StudyMed医師国家試験

CTより先に、まず手を当てる―移動する腹痛と「次にすべきこと」

第113回医師国家試験 B問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第34問

A 25-year-old man comes to your clinic complaining of abdominal pain for the past two days. Yesterday, the pain was periodic and located around the periumbilical area. Today the pain is persistent and located in the right lower quadrant. He feels feverish. He does not smoke or drink alcohol. His body temperature is 37.7℃, blood pressure is 126/62 mmHg, and pulse rate is 94/min, regular.  Which one of the following should be done next?

  1. a.perform a CRP test
  2. b.examine for peritoneal irritation
  3. c.administer a broad-spectrum antibiotic
  4. d.perform an abdominal CT with contrast
  5. e.perform an upper gastrointestinal endoscopy

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は英語で出題された急性腹症の問題だ。問われているのは診断名ではなく「次に何をするか」。痛みの場所と性質が1日でどう変わったか、そしてここが診療所の外来だという場面設定に注目してほしい。まず、この経過から何を疑うかな。
医学生医学生
臍のまわりの間欠的な痛みが、翌日に右下腹部の持続痛へ移っているので、急性虫垂炎だと思います。
ドクタードクター
その通り。では、なぜ痛みの場所が移るのか説明できるかい。
医学生医学生
生理学の講義で内臓痛と体性痛の違いを習いました。最初は内臓痛で、あとから体性痛になるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。初期は糞石やリンパ濾胞の腫大で虫垂の内腔が詰まり、内圧が上がる。これは内臓神経を介する内臓痛なので、鈍くて場所がはっきりせず、波のある痛みとして正中の臍周囲に感じられる。虫垂は中腸由来で、第10胸髄レベルの内臓求心線維が関わるからだ。炎症が壁全層に及んで接している壁側腹膜を刺激すると、体性神経を介する体性痛に変わり、右下腹部に局在した持続痛になる。微熱と軽い頻脈も炎症を示している。
医学生医学生
診断がほぼついているなら、すぐ造影CTで確定させたくなります。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。正解は「腹膜刺激徴候の有無を診察する」。急性腹症では、問診の次は身体診察が基本。腹膜刺激徴候があるかどうかは、炎症が腹膜まで広がっているか、つまり重症度や緊急手術の要否に直結する、いちばん大事な情報なんだ。しかも器具なしでその場ですぐできる。
医学生医学生
OSCEの腹部診察で、反跳痛や筋性防御の確認を練習しました。
ドクタードクター
具体的には、McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3)やLanz点の圧痛、圧迫した手を急に離すと痛みが強まる反跳痛(Blumberg徴候)、腹壁が反射的に硬くなる筋性防御、咳や踵落としでの痛みの増強を確かめる。英語ではrebound tenderness、guardingと言うから、用語も一緒に押さえておこう。
医学生医学生
CRPを先に測るのはどうですか。炎症の程度がわかると思うんですが。
ドクタードクター
CRPは虫垂炎の評価でもふつう測るけれど、炎症に特異的な指標ではないし、発症早期にはまだ上がりきっていないこともある。値だけで診断や手術適応は決まらないから、目の前で取れる身体所見を後回しにしてまで先にやる検査ではないね。
医学生医学生
広域抗菌薬を早めに始めるのも、だめですか。
ドクタードクター
虫垂炎では手術をしてもしなくても抗菌薬を使うし、軽症なら抗菌薬だけで保存的に治療することもある。でも治療は診断と重症度評価のあとに決めるもの。診察前に投与すると所見が一時的に修飾されて、かえって診断が難しくなるおそれもある。
医学生医学生
造影CTも同じ理屈で、診察の結果を見てから適応を決めるということですね。
ドクタードクター
そう。CTは虫垂の腫大(直径6 mm超)、壁肥厚、周囲脂肪織の濃度上昇、糞石、膿瘍や穿孔までわかり、とても有用だ。ただ被ばくや造影剤アレルギー、腎機能への影響もあるし、実際には被ばくのない腹部超音波を先に行うことも多い。上部消化管内視鏡は胃や十二指腸の病変を疑うときの検査で、今回の痛みの移り方とは合わないし、侵襲のある検査をいきなりやる理由もない。
医学生医学生
消化器外科の実習で、上級医の先生が画像より先に必ずお腹を触っていたのはそういう意味だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に発展知識を。虫垂炎を示唆する所見には、左下腹部を押すと右下腹部が痛むRovsing徴候、左側臥位で圧痛が強まるRosenstein徴候、右股関節の伸展で痛む腸腰筋徴候、屈曲・内旋で痛む閉鎖筋徴候もある。症状・身体所見・白血球数を点数化するAlvaradoスコアも知っておくといい。
医学生医学生
鑑別としては、何を気にしておけばいいでしょうか。
ドクタードクター
右側結腸の憩室炎、エルシニアなどによる回盲部の腸炎、尿管結石、Meckel憩室炎、Crohn病などだね。病理学的にはカタル性、蜂窩織炎性、壊疽性と進み、穿孔すると腹膜炎や膿瘍になる。だから腹膜刺激徴候を繰り返し診て、悪化を見逃さないことが臨床では大切なんだ。

