大きくなったり小さくなったり、しかも両側―高齢男性の耳下部腫瘤はWarthin腫瘍を疑え
第118回医師国家試験 A問題 第33問
国試問題にチャレンジ
64歳の男性。左耳下部の腫脹を主訴に来院した。10年前から左耳下部に腫瘤を自覚し,3年前から右耳下部にも小さい腫瘤を自覚していた。腫瘤は一時増大と縮小を繰り返していた。右耳下部には直径20mm,左耳下部には直径35mmの弾性軟の腫瘤を触知した。皮膚との癒着はなく圧痛は認めなかった。頸部単純MRIの脂肪抑制T1強調水平断像を示す。 診断はどれか。

- a.唾石症
- b.正中頸嚢胞
- c.Warthin腫瘍
- d.Sjögren症候群
- e.耳下腺多形腺腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
耳下腺腫瘤では、まず急速増大・疼痛・硬さ・固定・顔面神経麻痺といった悪性徴候の有無を確認し、良性と考えたら多形腺腫とWarthin腫瘍を鑑別します。Warthin腫瘍は中高年男性・喫煙者に多く、耳下腺下極に両側性・多発性に生じ、弾性軟で、嚢胞成分のため大きさが増減することがあり、99mTcシンチで集積を示すのが特徴です。多形腺腫は中年女性の片側単発・弾性硬の腫瘤で、悪性化しうるため周囲組織を付けた切除が原則です。Sjögren症候群は耳下腺のびまん性腫脹、唾石症は顎下腺に多い食事時の疼痛性腫脹、正中頸嚢胞は頸部正中の病変であり、部位と性状で区別できます。頻度だけでなく患者背景・左右・硬さ・経過を組み合わせて読む姿勢は、頭頸部腫瘤の診療全般に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・64歳の男性(中高年男性) ・10年前から左耳下部、3年前から右耳下部に腫瘤を自覚:長い経過で、しかも左右両側に生じている ・腫瘤は大きくなったり小さくなったりを繰り返す:内部に嚢胞成分を含む病変や、内容液の増減を思わせる経過 ・右20mm、左35mmの弾性軟の腫瘤、皮膚との癒着なし、圧痛なし:周囲への浸潤や炎症を示す所見はない ・頸部MRI(脂肪抑制T1強調水平断像):左右の耳下腺内に境界明瞭な腫瘤性病変を認める
診断へのプロセス
まず部位である。耳下部の腫瘤で、MRIでも耳下腺の内部に病変があるため、耳下腺腫瘍を中心に考える。舌骨付近の正中に生じる病変や、顎下腺の病変は部位から外れる。 次に良性か悪性かである。耳下腺悪性腫瘍を疑う手がかりは、急速な増大、痛み、硬い腫瘤、皮膚や深部組織への固定(可動性不良)、顔面神経麻痺などである。本例は10年に及ぶ緩徐な経過で、弾性軟、癒着も圧痛もなく、これらの徴候を欠くため良性腫瘍と考えるのが自然である。 良性耳下腺腫瘍の大部分は多形腺腫とWarthin腫瘍が占める。両者を分けるうえで本例の決め手となるのは、(1)高齢の男性、(2)両側性(多発性)、(3)弾性軟、(4)サイズが増減する経過、である。Warthin腫瘍は内部に嚢胞を形成しやすく、その内容液の量が変動したり、感染・炎症を契機に一時的に腫れたりするため、大きさが変化することがある。また左右両側や同側多発で発生することが知られる。一方、多形腺腫は中年女性に多く、片側単発で弾性硬の腫瘤が典型であり、本例の像とは合わない。 以上からWarthin腫瘍と診断する。
選択肢考察
- ×a. 唾石症
唾石症は唾液腺や導管内に結石ができる疾患で、約8割は顎下腺(Wharton管)に生じ、耳下腺はまれである。典型的には食事の際に腺が腫れて痛む(唾疝痛)という、食事に関連した反復性の腫脹と疼痛を示す。本例は圧痛がなく、食事との関連も記載されていない。また、本例の病変は耳下腺内の充実性の腫瘤であり、結石による導管の拡張や結石そのもの(MRIでは無信号域)を示す所見ではないため否定的である。
- ×b. 正中頸嚢胞
