StudyMed医師国家試験

片側に広がる石綿の影―胸膜中皮腫の「型・原因・数字」を整理する

第112回医師国家試験 D問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第112回 D問題 第10問

胸膜中皮腫について正しいのはどれか。

  1. a.良性腫瘍である。
  2. b.上皮型が最も多い。
  3. c.両側に病変を認めることが多い。
  4. d.硅酸〈ケイ酸〉曝露との関連性が認められる。
  5. e.我が国での年間死亡者数は1万を超える。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸膜中皮腫の基本事項を問う問題だ。確認すべきは、良性か悪性か、組織型、病変の広がり方、原因物質、そして日本での疫学の5点。どれも国試で引っかけにされやすいところだよ。
医学生医学生
中皮腫というと、アスベストと関係がある腫瘍、というくらいしか覚えていません。
ドクタードクター
そこが一番の柱だから大切にしよう。まず性質から。中皮腫は胸腔の内側を覆う中皮細胞から発生する腫瘍だけど、良性と悪性のどちらだと思う?
医学生医学生
昔「悪性胸膜中皮腫」と習った気がするので、悪性ですよね。でも、わざわざ「悪性」とつけるなら良性もあるのかなと思っていました。
ドクタードクター
いい疑問だ。かつては良性の「限局性中皮腫」と区別するために「悪性」を付けていた。でもその良性病変は、現在では中皮由来ではない孤立性線維性腫瘍として扱われている。そのため現行のWHO分類では「中皮腫」という名前自体が悪性腫瘍を指すんだ。診断時には胸膜全体に広がっていることが多く、生存期間中央値は1〜2年程度と予後不良だよ。
医学生医学生
次は組織型ですね。病理の講義で、上皮型・肉腫型・二相型の3つがあると習いました。
ドクタードクター
その通り。そしてこの中で最も多いのが上皮型で、約半数から6割を占める。これが今回の正しい記述だ。二相型は上皮型成分と肉腫型成分が混在するもので20〜30%程度、肉腫型は10〜20%程度とされる。組織型は予後にも関わり、上皮型は比較的予後がよく、肉腫型は最も予後不良で化学療法も効きにくい。
医学生医学生
広がり方はどうでしょう。アスベストは両肺に吸い込むので、両側に出そうな気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。石綿は両肺に影響するけれど、中皮腫は原則として片側の胸膜に発生し、壁側・臓側胸膜に沿ってびまん性に広がる。CTでは片側の胸水や、肺を取り囲むような不整・結節状の胸膜肥厚がみられる。両側性になりやすいのは、良性の石綿関連病変である胸膜プラークのほうだよ。
医学生医学生
胸膜プラークと混同していました。プラークは壁側胸膜の肥厚や石灰化で、曝露の目印になるんでしたね。
ドクタードクター
そう、プラーク自体は良性だけど、石綿曝露の指標として重要だ。次は原因物質。ケイ酸との関連はどうかな。
医学生医学生
ケイ酸は珪肺の原因ですよね。公衆衛生の講義でじん肺としてまとめて習ったので、つい同じグループに入れてしまいそうです。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。遊離ケイ酸の吸入で問題になるのは珪肺で、肺癌や結核の合併リスクを高めるけれど、中皮腫との関連は確立していない。中皮腫の主な原因は石綿で、とくに角閃石系の青石綿や茶石綿は発がん性が強い。少量・短期間の曝露でも発症しうること、潜伏期間が30〜40年以上と長いことも特徴だ。
医学生医学生
日本の死亡者数はどのくらいなんですか。1万人と言われると多い気もするし、よくわかりません。
ドクタードクター
人口動態統計では年間およそ1,500人前後で、1万人には遠く及ばない。年間数万人規模の肺癌と比べればまれな腫瘍だ。ただ、日本では1970〜1990年代に石綿が大量に使われ、潜伏期間が長いことから、患者数は今後もしばらく高い水準が続くと予測されているんだ。
医学生医学生
診断はどうやってつけるんでしょう。胸水の細胞診だけでは難しそうです。
ドクタードクター
その感覚は正しい。胸水は滲出性で、ヒアルロン酸が高値になることがあるけれど、確定には胸腔鏡下胸膜生検などで十分な組織を得て、免疫染色で肺腺癌の胸膜浸潤などと鑑別するのが基本だ。中皮のマーカーであるカルレチニン、WT1、D2-40が陽性、腺癌のマーカーであるCEAやTTF-1が陰性となる。BAP1の消失も中皮腫を支持する所見だよ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習では、肺癌の化学療法の患者さんが多かった印象です。中皮腫の治療はどう違うんですか。
ドクタードクター
切除可能な早期例では手術を含む集学的治療が検討される。切除不能例ではシスプラチンとペメトレキセドによる化学療法や、ニボルマブとイピリムマブによる免疫チェックポイント阻害薬が用いられる。そして臨床で忘れてはいけないのが職業歴の聴取だ。建設業や造船業などの直接曝露だけでなく、家族の作業着を介した曝露や工場周辺の環境曝露でも発症しうる。中皮腫は石綿健康被害救済法や労災補償の対象になるから、医師が気づいて制度につなぐことが患者さんの生活を支えることにもなるんだ。
医学生医学生
片側の胸水を見たら、何十年も前の職歴までさかのぼって聞く必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。潜伏期間の長さを考えれば、退職後の高齢者で発症することも多い。問診の一言が診断の糸口になるんだよ。

