StudyMed医師国家試験

亜鉛とまぎらわしい?―「興奮しすぎる」マグネシウム欠乏の2大症候

第113回医師国家試験 C問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第113回 C問題 第19問

マグネシウムの欠乏に関連するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.脱毛
  2. b.不整脈
  3. c.皮膚炎
  4. d.テタニー
  5. e.味覚障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はマグネシウム欠乏で何が起こるかを問う問題だ。選択肢を見ると、別の微量元素の欠乏症状が混ざっているのがわかるかな。着眼点は「マグネシウムが体の中で何をしているか」と「似た選択肢がどの元素の欠乏症状か」の2つだよ。
医学生医学生
脱毛、皮膚炎、味覚障害は亜鉛欠乏で習った気がします。生化学の講義で微量元素の表を覚えたときに、まとめて出てきました。
ドクタードクター
その通り。その3つは亜鉛欠乏の代表的な症候だ。だから答えは残りの不整脈とテタニーになる。ただ、消去法だけでなく「なぜマグネシウムが足りないとその2つが起こるのか」を理解しておくと、応用が利くよ。
医学生医学生
マグネシウムはカルシウムと同じ2価の陽イオンですよね。テタニーは低カルシウム血症の症状というイメージが強いんですが。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。マグネシウムは細胞膜のカルシウムチャネルやNMDA型グルタミン酸受容体の働きを抑える、いわば「生理的なカルシウム拮抗薬」なんだ。神経筋接合部でもアセチルコリンの放出を抑えて、興奮性を下げる方向に働いている。だから欠乏すると、神経や筋がブレーキを失って興奮しやすくなる。
医学生医学生
ブレーキが外れるから、筋が勝手に強直してしまうわけですね。
ドクタードクター
そう。さらに大事なのが、低マグネシウム血症は副甲状腺ホルモンの分泌を抑え、標的臓器でのPTHへの反応も鈍らせる点だ。結果として低カルシウム血症を合併し、テタニーがいっそう起こりやすくなる。Trousseau徴候やChvostek徴候が陽性になることもあるよ。
医学生医学生
身体診察の講義で、血圧計のカフを巻いて助産師の手位を誘発する方法を習いました。あれはカルシウムだけじゃなく、マグネシウムの低下でも出るんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では不整脈のほうはどうだろう。
医学生医学生
心筋も興奮しやすくなるから、でしょうか。でも具体的にどんな不整脈が出るのかはあまり自信がありません。
ドクタードクター
マグネシウムはNa+/K+-ATPaseの補因子で、ATPはマグネシウムと結合した形で使われる。カリウムチャネルの機能を保つのにも関わっていて、心筋の電気的安定性を支えているんだ。欠乏すると期外収縮や心房細動、心室頻拍などが起こりうる。特に覚えておきたいのは、QT延長を背景にしたtorsades de pointesだね。
医学生医学生
循環器内科の実習で、torsades de pointesに硫酸マグネシウムを静注すると教わりました。それもつながってくるんですね。
ドクタードクター
まさにそれがマグネシウムと不整脈の関係をよく示している。加えて、低マグネシウム血症では腎の集合管からカリウムが失われて低カリウム血症も合併しやすい。低カリウム血症自体も不整脈を助長するし、ジギタリス中毒も起こりやすくなるんだ。
医学生医学生
亜鉛のほうも整理させてください。脱毛や味覚障害は、細胞の入れ替わりが速い組織に症状が出るということでしょうか。
ドクタードクター
いい整理だね。亜鉛はDNAやRNAの合成酵素など多くの酵素に必要で、毛母細胞や味蕾の味細胞のように盛んに分裂・再生する細胞が影響を受けやすい。皮膚炎は口や肛門の周囲、手足の末端に出やすく、遺伝性の吸収障害による腸性肢端皮膚炎が典型だ。創傷治癒の遅れや易感染性もセットで覚えておこう。
医学生医学生
マグネシウムは「興奮性」、亜鉛は「細胞の再生」と覚えると区別しやすそうです。
ドクタードクター
その覚え方は役に立つよ。最後に臨床での注意点だ。低マグネシウム血症の原因として、低栄養や慢性アルコール依存症、慢性下痢、プロトンポンプ阻害薬の長期使用、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬、シスプラチンなどの薬剤、リフィーディング症候群などがある。そして体内のマグネシウムの大部分は骨と細胞内にあるから、血清値が正常でも体内では不足していることがある点に注意したい。
医学生医学生
低カルシウム血症や低カリウム血症がなかなか補正できないときは、マグネシウムを疑うべきなんですね。
ドクタードクター
その通り。マグネシウムを補充しない限り、カルシウムやカリウムだけ入れても補正しにくい。逆に、腎不全の人が酸化マグネシウムなどの緩下薬を飲み続けると高マグネシウム血症になり、深部腱反射の低下や呼吸抑制、徐脈を来すこともある。過不足どちらにも目を配ることが大切だよ。