まとめ

臍周囲の間欠痛から右下腹部の持続痛へ移り、微熱を伴う経過は急性虫垂炎の典型で、内臓痛から体性痛への移行がその機序です。「次に行うべきこと」を問われたら診療の順序を考え、問診の次は身体診察、特に反跳痛(Blumberg徴候)や筋性防御などの腹膜刺激徴候の確認を行います。腹膜刺激徴候は炎症の腹膜への波及を示し、重症度や緊急手術の要否の判断に直結します。CRPなどの血液検査、超音波や造影CTといった画像検査、抗菌薬や手術などの治療は、診察結果を踏まえて進めるものです。検査や治療に急ぐ前にまず手を当てて診るという急性腹症診療の基本姿勢は、どの診療科に進んでも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

問題文の内容(和訳)

25歳の男性。2日前からの腹痛を訴えて診療所を受診した。昨日は痛みが周期的(間欠的)で臍の周りにあったが、今日は痛みが持続的になり右下腹部に移っている。熱っぽさを自覚している。喫煙・飲酒はしない。体温37.7℃、血圧126/62 mmHg、脈拍94/分・整。次に行うべきなのはどれか。

所見の整理

・若年男性の急性腹痛。 ・痛みが「臍周囲の間欠的な痛み」から「右下腹部の持続的な痛み」へと、性状も部位も変化している(疼痛の移動)。 ・微熱(37.7℃)と軽度の頻脈(94/分)があり、炎症の存在がうかがわれる。血圧は保たれ、ショックではない。

診断へのプロセス

臍周囲(または心窩部)の痛みで始まり、数時間〜1日ほどで右下腹部に限局した持続痛へ移るのは、急性虫垂炎の典型的な経過である。初期には虫垂の内腔が閉塞して内圧が高まり、内臓神経を介した内臓痛として、部位のはっきりしない痛みが臍周囲に感じられる(虫垂は胎生期の中腸由来で、第10胸髄レベルの内臓求心線維が関わるため)。炎症が虫垂壁全層に及び、接する壁側腹膜が刺激されると、体性神経を介した体性痛となり、右下腹部に局在のはっきりした持続痛として感じられるようになる。発熱・頻脈もこれに合致する。鑑別には、憩室炎(右側結腸)、回盲部の腸炎(エルシニアなど)、尿管結石、Meckel憩室炎、Crohn病などがある。

設問の考え方

「次に行うべきこと」を問う問題では、診療の順序を考える。病歴から急性虫垂炎を強く疑った段階で、まず行うべきは身体診察であり、なかでも腹膜刺激徴候(反跳痛、筋性防御など)の有無を確かめることが重要である。腹膜刺激徴候は炎症が腹膜に及んでいることを示し、重症度や手術の必要性・緊急性の判断に直結する。血液検査、画像検査、治療は、身体診察で得た情報をもとに進める。

選択肢考察

  1. ×a.  perform a CRP test

    CRP(C反応性蛋白)の測定。白血球数とともに炎症の有無や程度を知る参考になり、虫垂炎の評価でも通常は測定する。しかしCRPは炎症に特異的な指標ではなく、虫垂炎以外の原因でも上昇し、発症早期にはまだ上がりきっていないこともある。CRP値だけで診断や手術適応は決まらず、その場で得られる身体所見の確認を後回しにしてまで先に行うべき検査ではない。

  2. ○b.  examine for peritoneal irritation

    腹膜刺激徴候の有無を診察する。急性腹症の診療では、問診に続いて身体診察を行うのが基本であり、腹膜刺激徴候の有無は、炎症が腹膜まで波及しているかどうか、すなわち重症度と緊急手術の要否を判断する最も重要な情報である。具体的には、右下腹部の圧痛点(McBurney点:臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点、Lanz点など)の圧痛、反跳痛(Blumberg徴候:圧迫した手を急に離すと痛みが増強する)、筋性防御(腹壁が反射的に硬くなる)、咳嗽や踵落としでの痛みの増強などを確認する。Rovsing徴候(左下腹部を圧迫すると右下腹部が痛む)、腸腰筋徴候、閉鎖筋徴候も虫垂炎を示唆する所見である。いずれも診療所で、器具を使わずすぐに行える。