まとめ

胸膜中皮腫は胸膜の中皮細胞から発生する悪性腫瘍で、診断時にはすでに広がっていることが多く予後不良です。組織型は上皮型・二相型・肉腫型に分けられ、上皮型が最も多く比較的予後良好、肉腫型は最も予後不良とされます。病変は原則として片側の胸膜に沿って広がり、両側性になりやすいのは良性の胸膜プラークであること、原因は石綿でありケイ酸は珪肺の原因であること、日本の年間死亡者数は約1,500人前後であることが引っかけの要点です。潜伏期間が30〜40年以上と長いため、片側胸水や胸膜肥厚を見たら過去の職業歴や家族の曝露歴まで丁寧に聴取し、救済制度や労災補償につなげる視点が求められます。石綿関連疾患をまとめて整理しておくことは、国試対策だけでなく、地域の健康被害に向き合う臨床医としての基礎となります。

解答・解説

正解はbです

胸膜中皮腫は、胸腔の内面を覆う中皮細胞から発生する悪性腫瘍である。本問は、その性質(良悪性)、組織型、病変の広がり方、原因物質、疫学という基本事項を確認する一般問題である。 押さえるべき骨格は次のとおりである。 ・悪性腫瘍であり、予後は不良である。 ・組織型は上皮型・肉腫型・二相型(混合型)の3つに大別され、上皮型が最も多い。 ・病変は原則として片側の胸膜に生じ、胸膜に沿ってびまん性に広がる。 ・最大の原因は石綿(アスベスト)曝露であり、曝露から発症までの潜伏期間は30〜40年以上と長い。 ・日本での死亡者数は年間およそ1,500人前後である。 これらを知っていれば、「上皮型が最も多い」が正しい記述として選べる。原因物質の取り違え(ケイ酸と石綿)や、数値の桁の誤りは典型的な引っかけである。

選択肢考察

  1. ×a.  良性腫瘍である。

    誤り。胸膜中皮腫は悪性腫瘍であり、診断時にはすでに胸膜全体へ広がっていることが多く、生存期間中央値は1〜2年程度と予後不良である。かつては「悪性胸膜中皮腫」と呼ばれ、良性の「限局性中皮腫」と区別されていたが、後者は現在では中皮由来ではない孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)として扱われている。現行のWHO分類(2021年)では「中皮腫」という名称自体が悪性腫瘍を指し、頭に「悪性」を付けなくなった。中皮由来の良性・低悪性度病変としては、アデノマトイド腫瘍や高分化乳頭状中皮腫瘍などが別に分類されている。

  2. ○b.  上皮型が最も多い。

    正しい。組織型は上皮型、肉腫型、二相型(上皮型成分と肉腫型成分が混在するもの。混合型ともいう)に分けられる。頻度は上皮型が約半数〜6割と最も多く、二相型が20〜30%程度、肉腫型が10〜20%程度とされる。組織型は予後に関係し、上皮型は比較的予後がよく、肉腫型は最も予後不良で化学療法も効きにくい。

