StudyMed医師国家試験

ペンライトの光はどこまで届く?―口腔診察で「見える」構造と「見えない」構造

第112回医師国家試験 E問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第26問

成人の口腔内を舌圧子とペンライトとを用いて診察する際,視認できるのはどれか。

  1. a.顎下腺
  2. b.舌小帯
  3. c.甲状腺
  4. d.咽頭扁桃
  5. e.下咽頭梨状陥凹

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、舌圧子とペンライトだけで口の中を診察したとき、どこまでの構造が直接見えるかを問う問題だ。ポイントは、口腔と咽頭を上・中・下に分けて、それぞれ何の器具で観察するかを整理することだよ。
医学生医学生
OSCEの頭頸部診察で、舌圧子で舌を押さえて「アー」と言ってもらう手技を練習しました。
ドクタードクター
いいね。その診察で見えるのは、口唇や歯、歯肉、頬粘膜、硬口蓋・軟口蓋、口蓋垂、舌、口腔底、そしてその奥の中咽頭、つまり口蓋扁桃や口蓋弓、咽頭後壁までだ。「アー」と発声してもらうと軟口蓋が持ち上がって、咽頭後壁が見やすくなる。
医学生医学生
扁桃も見えるなら、咽頭扁桃も見えそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。口から見える扁桃は、中咽頭の側壁にある口蓋扁桃だ。咽頭扁桃、いわゆるアデノイドは上咽頭の後上壁にあって、軟口蓋の裏側・上方に隠れているから、口からは見えない。観察には後鼻鏡や鼻からの内視鏡が必要なんだ。
医学生医学生
そういえば咽頭扁桃は子どもで大きくて、大人では退縮するんでしたね。
ドクタードクター
その通り。幼児期に最大で、思春期以降は目立たなくなる。では正解はどれだと思う?
医学生医学生
舌の裏側にある舌小帯なら、舌を持ち上げてもらえば見えるので、これが正解でしょうか。
ドクタードクター
正解。舌小帯は舌下面の正中から口腔底へ伸びるひだ状の粘膜で、舌先を上の前歯の裏につけてもらうか、舌圧子で舌を持ち上げれば簡単に見える。両脇には顎下腺管の開口部である舌下小丘があり、その外側には舌下腺による舌下ひだが見えるよ。
医学生医学生
顎下腺の開口部が見えるなら、顎下腺自体も見えるのでは、と一瞬迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。顎下腺の腺体は下顎骨体の内側、顎下三角にあって、口腔粘膜の外側に位置する。口から見えるのは導管であるワルトン管の開口部までだ。腺体の評価は頸部からの触診や、口腔内と頸部の両側から挟む双手診、超音波検査で行う。
医学生医学生
甲状腺は前頸部にあるので、口からは当然見えないですね。
ドクタードクター
そう。甲状腺は甲状軟骨の下方で気管の前面から側面に位置する臓器で、診察は視診・触診で嚥下に伴って上下に動くかを確認し、必要に応じて超音波を使う。発生の過程で舌根部にとどまる異所性甲状腺という例外的な病態はあるけれど、正常な甲状腺が口から見えることはない。
医学生医学生
梨状陥凹は耳鼻科の実習でファイバーを見学したときに教わりました。舌根より下にあるんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。梨状陥凹は喉頭の両外側にある下咽頭のくぼみで、舌根よりさらに奥・下方にあるから、ペンライトの光も視線も届かない。間接喉頭鏡や喉頭内視鏡が必要だ。
医学生医学生
上咽頭は後鼻鏡か内視鏡、下咽頭と喉頭は間接喉頭鏡か内視鏡、口腔と中咽頭は舌圧子とペンライト、という区分ですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。臨床的な発展も押さえておこう。梨状陥凹は下咽頭癌の好発部位で、魚の骨が刺さりやすい場所でもある。「魚骨が刺さった」と来院した患者で口から見えないときは、内視鏡で下咽頭まで確認する必要があるんだ。
医学生医学生
口から見える範囲でも、見落としやすい場所はありますか。
ドクタードクター
舌の下面から口腔底は口腔癌の好発部位の一つなのに、舌を持ち上げてもらわないと見逃しやすい。それから唾液腺の開口部も大事だ。耳下腺のステノン管は上顎第二大臼歯に対向する頬粘膜に開き、顎下腺のワルトン管は舌下小丘に開く。開口部から膿や唾液の出方を見ると、唾石症や唾液腺炎の診断の手がかりになる。
医学生医学生
腺体は見えなくても、開口部の観察で情報が得られるということですね。
ドクタードクター
その通り。見える範囲を正確に知っていれば、見えない部位をどの器具で補えばよいかも自然と判断できるようになるよ。