まとめ

マグネシウムは神経・筋や心筋の興奮性を抑える「生理的なカルシウム拮抗薬」として働くため、欠乏するとテタニーやけいれんなどの神経筋症状と、torsades de pointesを含む不整脈が出現します。低マグネシウム血症はPTH分泌低下・PTH抵抗性による低カルシウム血症や、腎からの喪失による低カリウム血症を合併し、これらはマグネシウムを補充しなければ補正しにくいことが臨床上重要です。一方、脱毛・皮膚炎・味覚障害は細胞の再生に必要な亜鉛の欠乏で生じる代表的な症候であり、混同しないよう整理しておきましょう。アルコール依存症や利尿薬、プロトンポンプ阻害薬の長期使用などの背景をもつ患者で、補正しにくい電解質異常や不整脈をみたらマグネシウムを確認する、という視点は日常診療で役立ちます。

解答・解説

正解はb, dです

マグネシウム(Mg)欠乏の症候を、亜鉛(Zn)欠乏の症候と区別できるかを問う問題である。 Mgはカルシウム(Ca)と同じ2価の陽イオンで、細胞膜の興奮性の調節に深く関わる。細胞内では、Na+/K+-ATPaseをはじめ数百種類の酵素反応の補因子として働き、ATPはMgと結合した形(Mg-ATP)で利用される。さらに、細胞膜のカルシウムチャネルやNMDA型グルタミン酸受容体の働きを抑える「生理的なCa拮抗薬」としての性質ももつ。そのため、Mgが欠乏すると神経・筋や心筋の興奮性が高まり、神経筋症状(テタニー、筋れん縮、振戦、けいれん)と心症状(不整脈)が前面に出る。 加えて、低Mg血症は他の電解質異常を引き起こす点が臨床上重要である。Mgが不足すると副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が抑えられ、標的臓器でのPTHへの反応も鈍るため、低Ca血症を来す。また、腎臓の集合管でカリウム(K)の排泄が増え、低K血症を来す。これらの低Ca血症・低K血症は、Mgを補充しない限り補正しにくい。テタニーや不整脈には、これらの合併した電解質異常も寄与している。 一方、脱毛・皮膚炎・味覚障害は、細胞分裂や多くの酵素活性に必要な亜鉛の欠乏で生じる代表的な症候であり、Mg欠乏の典型症状ではない。したがって、Mg欠乏に関連するのは不整脈とテタニーである。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛

    脱毛は亜鉛欠乏の代表的な症候である。毛髪は毛母細胞の盛んな細胞分裂によって作られ、その分裂にはDNAやRNAの合成酵素など亜鉛を必要とする酵素が欠かせない。そのため亜鉛が不足すると毛髪の産生が障害される。Mg欠乏の典型的な症候ではない。