  3. ×c.  administer a broad-spectrum antibiotic

    広域抗菌薬の投与。急性虫垂炎では手術の有無にかかわらず抗菌薬を用い、軽症例では抗菌薬のみで保存的に治療することもある。しかし、治療は診断と重症度評価を行ったあとに決めるものである。身体診察も検査もしないうちに抗菌薬を投与すると、症状や所見が一時的に修飾されて診断が難しくなるおそれもあり、この段階で最初に行うべきことではない。

  4. ×d.  perform an abdominal CT with contrast

    腹部造影CT。虫垂の腫大(直径6 mm超)、壁肥厚、周囲脂肪織の濃度上昇、糞石、膿瘍や穿孔の有無などがわかり、虫垂炎の診断・重症度評価や他疾患との鑑別に非常に有用である。ただし画像検査は身体診察の後に、その結果を踏まえて適応を判断して行うものである。また造影CTには放射線被ばくや造影剤アレルギー、腎機能への影響などの問題もあり、腹部超音波検査を先に行うことも多い。本問の診療所の場面では、まず診察を行うべきである。

  5. ×e.  perform an upper gastrointestinal endoscopy

    上部消化管内視鏡検査。食道・胃・十二指腸の病変(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎など)を疑う場合に行う検査である。本例の、臍周囲から右下腹部に移動した痛みは虫垂炎に典型的であり、上部消化管の病変を示唆する所見はない。侵襲を伴う内視鏡を、身体診察より前にいきなり行う理由はない。なお、消化性潰瘍の穿孔では漏れた胃・十二指腸液が右結腸傍溝に沿って流れ右下腹部痛を来すことがあるが、その場合は内視鏡ではなく画像検査で遊離ガスを確認する。

急性虫垂炎の概要

・原因:糞石、リンパ濾胞の腫大などによる虫垂内腔の閉塞と、それに続く細菌感染。10〜20歳代に多いが、あらゆる年齢で起こる。 ・症状の典型的な順序:心窩部・臍周囲の痛み → 悪心・嘔吐、食欲不振 → 右下腹部への疼痛の移動 → 発熱。 ・病理分類:カタル性 → 蜂窩織炎性 → 壊疽性と進行し、穿孔すると腹膜炎や膿瘍を形成する。

身体所見

・圧痛点:McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3)、Lanz点(左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3)。 ・腹膜刺激徴候:反跳痛(Blumberg徴候)、筋性防御、筋強直(板状硬)、打診痛、咳嗽・踵落とし試験での疼痛増強。 ・その他:Rovsing徴候、Rosenstein徴候(左側臥位で圧痛増強)、腸腰筋徴候(右股関節伸展で疼痛)、閉鎖筋徴候(右股関節屈曲・内旋で疼痛)。

検査

・血液検査:白血球増多(核の左方移動)、CRP上昇。 ・腹部超音波:虫垂の腫大、圧迫しても潰れない虫垂、糞石。被ばくがなく小児・妊婦にも有用。 ・腹部CT:診断精度が高く、穿孔・膿瘍の評価や他疾患との鑑別に優れる。 ・臨床スコアとして、症状・身体所見・白血球数などを点数化するAlvaradoスコアがある。

治療

・基本は虫垂切除術(現在は腹腔鏡下手術が多い)。 ・軽症例では抗菌薬による保存的治療も選択肢となる。膿瘍形成例では抗菌薬やドレナージで炎症を鎮めてから待機的に手術することもある(interval appendectomy)。

内臓痛と体性痛

・内臓痛:管腔臓器の拡張・攣縮などで生じる。鈍く局在が不明瞭で、間欠的(疝痛)になりやすい。正中付近に感じる。 ・体性痛:壁側腹膜や腸間膜への炎症波及で生じる。鋭く局在が明瞭で持続的。体動で増強する。 ・内臓痛から体性痛への移行が、虫垂炎における疼痛移動の機序である。

POINT

・臍周囲(心窩部)から右下腹部への疼痛移動、微熱は急性虫垂炎の典型である。 ・急性腹症では、問診の次に身体診察で腹膜刺激徴候(反跳痛、筋性防御)を確認し、重症度・手術の要否を判断する。 ・検査(血液検査、超音波、CT)や治療(抗菌薬、手術)は身体診察の後に行う。 ・McBurney点、Lanz点、Blumberg徴候、Rovsing徴候などの用語を押さえる。 ・peritoneal irritation=腹膜刺激、rebound tenderness=反跳痛、guarding(muscular defense)=筋性防御。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。