まとめ

舌圧子とペンライトによる口腔内診察で直接観察できるのは、口唇・歯肉・頬粘膜・口蓋・舌・口腔底と、その奥の中咽頭(口蓋垂、口蓋扁桃、咽頭後壁)までであり、舌を挙上すれば舌下面正中の舌小帯とその両脇の舌下小丘(顎下腺管の開口部)が見えます。上咽頭にある咽頭扁桃は後鼻鏡や内視鏡、下咽頭の梨状陥凹は間接喉頭鏡や喉頭内視鏡が必要で、顎下腺や甲状腺の腺体は口腔外の頸部臓器のため触診や超音波で評価します。梨状陥凹は下咽頭癌や魚骨異物の好発部位、舌下面・口腔底は口腔癌の好発部位として臨床的にも重要です。口腔・咽頭を上・中・下に区分し、部位ごとに適切な観察器具を対応づけて理解しておくことが、見落としのない頭頸部診察の基本となります。

解答・解説

正解はbです

舌圧子とペンライトだけを用いた口腔内診察で、どこまでの構造が直接見えるかを問う問題である。

観察できる範囲の考え方

口を大きく開けてもらい、ペンライトで光を入れ、舌圧子で舌を押し下げたり持ち上げたり、頬粘膜を外側へ引いたりして観察する。このとき直接見えるのは、口唇・歯・歯肉・頬粘膜・硬口蓋・軟口蓋・口蓋垂・舌(舌背・舌縁・舌下面)・口腔底と、その奥の中咽頭(口蓋扁桃、前・後口蓋弓、咽頭後壁)までである。舌圧子で舌の中央部を軽く押し下げ「アー」と発声してもらうと、軟口蓋が挙上して咽頭後壁や口蓋扁桃が見やすくなる。

見えないもの

・軟口蓋より上方の上咽頭(咽頭扁桃など):後鼻鏡や内視鏡が必要。 ・舌根より下方の下咽頭・喉頭(梨状陥凹、声帯など):間接喉頭鏡や喉頭内視鏡が必要。 ・頸部の深部にある臓器(唾液腺の腺体、甲状腺など):触診や超音波検査で評価する。 したがって、選択肢の中で口腔内から直接見えるのは、舌下面の正中にある舌小帯である。

選択肢考察

  1. ×a.  顎下腺

    視認できない。顎下腺は下顎骨体の内側、顎下三角(下顎骨下縁と顎二腹筋の前腹・後腹に囲まれた領域)に位置する唾液腺で、腺体そのものは口腔粘膜の外にある。診察は頸部からの触診、あるいは口腔内と頸部の両側から挟む双手診で行い、画像評価には超音波検査などを用いる。口腔内から見えるのは、顎下腺の導管(ワルトン管)の開口部である舌下小丘(舌小帯の根元の両脇の小さな隆起)までであり、ここを観察したり、唾液の流出を確認したりすることはできる。

  2. ○b.  舌小帯

    視認できる。舌小帯は舌下面の正中から口腔底へ伸びるひだ状の粘膜である。患者に舌先を上の前歯の裏や硬口蓋に付けるように持ち上げてもらう、あるいは舌圧子で舌を持ち上げると、口腔底とともに容易に観察できる。舌小帯の両脇には顎下腺管の開口部である舌下小丘があり、その外側には舌下腺による舌下ひだがみえる。舌下面から口腔底は口腔癌の好発部位の一つでもあり、診察時に見落とさないようにしたい部位である。舌小帯が短い場合は舌小帯短縮症(舌の運動制限)が問題となることがある。