  2. ○b.  不整脈

    Mgは心筋のNa+/K+-ATPaseの働きやカリウムチャネルの機能を保ち、心筋の電気的安定性を維持している。欠乏すると心筋の興奮性が高まり、上室性・心室性期外収縮、心房細動、心室頻拍、とくにQT延長を背景とするtorsades de pointes(多形性心室頻拍)、さらには心室細動を来しうる。心電図ではPR間隔やQRS幅の延長、T波の平低化、QT延長などがみられることがある。合併する低K血症も不整脈を助長し、ジギタリス中毒も起こりやすくなる。torsades de pointesの治療に硫酸マグネシウムの静注が用いられることも、Mgと不整脈の関係を示している。

  3. ×c.  皮膚炎

    皮膚炎は亜鉛欠乏で生じる症候である。亜鉛が不足すると、口や肛門の周囲、手足の末端などに紅斑やびらんを伴う皮膚炎が出現する(遺伝性の亜鉛吸収障害による腸性肢端皮膚炎が典型)。皮膚炎はナイアシン欠乏(ペラグラ)やビタミンB2・B6欠乏などでもみられるが、Mg欠乏の典型的な症候ではない。

  4. ○d.  テタニー

    テタニーは神経・筋の興奮性が高まって起こる、手足の筋の有痛性の強直性れん縮である(助産師の手位など)。Mgは神経筋接合部でのアセチルコリン放出を抑えて興奮性を下げる方向に働いており、その欠乏で神経筋の興奮性が亢進する。さらに、低Mg血症によるPTH分泌低下・PTH抵抗性から低Ca血症を合併し、テタニーを一層起こしやすくする。Trousseau徴候やChvostek徴候が陽性となることがあり、Mg欠乏の代表的な症候である。

  5. ×e.  味覚障害

    味覚障害は亜鉛欠乏の代表的な症候である。味覚を受容する味蕾の味細胞は短い周期で入れ替わっており、その新生や機能には亜鉛を必要とする酵素が関わる。亜鉛欠乏では味細胞の再生が障害されて味覚が低下する。薬剤(亜鉛とキレートを作る薬など)による味覚障害も亜鉛欠乏を介することが多い。Mg欠乏の典型的な症候ではない。

低マグネシウム血症

血清Mgの基準値はおよそ1.8〜2.4 mg/dLで、体内のMgの大部分は骨と細胞内にあり、血清中にあるのはごく一部である。そのため、血清Mgが正常でも体内のMgが不足していることがある。 主な原因:摂取不足(低栄養、慢性アルコール依存症)、消化管からの喪失(慢性下痢、吸収不良症候群、プロトンポンプ阻害薬の長期使用)、腎からの喪失(ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬、アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチン、アムホテリシンB、カルシニューリン阻害薬、Gitelman症候群)、リフィーディング症候群など。 主な症状:神経筋症状(テタニー、筋れん縮、振戦、けいれん、意識障害)、心症状(不整脈、QT延長)、合併する低Ca血症・低K血症。 治療:経口または静脈内でのMg補充。低Ca血症・低K血症の補正には、まずMgを補充する必要がある。

高マグネシウム血症(参考)

腎不全患者でのMg含有製剤(酸化マグネシウムなどの緩下薬、制酸薬)の使用や、妊娠高血圧症候群に対する硫酸マグネシウム投与で生じる。深部腱反射の低下・消失、筋力低下、呼吸抑制、低血圧、徐脈を来し、拮抗にはカルシウム製剤を用いる。

亜鉛欠乏症

主な症状は、味覚障害、皮膚炎(口・肛門周囲、四肢末端)、脱毛、創傷治癒遅延、易感染性、小児の成長障害、性腺機能低下、貧血など。原因には、摂取不足、高齢者、吸収障害、慢性肝疾患、腎疾患、亜鉛を含まない高カロリー輸液、キレート作用をもつ薬剤などがある。

POINT

・Mg欠乏=神経・筋・心筋の興奮性亢進→テタニー、けいれん、不整脈(torsades de pointes) ・低Mg血症は低Ca血症(PTH分泌低下・PTH抵抗性)と低K血症を合併し、Mg補充なしでは補正困難 ・亜鉛欠乏=味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延 ・torsades de pointesの治療に硫酸マグネシウム静注

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。