StudyMed医師国家試験

止まった心臓が最初に応える―Apgarスコア0点からの蘇生で何が戻るか

第112回医師国家試験 F問題 第57問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第57問

出生直後の新生児。在胎38週3日で常位胎盤早期剝離と診断され,緊急帝王切開で出生した。Apgarスコアは0点(1分)であり,直ちに蘇生を開始した。  Apgarスコアの項目で最初に1点以上になるのはどれか。

  1. a.呼吸
  2. b.心拍
  3. c.皮膚色
  4. d.筋緊張
  5. e.刺激に対する反応

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、常位胎盤早期剝離で生まれた最重症の新生児仮死を題材に、蘇生の過程でApgarスコアのどの項目が最初に点数を取り戻すかを考える問題だ。カギは「新生児の心停止はなぜ起こるのか」という病態の理解にある。まず、Apgarスコア0点とはどんな状態かな。
医学生医学生
5項目すべてが0点なので、心拍もなく、自発呼吸もない……つまり心肺停止ですね。
ドクタードクター
その通り。常位胎盤早期剝離では胎盤が子宮壁から剝がれて、胎児への酸素供給が急に途絶える。だから胎児は高度の低酸素とアシドーシスに陥り、最終的に心停止に至ったと考えられる。では、蘇生を始めたら何が最初に戻ってくると思う?
医学生医学生
蘇生ではまず人工呼吸をするので、呼吸が最初に戻るのかなと思いました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、そこが落とし穴だ。人工呼吸で換気しているのはこちらであって、赤ちゃん自身の自発呼吸ではない。自発呼吸は延髄の呼吸中枢が働いてはじめて出てくるから、脳への血流と酸素が十分に回復するまで現れないんだ。重症仮死では心拍が戻ってもしばらく無呼吸が続くことが多い。
医学生医学生
なるほど。では、新生児の心停止は心臓そのものが悪いわけではないんですか。
ドクタードクター
そこが一番大事なポイント。新生児の心停止や徐脈の大部分は、心臓の病気ではなく低酸素によって二次的に起こる。だから有効な人工呼吸で肺に酸素が届き、冠動脈を通って心筋に酸素化された血液が流れれば、まず心拍が再開する。必要に応じて胸骨圧迫やアドレナリンも使うけれど、出発点はあくまで換気だ。
医学生医学生
だから最初に1点以上になるのは心拍なんですね。心拍は100/分未満でも出ていれば1点でしたっけ。
ドクタードクター
正解。心拍はなしで0点、100/分未満で1点、100/分以上で2点だ。たとえゆっくりでも心拍が出現した時点で1点がつく。ほかの項目も確認しておこう。皮膚色はどうかな。
医学生医学生
皮膚色は末梢の血流と酸素化を反映するので、心臓が動いて血液が全身に回ってからでないと良くならない、ということでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。心拍がない間は全身蒼白やチアノーゼのままだ。心拍再開後には比較的早く改善してくる項目ではあるけれど、心拍より先にはならない。筋緊張と刺激に対する反応はどうだろう。
医学生医学生
どちらも中枢神経が回復しないと出てこない項目ですよね。神経解剖の講義で反射弓を習いましたが、脳の酸素化が戻るまでは反応できなさそうです。
ドクタードクター
そうだね。重症仮死では低酸素性虚血による脳障害のため、心拍が戻ってもぐったりした状態が長く続くことが多い。しかめ面や啼泣、逃避といった反応も、中枢神経の機能回復が必要だ。要するに、心拍以外の4項目はすべて「心拍が戻って全身循環が回復すること」を前提にしている。だから心拍より先に改善することはないんだ。
医学生医学生
4項目がどの順で戻るかは決まっているんですか。
ドクタードクター
それは文献によって記載が一定しないから、細かい順番を暗記する必要はない。大切なのは「まず心拍、ほかはそのあと」という原則だ。ここで評価の時期も整理しておこう。Apgarスコアは生後1分と5分に評価し、5分値が7点未満なら、7点以上になるまで一般に20分まで5分ごとに評価を続ける。0〜3点が重症仮死、4〜7点が軽症仮死だ。
医学生医学生
1分値を待ってから蘇生を始めるわけではないんですよね。産婦人科の実習で、生まれてすぐ新生児科の先生が処置を始めていました。
ドクタードクター
いいところを見ているね。Apgarスコアは蘇生開始の判断基準ではなく、出生時の状態と蘇生への反応を記録する指標なんだ。新生児蘇生法では、出生直後に早産児か、呼吸や啼泣が弱くないか、筋緊張が低下していないかを確認し、問題があれば保温、体位保持、気道開通、皮膚の乾燥と刺激といった初期処置を行う。それでも無呼吸や心拍100/分未満なら、出生後60秒以内を目標にバッグ・マスク換気を始める。
医学生医学生
胸骨圧迫はどのタイミングで始めるんですか。
ドクタードクター
有効な人工呼吸を30秒行っても心拍が60/分未満なら、胸骨圧迫と人工呼吸を3:1で行い、酸素濃度を上げる。それでも60/分未満ならアドレナリンを投与する。成人の心肺蘇生とは違って、新生児では「とにかく有効な換気」が最優先だということを覚えておこう。
医学生医学生
心停止の原因が低酸素だから、換気を整えれば心拍が戻り、心拍が戻ればほかの項目もついてくる。一本の筋で理解できました。

