守る初乳、育てる成乳―母乳の組成が日ごとに変わる理由
第112回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
初乳と比較して成乳に多く含まれるのはどれか。
- a.IgA
- b.補体
- c.脂肪
- d.リゾチーム
- e.ラクトフェリン
対話形式の解説
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医学生まとめ
母乳は分娩後の時期により初乳・移行乳・成乳に分かれ、それぞれの役割に応じて組成が変化します。初乳は免疫が未熟な新生児を守るため、分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、補体、白血球などの感染防御因子と蛋白質・ミネラルに富み、成乳は成長を支えるために脂肪と乳糖が増えてエネルギーが高くなります。脂肪は1回の授乳でも前乳より後乳に多く、また母乳ではビタミンK・ビタミンD・鉄が不足しやすい点も重要です。胎盤を通過する抗体はIgGで、IgAは母乳を介して腸管局所で働くという区別もあわせて押さえましょう。「初乳は守る、成乳は育てる」という役割から考えることで、母乳栄養の指導や新生児管理の理解につながります。
解答・解説
正解はcです
母乳の組成が分娩後の時期によってどう変わるかを問う問題である。
母乳の時期による区分
・初乳: 分娩後およそ3〜5日ごろまでに分泌される乳である。量は少なく、粘り気があり、黄色みが強い(β-カロテンを多く含むため)。 ・移行乳: 初乳から成乳へ組成が移り変わる時期(産後およそ1〜2週ごろまで)の乳である。 ・成乳: 移行乳の時期を過ぎて組成がほぼ安定した乳である。量が多く、白色である。
組成の違いの考え方
初乳の役割は、生まれたばかりで感染防御能が未熟な新生児を守ることにある。そのため、蛋白質(とくに免疫に関わる蛋白)、ミネラル、脂溶性ビタミンが多く、分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、補体、白血球(マクロファージ・リンパ球など)といった感染防御因子に富む。一方、脂肪と乳糖は少なく、エネルギーは比較的低い。 成乳の役割は、急速に成長する乳児に十分なエネルギーと栄養を与えることにある。そのため、脂肪と乳糖が増え、エネルギーが高くなる。反対に蛋白質・ミネラルの濃度と免疫物質の濃度は下がる。 つまり「初乳=防御因子・蛋白・ミネラルが多い」「成乳=脂肪・乳糖(エネルギー)が多い」と整理すれば、成乳に多いものとして脂肪を選べる。
選択肢考察
- ×a. IgA
誤り。分泌型IgAは初乳に最も高い濃度で含まれる。新生児は自分で分泌型IgAを十分に作れないため、乳汁中のIgAが腸管粘膜の表面で病原体や抗原の付着・侵入を防ぎ、局所の感染防御を担う。分泌型IgAは蛋白分解酵素で分解されにくく、消化管内で働き続けることができる。なお、胎盤を通過して児の血中に移行する母体抗体はIgGであり、IgAではない。
- ×b. 補体
誤り。補体(C3、C4など)は初乳に多い。新生児、とくに早産児は血中の補体濃度が低く、補体による細菌のオプソニン化(貪食されやすくする働き)が弱い。初乳中の補体は、こうした未熟な自然免疫を補うと考えられている。
- ○c. 脂肪
正しい。脂肪は初乳では少なく、移行乳を経て成乳になると増え、母乳のエネルギーの約半分をまかなう主なエネルギー源となる。乳糖も成乳で増えるため、成乳は初乳よりエネルギーが高い(成乳は約65〜70kcal/dL)。また、1回の授乳の中でも、飲み始めの乳(前乳)より飲み終わりの乳(後乳)のほうが脂肪濃度が高い。
- ×d. リゾチーム
誤り。リゾチームは、細菌の細胞壁を構成するペプチドグリカンを加水分解して溶菌させる酵素で、とくにグラム陽性菌に強く作用する。母乳中の非特異的な感染防御因子の一つであり、ほかの防御因子とともに初乳に多く含まれるものとして扱われる。
- ×e. ラクトフェリン
誤り。ラクトフェリンは鉄と結合する糖蛋白質で、初乳に特に多い。鉄を奪って細菌が増殖に使えないようにする静菌作用のほか、細菌の膜を傷つける抗菌作用、抗ウイルス作用、免疫調節作用をもつ。ビフィズス菌が優位な腸内細菌叢をつくるのにも関わるとされる。
初乳と成乳の比較
・初乳に多い: 蛋白質(免疫グロブリンなど防御蛋白の割合が高い)、分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、補体、白血球、ミネラル(ナトリウムなど)、脂溶性ビタミン(ビタミンA・E、β-カロテン)。 ・成乳に多い: 脂肪、乳糖、エネルギー、分泌量。
母乳と人工乳(育児用ミルク)・牛乳の比較
・母乳は牛乳に比べて蛋白質とミネラルが少なく、腎臓への溶質負荷が小さい。乳糖は多い。 ・母乳の蛋白は乳清蛋白(ラクトアルブミン、ラクトフェリンなど)の割合が高く、消化しやすい。 ・母乳に不足しやすい栄養素: ビタミンK(新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防のため、ビタミンK2シロップを投与する)、ビタミンD、鉄(長期の母乳栄養で不足しやすい)。
母乳栄養の利点
・感染防御因子が豊富で、消化管感染症・中耳炎・呼吸器感染症などのリスクが低くなる。 ・アレルギーを起こしにくく、消化・吸収がよい。 ・母子の愛着形成を促す。授乳による吸啜刺激がオキシトシンの分泌を促し、子宮復古を助ける。
母乳の分泌に関わるホルモン
・プロラクチン(下垂体前葉): 乳汁の産生を促す。 ・オキシトシン(下垂体後葉): 乳汁を押し出す射乳反射を起こす。 分娩後に胎盤が娩出されると、エストロゲンとプロゲステロンが急に低下し、プロラクチンによる乳汁の産生が本格的に始まる。
POINT
・初乳は免疫物質(分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、補体、白血球)、蛋白質、ミネラルが多い。 ・成乳は脂肪と乳糖が多く、エネルギーが高い。 ・脂肪は1回の授乳でも前乳より後乳に多い。 ・母乳で不足しやすいビタミンK、ビタミンD、鉄も一緒に押さえておく。
