尿が「作れない」のか「流れない」のか―後腹膜線維症で学ぶ腎後性無尿
第112回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
腎後性無尿の原因になるのはどれか。
- a.熱傷
- b.ショック
- c.後腹膜線維症
- d.急性尿細管壊死
- e.ネフローゼ症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
無尿・乏尿の原因は、腎血流が低下する腎前性、腎実質が障害される腎性、尿路が閉塞する腎後性の3つに分けて考えます。腎臓は左右にあるため、腎後性で無尿となるのは両側尿管の閉塞、単腎での尿管閉塞、膀胱以下の下部尿路の閉塞(尿閉)に限られ、後腹膜線維症は大動脈周囲の線維化が両側尿管を巻き込むことで腎後性無尿をきたす代表疾患です。熱傷やショックは腎前性、急性尿細管壊死は腎性の代表で、ネフローゼ症候群も尿路を塞ぐことはありません。腎後性は閉塞を解除すれば腎機能が回復しうるため、急性腎障害ではまず超音波で水腎症や膀胱内の尿貯留を確認し、そのうえでFENaなどで腎前性と腎性を見分けます。この3分類の枠組みは、急性腎障害の初期評価と治療方針を決める土台になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
無尿・乏尿(および急性腎障害)の原因を、障害部位によって腎前性・腎性・腎後性の3つに分ける考え方を問う問題である。
尿量の異常の定義
・無尿:1日尿量100mL以下 ・乏尿:1日尿量400mL以下 ・多尿:1日尿量2,500mL以上(3,000mL以上とする定義もある)
3つの分類
・腎前性:腎臓そのものは正常だが、腎臓へ届く血流が減るために糸球体濾過量(GFR)が低下する。循環血漿量の減少(脱水、出血、熱傷)、心拍出量の低下(心不全)、血圧低下(ショック)などが原因となる。早期に血流を回復させれば腎機能も戻るが、虚血が続くと腎性(急性尿細管壊死)に移行する。 ・腎性:腎実質(糸球体・尿細管・間質・腎血管)自体が障害される。急性尿細管壊死、急速進行性糸球体腎炎、急性間質性腎炎などが代表である。 ・腎後性:腎臓で作られた尿の通り道(腎盂・尿管・膀胱・尿道)が閉塞し、尿が流れ出なくなる。
腎後性無尿が成立する条件
腎臓は2つあるため、片側の尿管が閉塞しても、もう一方の腎臓から尿が出て無尿にはならない。腎後性に無尿となるのは、(1)両側の尿管が閉塞した場合、(2)機能している腎臓が片側しかない人(単腎)でその尿管が閉塞した場合、(3)膀胱頸部や尿道など両側の尿の合流点より下流が閉塞した場合である。(3)は厳密には膀胱に尿がたまる尿閉であり、カテーテルで導尿すれば尿が得られる点で、膀胱に尿が届かない真の無尿とは区別される。 選択肢のうち尿路の物理的な閉塞を起こすのは後腹膜線維症だけであり、これは両側の尿管を巻き込んで閉塞させやすい。
選択肢考察
- ×a. 熱傷
広範囲の熱傷では、毛細血管の透過性が高まって血漿成分が血管外へ漏れ出し、創面からも大量の体液が失われるため、循環血漿量が減少する(熱傷ショック)。腎血流が低下して起こる乏尿・無尿は腎前性である。さらに虚血が続いたり、筋肉の損傷で生じたミオグロビンによる尿細管障害が加わったりすると腎性に進むこともあるが、尿路を閉塞させることはなく、腎後性の原因にはならない。
- ×b. ショック
ショックは、循環血液量減少性、心原性、血液分布異常性(敗血症性・アナフィラキシーなど)、閉塞性のいずれであっても、血圧低下によって腎灌流圧が下がり、腎前性の乏尿・無尿をきたす。虚血が長引くと急性尿細管壊死に移行し腎性となる。急性腎障害の原因として非常に重要であるが、尿路の閉塞とは関係しないので腎後性ではない。