まとめ

Apgarスコア0点は心拍も自発呼吸もない心肺停止状態で、常位胎盤早期剝離のように胎児への酸素供給が急に途絶えると起こりうる最重症の新生児仮死です。新生児の心停止の多くは心臓自体の異常ではなく低酸素による二次的なものなので、有効な人工呼吸で心筋に酸素が届くとまず心拍が再開し、100/分未満でも出現すれば心拍の項目は1点となります。皮膚色・筋緊張・刺激に対する反応・自発呼吸は、いずれも心拍再開後に全身や脳の循環と酸素化が回復してから改善するため、心拍より先に点数がつくことはありません。Apgarスコアは1分・5分で評価する記録の指標で、蘇生の開始は待たずに判断し、新生児蘇生法では換気の確立が最優先、有効換気30秒後も心拍60/分未満なら胸骨圧迫(3:1)へ進みます。「低酸素が原因だから換気が最優先で、まず心拍が応える」という病態の筋道を理解しておくことは、分娩室での新生児蘇生の判断に直結します。

解答・解説

正解はbです

状況の整理

在胎38週3日の正期産児で、常位胎盤早期剝離のため緊急帝王切開で出生した。常位胎盤早期剝離では胎盤が子宮壁から剝がれて胎児への酸素供給が急激に途絶えるため、胎児は高度の低酸素・アシドーシスに陥りやすい。出生1分後のApgarスコアが0点ということは、心拍・呼吸・筋緊張・反射・皮膚色のすべてが最低評価、すなわち心拍がなく自発呼吸もない心肺停止状態であり、最重症の新生児仮死である。

設問の考え方

Apgarスコアの5項目のうち、蘇生によって最初に点数がつくものを問う問題である。新生児の心停止・徐脈の大部分は、心臓自体の異常ではなく低酸素によって二次的に生じたものである。したがって、人工呼吸(必要に応じて胸骨圧迫・アドレナリン)によって肺に酸素が届き、冠動脈から心筋へ酸素化された血液が流れると、まず心拍が再開する。心拍が出現した時点で(100/分未満でも)心拍の項目は1点となる。 一方、皮膚色・筋緊張・刺激に対する反応・自発呼吸は、心拍が戻って全身、特に脳や筋肉への循環と酸素化が回復してはじめて改善しうる。言い換えれば、ほかの4項目はすべて心拍再開を前提としており、心拍より先に改善することはない。よって、最初に1点以上になるのは心拍である。

選択肢考察

  1. ×a.  呼吸

    誤り。自発呼吸は延髄の呼吸中枢が機能してはじめて出現するため、脳への血流と酸素供給が十分に回復するまで現れない。重症仮死では心拍が戻ってもしばらく無呼吸が続くことが多く、自発呼吸の出現は回復過程の中でも遅い。また蘇生中は人工呼吸や気管挿管で換気を補助しているため、自発呼吸の評価そのものが難しい。心拍より先に改善することはない。

  2. ○b.  心拍

    正しい。新生児の心停止は主に低酸素による二次的なものであり、有効な人工呼吸(必要に応じて胸骨圧迫やアドレナリン投与)で心筋に酸素が届くと、まず心拍が再開する。Apgarスコアの心拍の項目は、なし=0点、100/分未満=1点、100/分以上=2点であり、心拍が出現すれば100/分未満でも1点となる。ほかの4項目は心拍再開後に全身循環が回復してから改善するため、最初に点数がつくのは心拍である。

