精管は鼠径管をくぐり、尿管は血管を乗り越える―発生と向きの約束で解く尿路・男性生殖器の解剖
第112回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
尿路および男性生殖器の解剖について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.精管は鼠径管を通過する。
- b.尿道は陰茎の腹側を走行する。
- c.尿管口は膀胱頂部にみられる。
- d.尿管は総腸骨静脈の背側を走行する。
- e.上膀胱動脈は外腸骨動脈から分枝する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿路と男性生殖器の解剖は、発生の過程と向きの約束を押さえると理解しやすくなります。精巣は後腹壁で発生して鼠径管を通って陰嚢へ下降するため、精管は精索の一部として鼠径管を通過します。陰茎の背側・腹側は勃起時を基準とするため、尿道を含む尿道海綿体は腹側に位置します。尿管口は膀胱頂部ではなく膀胱底の後外側にあって内尿道口とともに膀胱三角をつくり、尿管は骨盤縁で腸骨血管の腹側を乗り越え、上膀胱動脈は内腸骨動脈系である臍動脈の近位部から分枝します。尿管の生理的狭窄部や、子宮動脈の下をくぐる走行は、結石の診療や骨盤手術での尿管損傷予防に直結する重要な知識です。
解答・解説
正解はa, bです
本問は、尿路(腎臓・尿管・膀胱・尿道)と男性生殖器(精巣・精管・陰茎)の位置関係を問う解剖の問題である。
考え方
各選択肢は、次の3つの視点で整理すると判断しやすい。 1. 発生の過程:精巣は胎生期に腹腔内(後腹壁)で発生し、鼠径管を通って陰嚢へ下降する。精管はこれに引かれて走行するため、鼠径管を通る経路をとる。 2. 解剖学的な向きの約束:陰茎の「背側・腹側」は、勃起した状態(体幹から前方へ向いた状態)を基準に決める。そのため、垂れ下がった状態で上を向く面が「陰茎背」、下を向く面が腹側(尿道側)となる。 3. 尿管の走行と膀胱の区分:尿管は後腹膜で腎盂から下行し、骨盤縁で総腸骨動静脈(あるいは外腸骨動静脈)の前(腹側)を乗り越えて骨盤内に入り、膀胱底の後外側に斜めに貫いて開口する。膀胱頂部は前上方の尿膜管(正中臍索)に続く部分であり、尿管口とは位置がまったく異なる。 また、骨盤内臓器を養う動脈の多くは内腸骨動脈から分枝する、という原則も押さえておくとよい。
選択肢考察
- ○a. 精管は鼠径管を通過する。
正しい。精巣は胎生期に後腹壁で発生し、腹膜の突出(腹膜鞘状突起)とともに鼠径管を通って陰嚢へ下降する(精巣下降)。精巣上体から続く精管もこの経路に沿うため、精巣動静脈(蔓状静脈叢)、精巣挙筋などとともに精索を形成して鼠径管を通る。深鼠径輪で精索から離れた精管は、下腹壁動脈の外側を回って骨盤内に入り、尿管の前上方を越えて膀胱の後面に至り、精嚢の導管と合流して射精管となり前立腺部尿道に開く。
- ○b. 尿道は陰茎の腹側を走行する。
正しい。陰茎は2本の陰茎海綿体と1本の尿道海綿体からなり、尿道は尿道海綿体の中を通る。陰茎の向きは勃起時の姿勢を基準に呼ぶため、陰茎の上面(恥骨側から続く面)が陰茎背(背側)であり、尿道海綿体はその反対の下面、すなわち腹側に位置する。四足動物の姿勢を想像すると、尿道海綿体が地面側=腹側になることが理解しやすい。なお陰茎背には深陰茎背静脈、陰茎背動脈、陰茎背神経が走行する。
