StudyMed医師国家試験

胃の「お隣さん」は誰か―局所解剖で解く胃体部進行癌の直接浸潤

第113回医師国家試験 A問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第113回 A問題 第7問

胃体部進行癌が浸潤しにくいのはどれか。

  1. a.肝臓
  2. b.膵臓
  3. c.大網
  4. d.胆嚢
  5. e.横行結腸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胃体部の進行癌がどの臓器に浸潤しにくいかを問う問題だ。病理の知識というより、実は局所解剖の問題なんだ。癌が胃壁を突き抜けたとき、そのすぐ外側に何があるかをイメージできるかがカギになるよ。
医学生医学生
浸潤しやすい臓器というと、肝臓が真っ先に浮かびます。胃癌は肝転移が多いと習ったので。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。肝臓への転移は門脈を介した血行性転移で、今回問われている直接浸潤とは別の進展様式なんだ。直接浸潤は、癌が粘膜から粘膜下層、固有筋層、漿膜下層と深く進み、漿膜を越えて接している臓器へ連続的に広がること。だから「胃のどこに接しているか」で考える。
医学生医学生
なるほど、転移と浸潤を混同していました。胃癌取扱い規約でいうと、他臓器に直接浸潤していればT4bでしたね。
ドクタードクター
その通り。固有筋層まで達したものが進行癌で、漿膜表面に出ればT4a、さらに他臓器に入り込めばT4bだ。では胃体部の周りを順番に見ていこう。まず小彎側から前上方には何がある?
医学生医学生
小網でつながっている肝臓の左葉です。解剖実習で胃をめくったとき、肝左葉がかぶさるように乗っていたのを覚えています。
ドクタードクター
いい記憶だね。だから肝臓は、血行性転移とは別に、直接浸潤の相手にもなりうる。次に胃の後壁側は?
医学生医学生
網嚢をはさんで膵臓がありますね。膵体部から尾部にかけてでしょうか。
ドクタードクター
正解。後壁の進行癌は網嚢を越えて膵体尾部に浸潤しやすく、胃癌の他臓器浸潤の中でも頻度が高い部位だ。手術で膵体尾部を合併切除することもある。では大彎側はどうかな。
医学生医学生
大網がエプロンのように垂れ下がっていて、その下に横行結腸がある……という位置関係でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。大網は大彎に付着していて、癌は胃壁から連続して大網へ広がりうる。さらに胃結腸間膜を介して横行結腸や横行結腸間膜へ浸潤することもあって、穿通すると胃結腸瘻をつくることもあるんだ。大網はもう一つ、腹膜播種の好発部位でもあって、癌が広がると厚く硬いomental cakeになることがある。
医学生医学生
そうすると、残る胆嚢だけが胃体部と接していないことになりますね。でも胆嚢も肝臓の下にあって、胃とそれほど遠くない気がします。
ドクタードクター
その感覚は大事だよ。胆嚢は肝右葉の下面、胆嚢窩にあって、胃でいえば幽門前庭部から十二指腸球部の近くに位置する。胃体部とは肝臓をはさんで離れているから、胃体部の癌が胆嚢に直接浸潤することはまれなんだ。だから答えは胆嚢になる。
医学生医学生
ということは、幽門部の癌だったら胆嚢にも浸潤しうるわけですね。
ドクタードクター
まさにそこがポイントで、「どの臓器が浸潤しにくいか」は胃のどの部位の癌かで変わる。幽門部なら十二指腸、膵頭部、肝門部、胆嚢が近いし、穹窿部や噴門部なら横隔膜、脾臓、食道が近い。部位ごとに隣接臓器をセットで覚えておくと応用がきくよ。
医学生医学生
消化器外科を回ったとき、術前CTで膵臓との間の脂肪層が保たれているかを先生が気にしていたのは、そういう意味だったんですね。
ドクタードクター
その通り。脂肪層が消えていれば浸潤を疑い、合併切除の必要性や切除可能性の判断にかかわってくる。最後に胃癌の進展様式を整理しておこう。直接浸潤のほかに、リンパ行性転移として左鎖骨上窩のVirchow転移、血行性転移として門脈経由の肝転移、腹膜播種としてDouglas窩のSchnitzler転移や卵巣のKrukenberg腫瘍がある。
医学生医学生
直接浸潤は「隣にあるかどうか」、転移はそれぞれの経路で考える、と分けて覚えます。

まとめ

胃癌は粘膜から深部へ進み、漿膜を越えると解剖学的に接している臓器へ直接浸潤し、これは胃癌取扱い規約のT4bに相当します。胃体部の周囲には、小彎側・前上方に肝左葉、後壁側に網嚢をはさんで膵体尾部、大彎側に大網と横行結腸(横行結腸間膜)、左側に脾臓があり、これらは浸潤を受けうる臓器です。一方、胆嚢は肝右葉の下面にあって幽門部や十二指腸に近く、胃体部とは接していないため浸潤しにくいといえます。肝転移(血行性)、Virchow転移(リンパ行性)、Schnitzler転移やKrukenberg腫瘍(腹膜播種)といった他の進展様式と直接浸潤を区別することが重要です。胃の部位ごとに隣接臓器を整理しておくことは、画像診断での浸潤評価や手術の合併切除範囲の理解にも直結します。