  3. ×c.  両側に病変を認めることが多い。

    誤り。胸膜中皮腫は通常片側に発生し、壁側胸膜・臓側胸膜に沿って広がる。画像では片側の胸水貯留や、不整・結節状の胸膜肥厚が肺を取り囲むように見える(縦隔側胸膜にも及ぶ)。石綿曝露は両肺に影響するが、腫瘍が両側に同時に発生することはまれである。両側性の所見を示しやすいのは、良性の石綿関連病変である胸膜プラーク(壁側胸膜の限局的な肥厚・石灰化)であり、中皮腫と混同しないようにする。

  4. ×d.  硅酸〈ケイ酸〉曝露との関連性が認められる。

    誤り。中皮腫の主たる原因は石綿(アスベスト)である。石綿の中でも角閃石系の青石綿(クロシドライト)や茶石綿(アモサイト)は発がん性が特に強いが、白石綿(クリソタイル)でも発生しうる。少量・短期間の曝露でも発症しうる点、曝露から発症までが30〜40年以上と長い点が特徴である。遊離ケイ酸(シリカ)の吸入で問題になるのはじん肺の一つである珪肺であり、珪肺は肺癌や結核の合併リスクを高めるが、中皮腫との関連は確立していない。

  5. ×e.  我が国での年間死亡者数は1万を超える。

    誤り。人口動態統計による中皮腫の年間死亡者数は1,500人前後(2010年代後半以降はおおむね1,400〜1,600人程度)であり、1万人には遠く及ばない。年間死亡者数が数万人規模となる肺癌などと比べると、まれな腫瘍である。ただし、日本では1970〜1990年代に石綿が大量に使用され、潜伏期間が長いことから、患者数は今後もしばらく高い水準が続くと予測されている。

中皮腫の概要

中皮腫は胸膜・腹膜・心膜・精巣鞘膜といった体腔を覆う中皮から発生する悪性腫瘍で、その約8割は胸膜に発生する。男性に多く、職業性曝露(建設業、造船業、断熱材・石綿製品製造など)が多いが、家族の作業着を介した曝露や工場周辺住民の環境曝露による発症も報告されている。

症状・検査

症状は胸水による息切れ、胸痛、咳、体重減少などである。胸部CTで片側の胸水、不整な胸膜肥厚・結節がみられる。胸水は滲出性で、ヒアルロン酸が高値になることがある。確定診断には胸腔鏡下胸膜生検などで十分な組織を得て、免疫染色で肺腺癌の胸膜浸潤などと鑑別する。中皮のマーカーとしてカルレチニン、WT1、D2-40(ポドプラニン)などが陽性となり、腺癌のマーカー(CEA、TTF-1など)は陰性となる。BAP1の消失やCDKN2A(p16)のホモ接合性欠失は中皮腫を支持する所見として用いられる。

治療

病期が早く切除可能であれば手術(胸膜切除/肺剥皮術や胸膜肺全摘術)を含む集学的治療が検討される。切除不能例ではシスプラチン+ペメトレキセドによる化学療法や、免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ+イピリムマブ)が用いられる。

石綿関連疾患の整理

・石綿肺:石綿によるじん肺。下肺野優位の間質性変化。 ・胸膜プラーク:壁側胸膜の限局性肥厚・石灰化。両側性が多く、それ自体は良性で石綿曝露の指標となる。 ・良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚 ・肺癌:喫煙と石綿曝露が重なると相乗的にリスクが高まる。 ・中皮腫 中皮腫と肺癌、石綿肺などは石綿健康被害救済法や労災補償の対象となる。

POINT

・胸膜中皮腫は悪性腫瘍で予後不良。 ・組織型は上皮型・二相型・肉腫型で、上皮型が最多。肉腫型は最も予後不良。 ・病変は通常片側性。両側性が多いのは胸膜プラーク。 ・原因は石綿(アスベスト)。ケイ酸で問題となるのは珪肺。 ・潜伏期間は30〜40年以上。日本の年間死亡者数は約1,500人。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。