全は管理者だけの話じゃない。小さなヒヤリハットを報告することも、おかしいと思ったら声を上げることも、学生や研修医のうちからできる大切な行動なんだ。

まとめ

現代の医療安全は「人は誰でも間違える」という前提に立ち、事故を個人の注意力の問題ではなくシステムの問題として捉えます。医療事故は過失がなくても起こりうるため、ヒヤリハットを積極的に報告・共有して事故の芽を把握し、ダブルチェックなど多重の確認で防護の層を重ねることが基本です。再発予防の目的は責任追及ではなく根本原因分析に基づくシステム改善であり、責任追及は報告や開示を妨げてしまいます。指示の復唱やSBARによる報告など、職種を越えた良好なコミュニケーションは事故防止に有用で、ハインリッヒの法則(1:29:300)やスイスチーズモデルと合わせて理解しておくと、実習や臨床の現場で安全文化を支える行動につなげられます。

解答・解説

正解はeです

医療安全の基本的な考え方を問う問題である。 現代の医療安全は「人間は誰でも間違える(To Err is Human)」という前提に立っている。事故を個人の注意力や能力不足だけに帰着させるのではなく、エラーが起きても患者に害が及ぶ前に食い止められるような「システム」を作ることが重視される。このシステムアプローチの柱として、(1) ヒヤリハット(インシデント)を積極的に報告・共有し、事故の芽を早期に把握すること、(2) 個人の責任追及ではなく原因究明と再発防止策の立案を目的とすること、(3) ダブルチェックなどの多重の確認手段を設けること、(4) 職種間・チーム内の円滑なコミュニケーションと情報共有を図ること、が挙げられる。 この原則に照らして各選択肢を検討すると、エラーを起こさない完璧な個人を前提にした記述や、報告文化・確認体制を軽視する記述は誤りとなり、チーム内のコミュニケーションを重視する記述が正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  医療従事者が過失なく行動すれば事故は起きない。

    誤り。医療事故には、医療従事者に過失があるもの(医療過誤)と、過失がないものの両方が含まれる。最善を尽くしても、予測困難な薬剤アレルギー(アナフィラキシー)や、適切に行った手技に伴う合併症などは一定の確率で生じうる。また、医療現場の事故は個人の行動だけでなく、機器の設計、業務手順、人員配置、情報伝達などシステム全体の要因が重なって起こることが多い。したがって個人に過失がなければ事故がゼロになるという考え方は成り立たない。

  2. ×b.  ヒヤリハット事例の報告が少ない病院は事故が少ない。

    誤り。ヒヤリハット(インシデント)とは、患者に実害が及ぶ前に気づかれた、あるいは実害がなかったエラー事例である。報告件数が少ない場合、実際の発生が少ないとは限らず、報告しにくい雰囲気や報告制度の不備によって過少報告されている可能性がある。そうした施設では事故の前兆が組織として把握されず、重大事故になって初めて問題が表面化しやすい。むしろ多くのヒヤリハットが報告・分析・共有される施設の方が、安全文化が根付いており、事故の予防につながる。報告数と事故発生率は単純には相関しない。

  3. ×c.  複数の医療従事者が医療行為での確認を行うと事故が増加する。

    誤り。薬剤の種類・量、患者の取り違え、輸血製剤の照合、手術部位などを複数の医療従事者で確認する(ダブルチェック、指差し呼称、手術安全チェックリストのタイムアウトなど)ことは、一人では見落とすエラーを発見する機会を増やし、事故を減少させる。なお、「他の人も確認するから大丈夫」と互いに依存して確認が形骸化すると効果が薄れるため、各人が独立して確認することが大切である。

  4. ×d.  事故を起こした医療従事者の責任追及が再発予防に必須である。

    誤り。再発予防で最も重要なのは、なぜ事故が起きたかという原因の究明と、それに基づくシステムの改善である。根本原因分析(RCA:root cause analysis)などの手法で、個人のエラーの背後にある業務手順や環境の問題を明らかにする。個人の責任追及を前面に出すと、当事者や周囲がエラーを報告・開示しにくくなり、隠蔽を招いて同じ事故の再発を防げなくなる。医療事故調査制度も、責任追及ではなく医療安全の確保と再発防止を目的としている。

  5. ○e.  医療従事者間の良好なコミュニケーションは事故防止に有用である。

    正しい。医療事故の多くには、指示の伝達ミス、申し送りの不備、疑問を感じても言い出せない雰囲気など、コミュニケーションの問題が関与している。職種や立場を越えて率直に意見を言える関係があれば、誤りに気づいた人がそれを指摘でき、事故を未然に防げる。口頭指示の復唱、SBAR(状況・背景・評価・提案の順で報告する手法)による報告、チームSTEPPSのようなチームワーク訓練などは、この考え方に基づく具体的な取り組みである。

ハインリッヒの法則

労働災害の分析から導かれた経験則で、1件の重大な事故の背後には29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件の事故には至らなかった「ヒヤリ」「ハッと」した事例が存在するとされる(1:29:300)。重大事故を防ぐには、その土台にある多数のヒヤリハットを把握し対策を講じることが有効であるという考え方の根拠となっている。

スイスチーズモデル

リーズンが提唱したモデルで、組織には何層もの防護策(チーズの切片)があり、それぞれに穴(欠陥)がある。普段はどこかの層でエラーが止められるが、複数の層の穴がたまたま一直線に並んだときに事故に至る。防護の層を重ね(例:ダブルチェック)、個々の穴を小さくする(例:手順の標準化)ことが事故防止につながる。

用語

インシデント(ヒヤリハット):誤った医療行為が患者に実施される前に発見された事例、または実施されたが結果として患者に影響がなかった事例。 アクシデント(医療事故):医療に関わる場所で、医療の全過程において発生した人身事故。過失の有無を問わない。 医療過誤:医療事故のうち、医療従事者の過失によって生じたもの。

医療安全の具体策の例

インシデント報告制度、医療安全管理委員会の設置、ダブルチェック、患者確認(フルネームと生年月日など2つ以上の識別子による確認)、手術安全チェックリスト、口頭指示の復唱、フェイルセーフ・フールプルーフ設計の機器導入など。

POINT

・人間は誰でも間違えることを前提に、個人ではなくシステムで事故を防ぐ。 ・過失がなくても医療事故は起こりうる。 ・ヒヤリハット報告が多いことは安全文化の表れであり、報告が少ない=安全とは限らない。 ・複数人による確認(ダブルチェック)は事故を減らす。 ・再発防止の目的は責任追及ではなく原因究明とシステム改善である。 ・医療従事者間の良好なコミュニケーションは事故防止に有用である。 ・ハインリッヒの法則は1:29:300。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。