StudyMed医師国家試験

「拡がる膵管」と「細る膵管」―粘液で読み解くIPMNの画像所見

第113回医師国家試験 A問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第113回 A問題 第9問

膵管内乳頭粘液性腫瘍〈IPMN〉でみられないのはどれか。

  1. a.Vater乳頭口の開大
  2. b.膵管内の乳頭状増生
  3. c.主膵管のびまん性狭窄
  4. d.膵管分枝のブドウの房状拡張
  5. e.主膵管内のイクラ状隆起性病変

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は膵管内乳頭粘液性腫瘍、いわゆるIPMNで「みられない所見」を選ぶ問題だ。ポイントは、この腫瘍が膵管の中で何をしているのかをイメージできるかどうか。名前の「乳頭」と「粘液」という2つの言葉に、所見のほとんどが詰まっているんだ。まず、IPMNがどんな腫瘍か説明できるかな。
医学生医学生
膵管の上皮から出る腫瘍で、粘液をたくさん作るものですよね。消化器の講義で膵嚢胞性腫瘍の一つとして習いました。
ドクタードクター
その通り。膵管上皮が内腔に向かって乳頭状に増殖しながら、大量の粘液を産生する。高齢男性の膵頭部に多く、腺腫から腺癌まで連続した悪性度をもつ前癌病変として扱われる。では、膵管の中に粘液がどんどん溜まったら、膵管はどうなると思う?
医学生医学生
出口が詰まるので、膵管が太くなる……拡張するということですか。
ドクタードクター
そう、それが一番大事な発想だ。粘液のうっ滞で膵管は「拡張」する。主膵管が拡張すれば主膵管型、分枝膵管が嚢胞状に拡張すれば分枝型と呼ぶ。分枝型では、拡張した分枝が小さな嚢胞として寄り集まり、MRCPなどでブドウの房のように見えるんだ。
医学生医学生
ブドウの房状の拡張は分枝型の典型像ということですね。主膵管とつながっているのもポイントでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。主膵管と交通することは、交通しないことが多い粘液性嚢胞腫瘍、つまりMCNとの鑑別点になる。次に、溜まった粘液はどこへ行くと思う?
医学生医学生
最終的には十二指腸へ出ていくはずなので……Vater乳頭を通りますね。
ドクタードクター
正解。粘液が乳頭から押し出されるため、乳頭の開口部が広がって、十二指腸内視鏡では乳頭口が魚の口のように開大し、そこから粘液が流れ出る様子が見える。fish-mouth papillaと呼ばれる、IPMNに特徴的な所見だ。
医学生医学生
臨床実習の消化器内科で、ERCPの最中に乳頭からドロッと粘液が出てくる画像を見せてもらいました。あれがそうだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだね。そして腫瘍そのものは膵管上皮の乳頭状増生だから、膵管内の乳頭状増生は病変の本態そのもの。経口膵管鏡で主膵管内を直接のぞくと、透明感のある小さな顆粒状の隆起が密集して、イクラを並べたように見える。これもIPMNで観察される所見で、進展範囲の評価にも使われる。
医学生医学生
そうすると、残る主膵管のびまん性狭窄だけが「拡張」とは逆の変化になりますね。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。IPMNでは主膵管は拡張するか、分枝型でも正常のことが多く、全体が細くなることはない。では、主膵管がびまん性に細くなるのはどんな病気だったかな。
医学生医学生
自己免疫性膵炎ですか。IgG4関連疾患の講義で、膵臓がソーセージのように腫れる画像を見ました。
ドクタードクター
正解。自己免疫性膵炎では膵のびまん性腫大、被膜様構造、血清IgG4高値に加えて、主膵管の広範囲な狭細化が特徴で、ステロイドがよく効く。膵管が「拡がる」のがIPMN、「細る」のが自己免疫性膵炎と対比しておくといい。
医学生医学生
所見を暗記するより、「粘液が溜まって出ていく」という流れで考えると全部つながりますね。
ドクタードクター
そういうことだ。最後に臨床での注意点をまとめよう。主膵管型は悪性の頻度が高く、原則として手術を検討する。分枝型は悪性化の頻度が比較的低く、多くは経過観察になる。ただし閉塞性黄疸、造影される壁在結節、主膵管径10mm以上といった所見は強く悪性を疑うサインだ。
医学生医学生
経過観察になった場合は、嚢胞だけを見ていればいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこが落とし穴。IPMNの患者さんでは、IPMNとは別の場所に通常型膵癌ができる併存癌も多いことが知られている。だから嚢胞だけでなく膵臓全体を長期にわたって見ていく必要があるんだ。膵嚢胞性腫瘍の鑑別では、中年女性の体尾部に多く卵巣様間質をもつMCN、蜂巣状で中心に星芒状瘢痕をもつ漿液性嚢胞腫瘍、若年女性の充実性偽乳頭状腫瘍もセットで整理しておこう。

