StudyMed医師国家試験

月経がないのは「楽」ではない―長期無月経が骨に残す見えない傷

第113回医師国家試験 E問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第25問

長期間無月経をきたした女性で注意すべき続発症はどれか。

  1. a.色素沈着
  2. b.骨粗鬆症
  3. c.子宮内膜症
  4. d.末梢神経障害
  5. e.月経前症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長く月経が止まっている女性で何に気をつけるべきかを問う問題だ。考えるカギは「無月経の裏で体の中のホルモン環境がどうなっているか」。長期の無月経の多くは低エストロゲン状態を伴う、という点から出発しよう。
医学生医学生
無月経の原因というと、ストレスや体重減少による視床下部性が一番多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。ほかにも高プロラクチン血症、Sheehan症候群、早発卵巣不全などがある。どれも最終的には卵巣からのエストロゲン分泌が落ちる。つまり年齢が若くても、体の中では閉経後に近いホルモン環境が続いているということなんだ。
医学生医学生
閉経後の女性で問題になるのは、更年期症状や骨粗鬆症ですよね。それが若い人にも起こるということですか。
ドクタードクター
まさにそう。エストロゲンには破骨細胞による骨吸収を抑えて骨量を保つ働きがある。これが欠乏すると骨吸収が骨形成を上回り、骨量が減って骨粗鬆症に至る。だから答えは骨粗鬆症だ。
医学生医学生
でも、若い人は骨が丈夫なので、多少減っても問題にならない気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だよ。思春期から20歳代は最大骨量、いわゆるピークボーンマスを獲得する時期だ。この時期にエストロゲンが不足すると骨を十分に蓄えられないまま大人になり、その後取り戻すのは難しい。将来にわたって骨折リスクが高い状態が続いてしまうんだ。
医学生医学生
整形外科の実習で、陸上部の女子高校生が疲労骨折で受診していて、指導医の先生が月経の有無を必ず聞いていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。それが女性アスリートの三主徴だ。利用可能エネルギー不足、視床下部性無月経、骨粗鬆症の三つが互いに関連して起こり、疲労骨折の原因になる。神経性やせ症でも同じように骨密度の低下がよくみられる。では、ほかの選択肢も確認しよう。子宮内膜症はどうかな。
医学生医学生
子宮内膜症も婦人科の病気なので、無月経と関係がありそうに思えました。
ドクタードクター
関係はあるけれど、向きが逆なんだ。子宮内膜症はエストロゲン依存性に進行し、月経血の逆流が発生に関わると考えられている。月経回数が多いほどリスクが上がるから、無月経で低エストロゲンが続けばむしろ退縮・改善の方向に向かう。実際、治療ではGnRHアゴニストで人工的に低エストロゲン状態、いわゆる偽閉経をつくることがあるくらいだ。
医学生医学生
月経前症候群も、月経がなければそもそも起こりようがないですね。
ドクタードクター
そうだね。月経前症候群は排卵後の黄体期に、いらいらや抑うつ、乳房痛、浮腫などが出て、月経開始とともに軽くなるもの。排卵周期に伴うホルモン変動が背景にあるから、排卵も月経もない状態では生じない。
医学生医学生
色素沈着はAddison病のイメージです。内分泌の講義で、ACTHとMSHが同じPOMC由来だと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。色素沈着はACTHが過剰になる病態、つまりAddison病やCushing病、異所性ACTH産生腫瘍でみられる。卵巣機能低下による無月経そのものでは起こらないし、下垂体機能低下症に伴う無月経ならACTHはむしろ下がって皮膚は蒼白傾向になる。
医学生医学生
末梢神経障害は、神経性やせ症で栄養が極端に悪ければありそうですが。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。高度の栄養障害でビタミンB1やB12が欠乏すれば神経障害は起こりうる。ただそれは栄養障害の結果であって、無月経やエストロゲン欠乏の続発症ではない。原因と結果をきちんと分けて考えることが大切だよ。
医学生医学生
各選択肢を「エストロゲン欠乏で起こるか、むしろ良くなるか、無関係か」で整理すればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。臨床での注意点も加えておこう。長期無月経をみたら骨密度を評価し、原因への対処とともに、エストロゲン・プロゲスチン製剤によるホルモン補充療法などを検討する。低エストロゲンでは骨以外にもLDLコレステロールの上昇や腟の萎縮、のぼせなども起こりうる。
医学生医学生
逆に、エストロゲンが保たれている無月経もあるんでしょうか。
ドクタードクター
ある。代表が多嚢胞性卵巣症候群で、排卵はないのにエストロゲンは保たれている。するとプロゲステロンによる内膜の脱落が起こらず、エストロゲンが子宮内膜に作用し続けるから、子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高まる。こちらは定期的に消退出血を起こさせる治療が行われる。無月経をみたら、エストロゲンが低いのか保たれているのかで注意すべき続発症が変わる、と覚えておこう。

まとめ

長期間の無月経の多くは、視床下部・下垂体・卵巣の障害による低エストロゲン状態を伴い、若年でも閉経後に近いホルモン環境となるため、骨吸収が亢進して骨粗鬆症や疲労骨折をきたしやすくなります。特に思春期から20歳代は最大骨量を獲得する時期であり、女性アスリートの三主徴や神経性やせ症では早期の骨密度評価と介入が重要です。子宮内膜症や月経前症候群はエストロゲンや排卵周期に依存するため無月経ではむしろ改善・消失し、色素沈着はACTH過剰による所見で無月経とは直接関係しません。一方、多嚢胞性卵巣症候群のようにエストロゲンが保たれる無月経では子宮内膜増殖症・子宮体癌に注意が必要であり、無月経を「ホルモン環境」から捉える視点は婦人科診療の基本となります。

