ショックなのに首の静脈が張っている―中心静脈圧が教える「せき止め型」ショック
第112回医師国家試験 C問題 第17問
国試問題にチャレンジ
ショックをきたす病態で早期から中心静脈圧が上昇するのはどれか。2つ選べ。
- a.敗血症
- b.緊張性気胸
- c.異所性妊娠破裂
- d.心タンポナーデ
- e.アナフィラキシー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中心静脈圧は右心房付近の圧で、右心への静脈還流と右心の受け入れ・拍出能力の釣り合いを反映します。緊張性気胸や心タンポナーデなどの心外閉塞・拘束性ショックでは、右心への流入や拡張が物理的に妨げられ、血液が心臓の手前でうっ滞するため、早期から頸静脈怒張を伴って中心静脈圧が上昇します。一方、出血による循環血液量減少性ショック(異所性妊娠破裂など)や、血管拡張と透過性亢進による血液分布異常性ショック(敗血症、アナフィラキシーなど)では静脈還流が減り、中心静脈圧は低下します。右心不全を伴う心原性ショックでも中心静脈圧は上昇しうる点も押さえておきましょう。ショックに頸静脈怒張を伴う場合は輸液だけでは改善せず、脱気や心嚢穿刺など原因の解除を急ぐ必要があるため、この区別は救急初療の判断に直結します。
解答・解説
正解はb, dです
ショックとは、組織への酸素供給が需要に追いつかなくなり、細胞・臓器の機能障害が生じる急性循環不全である。原因となる病態により、循環血液量減少性(hypovolemic)、心原性(cardiogenic)、心外閉塞・拘束性(obstructive)、血液分布異常性(distributive)の4つに分類される。 中心静脈圧(central venous pressure: CVP)は上大静脈・右心房付近の圧で、右心系へ戻ってくる血液量(前負荷)と、右心がそれを受け入れて送り出す能力との釣り合いを反映する。正常値はおおむね5〜10 cmH2O程度である。 CVPが上昇するのは「血液は戻ってきているのに右心系の手前でせき止められている」状態であり、心臓そのものの拡張や流出が物理的に妨げられる心外閉塞・拘束性ショックが典型である。一方、出血などで血液そのものが失われる循環血液量減少性ショックや、末梢血管が拡張して血液が末梢に貯留する血液分布異常性ショックでは、右心へ戻る血液が減るためCVPは低下する。 したがって本問は、各選択肢をショックの4分類に当てはめ、心外閉塞・拘束性ショックに該当するものを選べばよい。なお、心原性ショックでも右室梗塞や右心不全を伴えばCVPは上昇するが、選択肢には含まれていない。
選択肢考察
- ×a. 敗血症
敗血症性ショックは血液分布異常性ショックの代表である。感染に対する生体反応として放出されるサイトカインや一酸化窒素(NO)などにより末梢血管、特に容量血管である静脈系が拡張し、さらに血管透過性亢進で血漿が血管外へ漏れ出す。その結果、相対的な循環血液量不足となって右心への静脈還流が減り、CVPは低下する。初期には末梢が温かいwarm shockを呈することが多い。
- ○b. 緊張性気胸
緊張性気胸は心外閉塞・拘束性ショックの代表である。損傷部位が一方弁(チェックバルブ)として働き、吸気時に胸腔内へ入った空気が呼気時に抜けないため、胸腔内圧が進行性に上昇する。縦隔は健側へ偏位し、上・下大静脈が圧迫・屈曲されることで右心への静脈還流が妨げられる。血液が心臓の手前でうっ滞するため、ショックの早期から頸静脈怒張を伴いCVPは上昇する。患側の呼吸音減弱、鼓音、気管の健側偏位がみられ、画像検査を待たずに胸腔穿刺による緊急脱気を行う。
- ×c. 異所性妊娠破裂
異所性妊娠(多くは卵管妊娠)が破裂すると腹腔内に大量出血をきたし、循環血液量減少性ショックとなる。体内の血液量そのものが失われるため、右心への静脈還流が減少しCVPは低下する。頸静脈は虚脱し、補液・輸血と緊急手術による止血が治療の中心となる。
- ○d. 心タンポナーデ
心タンポナーデは心外閉塞・拘束性ショックの代表である。心膜腔に液体(血液、滲出液など)が急速に貯留して心膜腔内圧が上昇すると、壁の薄い右房・右室から圧迫されて拡張が妨げられる。心室に血液が十分に充満できないため1回拍出量が低下し、行き場を失った血液が静脈側にうっ滞してCVPは早期から上昇する。血圧低下・頸静脈怒張・心音減弱のBeckの三徴や奇脈が特徴で、心嚢穿刺が緊急の治療となる。
- ×e. アナフィラキシー
アナフィラキシーショックは血液分布異常性ショックの一つである。主にIgE抗体を介して肥満細胞・好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、広範な血管拡張と血管透過性亢進が起こる。血液が末梢に貯留し血漿が血管外へ漏出するため相対的循環血液量減少となり、CVPは低下する。治療の第一選択はアドレナリン筋注と大量補液である。
ショックの4分類と血行動態の特徴
1. 循環血液量減少性ショック: 出血(外傷、異所性妊娠破裂、消化管出血など)、脱水、熱傷など。CVP低下、心拍出量低下、末梢血管抵抗上昇(末梢は冷たい)。 2. 心原性ショック: 急性心筋梗塞、重症不整脈、心筋炎、弁膜症など。心拍出量低下、末梢血管抵抗上昇。左心不全が主体なら肺動脈楔入圧が上昇し、右室梗塞などで右心不全を伴えばCVPも上昇する。 3. 心外閉塞・拘束性ショック: 緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓症(重症)、収縮性心膜炎など。心臓の拡張障害または右心からの流出路の閉塞により心拍出量が低下し、CVPは上昇する。 4. 血液分布異常性ショック: 敗血症、アナフィラキシー、神経原性ショック(脊髄損傷など)。末梢血管抵抗低下、相対的循環血液量減少によりCVPは低下。初期には心拍出量が保たれる、あるいは増加することがある。
CVPと頸静脈
CVPは右心房圧とほぼ等しく、ベッドサイドでは頸静脈の怒張・拍動の高さで推定できる。ショックで頸静脈怒張がみられたら、まず心外閉塞・拘束性ショック(緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓症)と右心不全を伴う心原性ショックを考える。これらは輸液だけでは改善せず、脱気・心嚢穿刺・血栓溶解などの原因解除が必要となる。
POINT
・CVPが早期から上昇するショック=心外閉塞・拘束性ショック(緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓症)。右心不全を伴う心原性ショックでも上昇する。 ・循環血液量減少性ショック(出血など)と血液分布異常性ショック(敗血症、アナフィラキシー、神経原性)ではCVPは低下する。 ・ショック+頸静脈怒張をみたら、閉塞・拘束の原因を探して速やかに解除する。