まとめ

IPMNは膵管上皮が乳頭状に増殖しながら大量の粘液を産生する腫瘍で、高齢男性の膵頭部に好発し、浸潤癌へ進展しうる前癌病変です。粘液のうっ滞で膵管は拡張し、主膵管型では主膵管拡張、分枝型ではブドウの房状の多房性嚢胞がみられ、粘液の排出によりVater乳頭口が開大し、膵管鏡ではイクラ状の隆起が観察されます。一方、主膵管のびまん性狭細化は自己免疫性膵炎に特徴的な所見であり、IPMNではみられません。主膵管型や壁在結節・閉塞性黄疸などの悪性を疑う所見があれば手術を検討し、経過観察例でも併存する通常型膵癌に注意して膵全体を追跡します。「粘液が溜まり、乳頭から出ていく」という病態から所見を導く考え方は、膵嚢胞性腫瘍の鑑別全体を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

IPMNとはどのような腫瘍か

膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)は、膵管の上皮から発生し、膵管の内腔に向かって乳頭状に増殖しながら大量の粘液を産生する腫瘍である。高齢男性に多く、膵頭部に好発する。腺腫から腺癌まで連続した悪性度のスペクトラムをもち、浸潤癌へ進展しうる前癌病変として扱われる。

所見を理解するための鍵:「粘液」と「乳頭状増殖」

IPMNの画像・内視鏡所見は、ほぼすべて次の2点から説明できる。 (1) 腫瘍が産生する粘液が膵管内にたまり、膵液の流れを妨げるため、膵管は「拡張」する。主膵管が拡張すれば主膵管型、分枝膵管が嚢胞状に拡張すれば分枝型となり、分枝型では拡張した分枝がブドウの房のように集まって見える。 (2) 粘液が主膵管から十二指腸へ排出されるため、Vater乳頭(主乳頭)の開口部が押し広げられ、内視鏡では乳頭口が開大して粘液が流れ出る様子がみられる。 (3) 腫瘍そのものは膵管上皮の乳頭状増殖であり、膵管鏡では主膵管内にイクラ(魚卵)を並べたような透明感のある顆粒状の隆起として観察される。

考え方

IPMNの本質は「粘液による膵管の拡張」であるから、それと反対方向の変化である「主膵管のびまん性狭窄」はIPMNではみられない。主膵管がびまん性(広範囲)に細くなるのは、自己免疫性膵炎に特徴的な所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  Vater乳頭口の開大

    IPMN、とくに主膵管に病変が及ぶものでは、産生された大量の粘液が主膵管を通って十二指腸へ排出される。その際にVater乳頭の開口部が押し広げられ、十二指腸内視鏡で乳頭口が魚の口のように開いて粘液が流れ出る像(いわゆる fish-mouth papilla)として観察される。IPMNに特徴的な所見であり、みられる所見である。

  2. ×b.  膵管内の乳頭状増生

    IPMNはその名のとおり、膵管上皮が膵管内腔に向かって乳頭状に増殖する腫瘍である。病理組織では粘液を含む円柱上皮が乳頭状構造をつくり、超音波内視鏡(EUS)や膵管鏡では膵管内の乳頭状の隆起・壁在結節として描出される。病変の本態そのものであり、みられる所見である。

