StudyMed医師国家試験

肺がしぼむと音が消える―気胸の身体所見を病態から読み解く

第112回医師国家試験 D問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第112回 D問題 第5問

気胸でみられる所見はどれか。

  1. a.胸壁動揺
  2. b.下顎呼吸
  3. c.テタニー
  4. d.呼気の延長
  5. e.患側の呼吸音減弱

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、気胸でどんな身体所見がみられるかを問う問題だ。選択肢はどれも呼吸にまつわる所見だけど、それぞれ典型的に現れる病態が違う。暗記で片づけずに、「胸膜腔に空気がたまると何が起こるか」から考えてみよう。
医学生医学生
気胸は肺に穴があいて、肺がしぼんでしまう病気ですよね。
ドクタードクター
そうだね。もう少し正確に言うと、胸膜が破れて胸膜腔に空気が入り、肺が虚脱した状態だ。正常の胸膜腔は陰圧に保たれていて、その陰圧で肺は胸壁側に引っぱられて膨らんでいる。空気が入って陰圧が失われると、肺は自分の弾性で縮んでしまうんだ。
医学生医学生
生理学の講義で、胸膜腔内圧はいつも大気圧より低いと習いました。それが崩れるわけですね。
ドクタードクター
その通り。では、肺がしぼんで、胸壁との間に空気の層ができたら、聴診ではどう聞こえるだろう。
医学生医学生
肺に空気が出入りしにくくなるので、呼吸音が小さくなりそうです。
ドクタードクター
正解。理由は2つある。1つは虚脱した肺で換気そのものが減ること。もう1つは、胸壁と肺の間にたまった空気の層が、肺から胸壁への音の伝わりを妨げることだ。だから患側の呼吸音は減弱し、程度が強ければ消失する。これが今回の正解だね。
医学生医学生
OSCEの練習で、聴診は必ず左右を比べるように言われました。気胸は片側なので、左右差で気づけるんですね。
ドクタードクター
まさにそれが大事なポイント。あわせて、打診では空気の層を叩くので鼓音、触診では声音振盪の減弱、視診では患側の胸郭の動きが小さくなる。全部「空気の層」と「換気の低下」で説明がつくよ。では、ほかの選択肢も確認しよう。胸壁動揺はどんな病態だったかな。
医学生医学生
交通外傷で気胸になることもあるので、関係ありそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
そう迷う人は多いね。胸壁動揺、いわゆるフレイルチェストは、隣り合う複数の肋骨がそれぞれ2か所以上で折れる多発肋骨骨折などで生じる。連続性を失った胸壁の一部が、吸気時にへこんで呼気時に膨らむ奇異呼吸を示すんだ。外傷性気胸を合併することはあっても、気胸そのものの所見ではない。
医学生医学生
下顎呼吸は、救急科の実習で心肺停止の患者さんに見たことがあります。
ドクタードクター
貴重な経験だね。下顎呼吸は下顎を動かしてあえぐように息をする死戦期呼吸の一型で、心停止直後や臨終が近い時期にみられる。有効な換気はほとんどないから、心停止の場面では「呼吸なし」と判断してすぐに心肺蘇生を始める。気胸に特有の所見ではないよ。
医学生医学生
テタニーは低カルシウム血症ですよね。過換気症候群でも起こると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。呼吸性アルカローシスになるとアルブミンに結合するカルシウムが増えて、イオン化カルシウムが下がる。その結果、神経・筋の興奮性が高まって手足の有痛性けいれんが起こる。助産師手位が典型だ。気胸の所見ではないね。最後に呼気の延長はどうだろう。
医学生医学生
息を吐きにくい状態なので、喘息やCOPDのような閉塞性換気障害の所見だと思います。
ドクタードクター
その通り。呼気時の喘鳴を伴うことも多い。気胸の本態は気道の狭窄ではなく肺の虚脱だから、呼気延長は出ない。ただし、COPDや喘息に気胸が続発することはあって、その場合は基礎疾患の所見として呼気延長がみられうる点は頭の片隅に置いておこう。
医学生医学生
選択肢ごとに、フレイルチェスト、死戦期、低カルシウム血症、閉塞性障害と、対応する病態をセットで覚えればいいんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、臨床で絶対に見逃したくないのが緊張性気胸だ。破れた部位が一方向弁のように働くと、吸気のたびに空気が胸膜腔へ入り込んで出られなくなる。胸腔内圧が上がって縦隔が健側へ押され、静脈還流が障害されてショックに陥るんだ。
医学生医学生
気管が健側に偏位して、頸静脈が怒張するんでしたよね。
ドクタードクター
そう。患側の呼吸音消失も加わる。緊張性気胸は画像を待たずに、身体所見から判断して直ちに胸腔穿刺で脱気する緊急病態だ。だからこそ、聴診で左右差を拾う力が命を救うことになる。ちなみに原発性自然気胸はやせ型で高身長の若い男性に多く、肺尖部のブラやブレブの破裂が原因。高齢者では COPD などに続発する気胸が多く、肺機能が低いぶん重症化しやすいことも覚えておこう。
医学生医学生
突然の胸痛と呼吸困難で来た若い男性なら、まず左右の呼吸音を比べてみます。
ドクタードクター
いい心構えだね。軽度なら安静・経過観察、中等度以上なら胸腔ドレナージ、再発例では胸腔鏡下手術も検討する。身体所見から病態を推測し、治療につなげる流れを意識しておこう。