- ×c. 尿管口は膀胱頂部にみられる。
誤り。左右の尿管口は膀胱底(膀胱の後下面)の後外側に開口し、内尿道口とともに膀胱三角を形成する。膀胱頂部(膀胱尖)は膀胱の前上端であり、胎生期の尿膜管の遺残である正中臍索に続く部分である。尿管は膀胱壁を斜めに貫いて開口し(壁内尿管)、膀胱内圧が上がると壁内尿管が圧迫されて閉じるため、膀胱尿管逆流が防がれる。
- ×d. 尿管は総腸骨静脈の背側を走行する。
誤り。尿管は腎盂から後腹膜を下行し、大腰筋の前面を通った後、骨盤縁で総腸骨動静脈の分岐部付近(総腸骨動脈の末端または外腸骨動脈の起始部)の腹側を乗り越えて骨盤腔に入る。つまり尿管は腸骨血管の背側ではなく腹側を走る。腎門部では腎静脈・腎動脈・腎盂の順に前から並び、腎盂(尿管)が最も背側にあるが、下行するにつれて相対的に腹側へ移り、腸骨血管との交叉部では血管より前に位置する。
- ×e. 上膀胱動脈は外腸骨動脈から分枝する。
誤り。上膀胱動脈は内腸骨動脈の前枝から出る臍動脈の、開存している近位部から分枝する。胎生期の臍動脈は胎児血を胎盤へ送る血管であり、出生後は遠位部が閉塞して内側臍索(臍動脈索)となり、近位部が上膀胱動脈を出す血管として残る。下膀胱動脈(女性では腟動脈が代わることが多い)も内腸骨動脈系である。外腸骨動脈は主に下肢へ向かい、骨盤内では下腹壁動脈・深腸骨回旋動脈を出す程度である。
尿管の走行と生理的狭窄部
尿管は全長約25〜30cmの後腹膜臓器で、腎盂から膀胱まで大腰筋の前面を下行する。生理的狭窄部は、①腎盂尿管移行部、②総腸骨動脈(腸骨血管)との交叉部、③膀胱壁内(尿管膀胱移行部)の3か所であり、尿管結石がひっかかりやすい部位として重要である。
尿管と周囲構造の位置関係
・精巣(卵巣)動静脈は、腹部で尿管の前方を斜めに横切る。 ・男性では、精管が骨盤内で尿管の前上方を乗り越えて膀胱後面へ向かう。 ・女性では、子宮頸部の外側で子宮動脈が尿管の前上方を横切る(尿管は子宮動脈の下をくぐる)。子宮全摘術で子宮動脈を処理する際、尿管損傷が起こりやすい理由である。
膀胱の区分
膀胱は、前上方の膀胱尖(頂部)、中央の膀胱体、後下方の膀胱底、内尿道口へ続く膀胱頸に分けられる。左右の尿管口と内尿道口を結ぶ三角形の領域が膀胱三角であり、粘膜が筋層に密着して平滑である。膀胱底の後面には、男性では精嚢・精管膨大部が、女性では子宮頸部・腟が接する。
精索の内容
精管、精巣動脈、蔓状静脈叢、精管動脈、精巣挙筋動脈、陰部大腿神経陰部枝、リンパ管などを含み、外精筋膜・精巣挙筋・内精筋膜に包まれる。
陰茎の構造
背側に左右1対の陰茎海綿体、腹側に尿道海綿体があり、尿道海綿体の先端は亀頭、根部は尿道球となる。
POINT
・精管は精索の一部として鼠径管を通る(精巣下降の名残)。 ・陰茎の背側/腹側は勃起時を基準とし、尿道海綿体は腹側にある。 ・尿管口は膀胱底の後外側に開口し、内尿道口とともに膀胱三角をつくる。膀胱頂部は尿膜管(正中臍索)に続く部分。 ・尿管は骨盤縁で腸骨血管の腹側を乗り越える(交叉部は生理的狭窄部)。 ・上膀胱動脈は内腸骨動脈(臍動脈の近位部)の枝。