- ○c. 後腹膜線維症
後腹膜線維症は、腹部大動脈周囲を中心とした後腹膜に慢性炎症と線維組織の増生が起こる疾患である。線維化した組織が後腹膜を走る尿管を取り囲んで圧迫・狭窄させるため、水腎症を生じる。病変は大動脈を中心に左右へ広がるため両側の尿管が巻き込まれやすく、両側が閉塞すれば尿が膀胱へ流れなくなり腎後性無尿となる。原因不明の特発性が多いが、IgG4関連疾患、薬剤(麦角アルカロイド系薬など)、悪性腫瘍、放射線照射なども原因となる。
- ×d. 急性尿細管壊死
急性尿細管壊死(ATN)は尿細管上皮細胞が壊死・脱落する病態で、腎性急性腎障害の最も代表的な原因である。原因は遷延するショックなどによる腎虚血と、アミノグリコシド系抗菌薬・ヨード造影剤・シスプラチンなどの腎毒性物質が多い。脱落した細胞による尿細管の閉塞や、尿細管から間質への原尿の逆流などで尿量が減るが、障害の場は腎実質内であり、腎後性ではない。
- ×e. ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群は、高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と低アルブミン血症(血清アルブミン3.0g/dL以下)を必須条件とする症候群である。低アルブミン血症で血管内の膠質浸透圧が下がり、浮腫とともに有効循環血漿量が減ると、腎前性の乏尿をきたすことがある。また原疾患や合併症によって腎性の障害を生じることもあるが、尿路を閉塞させることはないため、腎後性無尿の原因にはならない。
腎後性急性腎障害の主な原因
・両側尿管の閉塞:後腹膜線維症、両側尿管結石、骨盤内悪性腫瘍(子宮頸癌、直腸癌、前立腺癌など)の浸潤やリンパ節転移、手術時の尿管損傷・結紮 ・膀胱・尿道の閉塞:前立腺肥大症、前立腺癌、神経因性膀胱、尿道狭窄、凝血塊による閉塞
腎後性の診断
超音波検査で水腎症(腎盂・腎杯の拡張)や膀胱内の尿貯留を確認するのが簡便で重要である。腎後性は閉塞を解除すれば腎機能が回復しうるため、急性腎障害をみたら必ず除外する。治療は原因部位に応じ、尿道カテーテル留置、尿管ステント留置、経皮的腎瘻造設などで尿の通り道を確保する。閉塞解除後には一過性に多尿(閉塞後利尿)となることがあり、脱水や電解質異常に注意する。
後腹膜線維症の特徴
中高年男性に多い。腰背部痛や下腹部痛、全身倦怠感などで発症する。CTでは腹部大動脈周囲を取り囲む軟部組織影がみられ、尿路造影では尿管が正中側へ偏位する所見が特徴的である。IgG4関連疾患によるものでは血清IgG4高値を示す。治療は副腎皮質ステロイドが基本で、尿路閉塞に対しては尿管ステントなどで尿路を確保する。
腎前性と腎性の鑑別に用いる指標
腎前性では尿細管機能が保たれるため、ナトリウムを再吸収して尿を濃縮する。尿中Na濃度低値(20mEq/L未満)、ナトリウム排泄分画(FENa)1%未満、尿浸透圧高値が腎前性を示唆し、急性尿細管壊死ではFENa 2%超、尿中Na高値、等張尿となる。
POINT
・無尿は1日尿量100mL以下、乏尿は400mL以下。 ・腎前性=腎血流の低下(ショック、脱水、出血、熱傷、心不全)。 ・腎性=腎実質の障害(急性尿細管壊死、糸球体腎炎、間質性腎炎)。 ・腎後性=尿路の閉塞。無尿となるのは両側尿管閉塞、単腎の尿管閉塞、下部尿路閉塞。 ・後腹膜線維症は両側尿管を閉塞して腎後性無尿をきたす代表疾患。超音波で水腎症を確認する。