まとめ

気胸は胸膜の破綻により胸膜腔に空気がたまり、陰圧が失われて肺が虚脱する病態です。患側では換気の低下と空気の層による音の伝導障害のため呼吸音が減弱~消失し、打診で鼓音、声音振盪の減弱、胸郭運動の低下を伴います。胸壁動揺は多発肋骨骨折によるフレイルチェスト、下顎呼吸は死戦期呼吸、テタニーは低カルシウム血症や過換気症候群、呼気延長は喘息やCOPDなどの閉塞性換気障害の所見であり、気胸そのものの所見ではありません。気管の健側偏位、頸静脈怒張、ショックを伴う緊張性気胸は、画像を待たずに直ちに脱気が必要な緊急病態です。所見を病態から理解し、聴診で左右差を確かめる習慣は、救急の現場で迅速な判断を下すための基本となります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

気胸とは、胸膜(肺の表面を覆う臓側胸膜、または胸壁の内側を覆う壁側胸膜)が破れて胸膜腔に空気がたまり、肺が虚脱(しぼむこと)した状態である。正常な胸膜腔は陰圧に保たれており、この陰圧によって肺は胸壁に引き寄せられて膨らんでいる。胸膜腔に空気が入ると陰圧が失われ、肺は自らの弾性で縮んでしまう。

身体所見の成り立ち

気胸の患側では次のような所見が生じる。 ・聴診:肺が虚脱して換気が減るうえ、胸壁と肺の間にたまった空気が音の伝わりを妨げるため、呼吸音が減弱~消失する。 ・打診:空気の層を叩くことになるため鼓音(太鼓のような響く音)を呈する。 ・触診:声音振盪(声の振動が胸壁に伝わる程度)が減弱する。 ・視診:患側の胸郭の動きが小さくなる。

正解の導き方

選択肢はいずれも呼吸に関連する所見であるが、それぞれ典型的にみられる病態が異なる。胸壁動揺は多発肋骨骨折、下顎呼吸は死戦期、テタニーは低カルシウム血症や過換気症候群、呼気延長は閉塞性換気障害に特徴的である。気胸の病態から直接導かれる所見は、患側の呼吸音減弱である。

選択肢考察

  1. ×a.  胸壁動揺

    胸壁動揺(フレイルチェスト:flail chest)は、隣接する複数の肋骨がそれぞれ2か所以上で折れる多発肋骨骨折や、胸骨骨折を伴う場合などに生じる。骨折で連続性を失った胸壁の一部が、吸気時に陥没し呼気時に膨隆するという、ほかの胸壁とは逆向きの動き(奇異呼吸)を示す。外傷性気胸を合併することはあるが、気胸そのものの所見ではない。治療は疼痛管理や陽圧換気による内固定、必要に応じて肋骨固定術を行う。

