触診は良性顔、画像は悪性顔―乳腺腫瘤の確定診断は「病理」で決める
第113回医師国家試験 A問題 第54問
国試問題にチャレンジ
65歳の女性。検診のマンモグラフィで異常陰影を指摘され来院した。右乳房に長径2cmの腫瘤を触知する。腫瘤は円形,弾性硬で,可動性は良好で圧痛を認めない。乳頭からの分泌物を認めない。マンモグラムを別に示す。乳房超音波検査で辺縁不整な低エコー腫瘤像を認める。 次に行うべき検査はどれか。

- a.乳管造影
- b.穿刺細胞診
- c.腹部造影CT
- d.腫瘍マーカー測定
- e.血中エストラジオール測定
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
乳腺腫瘤の診断は、問診・視診・触診から画像検査(マンモグラフィ・超音波)へ進み、病理学的検査(細胞診・組織診)で確定するという順序が基本です。円形・可動性良好といった触診所見は良性でもみられますが、高齢であることやマンモグラフィ・超音波での辺縁不整な腫瘤像は乳癌を強く疑わせ、次に行うべきは穿刺細胞診などの病理学的検査となります。現在は組織構築やER・PgR、HER2、Ki-67を評価できる針生検が多く用いられ、これらはサブタイプ分類と薬物療法の選択に直結します。腹部CTなどの転移検索は確定診断後の病期診断で行い、CEAやCA15-3などの腫瘍マーカーは早期乳癌の診断には使えず進行・再発例の経過観察に用いられます。乳管造影は乳頭異常分泌がある場合の検査であり、各検査の役割と実施の順番を理解することが、乳癌診療の基本的な判断力につながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・65歳の閉経後女性。検診のマンモグラフィで異常を指摘されて受診した。乳癌の罹患が多い年齢層に含まれる。 ・触診:右乳房に長径2cmの腫瘤。円形、弾性硬、可動性良好、圧痛なし。触診所見だけをみると線維腺腫などの良性腫瘤とも区別しにくい。乳頭分泌はない。 ・マンモグラム:内外斜位方向(MLO)撮影で、上部に不整形で辺縁が微細分葉状の高濃度腫瘤影があり、悪性を疑う所見である。 ・乳房超音波検査:辺縁が不整な低エコー腫瘤。境界・辺縁の不整は悪性を強く示唆する。
診断へのプロセス
触診所見は良性でもみられるものだが、マンモグラフィと超音波の両方で悪性を疑う形態を示しており、乳癌が最も考えられる。ただし画像はあくまで「疑い」にとどまり、乳癌の確定診断には病変から採取した細胞や組織の病理学的検査が必須である。 乳腺腫瘤の診療は、問診・視診・触診 → 画像検査(マンモグラフィ、超音波) → 病理学的検査(細胞診・針生検などの組織診)で確定診断 → 確定後に病期診断(転移検索)と治療方針の決定、という順に進める。
設問の考え方
本例は画像検査まで終わっている段階なので、次は病理学的検査である。選択肢の中で病理学的検査にあたるのは穿刺細胞診だけである。腹部CTなどの転移検索や腫瘍マーカーは、乳癌の確定後、あるいは治療後の経過観察で用いるもので、今の段階で行う検査ではない。
選択肢考察
- ×a. 乳管造影
乳頭の分泌口から細いカニューレを乳管に入れて造影剤を注入し、乳管の拡張・途絶・欠損像を撮影する検査である。血性乳頭分泌など、乳管内乳頭腫や乳管内に進展する癌が疑われる場合に用いる。本例は乳頭分泌がなく、すでに画像で腫瘤が確認されているので適応にならない。
- ○b. 穿刺細胞診
マンモグラフィと超音波で悪性が疑われた腫瘤に対しては、病理学的に確定診断をつける必要がある。穿刺吸引細胞診は、超音波で腫瘤を確認しながら細い針を刺して細胞を吸引し、悪性細胞の有無を調べる方法で、外来で簡便に行え侵襲も小さい。選択肢の中で唯一の病理学的検査であり、次に行う検査として適切である。なお現在の診療では、組織構築を評価でき、ホルモン受容体(ER・PgR)やHER2、Ki-67などの治療方針に必要な情報も得られる針生検(コア針生検、吸引式組織生検)が第一選択とされることが多い。
- ×c. 腹部造影CT
乳癌は肝臓などへ遠隔転移することがあり、病期診断のために胸腹部CTを行うことはある。しかしそれは病理学的に乳癌と確定した後に、腫瘍の大きさやリンパ節転移の状況などから必要性を判断して行う検査である。確定診断前の段階で行う検査ではない。
- ×d. 腫瘍マーカー測定
乳癌で用いられる腫瘍マーカーにはCEA(癌胎児性抗原)やCA15-3があるが、早期の乳癌では上昇しないことが多く、良性疾患や他の癌でも上昇しうるため、乳癌の存在診断・確定診断には使えない。主に進行・再発乳癌の病勢評価や治療効果の判定、治療後の経過観察に用いる。
- ×e. 血中エストラジオール測定
エストラジオールは卵巣から分泌される主要なエストロゲンで、卵巣機能や閉経状態の評価に用いる。乳腺腫瘤の良悪性の鑑別や乳癌の診断には役立たない。65歳であれば臨床的に閉経後であることは明らかで、診断の段階で測定する意義はない。
乳癌の診断の流れ
①問診・視診・触診:腫瘤の大きさ・硬さ・可動性、皮膚のえくぼ症状(dimpling)、乳頭陥凹、乳頭分泌、腋窩リンパ節腫大などをみる。 ②画像検査:マンモグラフィ(腫瘤影、構築の乱れ、微細石灰化。所見の悪性度をカテゴリー1〜5で評価)と乳房超音波検査(形状不整、境界不明瞭、縦横比が大きい、後方エコーの減弱、境界部高エコー像〈halo〉などが悪性を示唆)。乳房MRIは広がり診断などに用いる。 ③病理学的検査:穿刺吸引細胞診、針生検(コア針生検、吸引式組織生検)、必要に応じて外科的生検。組織診では組織型に加え、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2、Ki-67を調べ、サブタイプ分類と薬物療法の選択に用いる。 ④病期診断:確定後、必要に応じてCT、骨シンチグラフィ、PET-CTなどで遠隔転移を検索する。
良性腫瘤と悪性腫瘤の一般的な違い
・線維腺腫:若年女性に多い。境界明瞭で表面平滑、弾性硬、可動性良好。超音波で楕円形・境界明瞭な低エコー腫瘤。 ・乳癌:中高年に多い。硬く、境界不明瞭、可動性不良(周囲への浸潤)。ただし本例のように触診では良性様でも画像で悪性を示すことがあり、触診だけで判断しない。
乳管造影の位置づけ
乳頭異常分泌(特に単一乳管からの血性分泌)がある場合の乳管内病変の検索に用いる。近年は超音波検査や乳管内視鏡、MRIで代替されることも多い。
POINT
・乳腺腫瘤の診断は「触診 → 画像(マンモグラフィ・超音波)→ 病理学的検査(細胞診・組織診)で確定」の順。 ・画像で悪性が疑われたら、次は病理学的検査。現在は針生検(組織診)が多く用いられる。 ・腫瘍マーカー(CEA、CA15-3)は早期乳癌の診断には使えず、進行・再発例の経過観察に用いる。 ・転移検索(CTなど)は確定診断の後に行う。 ・乳管造影は乳頭異常分泌がある場合の検査。