正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)は、胎生期に甲状腺が舌根部から下降する通り道である甲状舌管の遺残から生じる先天性嚢胞で、頸部正中の舌骨付近に発生し、嚥下や舌の突出で上下に動くのが特徴である。左右の耳下部に生じる病変ではないため、発生部位からまず否定できる。
- ○c. Warthin腫瘍
Warthin腫瘍は多形腺腫に次いで多い耳下腺の良性腫瘍で、中高年の男性、特に喫煙者に多い。耳下腺の下極(耳下部)に好発し、両側性あるいは多発性に生じることがある点が特徴である。好酸性の上皮細胞(オンコサイト)がリンパ組織を伴って嚢胞状・乳頭状に増殖し、腫瘤は弾性軟で、嚢胞内容の変動などにより大きさが変わることがある。本例の高齢男性・両側性・長期経過・弾性軟・サイズの増減・浸潤所見なし、という特徴はすべてWarthin腫瘍に合致する。
- ×d. Sjögren症候群
Sjögren症候群は唾液腺・涙腺を主な標的とする自己免疫疾患で、中年女性に多く、口腔乾燥や眼乾燥を主症状とする。耳下腺が腫れる場合は腺全体のびまん性腫脹であり、本例のような境界明瞭な限局性腫瘤とは異なる。画像では腺内に小さな嚢胞状・点状の信号変化が散在する、いわゆる“ごま塩状”の像を示すことが多い。乾燥症状の記載もなく、男性である点も合わない。なお、Sjögren症候群ではMALTリンパ腫の合併に注意が必要である。
- ×e. 耳下腺多形腺腫
多形腺腫は耳下腺腫瘍で最も頻度の高い良性腫瘍であり、上皮成分と粘液腫様・軟骨様の間葉系様成分が混在する(“多形”の名の由来)。中年女性にやや多く、通常は片側単発で、弾性硬・可動性良好の腫瘤として緩徐に増大し、大きさが縮小することはない。本例の男性・両側性・弾性軟・増減する経過は多形腺腫には典型的でない。多形腺腫は長期放置で悪性化(多形腺腫由来癌)することがあり、核出のみでは再発しやすいため、周囲の正常組織を付けて切除するのが原則である。
耳下腺腫瘍の概要
唾液腺腫瘍の多くは耳下腺に発生し、耳下腺腫瘍の大部分は良性である。良性腫瘍では多形腺腫が最多で、Warthin腫瘍がこれに次ぐ。悪性腫瘍には粘表皮癌、腺様嚢胞癌、腺房細胞癌、多形腺腫由来癌、唾液腺導管癌などがある。
多形腺腫とWarthin腫瘍の比較
・好発:多形腺腫は中年女性にやや多い/Warthin腫瘍は中高年男性、喫煙者に多い ・部位・数:多形腺腫は片側単発が普通/Warthin腫瘍は耳下腺下極に多く、両側性・多発性がありうる ・硬さ:多形腺腫は弾性硬/Warthin腫瘍は弾性軟 ・経過:多形腺腫は緩徐に増大し続ける/Warthin腫瘍は嚢胞成分のため大きさが変動することがある ・MRI:多形腺腫はT2強調像で著明な高信号を示すことが多い/Warthin腫瘍は充実部がT2強調像で比較的低〜中等度信号で、嚢胞成分を伴う ・核医学:Warthin腫瘍は99mTc(テクネチウム)パーテクネテートシンチグラフィで集積を示す(オンコサイトが取り込むため)。多形腺腫には集積しない ・悪性化:多形腺腫は長期経過で悪性化しうる/Warthin腫瘍の悪性化は極めてまれ ・治療:多形腺腫は再発・悪性化を防ぐため切除が原則/Warthin腫瘍は切除が基本だが、高齢者などでは経過観察も選択肢となる
悪性を疑う所見
急速な増大、疼痛、硬い腫瘤、周囲組織や皮膚への固定、顔面神経麻痺、頸部リンパ節腫脹。顔面神経は耳下腺内を走行するため、悪性腫瘍で麻痺を生じやすく、手術でも温存が重要な課題になる。
診断
超音波、MRIで性状を評価し、穿刺吸引細胞診で組織型を推定する。
POINT
・耳下腺の良性腫瘍は多形腺腫が最多、次いでWarthin腫瘍 ・Warthin腫瘍:中高年男性・喫煙者、耳下腺下極、両側性・多発性、弾性軟、大きさが変動、99mTcシンチで集積 ・多形腺腫:中年女性、片側単発、弾性硬、悪性化しうるため切除が原則 ・痛み、急速増大、固定、顔面神経麻痺は悪性を示唆 ・Sjögren症候群は耳下腺のびまん性腫脹、唾石症は顎下腺に多く食事時の疼痛・腫脹