  3. ×c.  甲状腺

    視認できない。甲状腺は前頸部で、甲状軟骨の下方、気管の前面から両側面にかけて位置する内分泌臓器であり(峡部はおおむね輪状軟骨の下方、第2〜4気管軟骨の高さ)、口腔内には存在しない。診察は前頸部の視診・触診(嚥下させて上下に動くことを確認する)や超音波検査で行う。なお、発生過程で甲状腺が舌根部(舌盲孔付近)にとどまる異所性甲状腺(舌甲状腺)は例外的な病態であり、正常な甲状腺が口腔から見えることはない。

  4. ×d.  咽頭扁桃

    視認できない。咽頭扁桃(いわゆるアデノイド)は上咽頭の後上壁にある扁桃組織で、口腔から見ると軟口蓋と口蓋垂の裏側・上方に隠れている。観察には後鼻鏡、または鼻からの内視鏡(鼻咽腔ファイバースコープ)を用いる。また咽頭扁桃は幼児期に最も大きく、思春期以降は退縮して成人ではほとんど目立たなくなる。口腔内から見える扁桃は、中咽頭の側壁にある口蓋扁桃(前・後口蓋弓の間)である。

  5. ×e.  下咽頭梨状陥凹

    視認できない。梨状陥凹は喉頭の両外側にある下咽頭のくぼみで、舌根よりさらに下方・奥に位置するため、舌圧子とペンライトだけでは光も視線も届かない。観察には間接喉頭鏡や喉頭内視鏡(喉頭ファイバースコープ)が必要である。梨状陥凹は下咽頭癌の好発部位であり、魚骨などの異物が引っかかりやすい部位でもある。

口腔・咽頭の区分と観察法

・口腔:口唇、歯・歯肉、頬粘膜、硬口蓋、舌(前2/3)、口腔底 → 視診(舌圧子・ペンライト) ・中咽頭:軟口蓋・口蓋垂、口蓋扁桃・口蓋弓、咽頭後壁、舌根(舌の後ろ1/3)、喉頭蓋谷 → 口蓋扁桃や咽頭後壁は口腔から視診可能。舌根部や喉頭蓋谷は直接見えにくく、間接喉頭鏡や内視鏡が必要 ・上咽頭(鼻咽腔):咽頭扁桃、耳管咽頭口、ローゼンミュラー窩 → 後鼻鏡、内視鏡 ・下咽頭:梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁(下部) → 間接喉頭鏡、内視鏡 ・喉頭:喉頭蓋、声帯など → 間接喉頭鏡、内視鏡

唾液腺と導管開口部

・耳下腺:導管(ステノン管)は上顎第二大臼歯に対向する頬粘膜に開口する(耳下腺乳頭)。 ・顎下腺:導管(ワルトン管)は舌小帯の両脇の舌下小丘に開口する。唾石症は顎下腺に多い。 ・舌下腺:舌下ひだに多数の小導管で開口し、一部は舌下小丘に開く。 腺体そのものは口腔内から見えないが、開口部は視診で確認でき、圧迫による唾液や膿の流出の観察が診断に役立つ。

ワルダイエル咽頭輪

咽頭を取り囲むリンパ組織の輪で、咽頭扁桃(上咽頭)、耳管扁桃、口蓋扁桃(中咽頭側壁)、舌扁桃(舌根)からなる。このうち口腔内からの視診で通常よく見えるのは口蓋扁桃である。

POINT

・舌圧子+ペンライトで見えるのは口腔と中咽頭(口蓋扁桃・口蓋垂・咽頭後壁など)まで。 ・舌小帯は舌を挙上させると舌下面正中に見え、両脇に顎下腺管の開口部(舌下小丘)がある。 ・咽頭扁桃(上咽頭)は後鼻鏡・内視鏡、梨状陥凹(下咽頭)は間接喉頭鏡・内視鏡で観察する。 ・顎下腺・甲状腺は口腔外の頸部臓器であり、触診や超音波で評価する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。