  2. ×b.  下顎呼吸

    下顎呼吸は、呼吸のたびに下顎を動かしてあえぐように空気を取り込む呼吸で、死戦期呼吸(あえぎ呼吸)の一型である。心停止の直後や臨終が近い時期など、生命の危機が切迫した状態でみられる。有効な換気はほとんど得られていないため、心停止の際に下顎呼吸を認めても「呼吸なし」と判断して直ちに心肺蘇生を開始する。気胸に特有の所見ではない。

  3. ×c.  テタニー

    テタニーは、神経・筋の興奮性が高まることで生じる、手足の筋の有痛性の強直性けいれんである。手指が伸展し母指が内転する助産師手位などが典型である。血中のイオン化カルシウムの低下で生じ、低カルシウム血症(副甲状腺機能低下症など)や、過換気症候群(呼吸性アルカローシスによりアルブミンへのカルシウム結合が増えてイオン化カルシウムが低下する)、低マグネシウム血症などでみられる。気胸の所見ではない。

  4. ×d.  呼気の延長

    呼気の延長は、気道が狭くなり息を吐き出しにくくなる閉塞性換気障害の所見であり、気管支喘息の発作時や慢性閉塞性肺疾患(COPD)で認められる。しばしば呼気時の喘鳴(wheeze)を伴う。気胸は肺の虚脱による換気量の低下が本態であり、気道閉塞による呼気延長はみられない。なお、COPDや喘息では気胸を合併することがあり(続発性気胸)、その場合は基礎疾患の所見として呼気延長を認めうるが、気胸自体の所見ではない。

  5. ○e.  患側の呼吸音減弱

    気胸の患側では肺が虚脱して換気量が低下し、さらに胸膜腔にたまった空気の層が肺から胸壁への音の伝導を妨げるため、呼吸音が減弱~消失する。同時に打診で鼓音、声音振盪の減弱、胸郭運動の低下を伴う。左右差として捉えられるため、聴診では必ず両側を比較することが大切である。

気胸の分類

・自然気胸:明らかな外傷なく生じるもの。最も多い。  -原発性自然気胸:肺に明らかな基礎疾患がない。肺尖部のブラ(気腫性嚢胞)・ブレブの破裂が原因で、やせ型で高身長の若年男性に多い。喫煙は危険因子である。  -続発性自然気胸:COPD、間質性肺炎、肺癌、結核などの基礎疾患に続発する。高齢者に多く、肺機能が低下しているため重症化しやすい。月経に伴って起こる月経随伴性気胸(胸腔内子宮内膜症による)もある。 ・外傷性気胸:胸部外傷(肋骨骨折など)によるもの。 ・医原性気胸:中心静脈カテーテル挿入、経皮肺生検、陽圧換気などの医療行為に伴うもの。

症状

突然の胸痛(患側)、呼吸困難、乾性咳嗽が典型的である。虚脱が軽度なら無症状のこともある。

緊張性気胸

破れた部位が一方向弁のように働き、吸気ごとに空気が胸膜腔へ流入して出られなくなると、胸腔内圧が上昇し縦隔が健側へ偏位する。静脈還流が障害されて血圧低下・ショックに陥る。患側の呼吸音消失、気管の健側偏位、頸静脈怒張などがみられ、画像検査を待たずに直ちに胸腔穿刺による脱気を行う緊急病態である。

検査・治療

胸部エックス線写真で、肺の外側に血管影のない透亮像と臓側胸膜の線(虚脱した肺の辺縁)を認める。軽度なら安静・経過観察、中等度以上では胸腔ドレナージを行う。再発例や空気漏れが持続する例では胸腔鏡下手術(ブラ切除)を検討する。

POINT

・気胸の患側所見:呼吸音減弱~消失、打診で鼓音、声音振盪減弱、胸郭運動低下。 ・胸壁動揺(奇異呼吸)=多発肋骨骨折(フレイルチェスト)。 ・下顎呼吸=死戦期呼吸。心停止では呼吸なしとみなす。 ・テタニー=低カルシウム血症、過換気症候群。 ・呼気延長=閉塞性換気障害(気管支喘息、COPD)。 ・緊張性気胸は気管の健側偏位、頸静脈怒張、ショックを伴い、直ちに脱気が必要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。