解答・解説

正解はdです

問われていること

胃癌は粘膜から発生し、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層へと深く進み、漿膜を越えると胃の外にある臓器へ直接広がる(直接浸潤)。直接浸潤を受けやすいのは、その部位の胃壁と「解剖学的に接している」臓器である。したがって本問は、胃体部の周囲にどの臓器があるかという局所解剖の知識を問うている。

胃体部の周囲の解剖

胃体部の前面から右上方(小彎側)には肝臓の左葉があり、小網(肝胃間膜)でつながっている。後面は網嚢という狭い腔をはさんで膵臓(とくに体部・尾部)と向き合う。大彎側には大網が付着し、そのすぐ下方には胃結腸間膜(大網の一部)を介して横行結腸と横行結腸間膜がある。左側には脾臓、上方には横隔膜がある。 一方、胆嚢は肝臓の右葉下面(胆嚢窩)にあり、位置としては胃の幽門部〜十二指腸球部の近くである。胃体部とは肝臓をはさんで離れているため、胃体部の癌が胆嚢へ直接浸潤することはまれである。

考え方

「接している臓器には浸潤しうる、接していない臓器には浸潤しにくい」と整理すれば、胃体部と直接の位置関係をもたない胆嚢が答えとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  肝臓

    肝臓の左葉は胃体部の小彎側・前上方に位置し、小網で胃とつながっている。小彎側や前壁の進行癌は肝左葉へ直接浸潤しうる。なお肝臓は門脈を介した血行性転移の好発部位でもあるが、本問で問われているのは隣接臓器への直接浸潤であり、その意味でも浸潤しうる臓器である。

  2. ×b.  膵臓

    膵臓は網嚢をはさんで胃体部の後壁と向かい合っている。後壁の進行癌は網嚢を越えて膵体部・尾部へ浸潤しやすく、胃癌の他臓器浸潤の中でも頻度の高い部位である。膵浸潤がある場合には膵体尾部の合併切除が検討されることがある。

  3. ×c.  大網

    大網は胃の大彎に付着してエプロン状に垂れ下がる腹膜のひだである。大彎側の癌は胃壁から連続して大網へ広がりうる。また漿膜を越えた癌細胞が腹腔内に散布されると、大網は腹膜播種の好発部位となり、厚く硬くなった状態(omental cake)を呈することもある。

  4. ○d.  胆嚢

    胆嚢は肝右葉の下面にあり、胃の中では幽門前庭部や十二指腸に近い位置にある。胃体部とは肝臓をはさんで隔たっており、両者が直接接することはないため、胃体部の進行癌が胆嚢に直接浸潤することはまれである。したがって浸潤しにくい臓器として本肢が正解となる(ただし幽門部の進行癌では近接するため浸潤がありうる)。

  5. ×e.  横行結腸

    横行結腸は胃結腸間膜(大網の一部)を介して胃の大彎のすぐ下方に位置する。大彎側の進行癌は胃結腸間膜・横行結腸間膜を経て横行結腸へ浸潤しうる。浸潤例では横行結腸の合併切除が必要となることがあり、癌が腸管内腔へ穿通すると胃結腸瘻を形成することもある。

胃癌の壁深達度(T分類、胃癌取扱い規約の要点)

T1a: 粘膜内(M) T1b: 粘膜下層(SM)まで T2: 固有筋層(MP)まで T3: 漿膜下層(SS)まで T4a: 漿膜表面に露出(SE) T4b: 他臓器へ直接浸潤(SI) 固有筋層より深い(T2以深)ものを進行癌、粘膜下層までにとどまる(T1)ものを早期癌とよぶ。

胃の部位ごとに隣接する主な臓器

・胃体部の小彎側・前壁: 肝左葉、小網 ・胃体部の後壁: 膵体尾部(網嚢をはさむ) ・胃体部の大彎側: 大網、横行結腸、横行結腸間膜、脾臓 ・胃上部(穹窿部・噴門部): 横隔膜、脾臓、食道 ・幽門部: 十二指腸、膵頭部、肝門部、胆嚢

胃癌の進展様式

・直接浸潤: 隣接臓器へ連続して広がる(本問) ・リンパ行性転移: 胃周囲リンパ節から遠位へ。左鎖骨上窩リンパ節転移はVirchow転移とよばれる ・血行性転移: 門脈経由で肝臓への転移が最も多い ・腹膜播種: Douglas窩への播種(Schnitzler転移)、卵巣への転移(Krukenberg腫瘍)など

POINT

・胃癌の直接浸潤は、胃壁と解剖学的に接する臓器に起こる。 ・胃体部の周囲には肝左葉、膵体尾部、大網、横行結腸(横行結腸間膜)、脾臓がある。 ・胆嚢は肝右葉の下面にあり、胃体部とは接していないため浸潤しにくい(幽門部癌では近接しうる)。 ・直接浸潤(T4b)、リンパ行性、血行性(肝転移が最多)、腹膜播種という進展様式を区別して整理する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。