  3. ○c.  主膵管のびまん性狭窄

    IPMNでは粘液のうっ滞により膵管は拡張する。主膵管型では主膵管が全体またはある区域にわたって太くなり、分枝型でも主膵管は正常か拡張していることが多い。したがって主膵管がびまん性に細くなる所見はIPMNではみられず、これが正解である。主膵管のびまん性(あるいは膵全体の1/3以上にわたる)狭細化は自己免疫性膵炎に特徴的な所見であり、膵腫大(ソーセージ様腫大)や血清IgG4高値と併せて診断の手がかりとなる。

  4. ×d.  膵管分枝のブドウの房状拡張

    分枝型IPMNでは、分枝膵管が粘液によって嚢胞状に拡張し、小さな嚢胞がいくつも寄り集まった多房性嚢胞となる。MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)や超音波、CTで、主膵管とつながる嚢胞がブドウの房のように見えるのが特徴である。主膵管との交通があることは、主膵管と交通しないことが多い粘液性嚢胞腫瘍(MCN)との鑑別点にもなる。みられる所見である。

  5. ×e.  主膵管内のイクラ状隆起性病変

    経口膵管鏡(POPS)で主膵管内を直接観察すると、IPMNの乳頭状腫瘍は透明感のある小さな顆粒状隆起が密集した、イクラ(魚卵)のような外観を示す。主膵管型や混合型IPMNで観察される特徴的な所見であり、腫瘍の進展範囲の評価にも用いられる。みられる所見である。

IPMNの分類

・主膵管型: 主膵管が5mmを超えて拡張し、他に閉塞の原因がないもの。悪性の頻度が高く、原則として手術を検討する。 ・分枝型: 主膵管と交通する5mmを超える分枝の嚢胞状拡張。悪性化の頻度は比較的低く、多くは経過観察となる。 ・混合型: 両者の特徴を併せもつ。

悪性を疑う所見(国際診療ガイドラインの考え方)

・強く悪性を疑う所見(high-risk stigmata): 膵頭部病変による閉塞性黄疸、造影される5mm以上の壁在結節、主膵管径10mm以上など。原則として手術適応となる。 ・悪性の可能性を示唆する所見(worrisome features): 嚢胞径3cm以上、5mm未満の造影される壁在結節、肥厚・造影される嚢胞壁、主膵管径5〜9mm、急速な嚢胞の増大、膵炎の合併、血清CA19-9上昇など。EUSなどで精査し方針を決める。

IPMNの臨床上の注意点

IPMN自体の悪性化に加えて、IPMNとは別の部位に通常型膵癌が発生する(併存癌)頻度も高いため、膵全体を対象に長期の経過観察が必要である。

膵嚢胞性腫瘍の鑑別(要点)

・IPMN: 高齢男性、膵頭部、膵管と交通、ブドウの房状 ・粘液性嚢胞腫瘍(MCN): 中年女性、膵体尾部、卵巣様間質、厚い被膜をもつ夏みかん様(cyst in cyst)、膵管と交通しないことが多い ・漿液性嚢胞腫瘍(SCN): 中高年女性、蜂巣状の小嚢胞の集簇、中心に星芒状瘢痕・石灰化、ほぼ良性 ・充実性偽乳頭状腫瘍(SPN): 若年女性、充実部分と嚢胞部分が混在

主膵管のびまん性狭細化を示す疾患

自己免疫性膵炎(IgG4関連疾患の膵病変)。膵のびまん性腫大、被膜様構造(capsule-like rim)、血清IgG4高値、ステロイドへの良好な反応が特徴である。

POINT

・IPMNは膵管上皮の乳頭状増殖と粘液産生を特徴とし、高齢男性の膵頭部に好発する。 ・粘液のうっ滞により膵管は「拡張」する:主膵管型は主膵管拡張、分枝型はブドウの房状の多房性嚢胞。 ・内視鏡ではVater乳頭口の開大と粘液排出、膵管鏡ではイクラ状隆起がみられる。 ・主膵管のびまん性狭細化は自己免疫性膵炎の所見であり、IPMNではみられない。 ・閉塞性黄疸、造影される壁在結節、主膵管径10mm以上は強く悪性を疑う所見である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。