  3. ×c.  皮膚色

    誤り。皮膚色は末梢の血流と血液の酸素化を反映する項目であり、心拍が再開して全身に酸素化された血液が送られるようになってから改善する。心拍のない状態では全身が蒼白またはチアノーゼのままで、心拍より先に改善することはない。心拍再開後、循環の回復とともに比較的早く改善してくる項目ではあるが、最初ではない。

  4. ×d.  筋緊張

    誤り。筋緊張は中枢神経系と筋への循環・酸素化が回復してはじめて現れる。重症仮死では低酸素性虚血による脳障害のため、心拍が戻っても筋緊張低下(ぐったりした状態)が長く続くことが多い。心拍再開を前提とする項目であり、最初に改善することはない。

  5. ×e.  刺激に対する反応

    誤り。足底刺激や鼻腔カテーテル挿入などに対する反応(しかめ面、啼泣、逃避)は、反射経路と中枢神経系の機能回復を必要とする。脳の循環・酸素化が改善するまで出現しないため、心拍より先に1点以上になることはない。

Apgarスコア

出生直後の新生児の状態を評価する指標で、1952年に米国の麻酔科医Virginia Apgarが考案した。5項目をそれぞれ0〜2点で評価し、合計0〜10点とする。 ・心拍数:なし=0点/100/分未満=1点/100/分以上=2点 ・呼吸:なし=0点/弱い泣き声・不規則な浅い呼吸=1点/強く泣く=2点 ・筋緊張:だらんとしている=0点/四肢をいくらか屈曲=1点/四肢を活発に動かす=2点 ・刺激に対する反応(反射興奮性):反応なし=0点/顔をしかめる=1点/泣く・逃避する=2点 ・皮膚色:全身蒼白またはチアノーゼ=0点/体幹はピンクで四肢にチアノーゼ=1点/全身ピンク=2点 各項目の英語の頭文字はAPGAR(Appearance:皮膚色、Pulse:心拍、Grimace:反射、Activity:筋緊張、Respiration:呼吸)になぞらえて覚えられる。

評価時期と判定

・生後1分と5分に評価する。5分値が7点未満の場合は、7点以上になるまで(一般に20分まで)5分ごとに評価を続ける。 ・わが国では一般に0〜3点を重症仮死(第2度仮死)、4〜7点を軽症仮死(第1度仮死)、8〜10点を正常とする。 ・1分値は出生時の状態、5分値は蘇生への反応や神経学的予後とより関連するとされる。 ・蘇生を始めるかどうかは1分値を待たずに判断する。Apgarスコアは蘇生開始の判断基準ではなく、出生時の状態と蘇生効果を記録する指標である。

新生児蘇生法(NCPR)の流れ

1. 出生直後に、早産児か、弱い呼吸・啼泣か、筋緊張低下か、を評価する。いずれかがあれば初期処置(保温、体位保持、必要に応じた気道開通、皮膚乾燥と刺激)を行う。 2. 初期処置後も無呼吸・あえぎ呼吸、または心拍100/分未満であれば、出生後60秒以内を目標に人工呼吸(バッグ・マスク換気)を開始し、心電図モニタとパルスオキシメータを装着する。 3. 有効な人工呼吸を30秒行っても心拍60/分未満なら、胸骨圧迫と人工呼吸を3:1の比率で行う(酸素濃度を上げる)。 4. それでも心拍60/分未満が続けばアドレナリン(10倍希釈)を投与する。 新生児の心停止の多くは呼吸不全による低酸素が原因であるため、蘇生の最重要点は有効な換気の確立である。

常位胎盤早期剝離

妊娠20週以降、胎児娩出前に正常位置の胎盤が子宮壁から剝離するもの。妊娠高血圧症候群、外傷、喫煙などがリスク因子である。持続する腹痛、板状硬の子宮、胎児機能不全、播種性血管内凝固(DIC)をきたし、母児ともに生命に関わるため、急速遂娩(多くは帝王切開)が必要となる。

POINT

・Apgarスコア0点=心拍も呼吸もない心肺停止状態(重症仮死) ・新生児の心停止は主に低酸素による二次性 → 有効な換気で、まず心拍が再開する ・心拍は出現すれば100/分未満でも1点(100/分以上で2点) ・皮膚色・筋緊張・反射・呼吸は心拍再開後の循環回復を待って改善するため、心拍より先に改善しない ・Apgarスコアは1分・5分で評価し、0〜3点が重症仮死、4〜7点が軽症仮死 ・新生児蘇生は換気が最優先。有効換気30秒後も心拍60/分未満なら胸骨圧迫(3:1)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。