解答・解説

正解はbです

長期間の無月経の多くは、視床下部・下垂体・卵巣のいずれかの障害によって卵巣からのエストロゲン分泌が低下した状態(低エストロゲン状態)を伴う。代表例は、ストレス・体重減少・摂食障害(神経性やせ症)・過度の運動による視床下部性無月経、高プロラクチン血症、早発卵巣不全などである。 この状態は、年齢が若くても体の中では閉経後に近いホルモン環境が続いていることを意味する。そのため、閉経後女性で問題となるエストロゲン欠乏の影響、とりわけ骨量の減少が起こりやすくなる。思春期から20歳代は最大骨量(ピークボーンマス)を獲得する時期であり、この時期の低エストロゲンは骨量を十分に蓄えられないまま将来の骨粗鬆症につながるため、特に注意が必要である。 本問では、各選択肢が「エストロゲン欠乏や月経がないこと」によって生じうるか、それとも逆に改善する方向にあるか、あるいは無関係かを考えると、骨粗鬆症が正解として導かれる。

選択肢考察

  1. ×a.  色素沈着

    皮膚や粘膜の色素沈着は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌される病態(Addison病などの原発性副腎皮質機能低下症、Cushing病、異所性ACTH産生腫瘍など)で、ACTHと同じ前駆体(POMC)に由来するメラノサイト刺激作用により生じる。卵巣機能低下による長期無月経そのものが色素沈着を引き起こすわけではない。なお、下垂体機能低下症に伴う無月経ではACTHはむしろ低下するため、皮膚は蒼白傾向となる。

  2. ○b.  骨粗鬆症

    エストロゲンは破骨細胞による骨吸収を抑えて骨量を維持する働きをもつ。長期間無月経が続いてエストロゲン欠乏状態になると、骨吸収が骨形成を上回って骨量が減少し、骨粗鬆症に至る。若年女性でも、神経性やせ症や女性アスリートの無月経などでは骨密度の低下や疲労骨折がしばしばみられる。最大骨量を獲得すべき時期に骨量が蓄えられないと、将来にわたって骨折リスクが高い状態が続くため、長期無月経では骨密度評価やホルモン補充療法(エストロゲン・プロゲスチン製剤)などの対応を検討する。

  3. ×c.  子宮内膜症

    子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮外(卵巣、ダグラス窩など)で増殖する疾患で、エストロゲンに依存して進行する。月経血の逆流が発生に関与すると考えられており、月経回数の多さがリスクとなる。無月経で低エストロゲン状態が続けば、むしろ病変は退縮・改善の方向に向かう。実際、子宮内膜症の治療ではGnRHアゴニストなどで人工的に低エストロゲン状態(偽閉経)をつくることがある。

  4. ×d.  末梢神経障害

    末梢神経障害の主な原因は糖尿病、ビタミンB1・B12欠乏、アルコール、薬剤、Guillain-Barré症候群などの免疫性疾患などであり、無月経やエストロゲン欠乏との直接的な因果関係はない。神経性やせ症で栄養障害が高度であればビタミン欠乏による神経障害が起こりうるが、それは栄養障害によるものであって無月経の続発症ではない。

  5. ×e.  月経前症候群

    月経前症候群(PMS)は、排卵後の黄体期(月経前の3〜10日間程度)に精神症状(いらいら、抑うつ、不安など)や身体症状(乳房痛、腹部膨満感、浮腫、頭痛など)が出現し、月経開始とともに軽快・消失するものである。排卵周期に伴うホルモン変動が背景にあるため、排卵も月経もない長期無月経の状態では生じない。

無月経の分類

・原発性無月経:満18歳になっても初経が起こらないもの ・続発性無月経:これまであった月経が3か月以上停止したもの

続発性無月経の主な原因(障害部位別)

・視床下部性:ストレス、体重減少、摂食障害、過度の運動(最も頻度が高い) ・下垂体性:高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、薬剤性など)、Sheehan症候群 ・卵巣性:早発卵巣不全(40歳未満での卵巣機能停止)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) ・子宮性:Asherman症候群(子宮内腔癒着)

低エストロゲン状態による影響

骨量減少・骨粗鬆症(疲労骨折を含む)、脂質代謝の悪化(LDLコレステロール上昇)、腟・外陰の萎縮、のぼせなどの更年期様症状など。

女性アスリートの三主徴

利用可能エネルギー不足(摂食障害の有無を問わない)、視床下部性無月経、骨粗鬆症の三つが互いに関連して生じるもので、疲労骨折の原因となる。若年期の骨量低下は回復しにくいため、早期の介入が求められる。

補足:エストロゲンが保たれる無月経

PCOSのように排卵がない一方でエストロゲン分泌が保たれている無月経では、プロゲステロンによる内膜の保護(脱落)が起こらず、エストロゲンが子宮内膜に作用し続ける。このため子宮内膜増殖症・子宮体癌のリスクが高まる点にも注意が必要であり、定期的な消退出血を起こさせる治療が行われる。

POINT

・長期無月経の多くは低エストロゲン状態を伴い、続発症として骨粗鬆症(骨量減少、疲労骨折)に注意する ・若年期は最大骨量を獲得する時期であり、この時期の無月経は将来の骨粗鬆症リスクに直結する ・子宮内膜症や月経前症候群は、エストロゲンや排卵周期に依存するため無月経ではむしろ改善・消失する ・色素沈着はACTH過剰による所見であり、無月経とは直接関係しない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。